「お前ももう18だ、分かるな?」

  いつもは朗らかな笑みを浮かべてくれるお父さんが作ったような無表情でそう告げる。
  異様な雰囲気、そして言葉に私は頭が真っ白になるような衝撃を受けた。
  冷静だったら気付けたのだろうか。お父さんが血を流すくらいに拳を握りしめていたことに。

 「いきなり脂ぎ……乗った御大尽のお世話というのも忍びない。
  ちょうど上得意様に相談したらお前と同年代の少年を紹介してもらえた。
  その子で練習しなさい、宥」

  呆然としたままの私は促されるままにお父さんの部屋を出て、
  温泉の次の間で透けるほどに薄い布で出来た湯着に着替えさせられていた。

  そうして脱衣場に押し込まれるように入れられ、
  湯気と共に視線を遮るはずの擦りガラス戸の前でようやく我に返った。

  体が震える。理解してしまったのだ、これから何をしなければならないのかを。
  お父さんの言い様では、“お相手”するのはお得意様の中でも貫禄のある方々なのだろう。

  松実館の経営は、苦しい。
  それを知ったのはここ最近だが、経理のお手伝いをするうちに見てしまった。
  私が中学生になったくらいから、帳簿に不自然なところが目立っていたのだ。

  玄ちゃんも、懇意にしてくださっていたお客様が急によそよそしくなることがあったと聞いていた。
  おそらく……そういうことなのだろう。
  このままでは私だけではなく玄ちゃんまでも毒牙にかかることになってしまうからもしれない。
  それだけは嫌だ。

  そこまで思考が進みようやく覚悟が決まった。
  据え付けられた鏡で身だしなみを確認する。
  唇が青いのは寒さだけではない。

 「……失礼致します。お背中をお流しさせていただきます」
 「――え? えっ、え、ここそんなサービスあるの? 俺頼んでないはずなんだけど」

  戸を開け、湯気の中に身体を滑り込ませる。
  ほんのりと暖かさ(冷たさ)を感じるが、表情を消しながら真っ直ぐに湯船につかる男性を見る。

  するとそこには金髪で引き締まった体をした、
  おそらく背の高いだろう高校生になるかどうかの少年がいた。

 「え、男の子……?」
 「あ、えっと、須賀、京太郎です。うわぁ、すげー巨乳! 形も色も……ってすんませんッ!」

  思わず素に戻り呆けた声を上げると、私の体、特に胸を見て
  鼻の下を伸ばした京太郎くんは慌てたように視線を体ごと逸らした。

 「ふふっ。女の人の裸を見るの、初めて?」
 「はぅっ!? は、ははは初めてっす! ひょわっ!?」

  なんだかふいにおかしくなってしまい、少しだけ緊張が和らいだ。
  どうせこれから先穢され続けるのなら、思い切って淫らなフリをしたほうがマシかもしれない。

  そう思った私は少しだけ胸元を肌蹴させ、京太郎くんの背中にしなだれかかるようにして密着する。
  肩から覗いた湯の中では、初めて見る男性の部分が激しくその存在を主張し、
  これが私の中に入るのかとうっすら恐怖を感じる。

  しかしまごついていてもどうにもならない。
  叔父さん達に貪られるくらいなら。この愛らしくも精悍な彼に散らしてほしい。
  なかば捨て鉢になりながら私は彼のアレに手を伸ばし
                                                                 』

「玄ちゃーん、もうお夕飯だよー?」

「ひゃうっ!? はわ、はわわわわ!」

「玄ちゃんそんなに慌ててどうし……た……!? な、なななななんでそれがここに!?」

「お、お姉ちゃん! 私は何も読んでないから!
 インハイであった京太郎君が遊びに来て以来様子が変だなー、なんて思ってもないからね!」

「 」パタリ

「あっ! お姉ちゃーん!?」


カンッ

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最終更新:2017年10月13日 00:14