――現在・自販機前――


京太郎(小鍛治)「……掻い摘んで話したが大体こんな感じだな。」

京太郎(小鍛治)「健夜さんと出会わなかったら、今の俺はいなかった思うんだ。」

京太郎(小鍛治)「だから、健夜さんにも義理の両親にも感謝してるんだ。」

京太郎(清澄)「……小鍛治の俺、今、幸せか?」

京太郎(小鍛治)「ああ、それは迷うことなく言えるよ、今の俺は幸せだ。」

京太郎(白糸台)「そうか……」

京太郎(宮守)「俺たちは意外に救われてるんだな……」

京太郎(小鍛治)「湿っぽくなるのやめやめ!次行こうぜ、次!」

京太郎(宮守)「それじゃあ最後に俺の番だな。」

シロ「がんばれ……」

京太郎(宮守)「俺は途中まで小鍛治の俺と対して変わらん。」

京太郎(宮守)「ただ、俺の場合、小鍛治という人とは会わなかった。」

京太郎(宮守)「両親が亡くなってから数年は施設で預かられていたんだ。」

京太郎(宮守)「そしてある日とあるお婆さんに身元を引き受けられたんだ。」

シロ「おー、そんな過去が……」



――数年前・岩手――


――その子とあった時の印象は、『魂が裂けている』だった。

長年生きているとそんな人間もいくつか見たことはあるが、文字通り『割けている』子供を見た

のは初めてだった。

どこか仄暗い闇を感じさせるその瞳には、生への執着は薄く、また他者との深い関わりを拒絶し

てるようにも感じた。

このままではこの子はいずれ亡くなると判断した私は、怪異と所縁が深い岩手に居を構えること

にした。

この子は泣かない、笑いもしなければ、怒りもしない。

感情が乏しいのだ、だからこそ色んな人間と接触しなければならない、そしてそれが特殊な人間

であるなら尚良いと思う。


「京太郎、今からあなたにはこの洞窟に入ってもらうわ。」

「リュックには食料と水が入ってるから落とさないように。」

「私は洞窟の出口で待ってるから。」

「さぁ、お行き。」


私はそれだけ伝えて京太郎を洞窟へと進ませた。

京太郎は怪訝な表情を浮かべたあと、洞窟に向かっていった。

これで彼が何とか感情の欠片を掴むことが出来ればいいのだが……




彼が今回掴むべき感情は、『恐怖』。

闇から侵される不安と完全なる孤独に対しての恐怖。

これが他者への興味へと繋がってくれればいいと思っている。

そして次に『生への執着』。

闇への恐怖から生まれる生き物として持つべき『生きたい』という感情。

この二つが得られたら上出来だと思っている。




「ダルい……」


今の私の感想である。

知り合いに『洞窟をある程度進んだところで人を待て』そんな面倒くさい頼まれごとを受けて、

この一寸先も分からぬほどの闇に囲まれた中、私は休んでいた。

暇を弄び尽くして帰ろうかと思った時、遠くの方から一人の足音が聞こえてきた。

やがて私の近くまで寄ってきたところで、私とぶつかった。


「痛……」

「……え?」


どうやら相手は私の存在に気付いてなかったようだ。

無理も無い、先ほどから動いてすらいない私は、物音一つ立てずに休んでいたのだから。

加えてこの真っ暗闇だ、相手の顔どころか姿形の輪郭を認識するのすら危ういだろう。

とりあえず目的の相手も来たことなのでこの洞窟を出ようと思う、が……


「ダルい……」


口をついて出た言葉がこれだ。

正直動くのが面倒くさい。

だがここから出ない訳には行かないので、頑張って立ち上がろう……あとちょっとしたら……

そんなことを考えていると相手が語りかけてきた。


「えっと、あなた人ですか……?」

「暗くて見えないだろうけど、これでも人間だよ。」





声から察するに男の子だろう、それも変声期が来る前くらいだ。

それから直ぐに相手から提案を受けた。


「一緒にここから出ませんか?」

「ん、いいよ、はぐれるといけないから手を出して。」

「あ、はい。」


どこにあるかも分からぬ手を掴んだ後、私はこう切り出した。


「ダルいから引っ張ってって……」

「……え?」

「なんなら負ぶってくれてもいい……」

「怪我でもしてるんですか?」

「いや、ダルいだけ。」



それから二人でしばらく洞窟を進んでいくと少し開けたとこに出た。

そこには光苔が薄っすらと生えており、二つの道を指している。


「どっちに進めば……」

「ん、ちょいタンマ。」


私はそう言葉を発して数秒考える。


「こっち。」

「え、道を知ってるんですか?」

「たぶんこっち。」


私はそう言って手を繋いだまま進む。

相手の足取りも躊躇いながら付いて来た。

それから歩みを進めてしばらく経つと奥の方から微かに月明かりが見えた。

出口だ、私がそう思ったと同時に相手も口に出していた。

意外と気が合うかもしれない。

そして漸く出口に着いたとき、この面倒くさい頼みごとをした張本人が現れた。





トシ「お疲れ様、二人とも。」

京太郎「え、この人もトシさんの知り合いなんですか?」

トシ「そうだよ、今回の協力者。」

トシ「それで京太郎は何か感じたかい?」

京太郎「怖かったです……闇の中で一人になるのは。」

トシ「そうかい、それでいいんだよ。」

トシ「白望も悪かったね、私たちに付き合わせてしまって。」

シロ「ダルかった……」

京太郎「あなたのお名前、白望さんって言うんですか。」

シロ「ん、気軽にシロって呼んでいい……こっちも京太郎って呼ぶから。」


このとき今更ながらにお互いに名前を知ったのである。





――私は知り合いの伝で呼ばれ、一人の少年に引き合わされた、名前は京太郎というらしい。

『同年代の人物と接触させたい』という話らしい。

頼んできた人は老齢のご婦人で、名前は『熊倉トシ』と名乗っていた。

親戚が昔世話になってたらしく断れなかったみたいだ。

そして親戚内では私ぐらいしか条件の該当者が居なかったらしく、私にお鉢が回ってきたという

ことだ。




「えっと、君が京太郎君だっけ?私は臼沢塞、よろしくね。」

京太郎「臼沢さん、ですか、俺は、須賀、京太郎です。」


私たちはとりあえず名乗り合った。

そのあと、彼の目を見て第一印象が決まった、決まってしまった。

なんという寂しい目をしてるのだろう、なんという怯えた目をしているのだろう。

心の奥底になにか抱え込んだ目をしていた、そんな印象を受けた。

多分、こんな目をした彼に必要だと思って『同年代の人物と接触させたい』と親戚は頼まれたの

だろう。

とにかく明るく接した方がいいのかと思い、色々話した。

私の事、好きな物について、岩手について、最近の出来事。

そして親のことについて話題に移った時、彼の目には暗いものを感じさせた。





塞「――それで私の両親がね……」

塞「そういえば京太郎君のご両親ってどうしてるの?」

京太郎「えっと……」

塞「……?」

京太郎「……俺を残して死んでしまいました。」

塞「あ!?ゴメンね、辛いこと聞いて……」

京太郎「気にしないで下さい、もう随分前ですから。」


彼はそう言って苦笑いを浮かべていた。

やってしまった。

調子に乗って地雷を踏んでしまった。

彼は気にするなとは言っていたが、気にしてしまう。

私は気まずい雰囲気に耐えられなくなり、そろそろ帰ろうと思って席を立つ。

途中で熊倉さんに会ったので彼の生い立ちをつい、聞いてしまった。

彼の両親が死に際、彼にしたこと……そして彼がその光景を見ながら、両親が無くなったこと。

そんな話を聞いて、気付いたら彼の元へ向かっていた、そして暗い目をした彼を見て思わず抱き

ついていたのだ。


京太郎「……え?何で?」


何故そんなことしたのか自分でも分からなかった。

ただ、彼の話を聞き、彼の目を見たからか、憐憫の情を抱いたのかも知れない。

そしてその壊れそうな瞳を見て、彼の心に抱えた物を、彼の心を苛むものを、彼から守ってあげ

たいと思ったのだ。


塞「京太郎君、辛いことがあったら、私に言って……」

塞「私が京太郎君の、心の傷を塞ぐから……」

京太郎「……ありがとう、ございます。」

トシ「……ふふふ」

トシ(京太郎の話相手が出来ればいいと考えていたが、思わぬ掘り出し物かもね。)






――現在から一、二年前・岩手――


私は今、閑散とした村奥、閑散とした部屋にいる。

この閉鎖された世界が私の全てだった。

『■■様』これが私の呼ばれ方。

ちゃんと親から貰った名前があるのに、周りから私はこう呼ばれていた。

この部屋には誰も近寄らず、また近寄れない。

なので両親とも禄に会えずに、最近では顔も朧げになってきている。

人と話すこともめったに無い、ここに来た時から人と話すことが無くなってしまった。

ご飯を持ってきてくれる人が居るが、いつも無言で去っていく。

話し方が悪いのかと思って、喋り方を変えてみた。

でも、いつも通り何も言わず去っていく。






ここに来た時、言われたことがある。

『人を好きになってはいけない。』

『ここから出てはいけない。』

なぜなのかと聞いたが、何も答えてはくれなかった。

人とも話せない、そんな狭い世界が、そんな何も変わらない毎日が過ぎ去っていった。






幾日も経ったとある日、戸が叩かれた。

聞き覚えの無い声で「失礼します」と聞こえた。

こんなことは今までなかった。

配膳に来る人だって戸を叩きはすれども、声は一切発しなかった。

だから突然のことに面を食らってしまった。

驚いて固まっているうちに、戸の向こうから男の人が入ってきた。

金髪の青年だった。

初めて見た金髪、初めて見た同年代の男の人、その青年はゆっくりとこちらに歩み寄り、名乗っ

た。


「俺、須賀京太郎っていいます、あなたが姉帯豊音さんですね?」

「そ、そうだよー。」


人と会話したのはいつ以来だろうか、自分の名前すら忘れかけていた私の名前を、誰かが呼んで

くれるのはいつ以来だろうか。

話し方すら忘れてたと思っていたのに、もう誰とも話すことはないのかもと思っていたのに……

「俺はあなたのご両親に頼まれてやってきたんです。」

「で、もしよかったら俺と少し、お話しませんか?」


期待してしまう、ここに来てから会話なんてなかった。

期待してしまう、ここに来てくれて話をしていいと言われて。

期待してしまう、ここ以外の世界を教えてくれるのではないかと。






彼は自分のことを軽く話し、外のことについて教えてくれた。

彼の住んでた町、おいしい物、面白い物、楽しい物、楽しいこと。

正直、期待してしまう、この人が私をここではないどこかへ連れて行ってくれるのではないかと


でも、それは欲張りな話だ、話し相手が出来ただけでいいのに。

その上ここから連れ出して欲しいなんて、なんて私は欲張りなのだろう。






京太郎「――それで俺は一人ぼっちだと思ってたんですけど、やっと人に頼れる事が出来たんで

す。」

豊音「……」

京太郎「姉帯さん?やっぱり俺の話って詰まんなかったですか?」

豊音「ううん、そんなことないよー、ちょーたのしいよー……ただ……」

京太郎「ただ……?」

豊音「私は、私にはそんな人、居ないよー……」

豊音「ずっと、ずっと、私は一人ぼっちだったんだよー……」

京太郎「そう、ですか……」

京太郎「……じゃあ、俺と友達になってください。」

豊音「え?」

京太郎「……もう一度言います、姉帯豊音さん、俺と友達になってくれませんか?」

豊音「……いいの?」

京太郎「いいもなにも、お願いしてるのは俺ですから。」

京太郎「姉帯さんがよければ友達になってくれないですか?」

豊音「…………」

豊音「友達になりたいよー……」

豊音「私、ずっとお話が出来る友達が欲しかったんだよー……」

豊音「でも、私、ここでぼっちだからできなかったんだよー……」

豊音「だから願いが叶って、ちょーうれしいよー。」

京太郎「じゃあもう、ぼっちじゃないですね。」


そういって彼は手を差し出してくれた。


豊音「うん、もうぼっちじゃないよー……」


その手を掴んだ瞬間、私の世界は広がった。




宮守episode
『迷ひ・塞ぎ・友を引く手』