彼女に声をかけたのは全くの親切心からだった。地図を手に目をぐるぐるさせている彼女を放っておけなくて、それで案内を買って出た。

穏乃「ありがとうございます!」
京太郎「いや気にしなくていいよ。っと、もうすぐ仕事の時間だ」
穏乃「お仕事? 何をされているんですか?」
京太郎「ええっと……飲み屋?」

嘘は言っていない。ここでホストクラブとか言ったらなんだか下心があったみたいじゃないか

穏乃「じゃあ、売り上げに貢献しますよ!」
京太郎「え?」

そんな感じで、キャッチまがいのやり取りの末に彼女は結局来てしまった。

穏乃「あわ、あわわ……」

そして、煌びやかな店内の様子に彼女は狼狽していた。無理もない、どう見ても健康的なアウトドア派だ。ホストクラブなんかに縁はないだろう。
ここで大金を通りすがりの女性に払わせるわけにもいかない。カクテル一杯で帰る分には問題ないだろう。
そういう気持ちで、シェイカーを手にした。作るのは運動派が飲みなれているだろう味に近いコレ。

京太郎「テキーラ・サンストロークでございます、お姫様」

すっと膝をついて、恭しく彼女にグラスに入ったカクテルを差し出す。すると、なぜか目を丸くしていた。

穏乃「か、格好いい……い、いやその、カクテル作るしぐさが、なんというか」
京太郎「お褒めにあずかり恐悦至極。どうぞ、お飲み物を」

無駄に手を折って礼をする。カクテル作りは新人の頃に学ばされたけど、意外となまらないものだな。

穏乃「うま、これうまっ!」
京太郎「気に入っていただけましたか? 飲み慣れているものに合わせてみましたが、どうでしょうお姫様」
穏乃「あー、言われれば清涼飲料水に似てるかも……」

京太郎「お好みのものがあれば他にもお作りできますよ」
穏乃「じゃあその、山っぽいもので!」
京太郎「ではストレートにマウンテンを」

飲みやすくアルコールも低めだし、問題ないだろう。そうやって差し出した2杯目も平らげ、彼女は少しもじもじとして

穏乃「あの、店員さんは彼女とかは……」
京太郎「そうですね、ここにいる間は貴方の恋人のようなものです。
    お姫様には不足かもしれませんが」

穏乃「いやいや、そんなこと、全然!」

反応が素直で可愛らしいな。なんだかこっちもやる気になってしまう。そのままいつもより少しばかり丁寧にお姫様を歓待した結果……

穏乃「あ、あの、また来ていいですか? 京さん」
京太郎「もちろん。貴女のような可愛らしい方に会えるのは楽しみです。
    おっと失礼、プリンセスに相応しいのは『美しい』でした」

わざと気取って、傅いて指の爪先にキスをする。彼女は酔いに少しだけ顔を赤くして。

穏乃「あ、ああ、あの、ま、また絶対来ます!」

どぴゅんと、走り去ってしまった。お酒の後に走ると酔いが回りやすいけど、大丈夫か少し心配な俺だった。


『ホスト京』 迷子の初体験、穏乃編  カン