人間、誰しもミスはある。
それを責めることは誰にもできない、だって、自分がいつ同じようにミスを犯すかは、わからないからだ。
しかし人は往々にしてミスを犯したものを責める。
何故か?それは、そのミスが他の人の目に大きく映ったからだ。
大きなミスというのは目立つと同時に損失も大きくなる。
ゆえに責められるのだ。

「……」

「……」

そういう視点で行くと、俺のミスは責められるものではない。
だって、このミスを見たのはただの一人だし、損失だって、欠片もないとおもう。
せいぜいが服の汚れ、最悪最低でもスマートフォンあるいは携帯の修理だ。

「……」

「……」

だけど、だけどね?
世の中には例外ってものがいつもいつでもあるもんだ。
一人で島を制圧する筋肉モリモリマッチョマンしかり800両くらいの戦車を破壊する爆撃機乗りしかりね。
何が言いたいかというと、俺は今万人に……いや、万人中9996人くらいに責められるミスを犯した。

「あ……あの……」

「ゃ……ぁ……」

今俺の目の前にあるのは、可愛らしい女の子の顔だ。
正式には、二つ上の上の、麻雀部部長の竹井久先輩のお顔である。
改めて見ると美人だ、目はスッと整って、鼻筋も綺麗、唇は艶やかで、顔の輪郭も丸みを帯びた綺麗な卵型、肌もしっとりである。
で、体勢だがこれが一番問題で、今俺はその久先輩を押し倒してしまっているのである。
こう、俺がドスンと両手を床についていて、その間に部長を収める形である。
なんでこうなったかというと、こけたらいつの間にかこうなった、何を言ってるかわからないと思うが俺も何を言ってるかわからないしそんなこと言ってる場合でもない。

「あの……すいません」

「う、うん……」

大量の冷や汗を流す俺の脳裏には、甘酸っぱいような嬉し恥ずかしな感情など欠片もなく、ただただヤバいの文字が頭の中を埋め尽くす。
だって部長だもん、コワイ、この人ドSだもん、コワイ、代償にモツ抜かれかねないよ、コワイ。
対する部長は顔を赤く染めている、憤怒にたぎっているのだろうか、せめて遺書を残す時間は残してもらいたいのだが。

「……その、須賀くん、よければ、どいてくれる?その、起き上がれなくて……」

「ピィッ!?ご、ごめんなさい!!」

その声に我に返った俺はそれはもうすごい勢いで跳ね起きた。
残像を残さんと言わんばかりの高速起床によって部長が起き上がるものを阻害する物体は無くなり、部長はゆっくり起き上がる。
膝に手をついて立ち上がり、パッパッとスカートの埃を払い、コホンと、ひとつ咳払い。

「……須賀くん」

「はひぃ!?」

死刑宣告か、俺は身構えた。
何をされるんだろう、市中引き回しの刑だろうか、打ち首だろうか、麻雀(物理)だろうか、俺の身に訪れる最悪の結末を幾つか想定し、身構えた。
部長はというと、その顔を俯かせたまま……

「その、そういうことは、床じゃなくて、せめてベッドの上じゃないと……」

「え?」

「え?」

空気が、凍った。

「いやだって、須賀くん、なんかすごい勢いで押し倒してきたじゃない」

「いやあの、こけて巻き込んじゃって」

「いやそんな漫画みたいな展開」

「いやまじなんですよ」

「……」

気まずい

「なによそれ……」

やがて部長が呟いた。

「押し倒されちゃって、強いけどちょっとドキドキして、それなのにそんな間抜けな理由って……」

「うわぁぁぁごめんなさいごめんなさい!」

涙ぐんで泣き始めた部長に俺は必死に頭を下げる。
いかんぞ、このまま噂が広まっては俺は牛裂きの刑に……

「気になっちゃってる子に押し倒されるなんて、少女マンガ見たいって思ったのに、私の胸のときめきを返しなさいよぉ!」

「ごめんなさいぃぃ~~!!」

なんか聞き捨てならんことも叫ばれてる気がするがそれどころではない、とにかく土下座である、プライドなんて知らない、命に比べれば。

「須賀くんのトラブル体質~!!」

「ああっ!部長!」

そのまま、部長は部室を飛び出して行ってしまった。
土下座フォームの俺ではすぐさま追うことができず取り残されてしまう。

(あぁ……俺の人生終わった……)

絶望に染まった思考の片隅でどこか客観的な思考がそう告げた。
明日にでも噂は広まり俺は先輩を押し倒したレイプ魔のレッテルを貼られていることだろう。
俺はただ、部室にまこ先輩が訪れるまでそのまま固まっていたのであった……



その翌日、なんでか噂は広まっていなかったが、部長に昨日のことは忘れろと凄まじいビンタをくらい、さらに買い出しを一ヶ月間ぶっ続けでやることになった。
今度から、俺は足元に注意して歩くことを固く心に誓うのであった。

カン