ハオ「……(どうして……)?」

U-15アジア大会準優勝……私の首に掲げられたのは金ではなく銀色のメダルだった。

優勝できると、信じて疑っていなかった。
私は強いと、絶対の自信を持っていた。
小学生大会でも優勝経験があり、中国国内では敵無しだった。
だけどそれは、所詮は大海を知らない井の中の蛙でしかなかったのだ。

敗北の原因は明確だ。
アジア大会で採用されていた国際ルールが、私の慣れ親しむ麻将のそれとは根本的に違っていたから。
リーチで得点が上がるのは何故だ、逆に何故鳴いたら得点が下がるのか、そもそも麻将で適用される役が無効とは何事か!?
ルールの相違点を、言い訳を挙げれば、キリがない。

詰まるところ、私の勉強不足が招いた敗北に過ぎない。

だから、国際ルールを学ぶため、私は日本へ留学する事を決めた。

ハオ「那个(あの、すみません)……」

だけど、日本という国は私にとって行きづらい国だった。

元々イギリスの占領地だった故の気質なのか、香港では海外の者から声をかけられれば応える者が殆どだった。
しかし、日本人というのは薄情だ。
私が外国人であると解れば、まるで犯罪者とでも鉢合わせたかのように去っていく。

ハオ「Excuse me……(あの、すみません!)!」

広東語では通じないのかと、英語で訪ねてもそれは同じだった。
この頃、日本に来たばかりの私は日本語にまだ不慣れで、一応簡単な対応表はあるにはあったのだが、満足に読み上げることもできなかったのだ。

途方に暮れ、このまま永久に寮にたどり着けないのでは無いかと絶望していた…………そんな時だった。

京太郎「あー……What happened(どうしましたか?)?」

それはまさに、渡りに船だった。

日本人であるにも関わらず、金髪に鳶色の瞳の彼。
他のアジア人の例に漏れず黒髪に黒眼が一般的だと聴いていたが、彼のその容姿は非常に珍しい物であった。

だけどその時の私は、そんな事はどうでも良くて、話をできる者が現れた事に対して、珍しく神に感謝を心の中で捧げていた。

ハオ「Sir!Do you speak English(あなた、英語ができるんですか)!?」
京太郎「あー、イエス、but,little。オッケー?」

彼の話す英語はとても拙い物で、意志の疎通も中々に困難だった。
それでも、時間をかけてゆっくりと、私が理解できるまで逃げずに話し続けてくれた。

京太郎「ってな感じで。大丈夫ですか?オーケー?」
ハオ「thank you……thank you so much!!」

そんな彼と1ヶ月後に再開できるとは、この時の私は知らなかった。






京太郎、あなたはあの日の事を覚えていますか?
道に迷い、誰からも相手されずに見捨てられた私に声をかけてくれたことを。
あの時、私がどれほど嬉しかったか、京太郎には理解できますか?

京太郎のお陰で臨海高校の寮に無事に辿り着く事ができ、その1ヶ月後には入学式がありました。
周りはやっぱり日本人ばっかり、不安で心が締め付けられそうな気持ちでした。
そんな中で、クラスの中にあなたの姿を見つけた時の驚きや嬉しさ……もう、言葉にする事も困難な衝撃を、あなたは知らないのでしょうね。

あれから、京太郎にはたくさん助けて貰いました。
日本語に不慣れな私の手助けをしてくれて、日本語の勉強も手伝ってくれましたね。
まさか、麻雀部にまで一緒に入ってくれるとは思いませんでした。

京太郎は、今でもそうですけど、信じられない程麻雀が弱かったですね。
なのに…………何度も酷い負け方をしても、一度も勝てなくても麻雀部を訪れない日はありませんでした。
一度、その理由を聞いてなんと応えたか覚えてますか?

京太郎『だってこんなに面白いんだぜ?辞めちまう方がどうかしてる!』

私が好きな麻将……いえ、麻雀を好きになってくれて本当に嬉しかった。
それに、中国の麻将にも興味を持ってくれて、役やルールも全部覚えてくれましたね。
相変わらず弱かったですけど…………

京太郎、あなたのお陰で今の私がいます。
あなたがいたから、今でもこうして日本で麻雀を続ける事ができています。
あなたがいたから、私は日本を好きになることができました。
京太郎、あなたがいたから…………

京太郎「どうした、ハオ?こんなところに呼び出したりして」

ああ、やっぱり覚えていませんか……
でも良いんです、焦る必要は無いって、他でも無いあなたが教えてくれたから。
思い出のこの場所で、また一から始めたいから…………

だから、あなたに教えてもらった日本語で言います。

ハオ「京太郎、私は……あなたが好きです!」

今日からは、恋人として私を導いてください…………!


カンッ!