変なものが見えるようになった。それは何かというと「数字」である。
数字そのものは変でも何でもないのだが、それが妙なことに、人の頭の上に見えるのだ。
気が付いたのは今朝、顔を洗ったあと鏡の中の自分の頭上にぽっかり浮かんだ「0」の数字を見た時。
その後、朝食で親と顔を合わせたり、登校中に道行く人たちを見たりするうちに、
どうやらこの数字はすべての人の頭に浮かんでいて、しかもそれが見えているのは自分だけらしいことが分かった。
ともあれ、数字が見える事は一応受け入れることができたのだが、今度はその数字が何を意味するのか気になり始めた。
沢山の人がいればいろんな数字が浮かんでいるかと思ったのだが、そんなことはなく。
登校中、それなりに多くの人を見かけたが、大概数字は俺と同じ「0」で、たまに「1」の人がいるくらいだった。
(『1』の人は何か特殊な能力の持ち主だったり……なんてな)
そんな取り留めのない空想を巡らせているうちに学校に到着し、教室に入った。
「おはよーさん」
既に登校していたクラスの連中に声をかける。浮かんでいるのは軒並み「0」だった。
どうやらこのクラスは平凡人の集まりであるらしい。そして、その中にいる俺も「0」の平凡人。
「おはよう京ちゃん」
そこへ、背後から平凡な幼馴染の声。
俺は、挨拶を返そうと無造作に振り返り――
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――絶句した。
「……」
「京ちゃん、どうかした?」
驚きのあまり固まっていると、咲は怪訝な顔をして、こちら覗き込んできた。
「……ああいや、なんでもない。おはよ」
平然を装って答える。
咲は不得要領の表情だったが、やがて自分の席について本を読みだした。
その様子は、普段の咲と全く変わることはない。
咲がいつも通りである以上、この数字は「普段の咲が持つ、他者に比べてずば抜けている特徴」を
反映しているものと考えるのが妥当だろう。
(咲のずば抜けてる所ねぇ……迷子になる頻度?
……いや、違うか。あいつの迷子っぷりが、たったの3で済むはずがないし。あと考えられるのは……)
思案の末、結局候補に挙がったのは麻雀と、読書だった。
もしかしたあの数字は、麻雀の実力を数値化したものだとか、あるいは今週読んだ本の冊数だとか、
そういったものを表しているのかもしれない。
しかし、その予想は間違いであることが間もなく判明することになった。
1限目後の休み時間に和と優希を見かけたのだが、二人とも「0」だったのだ。
その一方で、他のクラスの男子に「1」の奴が二、三人いた。
これはどう考えても、数字=麻雀の実力説ではありえない。
ならば有力なのは数字=読書量説かと思い、読書好きが多そうな図書室を見に行ってみれば、
見事に全員「0」で、こちらの説もあえなく潰えてしまった。
(うーん、いい線行ってると思ったんだが、的外れだったかー)
少し意気消沈して教室に戻ると、そこには俺をさらなる混乱に陥らせる事態が待ち構えていた。
――咲の数字が増えていたのである。
「なあ、咲」
「な、なにかな京ちゃん」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、お前、この休み時間のあいだに何かあったのか?」
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「な、ナニかって、何のこと!?」
「あ、いや。何もなければいいんだけどさ」
「う、うん。何もないよ、ナニもなかったよ」
……謎は深まるばかりである。
その後、数字のことは気になりつつも、手がかりはなく良い考えも浮かばず、
結局何の進展もないまま、放課となったので、俺は部室に向かった。
部室の扉を開け、中に入ると、他の部員はまだ誰も来ていない――
「ん?」
――かと思いきや、部室の一角に数字が浮いている。
近づいてみると、ベッドがこんもりと盛り上がっていた。
浮いている数字は「6」。咲だ。
「おーい、咲ー。寝てんのかー」
「……」
声をかけるも、反応がない。
咲はこちらに背を向けた体勢で横になっていて、顔が見えない。
覗きこむように近づいてみると、髪から覗く耳が真っ赤になっており、
聞こえてくる息遣いが何やら、荒い。
もしかして、熱でもあるのだろうか。
流石に少し心配なので、布団の上から咲の肩をつかんで揺すりつつ、声をかけた。
「おーい、咲。もしかして体調悪いのか? 大丈夫か?」
すると、布団の中の咲はびくりと身を震わせて、
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┗━━┛ < カチッ…
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――なんと俺の目の前で、数字が1増えた。
……本当に何なんだろうか、この数字は。
カン
おまけ
京咲@帰り道
咲「ふーん、人の頭に数字、かぁ。……へんなの」
京太郎「『へんなの』は余計だ。で、はっきり言ってお前の数字が一番謎なんだよ」
咲「私?」
京太郎「そう。他の人は『0』かせいぜい『1』なのに、お前の数字だけやたらでかいんだよ。
今朝見たときは『3』だったんだ」
咲「ふーん」
京太郎「しかも、お前の数字はなんかどんどん増えてくんだよ。最初の休み時間に『4』になって、
昼休みに『5』になって、最後の休み時間に『6』になってさ」
咲「え……」
京太郎「んで、放課後の部活の時はさ、俺が来たとき咲はベッドで寝てただろ?
見たらなんかお前顔赤いし息荒いしで、熱でもあんのかなと思ってさ、
一応揺さぶって声かけたら、目の前で数字が『6』から『7』に増えて――」
咲「……!」
京太郎「――そんで今に至るって感じなんだが……って、咲?」
咲「~~っ///」
京太郎「???」
もいっこカン
※数字は一日当たりの回数ということでお願いします
最終更新:2015年12月03日 20:17