「むぐ、む~?」

 息苦しさに俺の意識は急浮上した。目を開けたはずなのに視界は黒。
 顔がやたらと生暖かく柔らかい何かで包まれ圧迫されている気がする。
 へその上辺りがやけに熱く湿っており、そこから顔にかけては安心するような温かさ。
 一方でへその下以下はやたらと寒く感じる。いったいどういうことなのか。

「起きましたか須賀君」

 起きようともがくも手足は自由に動かせず、自分の体を抑えるように圧し掛かった
 柔らかな重みに対しどうすべきか考えていたときのことだ。
 頭の上あたりから落ちてきたどこか硬質で透き通った声。
 俺が片思いをしている原村和のものだろうか。
 つまり今俺を押さえつけているのは和なのか?
 もしやこの息苦しさを生んでいるものは和の魅惑的な乳房だとでもいうのか。

「訳が分からない、といったところでしょう? んっ ふふっ、顔を動かしちゃめっですよ」
「説明しますね。須賀君は今、ベッドの上にいます」
「そして手足をロープでそれぞれ拘束され、原村和に圧し掛かられています」

 淡々と説明を続ける和。しかし俺にはまるで分からない。酸素が足りないからだけではないはずだ。
 どうにか頭を解放させようと、息を吐きかけてみたり舐めてみたりの抵抗を弱弱しく行う。
 その甲斐があったのかあるいは窒息させる気が無かっただけなのか。どうにか息をできるようにはなった。
 もっとも、それがかえって和の発する淫靡な体臭を肺いっぱいに吸い込むはめになったが。

「須賀君。私はあなたのことが好きみたいです」
「分かりますか? あなたを想い、こうしているだけで私の体があなたを求めていることを」
「もう我慢できないんです。好きだと気付いた瞬間から。ずっと。ずっと。ずっとこうしたかった」

 匂いに驚き首を無理矢理上に傾けた先には、和の顔。
 いつもは冷静な、しかし麻雀への情熱を秘めた群青の瞳。
 今は違う。
 部屋は明るいはずなのに。和の瞳には光が無い。
 黒。
 呑み込まれるような、濁った黒。それが今の彼女の瞳の全て。
 根源的な恐怖に襲われ、体が震える。
 それを見た和は何か勘違いでもしたのか。その白魚の指を俺の体に滑らせ、愛し気に撫でさする。

「ああ、嬉しい。須賀君も準備ができているんですね」
「私に愛を注ぎたいんですね」
「和の胎に」

 くすくすと掠れるような笑い声とともに彼女は俺が魅惑されていた乳房をまろびだす。
 見せつけるように一旦体を引く。俺はその様を見て逃げるチャンスだと分かってはいても、動けなかった。

「好きです京太郎くん」 「私の想いが叶う」 「いくらでもあなたと共に溺れます」


             さ  あ  愛  し  合  い  ま  し  ょ  う  ?


カンッ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2017年10月13日 00:09