京太郎「はひぃ…」

京太郎「(…2日だ)」

京太郎「(拠点に帰ってきて…その夜にセックス初めて…もう2日)」

京太郎「(その間、智葉さんは俺の事をずっと離してはくれなかった)」

京太郎「(報告書なんてそっちのけで…延々と俺の事を責め立て…)」

京太郎「(俺から精液を搾り取り続けていた)」

京太郎「(首がついてる状態だなんて…正直、信じられないくらいの勢いだったな…)」

京太郎「(実際、途中何度か首が外れそうになっていたし)」

京太郎「(いや…今は智葉さんが自身の魔力で首を固定している事を思えば、本当は外したかったのかな?)」

京太郎「(それでも我慢したって事は…やっぱり智葉さんは…)」

京太郎「(…まぁ、今は考えても無駄か)」

京太郎「(それよりもようやく智葉さんが満足そうに寝てくれたお陰で時間ができたんだ)」

京太郎「(報告書を書く前に、誰かに会いにいくのも良いかもな)」



京太郎「あ」

美穂子「あ」

とりあえず部屋の中で考えていても始まらない。
そう思って廊下に出た俺と出くわしたのは福路さんだった。
その髪を結い上げ、ピンク色の寝間着を着ている辺り、おそらく風呂あがりなのだろう。
普段の清楚な彼女とは違う色っぽい姿の一瞬、ドキッとしてしまった。

美穂子「えっと…お、おはよう…で良いのかしら?」

京太郎「わ、分かりますか?」

美穂子「そりゃ…そ、それだけエッチな匂いしてるし…」カァ

そんな彼女についさっきまで智葉さんとエロいことをしていたのをあっさりと見抜かれてしまう。
一応、部屋を出る前にシャワーを浴びたとは言え、あまり意味はなかったらしい。
こんな事ならばもっと念入りに体中を洗うべきだった。
…まぁ、それでどうにかなるとはあまり思えない訳だけれど。
エロい事に関して魔物の能力って言うのは100%以上に発揮される訳だからなぁ…。

美穂子「……」モジモジ

京太郎「(…って現実逃避してる場合じゃなかったか…)」

相手は俺たちと迷宮に潜ることを決意してくれた大事な仲間なのだ。
そんな彼女にセックスの残滓を感じ取られて恥ずかしいと思わないほど俺は人間を止めちゃいない。
正直な事を言えば、今すぐこの場を逃げ出して大浴場の中へと駆け込みたいくらいだ。
しかし、その前に折れは福路さんに尋ねなければいけない事がある。

京太郎「あ、あの…もっと怒っても良いんですよ?」

美穂子「え?」

京太郎「…あの時、俺、福路さんが気絶するまで戦わせて……約束…護れなくて…」

福路さんの犠牲は必要なものだった。
あの場で彼女が最後まで踏みとどまってくれなければ俺達は負けていたかもしれない。
しかし、だからと言って、それを福路さんが納得してくれているかといえば答えは否だろう。
使い潰すつもりはない、そんな格好良い事を言いながら彼女に犠牲を強要した俺のことを恨んでいてもおかしくはない。

美穂子「…もう。須賀くんったらそんなのを気にしていたのね」

美穂子「大丈夫よ。私は怒ってなんていないから」

美穂子「寧ろ、私は嬉しかったわ」

京太郎「…嬉しかった?」

美穂子「えぇ。最後の最後まで二人の役に立てた事に」

美穂子「お荷物だった私でも二人の勝利の礎になれた事に」

京太郎「福路さん…」

……俺は福路さんのことを見くびっていたのかもしれない。
迷宮に入った時の様子から彼女のことをただの女の子なんだって。
俺たちが護ってやらなきゃいけないんだって…そう思い込んでいたのかもしれない。
だが、実際の彼女は智葉さんとは方向性が違うものの、彼女に負けないくらい強い心を持っている。
いや…持つようになった…と言う方が正確だろうか。

美穂子「だから、これからも私の事を遠慮無く使っていってね」

美穂子「私、須賀くん達が勝つ為ならば喜んで犠牲になるから」

京太郎「いや…それは…」

美穂子「…心が痛む?」

京太郎「そりゃまぁ…当然でしょう」

かと言って彼女をそうやって犠牲にするのに俺が何も感じなくなる訳じゃない。
できればそんな事しなくても勝ちたいと、俺はそう思っている。
しかし、これからも迷宮の敵はより強くなっていく事だろう。
その時、誰よりも真っ先に矢面に立つ能力を持っている彼女のことを思うと、犠牲にしないなんて言い切れない。


美穂子「…じゃあ、私の事、美穂子って呼んで?」

京太郎「え?」

美穂子「だって、未だに福路さん…だなんて他人行儀過ぎじゃないかしら?」クスッ

京太郎「う…いや…ですけど…」

美穂子「敬語もダメよ。もう私達は命を預ける仲間なんだから」

美穂子「ちゃんとリーダーらしく私に命令してくれなきゃ…ね?」

一体、呼び名の変更とさっきの話がいったい、どう繋がりがあるのか。
そんな疑問を口に出す暇すら与えない彼女の論理展開に俺はついていけない。
勿論…福路さんの言っている事は正論だ。
これからもお互いに生死の境で協力しあう必要があるんだから。
いつまでも他人行儀では壁が出来てしまうという彼女の言葉も分かる。
でも… ――

美穂子「…それにそうやって須賀くんがリーダーらしくなってくれれば、私は迷いなく君の為に命を捧げられるわ」

美穂子「勿論、今だって私はそのつもりだけど…今よりももっともっと…須賀くんの為に動けるようになるはず」

美穂子「…だから、お願い。一度だけでも良いの」

美穂子「私の事…美穂子って…そう呼んでくれないかしら?」

…もしかしたら。
もしかしたら、福路さんは自分で思っているほど死を怖がっていない訳ではないのかもしれない。
どこか熱すら感じさせるそれは俺へと拠り所を求めているのがはっきりと伝わってくるのだから。
そんな彼女に俺は果たして…なんと返せば良いのか。

京太郎「(きっと彼女が俺に求めているのは冷静で冷酷なリーダーだ)」

京太郎「(何時でも俺の判断が正しいとそう信じられるような)」

京太郎「(それこそ毎回、奇跡のような勝利を見せてやれるような…至上のリーダー)」

京太郎「(勿論、俺にそんなものになれるような力はない)」

京太郎「(でも…彼女さんがそれを俺に求めているのであれば)」

京太郎「(…それを叶えてやる事くらいは出来る)」

京太郎「美穂子」

美穂子「…あっ」ブルッ

そう思った俺の口から漏れたのは自分でも思っていた以上に冷たい声だった。
まるで余計な感情全てを削ぎ落とし、ただ鋭さを増したような冷たさ。
それに美穂子も驚いたのだろう。
俺の目の前で彼女はそのか弱い肌を小さく震えあげさせた。

京太郎「な、なーんて…じょうだ」

美穂子「ご主人…様ぁ…♥」

京太郎「…あ、あれ?」

そんな彼女のためにもさっきのそれはなかったことにしよう。
そう思った俺が、しかし、言葉を言い切るよりも先に美穂子の口から甘い声が漏れでた。
まるでセックスの最中に智葉さんが俺を呼ぶような甘くて淫らなその声。
それに俺が声をあげた瞬間、美穂子の顔がハッと正気に戻った。


美穂子「え…あ…う…」カァァ

勿論、正気に戻った彼女がさっきの自身の声を都合よく忘れている訳はない。
一秒ほどの沈黙の後、美穂子は気まずそうに声をあげながらその顔を赤く染め始めた。
カァァと走るその紅潮は深く、そして何より激しい。
どれだけ赤くなっても、まださらに激しくなるその変化に、俺も心配になってしまう。

京太郎「あ、あの…美穂子…」

美穂子「~~~~っ!!!」プシュウ

美穂子「ご…っご…ごめんなさいいいっ!!」ダッ

だからと言って呼びかけたのがダメだったのだろう。
俺の言葉で限界を迎えたのか、美穂子の顔は湯気が出そうなくらい真っ赤に染まった。
そのまま俺に背を向けて走りだす彼女を俺は追いかける事は出来ない。
俺達の部屋の隣で暮らす美穂子は既に自室に入ってしまったし、何より無理に捕まえようとするのも酷だ。
ここは時間の経過が彼女の心を癒してくれるのを待つしか無い。

京太郎「…でも」

…さっきの美穂子はエロかった。
その比較対象としてエッチに夢中になった智葉さんが出てくるくらいには。
勿論、彼女の精神は未だに人間のままであるし、またそうでなくても魔物は誰かれ構わずにそんな表情を見せない。
智葉さんが欲情しきったエロ顔を晒すのが俺の前だけであるように、多くの魔物も自身のパートナーにしか欲情しないのだから。

京太郎「…まさか…な」

心の中に引っかかるそれを俺は首を振って否定した。
そんな事、あるはずない。
それはもうこの前の帰り道で既に結論づけたはずだ。
智葉さんが気にしているのが何であっても、俺の恋人は彼女以外にはありえない。
だからこそ…俺は… ――

京太郎「…とりあえず風呂に入るか」

瞼に焼きつくような彼女の顔を振り払う為に俺はそのまま大浴場へと足を向けたのだった。



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福路美穂子の好感度が30になりました → <<いけないわ…こんな…いけない気持ち…なのに…>>
おや…福路美穂子の様子が…?



―― ホテルの大浴場は混浴である。

24時間開けっ放しのそこは男女共に何時でも利用可とされている。
故にその場所に足を踏み入れれば、裸の異性と鉢合わせする事も少なくはない。
けれど、それを気にするものはあまりいなかった。

京太郎「(何せ、ホテルの宿泊客なんてまずカップルだらけだしなぁ…)」

この東京は日本の中で最も早く霧が充満した土地である。
逃げ場なんてあろうはずもなく、そこかしこで魔物が生まれ、そして無数のカップルが誕生したのだ。
それからあぶれたものも想い人の元へと走るか、或いはまだ手付かずの異性を求めて霧と共に広がっていった。
つまり図らずもエロによって人口の一極集中が解除されたこの東京にいるのは ―― 俺達のような例外を除けば ―― カップルだけだ。

京太郎「(で、混浴ともなれば…そりゃあ恋人と一緒に入りに来るわな)」

部屋に備え付けられた小型のユニットバスでは物足りないのだろう。
ちょっとしたスーパー銭湯並に色々な風呂があるその場所は意外とカップルに人気だった。
中にはセックスとは言わずとも、最早、それに近い行為にまで及んでいるカップルさえいる。
好色な魔物にとってみれば、誰かに見られながらするセックスも大好物なのだろう。

ある種、人気のセックススポットと言っても良いそこは今、誰の気配もなかった。
まぁ、いくら人気と言っても、それはあくまでも比較的、という話。
おそらく全ての魔物の最上位に位置するであろう自室のベッドの上には中々、勝てない。
こうして誰の姿もないというのは珍しいが、たまにはこういう日もあるだろう。

京太郎「うあー」

そう思いながら再び顔と身体を洗って、俺は水風呂の中へと飛び込んだ。
ちょっとしたプール並の大きさがあるそれは俺の身体を心地よく冷やしてくれる。
さっき仲間の表情に少なくない欲情を覚えた俺にとって、それは本当にありがたい。
美穂子の顔を忘れる事は出来ずとも、少なくともそれに囚われる事はなくなるのだから。

京太郎「あー…」

瞬間、連鎖するように再び浮かんできた彼女の表情に、俺はなんとも言えない声をあげた。
チラリと視線を下に向ければ、俺の股間でムスコがムクムクと大きくなっている。
ともすれば震えるほどの冷水の中で一体、何を元気になっているのか。
そう自嘲気味に言葉を浮かべながら、俺は頭を冷やすように冷水をかぶった。


京太郎「ん?」

そんな事をしている間に誰か大浴場に来たらしい。
まぁ、カップルか何かだろう。
特に気にする必要はない。
そう思いながら水風呂を堪能する俺の耳に聞き覚えのある声が届いた。

菫「ここが大浴場か…中々、本格的じゃないか」

京太郎「え?」

菫「ん?」

―― 瞬間、俺と彼女の目があった。

まるで人形のように艷やかで綺麗なロングストレート。
タオルで隠された胸はこぶりで、おもち派閥の俺としてはちょっと物足りない。
だが、その分、締まったウェストや小さなお尻はなんとも綺麗だ。
智葉さんのように俺のストライクゾーンぴったりなやらしい身体ではないけど、見ているだけで十分興奮出来る。

菫「な、ななななななななっ!!!!!!」カァァァァ

って、そんな風に観察してる場合じゃねえええええ!?
え?なにこれ!?
なんでこんなところに弘世さんがいるの!?
いや、まぁ、ここ混浴だから!混浴だから別にいても良いんだけど…!!
でも、弘世さんってこういうのに積極的に入るタイプじゃないよな!?

京太郎「(と、ととととととりあえず、ここで俺がとるべき反応で全てが決まる…!!)」

さっきの美穂子に負けない勢いで顔を赤く染める彼女を見れば、これが彼女の意図せぬ出会いだった事は確実だ。
ここは俺の反応次第で弘世さんの心に深い傷を残しかねない。
いや、それだけではなく、俺と彼女の縁がここで切れてしまう可能性だってあるのだ。
いつまでも彼女の味方でいると約束した以上、それは許容出来ない。
だからこそ…俺は…!

京太郎「やぁ。まるで運命のような出会いですね」

菫「え?」

京太郎「まさかこんなところで弘世さんに会えるとは」

京太郎「今の俺はセンチメンタリズムな赤い糸を感じずにはいられません」

京太郎「いや…これはもう赤い糸…運命などという言葉では表現しきれません」

京太郎「これは…そう!」

京太郎「まさしくしゅくめ…」

菫「言いたい事はそれだけか!変態!!!」ゴッ

京太郎「ぎっちょんっ」


それからは色々と大変だった。
弘世さんは大浴場を女湯だと思っていたらしい。
そんな彼女にとって、俺は女湯を正々堂々と覗いていた変態もいいところなのだ。
そりゃあ出会って早々、風呂桶を投げつけられても文句は言えない。

菫「本当にすまなかった…」シュン

そんな彼女は今、俺の目の前で身体を縮こまらせていた。
冷静さを失っているのか、未だタオル一枚のその姿は庇護欲と共に欲情を擽る。
流石に押し倒したいなどと歪んだ欲望が顔を出したりしないが、ムスコが反応してしまいそうになるくらいだ。

京太郎「ま、まぁ、知らなかったんですし、仕方ないですよ」

菫「だが…」

京太郎「それに悪いのはちゃんと説明しなかった臼沢さんですしね」

そう。
彼女の誤解の大元はこのホテルの従業員である臼沢塞さんだ。
何せ、シャワーが壊れて困る弘世さんに大浴場を勧めたのは他でもない彼女なのだから。
その時、ちゃんと大浴場が混浴である事を説明しておいてくれれば、こんな面倒は起こらなかっただろう

京太郎「それにまぁ、俺としては眼福だったんで」メソラシ

菫「あ…っ」カァァ

京太郎「なんで、あんまり謝らないで下さい。こっちの方が申し訳なくなりますから」

実際、弘世さんの身体は物足りなくはあるものの、とても綺麗なものだった。
そんなものを見させてもらって、彼女のことを責められるはずがない。
寧ろ、風呂桶による攻撃と数分間の罵倒だけで本当に良かったのかと思えるくらいだ。
少なくとも彼女の裸にはそれだけの価値がある。

京太郎「(…それに足もちゃんと治ってる事も確認できたしな)」

ホテルのベッドによる回復がそれだけ優秀なのか、或いは最初からあの傷も迷宮と同じ幻だったのか。
どちらにせよ、俺の見た彼女の生足には傷なんて一つもついていなかった。
滑らかで引き締まったその足は思わず頬ずりしたいくらいに綺麗だったのである。
…まぁ、流石にそんな真似はしないけど、しないけどさ。
…ちょっと足も良いかなって思ったし…今度、智葉さんにお願いしてみようか。
それはさておき… ――

京太郎「とりあえず俺はもう出ますね」

菫「あ…」

いくら混浴とは言え、恥ずかしがっている相手と一緒はちょっとな。
色々と騒動があった所為で頭も幾分、冷えたし、とりあえず風呂から出よう。
んで、彼女が出てくるまで男が入らないように入り口に立っておくか。
どうせ智葉さんが起きるまで俺は暇な訳だし、それくらいの余裕はあるだろう。


菫「ま、待ってくれ!」

京太郎「?」

菫「あの…その…」

そんな俺の背中に弘世さんの声が掛かる。
流石に状況が状況だけに振り返る事は出来ないが、それでも足を止めるべきだろう。
そう思って歩みを止めた俺に、しかし、彼女からの次の言葉は中々、来なかった。
聞こえてくるのは長い沈黙を誤魔化すような迷い混じりの声だけである。

菫「君…なのか?」

京太郎「え?」

菫「私には…あの迷宮にいた頃の記憶が無い」

菫「だから…だから……その…誤解…なのかもしれないが…」

菫「君が…私を迷宮から助けてくれた…須賀京太郎なのか?」

京太郎「…はい」

おずおずと言葉を漏らす彼女を誤魔化すなんて選択肢は俺にはない。
俺の名前を知っているという事は目覚めてからある程度の資料は既に目を通しているだろうから。
俺の顔だって調べればすぐに出てくるだろう。
それに何より…俺には弘世さんから何を言われても受け止めなきゃいけないんだ。
こうして起きた彼女があの時の事を忘れていても、俺の言葉が届いていなくても。
あの時、俺が約束した言葉は嘘じゃないんだから。


菫「…そうか。やっぱり…そうなんだな」

菫「…記憶はなくても…心と身体は…やはり覚えているものか」

京太郎「…え?」

しかし、しみじみと漏らされるその言葉の意味を俺はちゃんと理解出来なかった。
彼女の味方であると言ったにも関わらず、その真意を汲み取ってあげられなかったのである。
だが、弘世さんはそんな俺にもうチャンスをくれるつもりはないらしい。
彼女の真意を確かめようと振り返った俺に弘世さんは意地悪するように微笑みながら首を左右に振った。

菫「…なんでもない」

菫「それより…ありがとう」

菫「君に助けてもらえなければ私はどうなっていた事か」

京太郎「いいえ。当然の事をしたまでです」

…まぁ、こう言ってはなんだが、あのまま彼女が迷宮にいたところで命の危険はなかっただろう。
外の世界とは違い、延々と同じ時間を過ごしているあの迷宮の内部にいれば、飢える事もないのだから。
それどころか、霧に侵され、魔物化が進行する事もない。
これから魔物化に苦しむ事になる弘世さんにとって、俺は何時まで彼女の救世主でいられるか。
そう思う俺にとって彼女の言葉は儀礼的に受け取るしかないものだった。

菫「…私は覚えてるぞ」

京太郎「え?」

菫「実際に何があったのかは覚えていない」

菫「でも、苦しくて、辛くて、逃げ出したくて…」

菫「それでどうしようもなかった時に…私に対して暖かい手が差し伸べられた事を」

菫「それに私は安心して…涙を流した事を」

菫「全てではなくても…覚えている」

京太郎「弘世…さん」

菫「だから、そんな顔をしなくて良い」

菫「…いや、しないでくれ」

菫「君は私にとってのヒーローなんだから」

菫「これから私の身に何が起こってもそれは変わらない」

京太郎「…………はい」

だけど、そんな俺の気持ちなんて弘世さんには丸わかりだったのだろう。
俺の背中を押すようなそれは、自分の現状を受け入れる力強いものだった。
…俺なんてそれを受け入れるのに数年掛かったって言うのに…本当に彼女は強い。
俺なんかよりも菫さんや智葉さんの方がよっぽどヒーローみたいじゃないか。

菫「まぁ、それはそれとして…だ」スッ

京太郎「…え?」

菫「何時まで人の裸を見てるんだ?」ゴゴゴ

京太郎「い、一応、タオルがありますし」

菫「それでも恥ずかしいんだ…!自重しろ!」グッ

京太郎「ご…ごめんなさいいいい!」

い、いくらさほど痛くないとは言え、流石に二回風呂桶をぶつけられるのは勘弁である。
それにまぁ風呂場で延々と異性を相手に長話をするのもよろしくはない。
弘世さんもこうして起きた訳だし、また話は出来るだろう。
…まぁ、それまでに幻滅されていなければ…だけど。

菫「まったく…本当に困った…変態ヒーローだな、彼は」

そんな呆れるような、そして少しだけ嬉しそうな声を背に受けながら俺は風呂場から退散したのだった。




System
弘世菫の好感度が20になりました → <<よろしくな、私のヒーロー>>



塞「私はねー、常々、思う訳よ」

京太郎「はぁ」

塞「普段、人のこと、腰つきがエロイとか何とか言ってる癖に私を選ばないとかさ」

塞「結局、みんな、身体目当てなんじゃん、さいってーって」

京太郎「それはいけませんね」

塞「でしょ?だからね」

京太郎「で、それが弘世さんに説明不足だった事と一体、何の関係が?」ゴゴゴ

塞「…はい。ごめんなさい。私の不手際だったです…」

京太郎「…よろしい」

まったく…俺だって別に怒りたくて怒りに来てる訳じゃないんだ。
ちゃんと謝ってくれれば、こんな風に威圧するつもりなんてない。
まぁ、これも臼沢さんなりの愛嬌なんだって分かっているけどさ。
でも、今回は下手すりゃ弘世さんのトラウマになりかねないところだったんだ。
流石に戯けて許すって訳にはいかない。


塞「まァ、言い訳になるんだけど、一応、私も先に入ってた人たちに事情を説明して退去して貰って」

塞「入口に清掃中の看板とか立てたりしてたんだよ?」

塞「まさかその僅かなタイムラグの間に須賀くんが入るとは思ってなかったってだけで」

京太郎「そうだったんですか?」

塞「そりゃ私だって目覚めたばっかりがどんな精神状態かくらいは分かるしね」

塞「混浴だって言うのを伝えなかったのも、それを伝えたら絶対に遠慮するからだって思っただけで」

塞「決して悪意があった訳じゃないんだよ」

まだ臼沢さんとの付き合いは薄いが、彼女がそういう人ではない事は知っている。
実際、俺が風呂場を出た時には清掃中の看板が出ていた訳だし。
臼沢さんが弘世さんを陥れようと思っていた訳じゃない事くらいはわかっていた。
ただ… ――

京太郎「…ごめんなさい」ペコッ

塞「良いって良いって。こればっかりは仕方ない事だし」

塞「実際、私に不手際があったのは事実だしね」

塞「それをフォローしてくれた須賀くんには感謝してるよ」

とは言え、まさかそこまで弘世さんのために気を使って準備してたなんて俺は知らなかったのである。
それなのに、あんな風に責め立てた俺を臼沢さんは軽く許してくれた。
パタパタと手を軽く振るうその仕草には怒りは見えないし…どうやら本当に怒っている訳じゃないらしい。

塞「にしても…まさかほんの僅かな間に須賀くんが入るとはねー…」

塞「本当に二人は運命で結ばれてるんじゃないの?」

京太郎「残念ですが俺の運命は智葉さんにがっちり掴まれてますんで」

塞「はは。掴まれてるってのは確かに智葉らしい表現だね」

何せ、彼女は格好良くて、頼りがいがあって、可愛くて、綺麗で、そして何よりエロい人だからな。
そんな人が恋人と言う立場でそばにいてくれているんだから、心が鷲掴みにされないはずがない。
このホテルの宿泊者はほとんどが魔物娘であるが故に、大抵がエロエロな訳だけれども。
それでも俺が浮気したいなんてかかけらも思ったりしないのは、それだけ智葉さんの事が好きだからだろう。

塞「でも、今回の事は本当に反省しないとね」

塞「もうちょっと数増やすのが一番かな、やっぱり」ポソ

京太郎「…え?」

数って何の事だ?
もしかして従業員の事だろうか。
…確かにこのホテルで臼沢さん以外の従業員を見た事がないけれど…。
……ってもしかして…このホテルって臼沢さん一人で回してる?
客室数も100を超えて…そのほとんどが埋まりきってるのに?
いや、流石にそれはないだろ…うん、ないない。
もし、そうなら彼女はこうして俺とにこやかに話している暇なんてないだろうし。

塞「あァ、ごめん。なんでもないよ」

塞「それよりも須賀くんには改めてお礼しないとね」

京太郎「いや、お礼なんて良いですよ」

そもそも俺はお礼が欲しくてここに来た訳じゃない。
その上、今は誤解が解けて、俺の間が悪かっただけだと分かったのだ。
それなのに臼沢さんからお礼なんて受け取る事など出来ない。
寧ろ、こっちの方が彼女に頭を下げなければいけない立場だろう。

塞「じゃあ、迷宮でも役立ちそうなオカルト欲しくない?」

京太郎「そんなのあるんですか!?」

塞「ふふ。やっぱり食いついた」ニコッ

京太郎「う…」

まるで予想通りとばかりに微笑む臼沢さんに俺の顔が赤くなる。
確かに今のはちょっと激しくくいつきすぎだった。
自分でもちょっと必死過ぎたと今更ながらに思う。
だが、俺にとって迷宮で少しでも智葉さん達の役に立つのは至上命題にも近いテーマなのだ。
それが前進する可能性があるともなれば、そりゃあ必死にもなる。

塞「まァ、確実じゃないけどね」

塞「私自身、そうやって人にオカルトを教えた事なんてないし」

塞「ただ、私の恩師がそういうの得意だったからさ」

塞「どういうやり方がいいのかっていうのは目で見て、身体でも知ってる」

京太郎「…身体で…」ゴクリ

塞「い、一体、どこ見てるのさ…?」ササッ

京太郎「い、いや、すみません…」

い、いやぁ…そのエロイ腰つきを見せつけるように小さく揺らして、そんな事言われるとどうしても。
男としてはやっぱりついついそっちの方に視線が行ってしまう。
その辺は智葉さんという俺にはもったいないくらいの恋人がいても変わらない。
塞さんの腰がエロいのと同じくらい、男がエロいのは絶対的な事実なのだから。

塞「と、ともかく…確実に開花するかどうかは分かんないし」

塞「そもそも開花したところで迷宮探索に役立つかも分かんない」

塞「それでもよければ力になれるけど…どうする?」

京太郎「…是非もありません」

京太郎「お願いします。俺を鍛えて下さい…!」ペコッ

インターハイのあの日まで俺にはオカルトのオの字もないような平凡な雀士だった。
だが、そんな俺でも今からちゃんと訓練すれば、オカルトを身につけられるのかもしれない。
しかも、それが迷宮探索に少しでも役立つ可能性があると言われたら拒否する理由なんてなかった。
寧ろ、俺の頭くらい幾らでも下げるから教えてほしいとそう言いたいくらいである。

塞「ん。分かった」

塞「でも、私は厳しいよ?ちゃんとついてこれる?」

京太郎「その腰にすがりついてでもついていきます!」

塞「こ、腰は止めてほしいかなァ腰は…」

塞「ま、まァ、それだけの気概があるなら大丈夫か」

塞「じゃあ…早速やっていこうか」

京太郎「え?良いんですか?」

今は臼沢さんの休憩中でも何でもないはずだ。
そんな時間に俺にオカルトを教えるような真似をしていて本当に良いのだろうか?
ただでさえ、このホテルは臼沢さん以外に従業員を見たことがないくらい人が少ないのに… ――

塞「私が良いって言ってるんだから、いいの!」

塞「ほら、早く!こっちこっち!」

塞「ちゃんと来ないと置いていくよ!」

京太郎「うわわ…!!!」

塞「で、どうだった?」

京太郎「…とりあえず色々とさせられて疲れました」

アレから臼沢さんに水見式だの色々やらされた。
まさに思いつきの勢いであっちからこっちへと振り回されていたのだから。
体力的な疲れはあまりないが、精神的な疲れは結構キている。
意味の分からない特訓って結構、精神をゴリゴリ削っていくもんなんだなぁ…。

塞「でも、何か掴めたでしょ?」

京太郎「…まぁ、そうですね」

しかし、臼沢さんの言う通り、確かに少しずつ見えてきた。
俺の中に眠っていたオカルト…といえるほど大したものじゃないけれど。
それでも…迷宮の探索に使えそうな力が。


きけんよち
 L相手がパートナーにこうかがばつぐんの技を持っている事を察知する 相手の出現時のみ効果がある


塞「まァ、最初は頼りないかもしれないけれど…」

塞「長く続けていけば少しずつ効果も出てくるからさ」

塞「きっとそれを発展させたような色々なオカルトが増えると思うよ」

京太郎「えぇ。分かってます」

京太郎「流石に今日一日で効果を出すなんて高望みはしてません」

確かに俺は魔物になってから大分、逞しくはなかったがそれだけだ。
頭の良さは変わっていないし、心の強さだってきっとそれほど大差ない。
そんな俺に一日二日で劇的な効果を得られるようなオカルトを習得出来るなんて思っちゃいないんだ。
何より… ――

京太郎「それに…これだって凄い力じゃないですか」

京太郎「頼りないなんてそんな事はないですよ」

京太郎「これがあるだけで…大分、戦い方も違ってくるのは確実ですから」

京太郎「…ありがとうございます、臼沢さん」ペコッ

塞「も、もう。そんなに頭を下げなくても良いってば」

そう照れるように臼沢さんは言うけれど、俺にとってこれはいくら感謝してもしたりないくらいのものだ。
直接的なアドバンテージにはつながらないが、二人が必要以上に傷つくのはこれで避けられる。
未知のエリアへと探索する時には間違いなく大きな指針になってくれるだろう。
今回は残念ながら習得しきれなかったが…朧気ながら掴めるものはあったしな。
もう一度、彼女に特訓してもらえればまず習得出来るだろう。

塞「ま、それに私はこれくらいしか君たちの援護もしてあげられないしさ」

京太郎「臼沢さん…」

塞「…美穂子の事がときどき羨ましくなるよ」

塞「…私にはあんな風に君たちを追いかける勇気なんてないから」

友人二人が俺の探索を手伝うようになって、彼女も色々と考える事が増えたのだろう。
その笑顔はどこか自嘲混じりで…そして寂しそうなものだった。
俺には臼沢さんの気持ちは完全に分かる訳じゃないが、それでも今の彼女が思い悩んでいる事は伝わってくる。
そんな彼女の悩みを俺が解決するというのはきっと不可能なのだろう。

京太郎「…そんな事ありませんよ」

塞「え?」

京太郎「待ってくれる人がいるってのはそれだけ大きな事なんですから」

でも、彼女がそれしか援護出来ないなんて事はない。
どんな時に帰ってきても、必ずこのロビーで俺たちを迎えてくれる。
「おかえり」とそう安心したように笑ってくれる。
そんな彼女の存在が、俺達に何の力も与えていないなんて事はない。

京太郎「俺達がこうして戦えているのは臼沢さんのお陰です」

京太郎「智葉さんや美穂子も口には出さないけれどそう思っているはずですよ」

塞「須賀くん…」

その言葉は少しは彼女の心にも届いたのだろう。
俺の名を呼ぶ臼沢さんの顔には安堵の色が広がっていた。
勿論、それは完全ではないが、いくらか気持ちは晴れたらしい。
そう胸を撫で下ろす俺の前で、臼沢さんの目がジットリとしたものになっていった。

塞「…ちょっと感動したけど美穂子ってどういう事?」ジトー

京太郎「あ゛っ!?そ、それは…」

塞「ちょぉぉっと追加でその辺の事詳しく聞かせてもらって良いかな?」ニコー

京太郎「き、拒否権は…」

塞「これから先、君の特訓がなしになっても良いなら使ってもいいよ」

京太郎「うぐ…」

実質、拒否権を許さないと言われたに等しいそれに俺は肩を落とすしかなかった。
既に俺はこの人に首根っこを掴まれたも同然らしい。
その顔を微笑ませながら、そして同時に瞳を輝かせる臼沢さんに根掘り葉掘り聞かれる事になるのだろう。
そんな未来予想図にぐったりしながら俺は…… ――

塞「はい。じゃあ、バックルームにいこうねー」ズルズル

京太郎「い、いやああああっ」

―― そのまま人気のないところへ連れ込まれてしまったのだった。



System
臼沢塞の好感度が20になりました → <<これから一緒に頑張っていこうね>>



須賀京太郎のきけんよちに対する習熟度が3あがりました

また須賀京太郎のオカルト郡は直接的なアドバンテージには直結しない地味な効果が多いですが

うまく使いこなせば戦闘をより戦略的に進められるはずです

新戦力の加入、ヒロインの進化と合わせて、考えなければいけない事は多いですが、うまく使いこなして下さい

尚、臼沢塞が仲間になった場合、オカルト習得イベントは別のヒロインに持ち越されます

出番の少なかったヒロインに対するテコ入れのようなものだと思ってご了承下さい



―― 今日の俺はずいぶんと人と会う日らしい。

京太郎「あっ」

憧「あっ」

…まさか部屋に戻る途中で新子さんに会うとは。
正直、こんなところで会うとは思わなかっただけに驚きの声が漏れてしまう。
…まぁ、それは今の彼女の姿勢が大きく関係しているのかもしれないけれど。

憧「ぐ、偶然ね」

京太郎「…偶然ですかね?」

憧「ぐ、偶然よ!偶然以外のなんだって言うの!?」カァ

そうは言うがな、大佐。
今、新子さん完全に背中を壁に預けてたじゃないか。
俺の部屋の入口の前でそんな姿を見せられて偶然とは到底、思えない。
正直なところ、俺を待っていたって方がまだはるかに自然なくらいだ。

憧「だ、誰がアンタの事なんて待つもんですか!自意識過剰もいい加減にしてくれるかしら!?」

京太郎「いや、誰もそこまで言ってないんですが…」

憧「…あっ」カァァ

…いや、こんな事思っちゃ失礼かもしれないけどさ。
ホント、この人かわいいなぁ。
すげぇいじり甲斐があるというか、からかいがいがあるというか。
ごく普通に友人として出会えていたら、きっとすごく楽しい関係になれていたと思う。

京太郎「はいはい、じゃあ、一応聞いておきますけど…」

憧「な、何?」

京太郎「俺に何か言っておきたい事とかありません?」

憧「は、ハァ!?何言ってんの!?」

憧「あたしが…アンタに?そんなのあるはずないじゃない!」

京太郎「そっかー。残念だなー」

まぁ、俺だってこれで彼女が話してくれるとは思っていない。
一応、わずかなりに出来てきたつながりの中で、新子さんが恐ろしく面倒くさい人だって事くらいわかってきたんだから。
故にこれはジャブ。
次の一撃のための振りである。

京太郎「俺は新子さんと色々とお話したかったのになー」

憧「え?」

京太郎「新子さんは俺とまったく話をしたくなかったなんて本当に残念だー」

憧「え、ちょ…」

京太郎「残念だから部屋に帰ってふて寝するしかないなー」

憧「ちょ、ま、待ちなさいって!!」アワワ

いやぁ…釣れるだろうとは思ってたけど、ここまで見事に釣れてくれるとは。
ちょっと新子さんの未来が不安になるレベルの釣れっぷりだぞ。
正直、俺の知らないところで変な男に騙されたりしても驚かないくらいだ。

憧「べ、別にそこまで言ってないでしょ」

京太郎「じゃあ、俺と話してくれます?」

憧「……そ、そんなにあたしと話がしたいなら考えても良いけど…」

京太郎「したいっす。超したいっす」

憧「ば、馬鹿…ホント…馬鹿なんだから…」カァ

馬鹿頂きましたー。
まぁ、本心から俺の事を馬鹿って思ってない事くらいその顔を見れば分かる。
赤く染まった顔は今にもガッツポーズしそうなくらい満更でもなさそうなんだから。
いくら鈍感呼ばわりされた俺にだって、その辺は丸わかりである。

憧「で?」

京太郎「え?」

憧「そんなにあたしと話がしたいんなら、話題の一つや二つはあるんでしょうね?」チラッ

京太郎「あー…」

そうくるかー。
いくら新子さんでもここまで状況整えたら自分から言ってくれると思ってたけれど。
どうやら相手は俺よりもはるかに強敵であったらしい。

京太郎「(ま、それならそれで良いか)」

どの道、俺も新子さんには言いたい事や聞きたい事があったのだ。
こうして彼女と顔を合わせて話を出来る機会も少ないわけだし、折角だから… ――

京太郎「この前はありがとうございました」

憧「え?」

京太郎「あれから聞いたんですよ、新子さんがずっと待っててくれた事」

憧「あ…ぅ」カァァ

京太郎「すみません。3日も待たせちゃって」

京太郎「でも、嬉しかったです。そんなに俺達の事心配してくれて」

憧「ば、ばっ!ばっかじゃないの!!」マッカ

憧「わ、私、全然、心配なんてしてないし!」

憧「たまたまやる事なかったからロビーで座ってただけだし!」

憧「3日も音沙汰ないなんて中で何かあったんだろうかとか!」

憧「もし、アンタが大変だったら助けに行った方がいいんだろうかとか!!」

憧「もし、こうして待ってる間にアンタが死んだらどうしようとか!!!」

憧「そんなの!!かけらも!!これっぽっちも!!!思ってないんだから!!!!」

京太郎「そーですかー」

ホント、わかりやすいなー、新子さん。
いやぁ、鈍感の俺にとってはある意味、付き合いやすくて助かるぜ。
面倒くさいのは確かだが、しかし、目の前でわかりやすいくらい自爆してくれるとあんまりそれも感じない。
寧ろ、その面倒臭さがまた魅力的に思えるくらいだ。


憧「って、何ニヤニヤしてるのよ…!」

京太郎「あぁ。すみません。ちょっと色々ありまして」

憧「い、色々って何よ…?」

京太郎「懇切丁寧に説明したほうが良いですか?」

憧「…………やっぱ良い」プイッ

京太郎「懸命な判断だと思います」

まぁ、俺としては説明した方が新子さんの恥ずかしがる顔を愉しめて良いんだろうけどな。
ただ、そんな事をやったら、新子さんが俺に苦手意識を持つかもしれない。
彼女の支えになりたい俺にとってそれは致命的だ。
名残惜しいがそうやって新子さんをいじり倒すのはまた今度にしておこう。

憧「…でも」

京太郎「ん?」

憧「あ、アンタはどうなっても良いけど…辻垣内さんとか福路さんは…ホント凄い人だし…」

憧「アンタの道連れで二人まで命を落とすと日本麻雀界にとって大きな損失だわ」

京太郎「まぁ、確かにそれはそうですね」

全国個人三位の智葉さんと、魔境と呼ばれた長野で咲たちを抑えて個人戦一位を取った美穂子さん。
どちらもこれからの日本女子麻雀界を支えていく事を有力視されていた二人だ。
たとえ、どちらが欠けたって日本女子麻雀界にとって大きな悲嘆を与える事だろう。
…まぁ、問題は日本女子麻雀界なんてもう影も形も存在していない事なんだが

憧「…だから…ね。その…」モジ

憧「気を…気をつけなさいよ?」ツイッ

憧「アンタがヘマしたら…その分、彼女達二人が命の危険に晒されるんだから」

憧「だから…その…」

京太郎「分かってます。俺の命に変えても二人を護ってみせますから」キリリッ

憧「ち、ちが…っそういう意味じゃ…!」ワタワタ

勿論、新子さんがそんな事言うとは思っていない。
彼女はきっと本心から俺に気をつけろと、そう忠告しようとしてくれているんだ。
…ただ、目の前であんな姿を見せられるとなぁ。
ちょっとくらいはからかっても良いかもしれないって…そんな悪戯心がですね?

憧「わ、私が言いたいのは…!アンタも大事だから無事に帰って来いって事で…!」

憧「何もそんな自分を犠牲にして二人を守れとかそういう事が言いたいんじゃなくて…」

憧「寧ろそんなに危険な場所なら行ってほしくない…くらいだし…」

憧「その…し、心配って訳じゃないけど…あの…その…」

憧「だから…わ、私は……!」

憧「~~~~っ!」カァ

憧「と、とにかく!また変に時間かけて心配させるのなんて許さないから!」

憧「あっ…じゃなくて……別に心配なんてしてないけど!!」

憧「次はもっと早く帰って来なさいよね!!」

憧「じゃ、じゃあ!…あ、あたし、部屋に帰るから!」ダッ

まるで言いたい事は全部言い切ったと言うように新子さんが俺に背を向ける。
そのまま小走りに去っていく彼女の顔は相変わらず真っ赤だった。
今の自分の醜態が恥ずかしかったのか抑えた手の間からもはっきりと分かる朱色。
それが廊下の向こうへと消えるのを見送ってから俺は… ――

京太郎「…失敗しちゃったかなぁ…」

結局、彼女が本当に何を言いたかったのかは分からない。
流石に部屋の前で待っていたのに、心配をさせるなと釘を刺したかっただけ…というのはないだろう。
きっと新子さんは他に言いたいことがあったんだ。
それを聞き出せなかったのは少し残念だけれども…。

京太郎「(…でも…いつかは)」

そう。
何時かはきっと彼女からそれを聞ける日が来るだろう。
少なくとも今日、この場で彼女は以前よりもはるかに俺へと歩み寄ってくれたのだから。
不器用ながらも俺に自身の心をぶつけようとしてくれている彼女はきっと何時か素直になってくれる。
少なくとも…さっきの彼女はそう信じられるものだったから。



System
新子憧の好感度が35になりました → <<うぅ…なんであそこで勇気出せなかったんだろ私…>>
おや…新子憧の様子が…?