晴天渡る葉月の末日、清澄に神の末子降臨す--

「えへへ、京太郎さんお会いしたかったです」

 インターハイも無事に閉幕し、新学期も既に始まった長野。一方、日本の南方鹿児島の地では未だ夏休みが続いていた。
 夏期休暇中ともあれば学生は遠征し易いものであり、遠方の強豪高校から乞われた練習の申し出を拒絶する理由は特にない。
 むしろオカルトが猛威を振るう女子の中でもその分野に深い造詣を持ち、特化している永水女子との鍛練は得るものが大きいと判断した。
 来年や秋の国麻を見据えるならば強者との戦いは望む所であり、機会を有効利用すべきである。

(そう思ったんだけどね、う~ん、判断を間違えちゃったかしら?)

 夏のインハイを征した部長の久は己の下した判の結果、繰り広げられた目の前の光景に苦笑いが自然と浮かんだ。

「ちょっ、神代さん放して下さい!」

「……私と触れ合うのはお嫌ですか? それに小蒔とお呼び下さいと何度も言ってるのに……」

 抱きついた状態のまま、小蒔は悲しみと不安に満ちた声を漏らす。

「い、嫌じゃないですけど……その……分かりましたからとにかく放して下さい、小蒔さん!」

 京太郎は健全な男児である。
 少女が押し付けている一対のおもちも、鼻孔を擽る良い香りも刺激が強すぎた。

(ぐぬぬっ、犬め、発情しているんじゃないじょ!)

(鼻の下を伸ばして、そんなに大きな胸が良いの京ちゃん?)

 京太郎の股間がテントを張っていることは咲と優希にも見えていた。

「小蒔ちゃん、彼も困っているし放しなさい。別に須賀くんは小蒔ちゃんが嫌だから放して欲しいわけじゃないのよ。そうよね、須賀くん?」

 意味深な視線を投げ掛けられ、京太郎はドキリとした。背筋に冷や汗が伝い出す。

(やべえ、俺が起っていることバレてる!?)

 彼の状態は殆どの女子に気がつかれている。危惧など意味をなしていないのである。

「須賀くんと神代さんは何時の間に知り合ったんですか?」

 和はマイペースに当然の疑問を投げる。

「よく晴れた日だったので私はお外でお昼寝していたんです。でも、気づいたら知らない場所にいて、京太郎さんに出会ったんです」

 意味が分からないとばかりに拝聴した和たち清澄面子の頭に疑問符が浮かび、小首が傾く。永水の面々はニコニコの小蒔を除けば苦笑せずにはいられない。

(姫様に神が降りて、彼に出逢った。つまり、ある種の神託……)

 春は思う、運命の賽は投げられたのだと。
 今回の長野への遠征は霧島の巫女たちには特別な意味があった。彼が本当に益と成り得るかの見極めであり、敵情視察こそが本懐だったのだ。

「インターハイで姫様が迷子になっていた所を須賀くんに助けていただいたんですよ」

 小蒔の言葉を分かりやすく巴が訳した。

「ほう、そうじゃったんか。わしはてっきり京太郎がナンパで引っ掻けたのかと思ったわ」

「そりゃあ、酷いっすよ染谷先輩……」

「否、犬なら如何にもだじぇ!」

「どういう意味だよ優希!?」

 定番となった掛け合いを始める優希と京太郎。戯れ合う二人を興味深そうに永水の六女仙は観察する。

--パンパンッ!

 場を切り替える大きな拍子が二つなり響いた。

「優希も須賀くんもそこまで、今日はお客さんもいるんだから余りふざけないでね!」

「「はい……」」

「それじゃあ、早速麻雀を始めましょう! 石戸さん、自動卓は二つ、手積みなら用意できるけど、13人もいるわけだからどう回しましょうか?」

 久の言葉に霞は思案する。
 建前ではあるが麻雀の実力向上が合同練習の目的である。
 秋に行われる国麻を考えれば永水側としては選抜に確実に選ばれる小蒔と春、可能性が十分にある初美と自身、そして明星と湧を中心に据えるべきであろう。

「私たちの方は選抜に選ばれる可能性の高い子を中心にいきたいところかしら?」

「こっちなら一年の三人と私がそうなるわね」

 現在の欠点は必ずしも未来の弱点とはならない。弱味を晒さなければ強化を行うのは難しい。

「中々に不安定なチームじゃな」

「そうでしょうか?」

「頑張りましょうね!」

「ああ、足引っ張らないようにしないとな……」

 麻雀の基礎力に不安な小蒔とネト麻の上級卓にはまだ至っていない京太郎。抜群の安定感を持つ和とまこが指導、サポートする。
 人に教えることは知識の定着と深化、理解をもたらす。

「私の相方は清澄の女狐と巴なのですかー」

「女狐って酷いわね……」

「ハッちゃんの言い方は悪いですが、竹井さんはそう言われても仕方ない節があると思います」

 打ち筋のまるで異なる三年生三人。視点が変われば、増えれば、見える範囲は広がりを見せる。視野の拡大は各自の持ち味を純粋に押し上げる。

「なあ、その胸って本物か?」

「…………」

 ニコニコと笑みを浮かべる霞を前に優希は己の失態を後悔する。マジで怖い、今までにない手合いの圧力に脂汗がタラタラ流れる。

(ヤバイ、この人凄く怖いじょ)

「黒糖食べる?」

 見かねた春がお菓子を差し出した。
 守備力に定評のある霞が一年二人を監督する。食べ物で交流が進む二人を眺めつつも、端で小蒔の様子を見ることも忘れない。

「「宮永先輩よろしくお願いします!」」

「は、はい……」

 二人の後輩を指導するように求められた咲はガチガチに固まっていた。コミュ症文学少女は人見知りである。

(無理だよ、私、人に教えたことないのに、上手く出来る気がしないよ……助けてぇ!)

 助けてくれるはずもなし。
 夏の残り火猛る清澄永水合同練習の幕が開ける。神に愛された少女の来襲が人間関係をかき混ぜる!
 変則チーム麻雀戦、そして恋の行方は、賽の目は誰に微笑むか--


カンッ!