三度目の春。
 高校生最後の年、彼女と初めて出逢ったこの清澄麻雀部の部室で俺は告白した。

『和、付き合ってくれ』

 敢えて二年前のファーストコンタクトと同じ日、同じ場所を選んだのは初めての経験であり、少しでも験を担ぎたかったからだ。

『良いですよ』

 だからこそ、そう言われた瞬間に俺は歓喜でガッツポーズを取ってしまいそうになった。
 しかし、よく踏み止まったと褒めてやりたい。

『備品の買い出しですね。早速、行きましょうか』

 和は告白を勘違いして受け取った。
 確かにこれまでも消耗品の買い物へ一緒に行ったことは何度もあったが、まさか一大決心を間違われるなんて想定外だ。

『……ああ、新入部員も入ってくるからそれようの品も買わないといけないからな』

 梯子を外されてタイミングを逸してしまい、ヘタレた俺には訂正することも出来ず、無難に話を流した。
 だって、仕方ないだろう。
 付き合ってくれと言われたのに、どこかに一緒に来て欲しいなんて思うってことは、全く意識されてないと判断するには十分じゃないか。

 だが、しかし、失敗したが俺は諦めなかった。

 二度目の告白を決行したのはインターハイが終了し、国民麻雀大会の最中に迎えた和の誕生日だ。

『和、好きだ。俺と交際してくれ』

 前回の反省を活かして勘違いされないように思いの丈を伝えた。これで別に解釈されたら泣いちゃうぜ。

『えっ!?』

 俺からの告白に驚いたのか、まるでのどっちモードのように頬が上気していく。
 赤くなり、照れているということは脈があるのではないかと当然ながら期待してしまった。

『ごめんなさい』

 だからこそ、謝罪の言葉に絶望せざるを負えなかった。

『そ、そうだよな、和と付き合おうなんて夢を見過ぎた。……大事な国麻の最中に迷惑なことしてごめんな』

 思わず泣いてしまいそうになった。
 しかし、流石にそんな格好悪い姿を好きな子に見られたくなかった俺は和に背を向ける。
 早々にこの場から逃げ出したかった。

『待って下さい須賀くん!』

 俺の願望を和は打ち砕く。
 まさか、振られて去ろうとする相手を呼び止めてくるなんて思いもしない。俺が和だったなら気まずくてまともに話すのは無理だ。
 完全にネガティブな思考に陥っていた俺は彼女からどんな風に傷口へ塩を塗り込まれるのかと戦々恐々としつつも立ち止まった。

『須賀くん、私の両親は夫婦なのにもう三年間も違う場所に住んでいます。後悔はしていませんが私の我儘が招いたことでしたから、心苦しくも思っていました』

 脈絡のない突然の独白に和が何を言いたいのか分からなかった。

『私はプロの世界には行きません。来年の春からは東京の大学に通う予定です』

 和は頭が良くて、日本の最高学府にも模試でA判定を貰っていることは知っている。
 和と同じ大学に通いたくて頑張っているが俺はこの時期でもCかDしか取れたことはない。

『私はあなたとは付き合えません』

 改めてハッキリと言われると胸が痛い。涙が溢れそうになるのを堪えることが辛くなってきた。

『私は遠距離恋愛には堪えられません。須賀くんに告白されるなんて思ってもいませんでした。だから、考えさせてください。一緒の大学に合格した時にお返事します』

 可能性はゼロじゃない。

『和、分かった。必死に頑張るよ』

 その日から死に物狂いだった。
 机に齧りつき、人生で最も真剣に勉強した。両親や咲、優希や誠、ハギヨシさんや肝心の和にまで心配されてしまう程に明け暮れた。
 センターの足切りラインを突破した。あの大学では後期日程が廃止され、前期だけの一発勝負。
 全力は尽くした。
 手応えもある。
 合否判定の結果を家で待っていることなど出来ず、俺は自分の足でキャンパスへと番号の確認に赴いた。
 一つ一つ番号を見ていき、一度、二度、三度も見返した。そこに俺の番号が存在することを間違いなく認めたとき、バカみたいに拳を挙げて鬨の声を叫んでいた。

 俺だけが受かって和が落ちるなんてこともなく、二人揃って春からは一緒の大学に通うことが決まった。
 しかし、顔を合わせる機会は何度もあったのだが、和から改めて告白の返事を聞かされることもなく、新しい生活が始まってしまった。

「はあ、何でお酒なんて飲んだんだよ? 煽られたからってさ、憧の奴なんて呆れて見てたぞ」

 世界を席巻する麻雀ブーム、当然ながら大学にも麻雀部やサークルが存在している。
 和は麻雀部と麻雀サークルの二つに所属することを決めたので俺も同じく続いた。
 今日はサークルの新歓コンパで飲み会があった。未成年の飲酒は良くないが雰囲気と言うか流れもあり、俺も結構飲んではいる。

「だってぇ、のみたいきぶんだぁちゃんですよぉ」

 呂律が上手く回らず、足下も覚束なくなるまで飲む奴がいるか。まあ、和は人生初めての飲酒だったらしく、自分の限界を把握できていなかったのだろう。

「和はもうちょっと危機感を持つべきだぞ、タクシーで送っていくなんて言っていた先輩がいたがちょっと怪しかったしな」

「だいじょぶですぅ、きょうたろうくんが、まもってくれるってしんじてましたもん、えへへ」

 信頼されていると喜ぶべきなのか、俺がいなかったらどうなっていたのか、心が休まらない。

「はあ、危機感が足りねえよ。俺が狼になったらどうするんだ赤頭巾ちゃん?」

「おいしくたべられちゃいますね♪」

 本当に分かってるのかよ。
 怒るなり、否定するなりしてくれよ。理性が持つか分からない。和が強く拒絶しないなら、俺は……

「うふぇふぇ、ああ、せなかおおきいなぁ」

「こらこら、足をブラブラさせんなって危ないだろう」

 押し付けられる大きなおもち、触れてしまっている太股の柔らかさ、体温や息遣いで感じさせられる和の存在に心臓が熱くなる。
 お酒の影響なんかじゃなく、彼女にドギマギさせられている。

「もうすぐ和の家に着くぞ、今日は確りと水分取って寝ろよ。明日は二日酔いで地獄を見るかもしれないけど、自業自得だからな」

「…………」

「和? おい、どうした?」

 急に和からの返事がなくなり、まさか急性アルコール中毒で意識が朦朧としているのではないかと疑い、慌てて首を捻った。

「うぅぅっ、ぎもぢわるいでずぅ……」

 顔色がちょっぴり悪くなっていた彼女はそう口にすると盛大に吐き出した。
 酸っぱくてエグイ臭いが満ちていく。
 俺の服、和の服、俺たちの身体もゲロゲロに汚れた。

「…………死にたい」

「気にすんな誰もが一度は通る道だって、まあ、人に向かって吐き出すのは早々ないかもしれないけど……」

 和もゲボ塗れで帰すのは申し訳なく思ったのか、俺は彼女の自宅にあがらせてもらっていた。
 和のお母さんはこの春に再び異動が決まり、既にこの家にはいない。そして、あのお父さんは娘のことを心配していたが和の後押しもあり、夫婦で赴任することを決めたのでもちろんいない。
 つまり、俺と和の二人きりって状況だ。

「ぅぅ、申し訳無さすぎてもうダメです……」

「良いって、服は洗えば済むし、風呂も貸して貰ったからな」

「父の服が残っていて良かったです……」

 高校一年の頃よりも背が伸びたが、劇的に変わったわけでもなく、体型も変化はない。だから、服のサイズはピッタリだった。
 それにしても、湯上がりの和は色っぽ過ぎて目の毒だ。しっとりと水分を含んだ髪、熱っぽい顔、男心を擽り過ぎだ。

「須賀くん、改めてごめんなさい。服はちゃんとクリーニングして返しますから」

「ははは、いっそのこと記念に汚れたままの服を保存しておいても良いかもな」

「ちょっ、それは本当に辞めて下さい! お願いします!」

 恥ずかしさやら、そんなことをされてはかなわないと多少の怒気も含めて和は抗議する。

「冗談だって、いくら俺でもさ、好きな子に関係しているとはいえ吐瀉物塗れの服を保存しておくような変態的な趣味はないからな」

「そうですか。好きな子……須賀くん、もしよろしければ告白の返事をさせて頂いても良いですか?」

 ごくりと唾を嚥下したのは緊張からだった。
 先延ばしにされ、待ち続けた答えを与えられる。二度の告白時よりも、遥かに震えている。

「私はとても頑固な堅物です。負けず嫌いで、ちょっと箱入りな世間知らずな所だってあります。今日みたいな迷惑をかけることも多いかもしれません。
 むしろ、あんなことをしてしまった私を須賀くんが好いていてくれるのか、自信もありません。こんな私でもあなたはまだ好きですか?
 もしも、そうであるなら私と付き合ってください」

 ああ、心臓が高鳴る。
 顔が熱い、目の前の彼女と同じように俺も真っ赤になってるに違いない。

「初めて会ったときに魅了された。真剣に麻雀を打つ姿が凛々しくて惚れ惚れする。励ましてくれたことや、気にかけてくれたこと、指導したりしてもらったな。
 和の優しさに俺は何時だって奮い立ったし、和がいなければ今の大学に受かる所か、受けることもなかったはずだ。
 あの程度のことで和を嫌いになることなんて絶対にない。好きなんだ、だから、これからよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

 和と俺は恋人になった。
 しかし、実感は湧かないもんだな。嬉しすぎて、幸せすぎて、心がふわふわとしている。

「さてと、もう夜分も遅いし俺はそろそろお暇させてもらうよ」

「えっ? か、帰っちゃうんですか?」

「えっ?」

 泊まっていけとでも、それって、否、俺と和はたった今恋人同士になったばかりなんだぞ。
 何で目をうるうるさせて見てくるんだ。期待してるのか、あの和が、真面目な彼女が、本当に……

「の、和さん?」

「ずっと、ずっと、待ってたんですよ……大学に合格した日から、す、京太郎くんが告白をもう一度してくれるんじゃないかって……」

 待っていたのか。
 もしかして、今日柄にもなく和が羽目を外したのって自分から言い出すための切っ掛けにしたかったからなのか。

「女の子だって性欲はあるんですよ。ずっと、日に日にあなた欲しくなっていって、私は……」

 ああ、ヤバい、無理だ。
 好きな子にそんなことを言われたら我慢できるはずがない。

「和、好きだ」

 俺はそう言って和を抱き寄せた。
 腕の中の彼女は小さくて、可愛くて、暖かくて、愛しくて、愛しすぎて幸せが弾けそうだ。

「京太郎くん、んっ……んぅん、んぁあぅ」

 和の唇は柔らかかった。
 キスの味は分からない。興奮と多幸感で頭が痺れていく。もう止まれない。
 本能のままに、俺は和の唇を抉じ開けて舌を入れた。驚き、反射的に逃げようとした彼女だが、逃れられるはずもない。
 順応すれば彼女も俺と同じように、求めて動き出す。粘膜と粘膜が交ざり合い、唾液が糸を引く。

「ぷっはぁ、ああ、和、可愛いよ」

「はぁ、はぁ、京太郎くぅん」

 夜が更けていく--

 人間も一皮剥けばケダモノだ。
 綺麗で可愛い彼女も、淫らに、貪欲に、溺れてしまう。快楽に呑まれれば俺は一匹の雄で、和も只の雌でしかない。

「今日は講義が休みで良かったよな」

 初めてでありながら俺たちは一晩中盛っていた。女体の神秘に俺が暴走するのは当然だが、和もかなり激しかった。
 初めては痛いとか気持ち良くないとかよく聞くから、不思議に思って尋ねてみれば、自己開発が好きなエッチな子だったことを自供した。
 小学生の頃からクリを弄っていたとか。胸も結構感じるらしい。器具は使っていなかったそうだけどな。

「ええ、本当ですね。もしも学校があったら私は休むほかなかったですよ……腰が痛くて動けません」

「あはは、まあ、うん、ありがとうな」

 ヤっている最中は脳内麻薬で気づかなかったが、互いに無茶をし過ぎたみたいだ。
 俺も普段は使わない筋肉を酷使したからか、筋肉痛になっている。まあ、和と違って動けないほどじゃない。

「朝食はタコスにでもするかな、簡単だし」

「お任せします」

「おう、優希に三年間作りさせられ続け、一流になってしまった腕を存分に振るわせてもらうぜ」

 俺と和の交際はこうして始まった。

 ずっと好きで憧れていた彼女との日々は色鮮やかで、楽しく、嬉しく、幸福に満ちていた。
 何でも出来る、万能感、全能感。
 時には意見の対立で揉めることもあった、和に近づいてくる男に怒りや嫉妬したこともある。
 まあ、曰く、和からすれば俺に接近を図る女の子もいるらしいからお互い様らしいけどな。

 ご両親へ改めて正式にご挨拶したときは凄く緊張した。お義父さんとの仲を取りなしてくれたお義母さんには一生頭が上がらない気がする。

 楽しいことも悲しいことも、色々なことがあり、これからもあるだろう。それでも彼女と一緒なら分かち合えるに違いない。

「和、愛してるよ」

「私もですよ、京太郎くん」


カンッ!








-オマケ-

嘉帆「やぁやぁ、ただいま。和元気に……」

アンアン、ダメェ、イッチャイマス、モウ、ァァアアア!
ノドカァ、ノドカァ、オレモモウ!

恵「」

嘉帆「あらあら、和も大学生だから仕方ないわね」

恵「…………」プルプル

嘉帆「ん? どうしたのあなた?」

恵「何をしているか!!」ドガッ

和「えっ!? えっ!?」

京太郎「おいぇ!? うっ……あっ」ドピュッドピュッ

恵「貴様ァ、うちの娘に何してくれとんじゃあ、ワレェッ!!」ボゴォ

京太郎「プゲラッ!?」

和「きょ、京太郎くん!」

嘉帆(はあ、弁護士が口よりも先に手を出してどうすんのよ……)

和「やめて、止めてください!」

恵「放せ和ぁ、お前はとっとと服を着ろ! 私はこのゴミォォォォオオオ!!」ボカドカ

京太郎「アベシ、ブベシ!?」

嘉帆「あなたいい加減にしなさい!」

恵「止めるな嘉帆……アガァッ!?」

嘉帆「殴るわよ?」

恵(もう、殴って…………)チーン

嘉帆「はいはい、和も君も先ずは服を着ましょう。それから傷の手当をしてから話合いね。このバカの頭は冷やしておくから心配しないでね」

京太郎「はい……」

和「大丈夫ですか京太郎くん?」

嘉帆(あらら、和ったらメロメロね……まあ、見えちゃったあの子の立派だったし。まあ、和が選んだ子だし大丈夫でしょう)

大反対する恵さんと問題視しない嘉帆さん、過熱する親子喧嘩の行く末は--


もう一個カンッ!