「実家に帰るだと!?」

 目の前の少女が突拍子のない行動や発言をするのは常のことである。そして何時だって頭を悩ませ、皺寄せをどうにかするのが部長である菫の役割だった。

「まさか、団体戦で優勝を逃したことを気にしているのか?」

 白糸台は三連覇に失敗した。
 期待が大きかっただけに失意の声や責を問う言葉も少なくない。

「違う……妹と仲直りしたし、父さんにも久し振りに会いたいから」

 照の家庭が少々複雑なことは聞いていた。理由としては理解できる。しかし、長らく照係を務めてきた彼女には分かってしまう。こいつは何かを隠していると。それが踏み込んで尋ねても良いことなのか菫には分からない。
 ただ、親友の眼差しに影はなく、信じても問題はないだろうと彼女は判断した。

「はあ、部のことは任せておけ。ゆっくりと羽を伸ばしてこいよ、チャンピオン」

「ありがとう、マジカルシャープシューター菫」

「私をMSSSと呼ぶなぁッ!!」

 軽口を叩き合う二人。
 そんな彼女らを覗き見るものが一人。

(テルが長野に帰る!? 残りの夏休みは一緒に一杯遊ぼうって思ってたのに……う~ん……ハッ!!)

 高校百年生の頭脳に閃きが走る。
 善は急げと扉を開き、思ったことを口にする。

「テルッ! 私も一緒に長野へ行く!!」

「は?」

 淡の唐突な発言に菫は頭痛の予感がした。

「いや、何を言ってるんだ淡。お前は夏期前のテストで赤点取ったから大量に課題が出されていたはずだろう。まだ終えてなかったよな?」

「イヤ、イヤ、課題はちゃんとやるから淡ちゃんはテルと一緒に行く!」

「ダメに決まってるだろうが! 迷惑を掛けようとするな! それに、インハイで負けたから、国麻では勝てるように麻雀を頑張るんじゃなかったのか?」

「だから、テルと一緒に行くんじゃん! 他の誰と打つよりもテルと打つ方が強くなれるし、長野にはサキもいるからリベンジできるよ!」

「減らず口を……照、お前からも言ってやれ! 淡が押し掛けるのは迷惑だろう?」

 話を振られた照は考える。
 同意を求める菫、期待に満ちた淡。別に淡が一緒に来ることは問題ない。むしろ、好都合だろうか。
 麻雀は四人で打つ。
 約束通り彼を指導するならば実力者は何人かいた方が良い。淡の実力は間違いなく高校生ではトップクラスである。
 京太郎を鍛えることは清澄のメンバー、妹の咲にも秘密にしておきたい。それに、淡はインハイで咲に辛酸を舐めさせられたので、積極的に絡んでいくだろう。つまり、京太郎と二人きりの時間が容易となるかもしれない。

「一緒に来ても良いよ」

「照!?」

「テル!!」

 困惑する菫と喜色を浮かべる淡。

「くっ、こうなれば監視として私も一緒に……は行けないか、部長だからな。はあ、どうせ反対しても勝手にこいつは着いていきそうだし……」

「おお、流石菫先輩! 私の行動を読めてるね!」

(こいつは……やはり、淡には監視を付けた方が良いな。照も大丈夫だとは思うが不安がある。ふむ、こいつらの手綱を握れる人となると……ダメ元で頼んでみるか……)

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「すまんな宮永。世話になる」

「良い、気にしない」

 いや、気にしろよっと智葉は内心で突っ込みを入れる。

「ラーメンも良いですがソバも良いデスネ。テンプラ美味しいデース」

「長野は涼しいらしいから、東京の暑さから解放されるのは嬉しいよね。しかも、タダで泊めてくれるなんて宮永は太っ腹だよ」

 同じ東京出身の雀士。旧知の仲である菫から頼まれ、照の了承もあり、智葉は軽い気持ちで引き受けた。部のメンバーにその事を話した所、二名ほど同行すると言い出したのだ。
 迷惑だろうと黙らせたのに、ネリーが別ルート(咲)からいつの間にか承諾を取り付けていた。無駄に行動力のある奴だと恨めしく思う。

「何でネリーとかまでいるのさ!?」

「大星が行くって聞いたし、高鴨も友人のいる長野に遊びに行くらしいからね。宮永にはインハイでの借りを早めに返しておきたかったからちょうど良いってネリーは思ったんだよ」

「私も龍門渕透華と再戦したかったデス。長野に行けるなら、渡りに船ということで便乗シマシタ」

「ぐぬぬっ……」

 国際色溢れる賑やかな面子である。そして、つい先日にはテレビで全国放送されたこともあり、人々の記憶も新しく、自然と注目が集まってしまっていた。智葉は本当に申し訳なく思う。

「すまん。何かで埋め合わせをさせてくれ……」

「じゃあ、辻垣内さんには手伝って欲しい」

 照から小声で話された内容、それを伝える彼女の表情を見て智葉は意外に感じながらも二つ返事で承諾した。

「ありがとう」

 眩しげな笑顔に釣られ、智葉の心音は僅かに早まる。明確に口にはしていないが、彼のことを話す彼女の表情はとても輝いている。
 照が恋をしていることを察するには、智葉にとってそれだけで十分だった。

(宮永照の幼馴染み、須賀京太郎か。どんな奴だろうな。インハイチャンプをこうも魅了している男だ、少し会うのが楽しみだな)

 五人は新幹線に乗車し、長野へと旅立っていく。暑い夏はまだ終わっていない。


カンッ!