俺は今全力で走っている。昼休み、戦いの始まりを告げる鐘の音と共に自慢の脚力を爆発させたのだ。
 机をひとっ跳び、スライド式のドアに一瞬体重を預けその重さを利用してするりと抜ける。
 教室からの飛び出しこそは一番だったが、数秒経たず他の教室からも戦士たちがあふれ出してくる。
 リノリウムの床よ凹めと、皆が全力でその脚を振り下ろし加速していく。

 刹那の視線の交錯。今日こそはと燃え上がる瞳。
 俺は階段の手すりを強く握り無理矢理方向転換し、そのまま滑るように身を低く投げ出す。
 踊り場を転がるように曲がり階下へ視線を向ければ、歴戦の猛者たちも既に会談に殺到していた。
 だがここで焦ってはいけない。波に割り込もうと足掻けば弾かれいつの間にか最後尾。
 経験からの最適解は既に俺の中にある。

「横失礼します、先輩☆彡」

 階段が埋め尽くされる前にちょうどいい場所にいる女子の先輩にウィンク付きで挨拶。
 大半の先輩は弾んだ声でにこやかに挨拶を返してくれる。
 そうして雑談を交わしながら、先輩方と割り込みをブロックしつつ着実に歩を進めるのだ。
 そうして購買部のある1階にたどり着いた瞬間に再び駆けだすのだ。
 もちろん協力してくれた先輩方に流し目で感謝を示すのも忘れない。

 購買部から最も遠い一年の教室からでは辿りつく頃にはろくなパンが残っていないことは日常茶飯事。
 しかし今日はそれだけではない。一番人気の“お好み焼き手包みピザパン”を手にする必要があるのだ。
 そのために、普段は控えている強引なドリブルもいとわない。

「うわっと」「危なッ」「ちょっと!?」「走ると危ないでしょ!」「ぶつかるっ ぶつかっキャっ」

 余裕をもって早歩き程度の三年生の先輩方には申し訳ないが、少しでも早く到達するためにすり抜け、ねじ込み。
 今や後方となった場所からの非難する目を向けられる甲斐もあってか、ついにまだ人もまばらな購買部が見えた。
 これならいける。そう気を抜いたのがいけなかった。減速を誤り、前にいた女子生徒を避けきれずぶつかってしまったのだ。

「きゃぁっ!」 ドンッ 「おわっ!」

 一瞬の逡巡。ぶつかって転びそうになっている女子を無視して前に進むべきか。それとも――

「ッ! すんません!」ガシッ グキッ

 強引に制動をかけて相手の女子生徒を抱くようにして体勢を整えさせる。
 ありがとうございます、と礼を言われてしまったが、悪いのは俺だ。
 罰を与えるかの如く、俺達が止まっている間にどんどんと他生徒が追い抜いていき、
 ついには購買部前は人だかりに埋まった。

~~屋上~~

「それで結局これってわけ?」
「ああ。すまん、淡!」

 俺は頭を下げながら、淡に戦果を報告していた。
 腰に両手を当て「私は怒っています」と言わんばかりのポーズで呆れたようなジト目を向けてくる淡。
 軽くくじいた足が痛むが、偉そうに請け負った任務に失敗したのだ。今はただ真摯に謝罪する他ない。

「……はぁ~っ。そんなに触りたかったの、これ?」

 おそらく淡は自らの乳房を下から持ち上げては手を外し、としているのだろう。
 一部女子から殺視線が向けられそうなその仕草を見られないのは非常に残念だがここで頭を上げるわけにもいかない。
 そんな俺の内心を察したわけではないだろうが、溜息を更に一つ。それから淡が口を開いた。

「足怪我してんじゃん。いーよもう。ほんと言うとさ。別に欲しいわけじゃなかったんだもん」

 え。と思わず顔を上げて淡をまじまじと見てしまう。
 目を合わせると少し赤くなり、髪を払うようにしながら声を大きくしてさらに続ける。

「お好み焼きなんだかピザなんだかパンなんだかよく分からないしっ!
 それに淡ちゃんはこっちのほうが好きだかんねっ!」

 そう言い放つと俺からひったくるように丸ごとバナナ(チョコ&ストロベリー)を奪い、
 乱暴に包装を解いてはぐはぐと食べ始めた。

「あー、ほら。そんな食べ方じゃクリームが……鼻とほっぺたについてるぞ、まったく」

「ふぃーはは、へんひひほ!」
「何言ってるか分かんねーよ」

 クリームを拭ってやると淡は耳まで赤くして、俺の袖を引っ張って歩いて行こうとする。
 視線の先には三人掛けのベンチ。指にクリームがついているのだが……。

「んっ。足、辛いでしょ。頑張ったきょーたろーにはご褒美あげないとだしね」

 そんな気遣いもできるのか、とひっそり感動しているとすぐにベンチの前に着く。
 しかし淡は座ろうとしない。

「先、座って。違うっ。そう、そこでいいよ。ほいっと」トサッ

 座らない淡を訝しがっていればそう指示され、淡の指図に従ってベンチの中央に腰掛ける。
 するとあろうことか淡は俺に身体を預けるようにして股座の間に座ってきたではないか。

「えと、その……。ま、前からは恥ずかしいからっ ゃんっ」

 たまらず、俺は背後から覆いかぶさるように抱きつき、淡の胸を掬いあげるようにそれぞれ掴んだ。
 服、そして下着の上からでもその大きさと張りそして甘やかさが想像できる触り心地。
 夢中になって触り、力加減に細心の注意を払って揉む。
 時折体をぴくりと震わせる淡に溺れてしまいそうだ。思わず首筋に吸い付き舐める。
 吹き抜ける風で誤魔化しきれないくらいに、互いの息は荒く。
 俺の股間の怒張に、淡の尻が強く押し付けられている。これ以上は止まれそうにない。

「はぁっ あんっ! きょーたろ、もう、お昼休み終わっちゃうからぁっ」

 そう言われても簡単に止められるものではない。
 やわやわと指だけを動かし、十指で両の乳首をこね、擦り、弾く。

「あとでぇっ! きょうはっ きゅ、きゅうようびだからんっ ね? あっぅっ」

 渋々、俺は責めを中断する。言われて思い出してみれば、
 確かに淡(というか虎姫)は今日が県大会前の最後の休養日だ。
 授業をサボりなどしては、菫先輩の説教は確実。今日に限っては絶対に避けたい。

 名残惜しくも淡の水蜜桃から腕を離し息を整える。
 ぼうっと淡を見つめ、いちご牛乳で脈打つ白く細い喉を眺める。

 とてもじゃないが午後の授業に集中できる気はしなかった。



カンッ