末原恭子は、まず己の目を疑った。
次に目の前の光景を疑い、そして世界を疑った。
けれど、瞬きしてもそれはそこにあり、己の頬をつねれば痛い。
つまり、これは、どうしても受け入れがたく、ままならない事ではあるが、夢幻ではない現実だと理解するしかなかった。
だから、彼女の口からこぼれた言葉は。
当惑に満ちていた。

「嘘やん……」

気分転換にと、普段は立ち寄ることのないような公園。
そこに、仲睦まじい男女の姿があった。
金髪の男性と、それに寄りかかる長い黒髪の女性。
普段であれば、特に気にすることはない。
ああ、仲の良いカップルだなあ、で済むところだ。
しかし。

「……代行」

その女性が見知った人物であるならば話は別だ。
男っ気が丸でない、とは言えないが、それでもどちらかと言えば、こちらよりだと思っていたのに、男がいた。
言葉では表すことが出来ない程の衝撃に、目線を向けたまま固まり、立ち尽くす。
それが、いけなかったのだろう。
気付かれてしまった。

「あれ~、末原ちゃん?」

「……どうも」

「末原ちゃんは冷たいなぁ。そういうところも好きやねんけど」

「私の事はどうでもええやないですか。それより彼氏さんはほっといてええんですか」

鳩が豆鉄砲を受けたような顔、とはまさしくこういった顔なのではないか。
それ以外には、言葉で表す事は難しい表情。
この人はこんな顔もするのか、と半ば現実逃避のような考えが頭を過る。

「す、末原ちゃん?今なんて?」

「えっ、私なんか構って、彼氏さんほっといてええんですか?」

「かれっ……彼氏っ、京太郎が、彼氏っ……あはっ、あははははっ」


一頻り笑ったところで、彼女は所在無さげに立つ男性に声をかけた。

「京太郎、こっち来てや~」

「ああ、うん」

そうして近付いて来た男性を見て。
末原恭子は、先ほどとは別の意味で固まってしまう。

「こちらの人は?」

「末原恭子ちゃん。教え子やで~」

「ああ、成る程」

「初めまして、須賀京太郎って言います。郁乃さんがこんな感じだから、大変でしょう?」

「こんな感じってなんやの~。酷いなぁ」

「ああ、いえ、全然、そんな」

顔が熱い。おそらく、赤くなっているだろう。気付かれたら、ろくなことにならない、誤魔化さないと。

「あれぇ?末原ちゃん照れてるのん?可愛いなぁ」

「そんなことないですって」

「でもな?」

いつもであれば、聞き取れないであろう、微かな囁き。


私のだから取らんといてな?

カンッ