―― 後日、私は中々、ご主人様と二人っきりにはさせてもらえませんでした。

それはやはりあの日、私がご主人様の性欲処理便器であり続けたからなのでしょう。
ご主人様は宣言通り、私を犯し続けてくれたのです。
その痴態に当てられて智葉さん達が誘惑しても、愛しいお方は私を手放しませんでした。
私が何度気絶しても、失禁しても、犯し続けてくださったのです。

美穂子「(…私が逆の立場なら嫉妬で狂いそうになります)」

私はこうしてハーレムの一員となっていますし、また積極的にその中へ女の子を引きこもうとしている一人です。
ですが、それはあくまでもご主人様の為であり、やはり女として愛しいお方を独占したいという気持ちはありました。
そんな私にも目をくれず、たった一人の女性だけを目の前で愛されたらどうなるか。
きっと欲情する以上に愛されている女性に嫉妬してしまう事でしょう。

美穂子「(…だから、致し方ない事ではあるのですよね)」

それがご主人様に媚薬を盛ったから、とバレた瞬間、私の拒否権は全てなくなりました。
淑女協定での付帯条件を満たしていたとは言っても、夜にまでズレこんだのは流石にやり過ぎです。
その日、私が歓喜で死にそうになっていた裏で智葉さん達が文字通り涙を飲んでお互いを慰めあっていた事を考えれば、次の日の夜の性活で除外されなかっただけ御の字と言えるでしょう。

美穂子「…ふふ」

ですが、今日はようやくご主人様と二人っきりになれる日です。
流石にこの前のように媚薬を盛ったりはしません。
流石に前回の事で私も懲りているのですから。
……まぁ、皆が許してくれるならまたやりたいとは思っているのですけれど。
…だって、あんなに私だけを求めてくれるご主人様なんて最初以来でしたし…仕方ないじゃありませんか。

美穂子「(…まぁ、それはさておき)」

今日の私はご主人様との時間をゆったりと過ごすつもりでした。
勿論、誘惑をしたりをしても問題はないのですが、そういうのとは無関係に穏やかな時間を過ごしたい。
そう思うのはきっと私が自分に自信を持てるようになってきたからなのでしょう。
どんな自分でもご主人様は受け入れてもらえる。
そんな確信がある今、無理に特別なご奉仕をする必要はありません。
勿論、求めてもらえれば全力で応えるつもりではありますが、私から何かアクションを起こすつもりはありませんでした。

京太郎「……」チラ

そんな私の隣で、さっきからご主人様がチラチラと視線を送ってきます。
何か言いたげなその視線は、きっと私に話があるからなのでしょう。
しかし、タイミングを伺っているのか、中々、その口から言葉が出てくる事はありません。
とは言え、ここで『何か御用ですか?』なんて聞いてしまったら、さっきからずっとタイミングを伺っているご主人様の面目を潰す事になってしまいます。
ここは知らない振りをするのが一番でしょう。

美穂子「ご主人様、おかわりいりますか?」

京太郎「あ、あぁ、うん。貰うな」

代わりに差し出したティーポットにご主人様はそっとカップを差し出してくださいました。
流石にそのカップの中には山盛り紅茶が残っている、なんて単純なオチはありません。
ですが、さっきからご主人様は落ち着かない様子でグイグイと紅茶を飲んでおられるのです。
何時ものように紅茶の風味を味わう事もなく、ただただ注がれた分を嚥下するその姿。
そんなご主人様の緊張を解してさしあげたいのですが…ここで私が出来る事は何もありません。

京太郎「あ、あのな」

美穂子「はい」

京太郎「…その、もう俺達が再会してから結構経つよな」

美穂子「そうですね…」

そんな事をおもった瞬間、ご主人様からポツリと声が飛んできました。
それに小さく頷き返しながら私は脳裏にご主人様と過ごした期間を思い浮かべます。
夜が訪れる度にご主人様と淫らな逢瀬を繰り返すその生活はとてものんびりとしたものでした。
何せ、私達全員が満足するには一夜では到底足りないのですから。
ハーレムに付きあわせているお礼だと言わんばかりにご主人様が私達を念入りに愛してくださっている間に数日経過するのは日常茶飯事なのです。
結果、私達は迷宮をようやく五層まで攻略した状態ではありますが、既に季節は3つ過ぎ去っていました。


美穂子「もう殆ど一年ですか…早いものですね」

京太郎「だな。最初は一周年になる前に迷宮も終わらせておきたいなんて考えていたけれど…正直、見通しが甘かったよ…」

美穂子「ご主人様は悪くないですよ」

迷宮が果たしてどれくらいあるのかまったく分かりません。
ですが、その中にとらわれている人々の数を考えるとまだまだ先は長いとそう考えるべきでしょう。
今のペースではもしかしたら十年経っても終わらないかもしれません。
ですが、それは決してご主人様の所為ではありません。
ご主人様に恋い焦がれ、その人となりに堕ちて、はしたないメスになってしまった私達の所為なのです。

京太郎「…ありがとう。まぁ、でも…こうして俺のやるべき事に美穂子を長々と巻き込んでいるのは事実だし…」

美穂子「違いますよ」

京太郎「え?」

美穂子「私は巻き込まれているんじゃありません」

美穂子「好きでご主人様の事を手伝っているんです」

美穂子「私がそうしたいから…勝手にやっている事なんですから」

私がご主人様の手助けをより直接的にする事になったのは、友達である智葉さんがいなくなるのが嫌だから、と言う理由でした。
けれど、それが今まで続いているのは、ご主人様の事を愛しているからです。
この人の事を助けたい。
助けて…そして自分の事を求めて欲しい。
そんな見返り込の愛情で側にいるだけの私に良心を傷ませる必要はありません。
ただただ私を愛してくだされば、それで十分過ぎるのです。

美穂子「だから、ご主人様は私を巻き込むなんて考えなくても良いんです」

美穂子「私は巻き込まれているのではなく、それを望んでいるのですから」

美穂子「ご主人様が巻き込まないようにしようとしても、私は自分から飛び込んでいきますよ」

勿論、ご主人様の気持ちを立てるべきところは立てなければいけません。
それがメイドと言うものなのですから。
しかし、私を構成するパーソナリティはそれだけではありません。
ご主人様に恋い焦がれ、魔物になった『福路美穂子』も決して軽視出来る要素ではないのです。
いえ、寧ろ、こうして立派なメイドであろうとしている理由が、ご主人様への愛である事を思えば、そちらの方が大きいでしょう。

京太郎「…そっか」

京太郎「じゃあ、やっぱり余計に…必要だよな」

美穂子「…え?」

私がそう声を返した瞬間、ご主人様は自身のポケットに手を伸ばされました。
そのまますっと差し出されるのは銀色の輪っかです。
直径数センチのそれは表面には今にも羽ばたきそうな装飾が浮かんできていました。
その羽の根本に小さく埋め込まれている白い宝石は… ――

京太郎「…本当は何かの記念日にって思ってたんだけどさ」

京太郎「でも、俺…誰よりも一番怖くて傷つくであろう役割の美穂子に何も応えられていないし」

京太郎「だけど…今更、美穂子がいない生活なんて俺は考えられないし…考えたくもない」

京太郎「迷宮でも日常でも夜でも、俺にとって美穂子は欠かせない…いや、手放せない存在なんだ」

京太郎「…だから、ちょっと卑怯だけど…記念日でもなんでもないけど…受け取ってくれないか?」

美穂子「あ…あぁ…」

―― ハートのウロコを加工した宝石。

それはつまり、ご主人様からのプレゼントなのです。
主人からメイドに贈るものではなく、恋人から恋人へと贈られた唯一無二の。
この世で他にはないたった一つの指輪に、私は震える声を返しました。
それは勿論、私がご主人様から贈られるそれを誰よりも心待ちにしていたからです。

美穂子「(でも…)」

私は以前、智葉さんと憧さんに贈られた指輪に触らせてもらう機会がありました。
ですが、二人とは違い、私にはその宝石はまったく反応してくれなかったのです。
二人はそれをつける度に今よりもさらに強くなるのに、私はまったく変われないまま。
そんな苦い思い出のある宝石に、私はすぐさま返事をする事が出来ませんでした。

―― 沈黙。

勿論、私にだっててなにか返さなければいけないと分かっています。
ご主人様はその指輪を完成させるのにどれだけ大変だったくらい私にも伺い知る事が出来るのですから。
しかも、それは二人がつけているのとは違って、完成品。
先に指輪を貰った二人とはまた違う『初めて』がそこにはあるのです。

美穂子「(だけど…もし光らなかったら…?)」

それは私の為にご主人様が作ってくれた唯一無二の指輪です。
もし、それで進化出来なかったら、私は一体、どうすれば良いのでしょうか。
今までは『あの指輪は私のものではないから』と言い訳する事が出来ました。
ですが…この指輪で進化出来なかったら…その言い訳も効きません。
私は、私が二人に対してご主人様への気持ちで負けているのだと…そう認める事になってしまうのです。

美穂子「あの…その…」

それを意識すると余計に頷くことが出来ません。
私はそれを夢に見るほど欲しがっていました。
ご主人様にオネダリしようと思った回数は片手では効きません。
そんな指輪が目の前にあるというのに、『もしも』の事を考えると一歩踏み出す事が出来ないのです。
それが悲しくて、そして、何よりご主人様の好意を今も踏みにじっているのが辛くて…私の目尻から涙が浮かんできました。

京太郎「…美穂子、左手を出せ」

美穂子「え…あ、はい」

京太郎「ん」スッ

美穂子「…あ」

そんな私に向けられたご主人様の命令。
それに反射的に従った私にご主人様はスッと指輪を通してくれました。
さっきの緊張なんてどこかに置き忘れてしまったような何気ない仕草。
その意味に私が気づいた時にはもうその指輪は薬指にしっかりとはまっていました。

京太郎「俺は臆病だからさ」

京太郎「そんな風に一方的に美穂子の好意だけを期待する事なんか出来ない」

京太郎「その分を返さないと、見捨てられてしまうんじゃないかって不安になるんだ」

京太郎「それが美穂子みたいな俺なんかとは釣り合いの取れない相手だと尚の事…さ」

京太郎「…だから、悪いけど、無理矢理、指輪を通させて貰った」

京太郎「…これで一生、美穂子は俺のモノだ」

京太郎「もうずっと離さない…俺だけのメイドになったんだ」

美穂子「~~~~~~~っ♥♥♥」

強引で自分勝手なご主人様の論理。
私の躊躇いなんてまったく考えていないそれは…けれど優しさなのでしょう。
だって、ご主人様は何時もそんな風にエゴを押し通すような事は滅多にしません。
寧ろ、メイドとして傅く私相手にだって優しく接してくれている人なのですから。
そんな人からの一方的な宣告は…私の中にある躊躇いを吹き飛ばす為。

美穂子「(…あぁ…っ♥♥♥)」

そう思った瞬間、私の胸の中で感情の波が弾けました。
嬉しい、幸せ、大好き。
そんな感情が私の中で混ざり合い、ぶつかるようにうねるのです。
そこには勿論、無理矢理、私の指に指輪を嵌めたご主人様を嫌うものはありません。
胸の内でさえも感嘆の言葉しか出てこないくらいに、今の私は喜んでいたのですから。

―― パァァ

美穂子「…あ」

そんな私の喜びに追い打ちを掛けるように指輪が光を放ちます。
憧さんや智葉さんが指輪を身につけた時にも放っていた不思議な光。
暖かで優しいそれに私はそっと目を閉じました。
瞬間、身体の奥底で蓋が開いたように力が溢れ、自分の身体が書き換わっていくのが分かります。

―― より強く、より硬く、より強靭に。

『進化』の感覚は以前、この身体になった時にも味わったものでした。
しかし、今、私が味わっているのはそれよりももっと激しく、そして強いものでした。
文字通り、身体が別の『何か』に変貌するその感覚は、けれど、不愉快なものではありません。
その源が私の愛しさであるかのように、私の身体に満ちる力の感覚はとても暖かいものでした。

京太郎「…美穂子」

美穂子「…………ぁ」

ご主人様の言葉に私が目を開けた時には全てが終わっていました。
勿論、外見上は大きな変化がある訳ではありません。
自分の身体を見渡してみても、その手に生えた羽一つとってもそのままでした。
けれど、私の身体の内に渦巻く新しい力は、私が以前とは別物と行っても良いくらいに強くなっているのを感じさせるのです。

美穂子「…これで私は本当にご主人様だけの女になってしまったんですね…♥♥」

京太郎「あぁ、そうだ。これで美穂子は俺の女だ」

美穂子「はい…っ♥♥♥」

その進化の理由は私には分かりません。
まだそうやって私達の身体が変化するメカニズムが完全に解明された訳ではないのですから。
ですが、それでも…私の中に一つの確信がありました。
こうやって私が進化出来たのはご主人様のお陰だと。
そして…私はもう完全に身も心もご主人様の色に染め上げられてしまったのだと。
だからこそ… ――

美穂子「…ご主人様ぁ♥♥」

京太郎「ん」

そう呼びながら目を閉じたはしたない私をご主人様はギュっと抱き寄せてくれました。
まるで自分のモノになった女の感触を確かめるような強引なその手。
それに胸中が歓喜で沸いた瞬間、愛しい方は私の唇を奪ってくれました。
期待通りのそのキスに、さらに強くなった歓喜が私の胸を震わせます。

美穂子「ん…っ♪ふぁ…♥」

そんな私の胸にご主人様の手が掛かります。
自作のメイド服の上から私のおっぱいを揉みしだくその手にはもう遠慮はありません。
最初から私を犯すのだとそう宣言しているようなそれの口から甘えるような声が漏れてしまいます。
それに反応するようにご主人様は私の服を脱がせていって……

―― 結局、そのまま私は皆が帰ってくるまでの間に、沢山、ご主人様と愛を交わす事になったのでした。



System
福路美穂子の好感度が100になりました → <<ご主人様のモノになった美穂子の事…思うがままに使ってくださいね…♥♥>>

福路美穂子の完全攻略に成功しました おめでとうございます





→コミュ:シズ



―― 今日の朝、俺は高鴨さんが目を覚ました事を聞いた。

起きた当初の混乱こそあったみたいだが、色々と情報を聞いた結果、落ち着いたみたいだ。
とは言え、あくまで山を超えただけに過ぎない。
安心させる為にも憧だけじゃなく、面識もある俺も顔を出してあげて欲しいと、そう職員の人に言われた。
俺自身、高鴨さんの様子は気になっていたし二つ返事を返した…のだけれど。

憧「…じろー」

京太郎「あ、憧さん…?」

そのお見舞いの準備からずっと憧は俺の事を半目で睨めつけていた。
何時ものそれとは違う平坦なその視線が何を示しているのか俺にだって分かっている。
彼女が親友である高鴨さんが俺に手を出されるのではないかと未だに心配しているのだ。

憧「…なあに?」ジトー

京太郎「…そんな風に見るのはやめて欲しいんだけど…」

憧「…なんで?」

京太郎「なんでって…」

憧「…やっぱり見てない間にしずもあたしみたいにしちゃうつもりなのね」ジトトー

京太郎「なんでそうなるんだよ…っ!」

とは言え、ずっとそんな風に見られ続けているのも面白くはない。
高鴨さんは確かに可愛いとは思うが、俺の好みの対象からはかけ離れているんだ。
…まぁ、それを言ったら憧も久もちょっと好みとはズレているのだけれど…それはさておき。
ともかく、俺には高鴨さんをどうこうするつもりはない。
それは憧にだって何度も説明しているはずだった。

憧「…だって、京太郎、ドンドン恋人増えてるし…」

憧「あたしも納得済みではあるけれど…その手の事では信用出来ない」キッパリ

京太郎「うぐ…」

…だけど、これを持ちだされるとやっぱり何も言えないんだよなぁ…。
実際、憧が加入してから俺は久を堕としている訳だし。
それは必要な事だったと思っているが、さりとて、恋人がいる身で他の女の子に手を出したという結果は変わらない。
この手の事で俺が信用されないと言うのも致し方ない事なのだろう。

憧「まぁ、あたしは監視役も兼ねてるから諦めなさい」ジトトトトー

京太郎「ちくせう…恋人の目が痛い…」

憧「…あたし一人に絞ってくれるならこんな目はしないわよ」

憧「まぁ、無理でしょうけどね」ジトトトトトー

…うん、やっぱりこの話題を続けるのはやめようっ!
少なくとも憧の変化は期待できないし、何より藪蛇が過ぎる。
こうして話してる間にも嫉妬してるのか憧の目は厳しくなっているしな!
もう高鴨さんの部屋は目の前にあるのだから、話題を打ち切る為にもインターフォンを鳴らそう。

―― ピンポーン

「はぁい」

京太郎「あ、俺俺。俺だけど…」

「その声…!もしかして、たかし君?」

京太郎「あぁ、そうだよ。たかしだよ」

京太郎「実はちょっと車で事故っちゃってさ」

「そうなの?怪我は大丈夫?」

京太郎「あぁ。幸い怪我はないんだけど…でも、相手がヤバイ人でさ」

京太郎「明日までに慰謝料として10万持って来いって言われちゃって…」

「大変じゃない…!お金はあるの?」

京太郎「いや…最近不景気でそんな貯金なくてさ…」

京太郎「だからさ…悪いんだけど、ちょっと金貸してくれないか?」

京太郎「今月ボーナス入る予定だから、それで色つけて一括で返すからさ」

「うん!大丈夫だよ!私とたかし君の仲だもん!」

京太郎「ありがとう。恩にきるよ」

憧「…あんた達、いつまでやってるのよ…」

そこでようやく憧からのツッコミが入った。
もうちょっと早めに来ると思ってたんだけど…憧としては俺の監視を優先したって事なのかな。
まぁ、何にせよ、。これでようやく一昔前に流行ったオレオレ詐欺ごっこに一段落つけられる。


「その声は…!もしかして花子ちゃん!?」

憧「まだ続けるつもりならあたしにも考えがあるわよ、しず」

「ちぇー。憧ったらノリが悪いの」

憧「部屋の外で漫才する趣味がないだけよ」

憧「それより早く開けてくれない?色々と荷物もあるしさ」

「うん。分かった」

憧の言葉にインターフォンの向こうにいる高鴨さんが受話器を置いたのだろう。
ガチャンと言う切断音と共にインターフォンから何も聞こえなくなる。
そのまま数秒ほど待てば扉からカチャリと言う音が鳴った。
自分の部屋でも聞き慣れた金属音。
それが高鴨さんが部屋の鍵を解除した音だと理解した瞬間、扉が開いて… ――

穏乃「久しぶり、花子ちゃんにたかし君」

憧「せい」ズビシ

穏乃「いたっっ!」

中から顔を出した高鴨さんに憧は容赦なくチョップを食らわせる。
流石に色々と手加減しているのだろうそれに高鴨さんから痛みの声があがった。
しかし、その声とは裏腹に、彼女の顔にはニコニコとした笑みが浮かび続けている。

穏乃「えへへ、この容赦の無さ…やっぱり憧だ」ニコー

憧「…ホント、あんたの中であたしの認識はどうなってるのかしらね…」フゥ

憧「…でも、まぁ、元気そうで良かった」

穏乃「うん。とっても元気だよ!」グッ

そう握り拳を作る高鴨さんに憧もまた笑みを浮かべた。
勿論、記憶の混乱もなければ、メディカルチェックも大丈夫だったと聞いてはいる。
しかし、親友と殺し合い一歩手前の喧嘩をやった憧にとってはやはり心配だったのだろう。
軽く笑みを浮かべる彼女には安堵の色が強く現れていた。

穏乃「…憧はなんか変わったね」

憧「そう?」

穏乃「うん。なんか耳も長くなってるし……すっごく色っぽくなっちゃった」

憧「い、色っぽく…」カァ

常日頃から彼女と一緒にいる俺には分からないが、やっぱり憧も色々変わったのだろう。
少なくとも、魔物に変わる前から憧と一緒に過ごしていた彼女にとっては。
まぁ、俺が毎日揉んでいる所為か、憧の胸は大分バストアップしてるしなぁ。
お尻も結構ボリュームアップしてるし…そのスタイルの変化だけでもかなり大きいだろう。

穏乃「雰囲気が特にこう…ムラムラって来る感じ?」

憧「へ、変な事言わないでよ、もぉ」

穏乃「えへへ。ごめん」

そうにこやかに謝罪する高鴨さんの気持ちは良く分かる。
憧の格好は決して淫らなものではないが、その漂うオーラがエロいんだよなぁ。
その立ち姿から、仕草から、色気が出ていると言うか何というか。
本人はすっげええ嫌がるだろうけど、その唇にコンドーム咥えても似合いそうなエロさを感じるんだ。

穏乃「…そして須賀君も元気そうだね」

穏乃「荷物も沢山抱えてるし」

京太郎「おう」

俺の両手にはかなり大きめの袋が4つぶら下がっている。
その一つ一つに入っているのは日用品や衣服類だ。
憧が見舞いに行くなら持って行きたいと準備したそれらはかさばるけれども重くはない。
少なくとも自分でインターフォンを鳴らすくらいは簡単に出来る程度の重さだ。

穏乃「えっと…とりあえず入ってもらった方が良いよね?」スス

京太郎「おじゃましまーす」

憧「大丈夫よ。タフさだけが取り柄みたいな奴だから」

チラリと俺に視線を寄越しながらの憧の言葉。
可愛げの欠片もないようなそれは、しかし、ただの冗談なのだろう。
この荷物だって、元々、憧が全部、自分一人で持って行こうとしていたしな。
俺が強引に奪い取らなきゃ、これらは憧の手にぶら下がっていた事だろう。
何より、さっき高鴨さんに扉を開けるように促した言葉だって、荷物を持っている俺を慮ってくれたものだし。
久しぶりに会った友人にいいところを見せたいのか意地を張ってはいるだけで、決して俺の事を何とも思っていない訳じゃない。

穏乃「ふーん…憧って須賀くんの事、そんなに良く知ってるんだ…」

憧「ま、まぁね。これでも一緒に戦う仲間だし…」メソラシ

穏乃「それだけじゃないような気もするけどなー」ニマニマ

憧「ぅ…」

…そんな風に高鴨さんに突っ込まれるのももう二度目なんだよなぁ。
いい加減、慣れるか素直になれば良い、と思うのだけれど…中々、そうはいかないんだろう。
まぁ、その辺、素直に俺の恋人です!なんて言っちゃう憧と言うのも中々、想像出来ないしな。
そんな事を考えるよりも持ってきた荷物を邪魔にならないところに運び込んでしまおう。

穏乃「…憧って結構、その手の事、オクテだと思ってたけどなー」

穏乃「そっかー。そうなのかー」ニヤニヤ

憧「な、何…?」

穏乃「いや、幼馴染の知らない一面に、微笑ましさを感じているだけですよ?」ニマー

憧「べ、別にあたし、そういうんじゃないし…」

穏乃「照れない照れないっ!いいじゃん、春が来ちゃってもさ」

憧「き、来てないっての!」カァァ

憧はそう言うものの、基本的に俺たちは年中春真っ盛りだ。
それこそ複数人でベッドの中で発情した身体を絡ませ合うくらいには。
とは言え、まだ高鴨さんが目が覚めたばかりだし、その辺りを知らせるのはちょっとな。
情報として知るのと、友人が実際にそれをやっているのは別問題だろうし、下手に困惑させたりしない為にも黙っておこう。

穏乃「ってか…知らない間に憧が私よりも大人になってるなんてねー…」シミジミ

憧「お、大人って…」カァァ

穏乃「…え、何その反応」

穏乃「…え?もしかして……あ、憧、しちゃったの!?」ビックリ

憧「お、大声でそんな事言わないでよ!?」

…と思ってる間に憧が見事に地雷を踏んだ。
そこで大人って部分に反応するのはちょっと分かりやすすぎるだろう。
…思い返せば、淡ほどじゃなくても憧も墓穴掘るタイプだったっけ。
最近、デレデレになる事が多くなってきたから忘れてたけど…憧に任せるのは失敗だったかもしれない。 穏乃「否定しないんだ…」

憧「う…いや…それは…」

穏乃「そっかー…そっかー…」

穏乃「……ごめん。どう反応すれば良いのか分かんない…」

憧「だったらそういう事聞かないの…!!」マッカ

そりゃなぁ…。
目が覚めて世界が変わったって言うだけでも驚きだろうに、いきなり幼馴染から経験済みカミングアウトされるんだから。
俺だって咲からそんな事聞いたら、どう反応すれば良いのか分からなくなってしまうだろう。

穏乃「でも、男嫌いだった憧がそういうことするなんてねー…」

穏乃「本当に私の知らない間に数年経っちゃったんだなぁ…」

その言葉は染み染みを超えて、何処か寂しそうなものだった。
勿論、既に職員の人が高鴨さんに大まかな世界の状況は伝えている。
ここが彼女にとって数年後の世界だという事も情報として頭の中には入っているはずだ。
けれど、やっぱりそれを実感する事は出来ていなかったのだろう。
ポツリと呟かれたその言葉は、この滅茶苦茶な状況に対する理解が込められたものだった。


憧「…しず」

穏乃「えへへ。なーんてね」

穏乃「ちょっとびっくりしたけど、数年後かー」

穏乃「また山の様子とかも変わってるんだろうなぁ」

穏乃「うん…!なんか思いっきり走りたくなってきた…!」

憧「…良いのよ」

穏乃「え?」

憧「…いきなり世界が変わりました、なんて言われて冷静でいられる方がおかしいんだから」

憧「あたしを相手にして遠慮なんてしてるんじゃないの」

憧「思ったこと全部ぶつけてきなさいよ」

穏乃「…憧」

それでもそうして高鴨さんが強がるのは、俺達に対して遠慮しているからだろう。
…だけど、そうやって遠慮する必要なんて何処にもない。
憧は高鴨さんにとっての気心の知れた幼馴染なのだから。
彼女自身、それを覚悟してココに来ている以上、そのような遠慮は不要だ。

憧「…あたしも同じだったしね」

穏乃「…憧も?」

憧「うん。いきなり世界がこんな風になりましたー…なんて聞いてさ」

憧「頭の中、めちゃくちゃで…訳分かんなくて…」

憧「…んで見舞いに来てくれたコイツに八つ当たりしちゃったのよ」

京太郎「あったなぁ…そんなのも」

それはもう今から半年以上、前の話だ。
毎日が濃い所為で、最早、思い出そうとしないと出てこない話ではあるが、確かに俺は最初、憧に辛く当たられたのである。
まぁ、それはあくまでも初期の初期であり、次に会った時は割りと普通に話も出来るようになったけどさ。
今ではツンよりもデレの方が多くて、二人きりになるとかなりの甘えん坊なんだけど…ってそれは関係ないか。
ともかく…俺が殆ど忘れていた事でも、憧の中にはしっかり残っていたって事なんだ。

憧「だからさ。そんな風に強がんなくて良いのよ」

憧「あたしも京太郎もそういうのに慣れてるからさ」

穏乃「…………うん」ポロ

憧「ほら、おいで」スッ

穏乃「……憧っ」ダキッ

憧「よしよし…思いっきり泣いちゃいなさい」ナデナデ

憧「不安な気持ちは全部、あたしが受け止めてあげるからさ」

抱きつく高鴨さんに優しく言い聞かせるようにして憧がその頭を撫でる。
まるで幼い子どもにするようなその仕草に、母性を感じた。
憧は俺も含めてくれたけど…俺が入らなくても大丈夫そうだな。
泣いてる高鴨さんを慰めるのは憧に任せて、俺は持ってきたハーブティの準備でもしておくか。

穏乃「………憧」

憧「ん?」

穏乃「…なんか凄いおっぱい大きくなってない?」

穏乃「これってやっぱり須賀くんに育ててもらったの…?」

憧「なななっ!」カァァ

高鴨さんの言葉に憧の顔が真っ赤に染まった。
そのままプルプルと震えながらも、彼女からの反応はない。
言葉にもならない声を繰り返しているだけだ。
…もう半ばバレてるんだから諦めれば良いと思うのになぁ。
っていうか…そんな反応したらバレバレだろうに。

穏乃「これ玄さんくらい大きいんじゃないかなぁ…」

穏乃「…なんかずっこい」

憧「ず、ズルくなんかないわよ…!」

憧「っていうか、そんな品評するんだったら離れなさい!」ベシ

穏乃「いたっ」

そこで再び繰り出される憧の一撃。
それに小さく声をあげながら高鴨さんは離れる。
その顔にはもうさっきのような涙は浮かんでいない。
俺の知る元気で暖かな彼女に戻っていた。

穏乃「うーん…でも、やっぱり玄さんよりはちょっと小さいかな…?」

憧「も、もう胸の話は良いでしょ…!」

穏乃「えー」

京太郎「えー」

憧「あ、アンタ達は…!!」プルプル

勿論、憧の胸を俺は毎日、しゃぶり尽くすように可愛がってやっている。
けれど、それとこれとはまた別物なのだ。
基本的に女性ばかりの環境で生活している俺にはそういう話をする相手がいないし。
出来ればもっとやって欲しいとそう思うくらいだ。

憧「まったく…そんな事やってたら玄みたいな大人になるわよ…」

穏乃「えー。でも、玄さん、格好良いじゃん」

穏乃「女将さん見習いとしてすっごく頑張ってるし」

憧「…まぁ、そこは認めるけど…それ以外がダメダメでしょ」

穏乃「おっぱい好きなくらい別に普通だと思うけどなぁ…」

穏乃「須賀くんもおっぱい好きでしょ?」

京太郎「大好きです!!」キリリ

憧「男と女を同じレベルで比べないのっ!」

まぁ、確かにその辺は男女の性差を理解せずに論じるのは論外かもな。
何せ、俺たちがそんな興味を向けるのは女性のセックスアピールである部分だし。
実際、玄さんはそこに並々ならぬ興味を向けているけれど、それは性的なものじゃないんだよなぁ。
俺と価値観は共有しているけれど、そこに至るプロセスがちょっと違ったというか。
男と女で見る目ってのはやっぱり違うのか、色々と話してて気付かされる事も多かった。
和に紹介されて会った時間はそう長くはないが、きづいたら魂の兄弟『同志クロチャコフ』と呼ぶような仲になっていたくらいである。
…まぁ、それはさておき。

憧「だ、大体、京太郎は胸が好きって言うより変態なのよ…!」

京太郎「はいはい。じゃあ、その変態が用意したハーブティでもどうぞ」スッ

京太郎「あ、部屋のカップ、勝手に使わせて貰ったけどごめんな」

穏乃「ううん。大丈夫」

穏乃「それより美味しそうだね、そのお茶っ」

京太郎「あぁ。知り合いがわざわざ用意してくれたものだからな」

勿論、ここで言う知り合いは美穂子の事である。
俺たちの家事を言ってに引き受ける彼女は俺にお土産としてこのハーブティが入った魔法瓶を持たせてくれた。
普段、お茶会の時に俺たちが良く飲んでいるそれは、心が休まるような優しさと、そして舌の上に小さく残るような甘さで出来ている。
俺も憧もお気に入りのそれは、きっと高鴨さんも気に入ってくれるだろう。

京太郎「リラックス効果目当てで持ってきたんだけどさ」

京太郎「でも、そういうの関係なしに美味しいし、高鴨さんも一つどうだ?」

穏乃「うん。ありがとっ」

憧「…ぅー」

そう言って差し出したティーカップを高鴨さんは素直に受け取った。
そのままニコリと嬉しそうに浮かぶ笑みに憧は心配そうな顔をする。
けど、流石にそれは杞憂と言うか何というか。
お茶を渡した程度で惚れた腫れたな関係になる訳がない。
ましてや、これは俺が作ったのではなく美穂子が用意してくれたのだから変なものが入っていたりもしないしなぁ。

穏乃「……優しい味…」

穏乃「美味しいね、コレ」ニコ

京太郎「だろ?」

穏乃「うんっ。私、気に入っちゃった!」

穏乃「ね、もっと飲んでも良い?」

京太郎「あぁ。おかわりもあるぞ」

穏乃「わーい」キャッキャ

憧「…あんまりしずを甘やかさないでよね」ジト

京太郎「そうは言うけどな、母さん」

憧「か、母さん!?」プシュウ

そんな憧をリラックスさせる為にも、ここはやっぱり一つ小粋なジョークが必要だ。
うん、決して、警戒心全開の憧をからかってみようだなんて思ってはいない。
ましてや、さっきまで蚊帳の外で、ちょっと寂しかったのは無関係なのだ。
こうして憧に警戒されっぱなしじゃ高鴨さんも疑問に思うだろうしな。
ここは彼女との時間をより実りのあるものにする為に、憧の警戒心を解くのが重要だろう。

京太郎「これくらいの年頃の子は甘いものが好きなのはごく当然の事だろう?」

京太郎「なぁに、ちゃんと終わったら歯磨きすれば良いだけなんだ、そう目くじらを立てる事はないさ」

穏乃「そーだよ、お母さん!」

憧「お、おかあ…」マッカ

穏乃「ねねっ、お父さん、お菓子はないの?」

京太郎「ちゃーんと準備してきてるぞ」

穏乃「わーい!お父さん大好きーっ♪」ダキッ

京太郎「はっはっ。お母さんには内緒だぞー?」

そしてそんな俺の発言に高鴨さんは付き合ってくれる。
最初に会った時からこの辺、彼女がノリの良い子っていうのは分かってるからなぁ。
出会った時間は少ないが、昔からの友人のような気安さで接する事が出来る。
そんな彼女でなければ、俺もいきなりインターフォン越しにオレオレ詐欺の真似事なんてやらないだろう。

憧「め、目の前でそんな事言って内緒も何もないでしょっ!」

京太郎「そりゃあお母さんには隠し事出来ないからなぁ」

憧「ふきゅっ♥」

穏乃「えへへ、お母さんとお父さんはラブラブなんだねっ」

京太郎「そりゃもうラブラブどころか激ラブだよ」

京太郎「お父さんにとってお母さんがいない人生は考えられないくらいだな」

憧「ふきゅきゅっ♥♥」

お陰でドンドンエスカレートしていく親子ごっこに憧が鳴き声を漏らす。
良く自爆した時にも漏らすその声は、しかし、何処か艶めいたものだった。
それは例え演技であっても、俺に好きだとそう言われるのが嬉しいからなのだろう。
どれだけ理性的に振る舞おうとしていても憧は魔物娘だし、身体も疼いているのかもしれない。

憧「な、何よ…そんな風におだてたって何も出ないんだからね…?」クルクル

そんな憧から漏れるその言葉はきっと強がりなのだろう。
俺から視線を逸らしながら、指を弄ぶその瞳は明らかにさっきまでと色が違った。
チラチラとこちらを見る瞳には欲情を示すように怪しく濡れている。
その下半身に目を向ければ、まるでオシッコでも我慢しているかのようにモジモジと太ももが擦り合っていた。

京太郎「そっかー残念だなー」

京太郎「後でお母さんに買って欲しいものがあったんだけどなー」

憧「…別に高いものじゃなければ、あたしのポケットマネーで買ってあげるけど?」

穏乃「お母さん、ちょろ過ぎるよ…」

憧「ちょ、チョロくなんかないわよ…!」

憧はそう言うけれど、これはチョロいとしか言いようがないだろう。
と言うか、自分で言ってて、ちょっと憧の事が心配になったくらいだ。
この子、俺がモノにしてなくて、変な男に捕まってたら色々と大変だったんじゃないだろうか。
見た目とは違って、結構尽くしたがると言うかMなタイプだし…共依存まっしぐらな気がしないでもない。

穏乃「でも、どうしてそこまでチョロくなったの?」

憧「だ、だから、チョロくないっての…!」

穏乃「まぁまぁ。それは横に置いといてさ」

穏乃「お父さんとの馴れ初めとか聞かせてよ」

憧「う…そ、それは…」チラッ

…まぁ、そう言われてもはっきり言えないよなぁ。
何せ、俺らが恋人同士になった経緯って結局のところ、『媚薬入りのケーキ食べて我慢出来なくなってやっちゃった』ってだけだし。
流石にそれを幼馴染でもある高鴨さんに言うのはハードルが高いだろう。
さりとて、既に高鴨さんはオレたちの関係に気づいているんだ。
ここではぐらかしても、その場限りの事でしかない。
だから、ここは… ――

京太郎「(…そうだな)」

高鴨さんの様子は随分と落ち着いたものになっている。
ある程度、世界観に対しての混乱も受けいれられたのだろう。
そんな高鴨さんならば、きっと俺達の事だって受け入れて貰えるはず。
…まぁ、ちょっと不安だけど…今の彼女を見る限り大丈夫だろう。

京太郎「…その、なんだな」

京太郎「お父さんもな…昔は若くてなー」

穏乃「ブイブイ言わせてたの?」

京太郎「そりゃもう、ブイブイどころかオラオラ系だったよ」

穏乃「良く分かんないけど格好良い!」

京太郎「ふっふっふ。時間とか止めそうだろ?」

そう冗談めかして自慢気に言いながら、俺は脳裏で話の持っていき方を組み立てていた。
俺と憧の馴れ初めはともすれば劇薬にもなりかねないものなのだから。
下手な話し方をしてしまえば、憧と高鴨さんの仲を引き裂きかねない。
ここでどう話すのかが重要だと自分に言い聞かせながら、俺はゆっくりと口を開いた。

京太郎「で、まぁ、そんなオラオラ系だった俺を放っておけないってお母さんが仕事を手伝ってくれるようになってさ」

穏乃「愛の力だね!」

憧「そ、その時はまだ好きとかそういうの自覚してなかったもん!」カァァ

穏乃「……って事は今は自覚あるの?」

憧「…………の、ノーコメントで」メソラシ

穏乃「……憧」

またもや自爆した憧に対して高鴨さんはついに生暖かい目を向けるようになった。
多分、彼女もこれが憧の芸風だとそう理解したのだろう。
まぁ、憧にとっては不本意な事なんだろうけどさ。
憧だって自爆したくて自爆してる訳じゃないだろうし。
そんな憧だからこそ、親友相手にも芸として通じると言うのはある種、皮肉なところか。

京太郎「…それでお父さんもそんなお母さんの事が好きになってなぁ」

憧「ま、まぁ、ね?その…京太郎の仕事って命懸けのものだし?」クルクル

憧「そういうのも芽生えちゃっても仕方ないわよね、うん。そうよ、そうそう」ニマー

穏乃「…憧、顔にやけてるよ?」

憧「う、うるちゃいっ!」カァァ

京太郎「噛んだな」

穏乃「うん。噛んだね」

憧「もぉおおおっ!!それより話を進めなさいよ!!」

勿論、俺もちゃんと話を進めたいと思ってるんだけどなぁ。
けれど、それ以上に憧が可愛いと言うか隙が多すぎてさ。
ついついそっちの方に話が脱線しそうになってしまう。
とは言え、流石に延々と憧を弄って、話が進まないのもアレだしな。
一気に説明してしまおう。

京太郎「で、ある時、お母さんから差し入れ貰ってな」

穏乃「差し入れ?」

京太郎「おう。まぁ…早い話、エロくなるケーキだ」

穏乃「エロ……?……えぇぇ!?」カァァ

憧「うぅ…」モジモジ

京太郎「まぁ、お母さんもそれがそういうケーキだなんて知らなかったみたいなんだけどさ」

京太郎「でも、知らずに二人でそれ食べちゃって…もう止まらなくてなー」

京太郎「ついついエロい事しちゃったんだよ」

穏乃「ふぇ…えぇぇ…」カァァァァ

…あれ?
さっきまでの反応からして結構、エロい事にも耐性あると思ってたんだけど…。
…これ、もしかして俺、結構、思い違いしてた?
見知っていた憧だからってだけで、実は憧とそれほど変わらないくらい高鴨さんも純情なのか…?

穏乃「こ、告白とかは…?」

京太郎「しながらしちゃった感じかなぁ…」

憧「し、してない!あたしはしてないからね!!」

穏乃「…憧、もう諦めなよ…」

憧「お、女には譲れないものってのがあるの!」

憧「そもそもアレはレイプでしょ!あたし、嫌だって言ったもん!!」

穏乃「…え?」

京太郎「いや…それは…」

憧「あたしは被害者なの!調教されちゃった側なの!!」

憧「告白なんてするはずないでしょっ!!」

穏乃「ち、ちょーきょー…?」ヒキ

京太郎「あー…」

……しまった。
ここは高鴨さんじゃなくて憧の反応を考えるべきだったか。
意地っ張りな憧が本当の事言われて、はいそうですか、なんて言える訳ないもんなぁ…。
最近は多少素直になったとは言え、親友の手前、メンツだってあるだろうし…。
これは失敗だったかもしれない…。

穏乃「え、えぇっと…つまり憧は嫌だったの?」

憧「そう!嫌だったのに無理矢理されたの!!」

穏乃「…そうなんだ」

京太郎「う…」

やばい。
今、高鴨さんの中で俺の評価が下がった気がする。
ギャルゲーなんかで聞こえるようなおどろおどろしい音楽が聞こえてきそうだ。
勿論、それはあくまでも幻聴でしかないんだろうけれど…。
だけど、チラリと俺を見た高鴨さんの目にはさっきの掛け合いのような気安さはなかった。

穏乃「…まぁ、憧の事だし、どうせ大げさに言ってるだけなんだろうけどね」

憧「う…それは…」

穏乃「やっぱり。ちゃんと須賀くんに謝らなきゃダメだよ?」

勿論、高鴨さんは憧の性質を良く理解している。
しかし、自分の良く知る親友が被害者だの調教されただの口走っていい気がするはずがない。
そう諭すように言いながらも、彼女は俺の方を見なかった。
間違いなく警戒されている。
それを感じさせる姿に、俺は何も出来なくて… ――


―― 俺はそれから一時間ちょっと高鴨さんの部屋で過ごしたが、その警戒を解く事は結局出来なかった。



System
高鴨穏乃の好感度は変わりませんでした