清澄麻雀部がインターハイを征した。
 和も優希も染谷先輩だって咲が最後の嶺上開花で捲った時は閧の声をあげた。部長なんてクシャクシャな顔で泣いて喜んでいた。
 俺も嬉しかった。
 優勝したこともそうだが、あの咲が、何をやってもダメな幼馴染が、輝く姿に娘が成長して大きくなったような、そんな喜びを抱いたんだ--


「はあ、急激な環境の変化に適応できないと生き物は死ぬんだよな」

 インターハイでの優勝は麻雀部に変化をもたらした。
 初出場の無名校が大本命の強豪校を打ち破り、頂点に立つと言う快挙を成したのだ。以前と同じままでいられるはずがない。
 メディアの取材で一躍有名人、時の人という奴で地元に帰れば凄いのなんの、道を歩けば咲たちは知らない人から話しかけられることも実に多い。
 他にも、例えば染谷先輩の家は大盛況で今月の売り上げは従来の数倍に膨れているとか、和がいっぱい告白されたり、優希にタコスの差し入れが行われたりとかな。
 部長の所には全国の学校から試合や合宿の申し込みがいっぱい来ているらしい。

「熱い……」

 変化に適応できていないのは俺だけだ。

 直接誰かに言われたわけじゃない。
 だけれども、時に目は口よりも多くを物語る。
 そして目に見えない所、ネットの匿名掲示板なんかでは本音も流れている。

「辞め時なのかもな……」

 何もしていなかった顧問や学校がしゃしゃり出る。
 何もできなかった俺がネタになる。

「まあ、俺が辞めても誰も困らないし」

 コミュ症の幼馴染には友人たちがいる。俺が気にかけなければ一人ぼっちになるなんてことも、もうないだろう。
 未熟な俺に時間を割いてもらうよりも自分たちの研鑽に当たってもらった方がきっと良い。
 来月には国麻だって控えているし、咲ならジュニア選抜に選出される可能性も高い。

「それに……」

 俺はあんな風になれる気がしない。

 県予選で敗退して悔しかったさ。
 清澄の顔に泥を塗って申し訳なく思ったよ。
 だから、それなりに努力し、強くなった。今ではネト麻の上級卓で打ち合えている。
 だけど、部内で打てばまるで勝てない。
 あいつらと打つと何も出来ないと言うか、まるで勝てる気がしないんだよな。
 実力に差があるのは分かるけど、そこじゃない、根本的に何かが違うのだと分かった。確信を抱いたのは準決勝の大将戦だ。

「…………」

 俺は楽しめれば良い。
 麻雀部は心地良かった。
 今だって部の皆のことは好きだ。
 だけど、見ている場所、見えているもの、見たい景色、目指さなければならないそれやあれが違うのだと思う。

「買い出し終わりましたよ!」

 麻雀部に戻ってきた俺はそう口にし、備え付けの冷蔵庫に色々と買ってきたものを仕舞っていく。
 皆は麻雀中だ。
 打牌の音、副露の声、和了の宣言を耳にしながら俺は一人で黙々と雑用をこなしていく。

「ねえ、これ頂戴。お礼に手伝うから、ダメ?」

 幾つかのお菓子の袋を掴みながら彼女はそう言った。

「別に構わないですけど、それ一人で食べるんですか?」

「うん」

 咲の姉にして今年のインターハイ個人戦の覇者は随分と食い意地が張っているらしい。
 片付け終えれば彼女は早々に封を切り、パクパクと口に含んでいく。
 俺はすることもなくなり、携帯でポチポチとネト麻を始めた。

 どうして宮永照が清澄にいるのか。
 長野は日本全国でも一番夏休みが短く、他県は八月末まである。インハイも終わり、咲との仲を修復した彼女は長野に帰ってきた。
 おまけとしてチーム虎姫を引き連れてだ。

「君は打たないの?」

「弱いっすから皆の相手にならないんで、それに人数が半端じゃないっすか」

 予備の牌ならあるが、二つしか自動卓はない。
 現在この部室には清澄と白糸台、部員は俺も含めて合わせて十人。染谷先輩は店が繁盛しすぎて部活に顔を出せないでいるからな。

「二人でも出来るよ。それにお菓子のお礼に見てあげようか?」

「チャンピオンの指導料がお菓子とか安いっすね……はは、じゃあ、せっかくなんでお願いします--


 皆みたいにはなれないと思っていた。
 あの日、あの時、彼女と麻雀をしなければ、麻雀部を退部していたはずだ。
 今があるのは彼女のおかげだと断言できる。だから、俺は--

「照さん、今日の試合の後でお話があります。聞いてもらえますか?」

「話? 良いよ、京ちゃん」

 --この人に俺は伝える。
 胸で燃え続けるこの想いの丈を、格好良く勝って言えたら幸いだ。負けても構うまい。
 全力で今の俺をぶつけてみせる。
 感謝と好意、愛しさよ貴女に伝われ。


カンッ!