「キャプ……福路先輩、何やってるんですか!」

 文堂さんにまた怒鳴られてしまった。
 ついつい、みんなが心配で半引退したのに部に顔を出してしまう。

「え!? キャp、美穂子先輩また雑用やってるし! もー、部のことはこの華菜ちゃんに任せてくださいって」
「福路ィ、国麻もあるから部に来るのは構わないが……少しは後輩を信用してやれ」

 華菜やコーチにも呆れられてしまう。いけないわね、こんなんじゃ。
 私が苦笑を浮かべていると、華菜が更に言い募る。

「先輩、今日はあの金髪……彼氏と待ち合わせだって言ってたじゃないですか。時間大丈夫ですか?」
「えっ、先輩彼氏いるんですか!?」「先輩なら、当然」「清澄の男子、でしたっけ?」

 華菜の発言に純代ちゃんや未春ちゃん、他の部員たちまでどよめいている。
 そうなのだ。インハイが終わった直後の東京観光のとき、私は彼に告白された。
 あの時は驚きのあまり目を隠すことも忘れてまじまじと京太郎くんのことを見てしまった。
 久から聞いていたどこか軽薄だという雰囲気は欠片も無く、張り詰めてともすれば壊れてしまいそうなほど真剣な表情。

  ――一目見た時から貴女が好きでした。俺の恋人になってもらえませんか――

 耳朶を打つ硬く震えた声。でも本気だと分かる声、眼差し、表情。
 彼のことは清澄と行動を共にするようになった東京で度々目にしていた。
 メンバーの要求に嫌な顔一つせず――冗談で顔を歪めたりはしていたか――応え、
 真夏の陽炎の下を駆け回っていたのは記憶に新しい。
 私から見た彼は、宮永さんに甘く原村さんにはちょっとえっちな顔を見せる、健気で元気な男の子だった。

 でも、あの時の彼はそんな印象とはまるで違ったのだ。
 ……私が支えてあげたい。側にいてあげたい。
 そんな風に自然と想えてしまった。だから彼の申し出を受けたのだ。
 私がYESと返したときの京太郎くんの表情は今でも思い出す。
 後から聞けば告白したものの受けてもらえるとは思っておらず、玉砕するつもりだったのだと。

 そんな可愛いあの人と、今日はデートなのだ。

 華菜達と出会った去年こそ賑やかだったが、これまで私の誕生日は灰色ばかりだった。
 急かされるままに部室を辞去し、待ち合わせている場所に向かう。
 歩きながら手鏡で髪や服の乱れが無いか、しつこいくらいに確認し終わった頃、ついに彼の姿が見えた。

「美穂子さん」

 耳朶を打つ甘い響き。鼻梁を走る爽やかな香り。光を弾き輝く金の髪。優し気に歪む精悍な眉。
 ああ、世界はこんなにも色に満ちている。
 私の両目を通しても、幸せな色で包まれている。

「京太郎くん」

 今日も私は彼の好きな福路美穂子でいるだろうか。
 自然とほころんだ笑みを隠すように、駆け寄るままの勢いで彼の胸元に飛び込んだ。
 しっかりと抱き留められ、安心感と幸福感が私を這い上る。

「誕生日おめでとうございます、美穂子さん」

 この時間はきっと、永遠――



カンッ