――現在・自販機前――


京太郎(白糸台)「まぁこんな感じかな。」

京太郎(清澄)「あれ、白糸台の俺、優遇されてね?」

京太郎(小鍛治)「マジかよ……東京太郎リア充じゃねぇか……」

京太郎(白糸台)「何その略し方!?」

京太郎(宮守)「色んなタイプの女の人に囲まれててすげえな……」

京太郎(清澄)「幼馴染系お姉さんとかクールビューティなお姉さんとか眼鏡系無口お姉さんとか

頼れる姉貴とか生意気なかわいい同級生とか……」

京太郎(白糸台以外)「「「リア充爆発しろ!」」」

京太郎(白糸台)「お前らだって対して変わんねぇだろ!?」

京太郎(宮守)「いや、俺はなんとなくノリで。」

京太郎(清澄)「ほら、俺んところは年上は悪女系部長とわかめ系眼鏡だし……」(震え声)

京太郎(小鍛治)「俺はそもそも一回りくらい年上のお姉さん一択しか選択肢ないんだが。」

京太郎(白糸台)「…………なんかゴメン。」

京太郎(小鍛治)「謝るなよ!健夜さんめっちゃ良い人なんだぞ!?」

京太郎(小鍛治)「そりゃちょっと弄られ系で『アラフォー』とか『行かず後家』とか『干物女』

とか言われちゃってるけど俺の恩人なの!!」

京太郎(宮守)「一旦落ち着け。」

シロ「少し落ち着いて。」

京太郎(白糸台)「それでアラフォーお姉さんのところの俺はどんな人生だったんだ?」

京太郎(小鍛治)「アラサーだよ!」

京太郎(小鍛治)「……まぁとりあえず話を進めるか。」

京太郎(小鍛治)「俺も実は十年前東京に引っ越す時に人生が変わることが起きてな……」





――実況席控え室――



健夜「さーて、こーこちゃん打ち合わせ始めようか。」

恒子「……」

健夜「こーこちゃん?」

恒子「え?あ、すこやんどうしたの?」

健夜「いやだから打ち合わせを……」

恒子「うーん……」

健夜「なに?」

恒子「すこやんと京太郎君って姉弟の割りに似てないなーって」

健夜「…………」

恒子「それと京太郎君のすこやんの呼び方が姉弟っぽくないっていうか……」

健夜「……うん、そうだろうね。」

恒子「あ……もしかして地雷だったりする?」

健夜「ううん、別に隠すほどのことでもないし……」

健夜「まぁこーこちゃんになら話してもいいかな……」

健夜「実は京太郎君に出会ったのは十年前なの……」







――十年位前・長野――

京太郎父「京太郎忘れ物無いか?」

京太郎「あ、おもちゃ……」

京太郎父「引越しの荷物の中に紛れたんじゃないか?」

京太郎母「おもちゃくらい向こうで買ってあげるわよ。」

京太郎「うん、わかった」


――車内――

京太郎父「東京まで渋滞の情報は無いみたいだからすんなり行けそうだな。」

京太郎母「そうねぇ、向こうに着いたら荷解きしてそれからご近所周りに挨拶しないといけない

わね。」

京太郎父「挨拶回り用の粗品とか用意しとかないとな。」

京太郎母「予定より早めに出たから向こうに着いたら私が買っておくわ。」

京太郎父「京太郎、向こうでたくさん友達が出来るといいな。」

京太郎「うん!いっぱいともだちつくるんだ!」

京太郎母「うふふ…………あら?」

京太郎父「どうした?」

京太郎母「あのトラック変な動きしてない?」

京太郎父「確かに……おい!!こっちに向かってきたぞ!?」

京太郎父「危ない!!」

京太郎母「京太郎!!」ガバッ

京太郎「え?」



オイ!ジコダ!ハヤクキュウキュウシャヲヨベ!

――――――――
――――――
――――
――




京太郎(小鍛治)「結論から言えば俺の両親は死んだ。」

京太郎(小鍛治)「白糸台の俺と照し合わせると忘れ物を取りに行けば俺の親は助かってたんだよ

な……」

京太郎(小鍛治)「そしてそのあとに両親の葬儀が始まって――」

京太郎(小鍛治以外)「「「…………」」」



恒子「…………」

健夜「遠い親戚でもあり、生前すこしお世話になったことがある、京太郎君のご両親の葬儀で―

―」






京太郎・健夜「そこで健夜さん(京太郎君)と出合った。」






――十年位前・葬式会場――



「かわいそうになぁ……」

「相手の運転手は居眠り運転だったらしいわよ……」

フビンダナ…カワイソウニ…


――そんな囁き話が周りから聞こえてくる……

如何にも同情してますって感じの会話だ。

私は一通り葬儀が終わり、落ち着いた会場で一人佇んでいた。

私の両親は何所かで他の親類と話しでもしているのだろうと思い、会場で待っていた。

そんな待っている間、一人の少年に目が留まる。

よく見るとずっと一人で座って、じっと遺影を見詰めている。

何故か放っておけない雰囲気がある少年に声を掛けた、掛けてしまっていた。


「ねえ、僕?お父さんやお母さんは?」


少年はスッと棺桶の方を指差していた。

しまったと思った、なんと無神経なことを聞いてしまったんだろうと後悔した。

よく考えてみれば回りに子供なんて目の前にいる少年しかいないのに。

カワイソウニというのは一人残された子供に対して言われてた言葉でもあることにそのとき気付いた。

私は次の言葉を出す為に、この子を慰める言葉を、この子を励ます言葉を必死に探していた。





「す、少しお姉さんと話をしようか?」

とりあえず何とか場を繋げようとか考えてみたが出てきた言葉がこれである。

自分の語彙の引き出しが乏しいのがこれほど恨めしいと思ったことはない。

戸惑いながら少年の返事を待っていると、その少年は微かにだが確かに頷いた。


「お姉さんの名前は小鍛治健夜。」


まず自己紹介をして相手に警戒心を抱かせないようにしないと思い、

自分が今年から高校生になるだの、好きな物はなんだの、とりあえず色々話しかけてみた。

そんな話(一方的ではあるが)をしていながらとあることに気付いた。

この子の目の下にははっきりとした隈が残っている。

眠れなかったのだろう、目の前で両親の死に行く様を、そんな衝撃的光景を見ていたのだろうか

ら。

気付くと終始無表情であった少年を抱きしめていた。

何故いきなりそんなことをしたのか自分でもわからなかった。

ただなんとなくかもしれない、放っておけない雰囲気がそうさせたのかもしれない。

ほんの数秒か、はたまた数分か抱きしめていた時間が分からない中、少年はすうっと頬を濡らし

ていた。


健夜「あ、ゴメンね、苦しかった?」


少年は首を横に振り、私の服の端を掴んでいた。




少年のその行為に戸惑いつつ、私はその状況を受け入れた。



その数分後、私の両親が戻ってきて親類との話を伝えてきた。

先ほど一緒に居た少年のことについてだ、結論から言えば少年を施設に預けるという話になった

らしい。

周りでは預かれる状況にある人はいないらしく、他に近しい親類もいないらしい。

このままではこの子は一人っきりになってしまうのではないのかと思ったら勝手に口が開いて言

葉を発していた。


「あのこ家で預かれないかな。」


なぜそんな無茶なお願いをしたのか、両親にも少なからず負担が掛かるだろうに。

ただ、繊細なガラス細工みたいな印象を受けた少年をここで見放してしまうのは、絶対に後悔す

ると思ったからだ。

そんな考えをするのだろうと思ったのか両親はこう言ってきた。


健夜父「やはりか。」

健夜母「そう言うと思ったわ。」

健夜「?」

健夜父「健夜も受け入れてくれるだろうと思って親戚には話を通しておいたんだよ。」

健夜「へ?」


この人たちには敵わない、と同時に頭が上がらないと思った。


健夜母「後は京太郎君がうんと言ってくれればいいのだけれど……」


そのとき初めて少年名前を知った。

あれだけ話していたつもりなのに少年は一切言葉を発していなかったのだから名前も何も知らな

かったのだ。


健夜母「誰か京太郎君と話をしてくれる人がいるといいんだけどね~?」チラッ

健夜父「まったくそうだな~」チラッ


この人たちはそうなることわかってて私を会場で待たせていたのだろう。

まったくこの二人は……。


健夜「私が行くよ。」


そう両親に告げて私は再び、少年の方に足を向けた。




少年の近くに行き、話しかける。


健夜「ねぇ、京太郎君、家の子にならない?」


少年は私の服の端を掴みながら小さく頷いた。

その日から小鍛治家には家族が一人増えたのだ。




――小鍛治家――



健夜父「さぁここが今日から京太郎君のお家になるんだぞ~」

健夜母「遠慮なんていらないわよ~」

健夜「さぁあがって?」

京太郎「………お、じゃま……します。」

健夜「京太郎君、今日からは『ただいま』、だよ?」

京太郎「……た、だいま。」

健夜「うん、おかえり。」


そんなやり取りをし、京太郎君が何所の部屋で寝るか決めることになった。

私は、私の部屋を進言した、まだ心の傷が癒えてないこの子を一人にさせたくないと思ったから

だ。

夜、布団を引いて二人で並んで寝た。

京太郎君は中々寝付けないみたいだった、というより眠りたくないようだった。

事故の時のことが脳裏に焼きついているのだろう。

京太郎君は目を瞑る度にその小さな手足をカタカタと震わせていた。

こういった眠れぬ夜を過ごして来たのだろうかと思うと凄くやるせなかった。


健夜「京太郎君、寝るのが怖い?」


京太郎君が頷く、そんな様子を見て私は京太郎君を優しく包み込んであげた。

そんな行為がこの子の母親を思い出したのか、止めどなく溢れる涙を私に押し付け京太郎君は小

さく泣き叫んだ。


京太郎「ウッ……お…かあ、さん……ヒッグ……おと、うさん……」

健夜「大丈夫、大丈夫だから……」

健夜「もう眠っても、大丈夫だから……」


気付くと私までも涙を流していた……

どれほどそうしていただろう、いつの間にか私の体でも覆えるくらい小さな少年は泣き疲れて眠

っていた。





それから少しずつ、京太郎君は口を開くようになっていった。

元来明るく活発な子だったのだろう、両親とも打ち解けて私にも心を開いてくれた。

それによく私の後を付いて回ってきた、私に懐いてくれている証拠だろう。

この頃は私が部活等でやっている麻雀に興味を持ってくれたらしい。

試しに教えてみたが子供には中々難しいみたいだ。

それでも京太郎君は私と共有出来る物を得れたみたいで嬉しがっていたみたいだった。

私が学校に行っていて家に居ない時は一人で麻雀をしているみたいだった。

私が学校から帰ると直ぐさま玄関にやってきて「おかえり」と言ってくれる。

京太郎君に麻雀の基礎を教えながら遊んであげた。

麻雀について教えながら部活のこととか話しているうちに思い出したことを言った。


健夜「私ね、今度の全国大会に出るんだ。」

健夜「テレビにも出るみたいだから京太郎君も応援してくれると嬉しいな。」

京太郎「テレビに出れるなんて健夜お姉ちゃんすっごいね!絶対応援するよ!」

健夜「うん、ありがとう、京太郎君の応援に応えられるくらい頑張るよ。」





結果から言えば危なげなく優勝してしまった。

満貫すら振り込むことも無く、ただ自分の所に点棒を集めていった。

家に帰ってきてから京太郎君は「かっこよかった!」「すごかった!」としきりに私を褒めてい

た。

それからしばらくは京太郎君の私を見る目がテレビに出てくるヒーローをみたいに映っていたみ

たいだ。




それから二年、京太郎君は腕をあげてインターミドルに出しても恥ずかしくはないレベルにはな

った、はず。

これは先生としては将来が楽しみだ。

そして今年も全国大会が近づいてきていつものように京太郎君に応援されて全国に行った。

そして準決勝で事件が起きた。



いや、事件というより事故に近いのだろうか。

対局者の一人に打ち筋がわからない相手がいた。


健夜(張ったのかな……?とりあえずこの牌は大丈夫のはず……)タンッ

晴絵「ロン!12000!」

健夜(な!?全然打ち筋が見えなかった!)

健夜(お、落ち着かなきゃ。)

健夜(このまま動揺した状態で打ったら崩れて相手の思う壺!)

健夜(なんとか持ち直さないと……)

健夜(それに教え子に無様な打ち方は見せられないし!)


それからなんとか持ち直して打ったが、客観的に見てお世辞にも綺麗な打ち方とは言えなかった


対局者にも悪いことをしたし、京太郎君にも良くない打ち方を見せてしまった。




結局全国大会で負けはしなかったものの、心に残る結果となってしまった。

家に戻ってから京太郎君から謗りを受けるとも思ったがそんなことは無かった。

ただ、私に抱きついて一言。


京太郎「跳満が当たった時、健夜お姉ちゃんが遠くに行っちゃいそうで怖かった……」


私は決めた、もう二度とあんな無様な打ち方はしないと。

例え負けたとしても胸を張れる打ち方をしようと。






――今から数ヶ月前――


京太郎君も高校生になったころ一本の電話が掛かってきた。

京太郎君からだ。


健夜「もしもし京太郎君?どうしたの?」

京太郎「あ、もしもし、健夜さん?俺地区予選突破しましたよ!」

健夜「え!?おめでとう!じゃあ今度お祝いしないとね!」

京太郎「それはまだ待ってください。」

健夜「え、どうして?」

京太郎「お祝いをあとでもう一回やるのは二度手間でしょう?」

健夜「もう、全国で勝つつもりなんだ。」

京太郎「自信はありますよ?なんてたって俺には最高の先生が付いてますから!」

健夜「うふふ、ありがとう。」

京太郎「じゃあそっちに行ったらまた電話しますんで。」

健夜「んふふ、わかりました、全国でも気を抜かないでね?」

京太郎「分かってますって、それじゃ。」

健夜「うん、それじゃあね。」ピッ


正直複雑な気持ちだった私の人生を追ってくる彼を、

意図せずとも私の人生と同じ道を彼の人生にも強いてしまったのではないかと思ってしまった。

そんな気持ちが心のどこかにある。

だからこそ、私が支えて道筋を指し示さないといけないのだろう、人生の先輩として。


小鍛治episode
『救いの女神』