エイスリンさんに初めてを捧げて、憩さんから口づけというクリスマスプレゼントをもらった夜は、当の昔に過ぎ去った

大晦日はみんなと霞さんの家で年越しそばをごちそうになって、おせちまで用意してもらった

霞さんにお年玉をねだったら俺のお年玉を狙われたのは、まあ、いい思い出だ

照は推薦を使わず、一般で関西の最高学府へ入学。エイスリンさんは大阪の大学へ入った

郁乃さんは身体を元に戻して、元の職業だったプロ雀士のメンタルトレーナーに復職した

卒業式の日は、エイスリンさんに泣きながら抱き着かれ、照に卒業祝いのお菓子をおごらされたりもした

郁乃さんには襲われかけたが、逆に襲い返そうとすると急にしおらしくなり


「えっ……え、本気……なんか?」

「私なんて、どうせおばさんやし、お、襲っても気持ちよくなんかないで」

「せやから……そないなこと……」


こんなことを頬を赤らめて目をこちらに合わせまいとしながら言ってくるおかげで、嗜虐心をそそられて本当に襲ってしまおうか迷ってしまうほどだった

ちなみに、メンタルトレーナーというのは、日々削られる雀士の精神を調整する仕事らしい

941 名前: ◆r05KxLrr0E[saga] 投稿日:2013/11/10(日) 23:27:14.59 ID:Lo7QWEYqo [5/5]
そうして新しい春を迎えた清々荘の二つの部屋は空いたが、そこへ記念すべき後輩一号くんと二号ちゃんが入った

入学式が終わったあと、例年通り新しい二人の住人のために歓迎会を催した

二人とも麻雀をしていて、三箇牧の活躍を見て入学したらしい

一号くんはいわゆる男の娘で、二号ちゃんは綺麗系の女の子で、見た目的には麻雀部は俺のハーレムに見えるらしく、クラスの男衆からの反感を買った

結局、新たな男子部員の獲得はできず、俺と一号くんは個人戦で頑張ることとなった

女子部員は二号ちゃんも含めて三人ほどが入部し、なぜか華菜さんも入部し、新生三箇牧麻雀部の女子は千里山を破り二年連続でインターハイへの出場を果たした

たまに照が霞さんの家に寄ったり、郁乃さんが押しかけてきたり、絵を描いているエイスリンさんを川辺で見かけることがあり、三人とも、やはり一年前とは変わっているんだな、という風に感じた

インターハイの女子団体の部、第一シードの俺たちの初戦の二回戦の前日、憩さんは一年前以上の緊張を背負っていた

あの日の憩さんは危なっかしくて、試合会場の前で車に轢かれそうにもなった

今にも泣きそうな憩さんは見るに堪えず、安心させるために強く抱きしめた


「みんながいるから大丈夫ですよ」

「俺がずっと応援しているんで、頑張ってください」


そんなことを耳元で語りかけて、キスをしてあげると、憩さんはいつもの笑顔になった

943 名前: ◆r05KxLrr0E[saga] 投稿日:2013/11/11(月) 00:20:31.73 ID:a4CeryH+o [1/3]
インターハイは準決勝で大将の華菜さんが捲られに捲られて敗退、個人戦は、俺と憩さんで男女優勝を果たし、咏は女子の部の三位に入賞した

大阪へ帰る前に、部員全員で海水浴に行き、一年前と同じく憩さんとデートへ行った

コースは一年前とほぼ同じ、下着屋には行かなかった。二人で懐かしさを感じながらぶらついているだけだったが、それでも十分楽しかった

俺たちは、友達以上恋人未満、と言う関係よりもほぼ恋人に近い関係を築いていたが、互いに告白をしようとはしなかった


憩さんと華菜さんが引退して、俺が部長、咏が副部長となり、女子は秋の新人戦に臨んだが、結果は泉率いる千里山に敗北した

顔にこそ出さなかったが、咏は責任を感じているらしく、見かねた俺は咏をかつて二人で初めて行った喫茶店へ連れて行った


「私、このままでいいんかな、て心配なんだよねぃ」

「新人戦も、個人戦もびみょーだったじゃん?」

「……こんなんで、あの子たちのこと引っ張っていけるのかどうか気になって」

「……お前の隣に、立ちたいんだよ」


俺みたいに強くなって、俺と対等になりたい、それが咏の願いだった

憩さんのようになりたいと思っていたようだ

咏の悩みを聞くこと数時間、ようやく気を取り直したらしい咏と店を出て、金木犀の香る道を歩いた

なんとなく、咏の手を握ってやると、咏は口をとがらせた


「な、いきなり何すんだよ」

「秋の風も寒いよなーって」

「だからって手ぇ繋ぐかよ」

「ああ繋ぐぜ、咏の手は安心するんだぜ」

「なんだよ……それ」


ぼそぼそ動く咏の頬は、赤くなっているように見えた

944 名前: ◆r05KxLrr0E[saga] 投稿日:2013/11/11(月) 00:59:55.38 ID:a4CeryH+o [2/3]
「京太郎!遊びに来た!」

「これまた珍しいですね」

「ウン!」


ある秋の休日、エイスリンさんが俺の部屋へ遊びに来た

もしあの日に妊娠してしまっていたなら、今頃は俺とエイスリンさんの子どもがいたんだろうな、と考えながら昼食を拵えた

エイスリンさんの日本語は流暢になっていてとても驚かされた


「京太郎にここまで上手くなったんだよ、って教えたかった!」

「凄いでしょ?」


満点の笑顔で話しかけてくるエイスリンさんは天使で、大学で変な男に絡まれていないかどうか心配になった

エイスリンさんは一年前の清々荘のみんなを描いた絵を俺に見せに来たのだと言って、俺にその絵を見せてくれた

霞さんの家の前で、俺に後ろから抱き着く郁乃さん、右腕を抱く照、左腕を抱く咏、俺ら四人を見て微笑む憩さんとエイスリンさんと霞さん

霞さんの家の屋根に乗ってる猫は華菜さんだったのだろうか?

その後、エイスリンさんと街へ繰り出し、部屋で夕食を一緒に作って食べた


「去年も京太郎と一緒に寝たよね」

「あの風邪うつらなかったですか?」

「ううん、うつらなかったよ」

「…………」

「…………」

「京太郎……キス、しよっか」

「えっ」


今度のエイスリンさんは小悪魔のように笑った








 二年生のクリスマスには、プロ・アマ交流戦が行われず、余りある冬休みを過ごす俺の元を照が訪れた


「京、クリスマスケーキ作って」

「今もうクリスマスの8時だからな!?」

「シフォンケーキなら焼くだけでできるから大丈夫」

「この部屋オーブンとか無いし、電子レンジもそこまでできるほどじゃないんだけど」

「私と京の熱であっためればなんとかなるはず」

「無理だからな?大体お前そんなキャラだったっけ?」


 照と咲は、小母さんと小父さんの長らく続いたきのこたけのこ戦争を和平に持ち込み、仲直りをさせたらしい

 大晦日は家族四人で旅行に行くので、年が終わる前に俺にまた会いに来たかったそうだ


「今年は何が貰えるかな」

「今年?あの赤と白の服を着たおじさんのことか?」

「うん、去年は読みたかった文庫本とブックカバーをもらった」

「そ、そうか、今年も貰えるといいな」

「朝起きたら枕元に京との子どもがいれば満足、ナイスサンタさん」

「それはコウノトリの仕事だ」

「た、たまにはコウノトリにソリを引いてもらうサンタさんがいてもいい」

「コウノトリ酷使するなよ!ホワイトなのに腹ん中ブラックじゃねえかサンタさん!」

「…………」

「…………」

「……うわぁ、みたいな顔するのやめて」


 後から聞いた話によると、霞さんが照にクリスマスプレゼントを渡していたらしい

 バレないようにミニスカサンタのコスプレをして、住人のみんなにプレゼントをしていたそうな



 ……通りであの日の霞さんの目が少し怖かったわけだ



「京は私の気持ちに気づいているよね」

「……京の気持ちも、考えも、私は多分わかる」

「京が私の方だけを見ていなくても、それでいい」

「京が私のことを好きでいてくれるなら、それで満足できる」

「こうして一緒に寝れるだけで、私は幸せになれる」

「ちっぽけな幸せだけど、このくらいが十分心地いい」

「私も京も、まだまだ子どもで、私には勇気なんてないから」

「今は……こうしている…………だけ」

「ん……」

「……胸が苦しいと思ったら、抱き着かれてたのか」


 布団から少しはみ出た照の髪をさらりと撫でた

 胸元に漏れる照の吐息があたたかくてくすぐったかった



 憩さんや、咏、エイスリンさんと照との距離は、この一年間でもっと縮まったように思えた

 郁乃さんにはほとんど会っていなかったが、ほぼ毎日メールのやり取りを行っていたので、縮まった、といえば縮まっただろう


――――俺は、どうやって応えればいいんだろう


 一年間、ずっと考えてきたことだ


――――どうすれば、誰も泣かない未来をつくれるんだろう


 悩んで

 思って

 想って

 考えて

 ようやく、答えが出た

憩「……ほんまに、来てくれたんやな」

京太郎「憩さんと三箇牧で過ごせる最後の日に呼び出されたら、行くに決まってますよ」

京太郎「お別れ会まですることもないですし」

憩「ふふっ、京太郎くんは友だちおれへんもんねー」

京太郎「余計なお世話ですよっ」

憩「来年から、部長さん頑張ってな」

憩「ウチの跡継ぎさんなんやから、しっかりしてくれないと困るで?」

京太郎「その辺は任せてください、三箇牧の名に恥じないような立派な部長になります」

憩「うん、そら頼もしいわ」

憩「……あ、でも新入生の子に手ぇ出したらだめやで」

京太郎「出しませんよ、俺を何だと思ってるんですか」

憩「んー……女ったらし?」

京太郎「どういう認識ですか!?」

憩「だって、京太郎くん、エイちゃんとか、照ちゃんも部屋に連れ込んでたやん」

憩「咏ちゃんとも二人だけ遅くまで残って部活してるらしいし」

京太郎「そう言うと俺がすっごいいやらしい男に聞こえるんですけど!」

京太郎「エイスリンさんと照はあっちから入って来ただけで、咏とはちゃんと部室の掃除とかやってんですよ!」

憩「うん、知ってたで」

京太郎「知ってたんかい!」

京太郎「何すか、俺の今の弁解意味ないじゃないですか!」

憩「まーまー落ち着いて」

京太郎(段々憩さんが郁乃さんに汚染されていっているような気がする)

京太郎「そういや、この公園に来るの、久しぶりですよね」

憩「……京太郎くんに出会った日に来た場所やね」

憩「一緒にたこ焼き食べてるの、覚えてる?」

京太郎「ええ、間接キスしましたよね」

憩「わ、わかっててあんなこと……」

京太郎「いやーだって言いにくかったじゃないですか」

憩「それも、そうやけど……」

京太郎「二年ぶりに、たこ焼き食べますか?」

憩「……ううん」

憩「今日はたこ焼きを食べに来たわけやない」

憩「それに、正確に言うと一年半やで」

憩「去年の夏祭りのときに、みんなで食べたやろ?」

京太郎「じゃあ、本題はなんですか?」

憩「……はぁ」

憩「ずーっと、話そうか迷ってたんやけどな」

憩「それで別の話してたのに、京太郎くんど直球すぎるわ」

憩「……もう、勇気出すしかないやん、あほ」

京太郎「……すんません」

憩「ううん、構わんで」

憩「……すぅー……はぁぁ」

憩「……これから話すウチのコト、聞いてくれる?」

憩「大事な、大事なウチの話――」





憩「――ずっと伝えたかった、ウチの想い」








憩「単刀直入に言うと、な」

憩「ウチは、京太郎くんのことが大好きや」

憩「こうして、二人で一緒にベンチで座ってた頃から」

憩「ウチと京太郎くんでたこ焼きを食べていたときから」

憩「……ちゃうな」

憩「京太郎くんと出会って、励ましてもらったときから」

憩「ずっと……少しずつやけど、好きな気持ちが積み重なって来たんや」

憩「……今もこうして、胸から溢れそうになってる」

憩「ウチは、京太郎くんのことが好きで、好きで好きでたまらへん」

憩「これだけは、卒業するまでに伝えたかったんや」

憩「……あらためて、言うな」

憩「ウチ、荒川憩は――」


                      . .-――-. .
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              .: :八:ヽ::| r㌃⌒`            ムイ }:::: : :ヽ
             /: : ::::\ヾ  ,,,,,,,,    ,   ''''''''  | ノ:::: : : : :\
             /: ::::::::八 ハ         ....  、    「::::::::::::::::::ヽ: : >
           /: : ::/:::::::::>-、    (    ノ   イ:::::l::::l:::::::::ヾ:\     須賀京太郎のことが、大好きや
        -=≦: : ::/::::::::::::::::::::::ゝ      ー '  <::::l::::∧::|` ー---`
            ∠::::  イ::∧:::::::ト、:::≧=r--  1:::::::::/レ' .V
                   /  \:{ ヾr‐ァ'     トヘ/
                  ___/  \ __ /   \_____
               /      \  /ー一ヘ   /     ハ
               ハ        \/     }/ ̄}    /
                 i  ヽ                }      }
                |   У                 } ∨   .|
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                i    ハ                 } '::::::::.  |

京太郎「…………憩さん」

憩「はぁー……」

憩「ようやく、言えたわ」

憩「京太郎くんがウチの実家に来てくれたとき、本当にうれしかったんやで」

憩「去年のインターハイに励ましてくれたときも、もちろん」

京太郎「俺も、憩さんが好きです」

京太郎「憩さんが俺を思うそれよりも、遥かに俺が憩さんを想う気持ちの方が強い、ってくらいに、好きです」

京太郎「……けど」

京太郎「俺は、照や、郁乃さん、咏、エイスリンさんも好きなんです」

京太郎「みんなのことが同じくらい大好きで、同じくらいに愛していて、同じくらい恋い焦がれていたんです」

京太郎「……俺には、誰か一人だけを選ぶなんて真似、できません」

京太郎「女の人の泣き顔は見たくないですから」

憩「…………やっぱりなぁ」

憩「ええよ、わかってる」

憩「京太郎くんが他に好きな子がおるの、気づいてた」

憩「ウチも含めてみんな京太郎くんのことが大好きで、京太郎くんもみんなのことが大好き」

憩「……女の子は、矢印を見つけるのが得意なんやで」





京太郎「……俺、最近考えてたことがあるんです」

京太郎「どうすれば、誰も選ばずに、誰も泣かずに済む未来が作れるのか」

京太郎「俺なんかのために泣く人がいなくなるんだろうか」

京太郎「……自信過剰か、って話なんでしょうけど」

京太郎「それでも、みんなのことが大好きで、大切だったんです」

京太郎「そして……この間、答えを出しました」

京太郎「どうしたって誰も選べないなら、選ばなくていい」

京太郎「みんなのことが大好きだから、みんなと家族になればいい――――」



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'  / /イ Ⅵ :.  Ⅵ    Vzり \  、 }  /  Vzり   }/  /
/        | 从   |            \ ∨/        ,  /
       _∨∧ :.             ` \           ,:_ノ> 、_
 ,  <//////{/{{`∧         、              /  }}//////> 、
´//////////// l| ,∧             _    ∧  ||///////////>
/////////////从 {   、         _  ィ -vノ    ' } /'/////////////       ――俺は、みんなと幸せな未来を生きたいッ!
/////////////{/∧   l\   ー=≦__ ,   ´   /' / イ∧/////////////
/////////////|//∧  :. \               / / /'////}/////////////

憩「……ははっ」

憩「あははっ!」

憩「やっぱりおもろいなぁ、京太郎くん」

京太郎「そうっすかね……」

京太郎「俺からも、一つ、いいですか?」

憩「うん」

京太郎「……では」

京太郎「……こんなに情けない俺でも」

京太郎「常識的に考えて、ありえない俺でも」

京太郎「途方もなくバカげている俺でも」

京太郎「それでも、憩さん――貴方は、俺のことを好きでいて、くれますか?」


 捨てられないのなら、和了ってしまうしかない

 例えそれが、チョンボ――――不完全な役であっても

 俺には、捨てられない

 だから、和了る

 これが俺に選べる唯一の手なのだから、和了るしかない

 情けなくても

 常識的に考えて、ありえなくても

 途方もなくバカげていても

 どうであろうと、俺は進む

 これが俺の出した答えだ






 照も

 咏も

 エイスリンさんも

 郁乃さんも

 憩さんも

 誰も、誰一人として、悲しませない未来を作る

 言ってみると大袈裟で、行おうとしても途轍もなく難しい

 それでも俺は、女の人の涙は見たくない

 そう、照を救えなかったあの日に誓った

 咲とモモの涙を見てしまったあの日の俺に戒めた

 ようやく思い出せたあの日のようにはしたくないと決めたから






        好きでいて、くれますか?



 ずるいな、と我ながら思い、嫌悪した

 そんな一言二言で、嫌いになるわけがないということは端からわかっていたことだ

 憩さんなら、怒らないだろうと期待したから、こんな尋ね方をしたんだ



 憩さんは、俺の目を真剣にじっと見た後、口元を綻ばせた

 随分と前に見たあの笑顔を浮かべた

 一年と八か月前、俺と憩さんが出会い、俺が部員を集めることを約束した後で見せたような、

 俺たち二人を照らす夕日のように、

 明るく、そしてあたたかい笑顔で、その緩む頬を動かした









            それでも、大好きやで











京太郎「…………」

憩「今通ったん、いつもの公園やね」

京太郎「そうですねー」

憩「もーそろそろ敬語なしでもええんやないの?」

憩「お父さんの挨拶もたったいま済んだことやし」

京太郎「いやぁ……なんか性分みたいなもんで、抜け切れないんですよね」

憩「まあ、お医者さんやから真面目に見えてええかもしれへんけど……」

京太郎「ん……じゃあ直してみるよ、憩」

憩「あーやっぱ京太郎くんには似合わんわ」

京太郎「いやいや、どっちやねん」

秘書「はいはい、お二人さん、もうすぐ着くわよ」

京太郎「秘書さんは十年たっても全然変わらないっすね」

秘書「余計なお世話よ」

憩「車で送ってもらってありがとうございますーぅ」

秘書「いえ、院長が憩さんのお体に負担をかけないように、と」

京憩(なんか誤解されてる!?)

京太郎(憩さんとはまだゴム無しでやったことないから、そういうのは先なんだけど……)

憩(照ちゃん、エイちゃん、郁乃さんはもうおるから、そろそろ欲しいなぁ……)

秘書「はい、到着。それじゃあ、また」

京憩「「ありがとうございました!」」

憩「……さっきな、京太郎に告白した日のこと思い出してたわ」

京太郎「俺もですよ」

京太郎「あのときの選択は、間違っていなかったのかな、って考えちゃいました」

憩「間違ってないと思うで」

憩「少なくとも、ウチは幸せや」

憩「みんなも幸せそうで、楽しそうやろ?」

憩「……これからみんなでもっと楽しくなるんやから、そんなこと考えたらあかんで」

京太郎「やっぱり、そうっすよね」

憩「あ、ウチが今日夕食作るん忘れてたわ」

憩「悪いけど、買い物行ってくるな」

京太郎「俺先に家に行ってますね」

憩「うん、みんなによろしく言うといてー」

京太郎「わかってますよー」

京太郎「しかし、ここに戻ってくるのも八年ぶりくらいかぁ」

京太郎「霞さんの代わりに大家になったけど、どんな人が住んでんだろ」

京太郎「とりあえず家に入るか」

エイスリン「京太郎?遅かったね」

京太郎「ただいま、エイスリンさん」

「パパおかえり!」

京太郎「ただいま、望」

「ただいまー!」

「ねーねーいまねーママとパパの絵、かいてたんだー」

京太郎「そうか、どれどれ」

エイスリン「上手く描けてるでしょ、絵の下手なお父さんとは違って私に似たのかもね」クスッ

京太郎「むっ、そんなことないですよ、目元だって俺そっくり、髪の毛も……」

「パパもママもきんぱつだよ?」

エイスリン「京太郎よりも髪が綺麗だから私よりね」

「ね!」

京太郎「ぐぬぬ……」

「ケイお姉さんはいっしょじゃないの?」

京太郎「ああ、憩さんは買い物に行ってるよ」

「きょうは私もごはんつくるんだー」

京太郎「そうか、そりゃ楽しみだな」

「きたいしててよね!」

京太郎「おう、頑張れ~」ナデナデ

「えっへっへ~」

エイスリン「病院はどんな感じだったの?」

京太郎「良い雰囲気でしたよ、お世話になった先生にも挨拶してきました」

エイスリン「そろそろまたお世話になりたいけど、どう?」

京太郎「もうちょい待ってくれるとありがたいかな……と」

エイスリン「たまにはみんな一緒に相手してくれてもいいのよ?」

京太郎(そっちのが尚更困るんだよなぁ)

京太郎「エイスリンさんは新作を描いてるんですか?」

エイスリン「うん、ここを描こうと思うの、もう少ししたら今日はやめるつもり」

京太郎「風邪はひかないようにしてくださいね」

エイスリン「はいはい」

京太郎(エイスリンさんが日本語を完全に習得して随分経つけど、前はカタコトだったんだよな)

京太郎(あの頃の俺からすると、今のエイスリンさんなんて検討もつかないんだろうな……)

京太郎「ただいまー」

「げっ」

照「げっ」

京太郎「お菓子抱えて何してるんだぁ?うちの作家さんとくいしんぼさんは」

照「輝を慰めるためにお菓子をあげようと思ってた」

「今日もおとこみたいな名前だなーってからかわれた」

京太郎「そうでなくてもお前らは食べすぎだ、ボッシュートです」

京太郎「テレッテレッ……おい放せ」グイッ

「放さない」

照「放してたまるか」

照「「このお菓子」」

京太郎「そんな川柳いらないから!そんなんじゃ二人とも太るぞ!」

照「輝がお腹にいたときと変わらないから、どうでも……」

「母さんは太らないタイプだったから、別に……」

京太郎「お菓子代がかさむんだよぉ……」

照「そろそろ新作書ける、ついでにタイトル戦もあるから大丈夫」

京太郎「本当に稼いでくるから何ともいえねぇ」

「私もしょうらい母さんみたいに年中家にこもっておかし食べる簡単なしごとする」

京太郎「いやそれダメ人間の一歩手前だから、やめておきなさい」

照「失敬な、たまに外にもお菓子を食べに行く」

照「この間駅前にできたクレープ屋さん行って来た、おいしかった」

「ずるい、なんで私をさそってくれなかったの」

照「京と一緒に行って来たから、輝は誘えなかった」

「それは……仕方なくもなくもなくもない」

京太郎「どっちかわからん」

照「京は莫迦だなぁ、四重否定だからすごく強い肯定、京は莫迦だなぁ」

京太郎「そんな二回も言わなくていいからな!?」

照「ふふん、隙あり」グイッ

「逃げるー」トテテ

京太郎「おいィちょっと待てぇぃ!」



京太郎「だぁーっ、疲れたぁー」

咏「ふぁぁ、よく寝たー」

京太郎「今の今まで寝てたのか?」

咏「そーそー、10時に起きたんだけど、コロッと寝ちゃって15時に起きたけどまたコロ~ッと寝ちゃってね~」

咏「17時となると、休日無駄にした感じが凄いんだよねぃ」

京太郎「そんで目ぇ覚まそうと縁側に来た、と」

咏「お前らうるさすぎるんだよ、ちょっとは労働者気遣えっつーの」

京太郎「れっきとした労働者の郁乃さんも十分うるさいけどな」

咏「京太郎が私を鳴かせてくれればもうちょい疲れも取れるんだけどねぃ、肌も綺麗になるっつうし」

京太郎「その効果はよくわからんが、咏は可愛いと思うぞ!」

咏「もう26歳なのに可愛いはどうかと思うんだよねぃ、瑞原プロはあの様だろ?」

京太郎「早く誰か貰ってやればいいのになぁ……」

咏「つーわけで、そろそろ私を大人にしろー!」

京太郎「大人っていっても、十年前と何も変わらないじゃん」

咏「こー見えても身長2cm、胸も1カップ増えたんだぜぃ」

京太郎「ごめん、よくわっかんねー」

咏「なんなら触って確かめてみるかぃ?おっ?」

京太郎「おっさんか、少しは慎みというものを……あっ、ちゃんと慎み深かったな」

咏「おぅい?今どこ見ていったぁ?」

京太郎「わっかんねー、ぜんっぜんわっかんねー」







郁乃「おとん~先に帰ってたんやな~」

「おとんただいま~」

京太郎「おかえりなさい」

郁乃「お風呂もう入ったん~?」

京太郎「たったいま咏と入ってきたところですよ」

郁乃「ほな侑佳もおとんと入りいこな~」

「わ~い!」

京太郎「ちょっ、話聞いてました!?もう入ったんですよ!」

郁乃「ま~そんなん構わんって~」

京太郎「俺に訊いた意味どこ行った!?」

「おとん~お風呂~」グイグイ

郁乃「は~や~く~」グイグイ

京太郎「どこにそんな力がぁ~~~~~っ!」ズルズル




「おとん~あたまあらってーな」

京太郎「ちゃーんと目は閉じてろよー」ワシャワシャ

「は~い」

郁乃「京太郎くんのおとんも大分様になってきたな~」

京太郎「これから一緒に住むことですし、もっと頑張っていきますよ~」ワシャワシャ

郁乃「ほな、あと二人くらい欲しいな~」

京太郎「子どもの前でそういう話はやめましょうよ」

「どういう話~?」

京太郎「なんでもないぞー」

「なんや~なんでもないんか~」

郁乃「今ならおっぱいも大きなっとるし、お母さんプレイもできるで~」

京太郎「いや、今は出ないでしょうが」

郁乃「え?出るで?」

京太郎「マジで!?」

郁乃「試してみる~?」

京太郎「ええ、是非!」

「おとん~?」

京太郎「って、何させるんですかもー!」

郁乃「ちぇっ、あとちょっとやったのにな~」

「目ぇとじるのつかれてきた~」

京太郎「今から流すからもうちょっち待ってろ~」シャー

郁乃「次は私の背中流して~」

京太郎「今度は自分でやってくださいよー?」

郁乃「そう言いながらも洗ってくれるところが大好きなんやで~」

京太郎「そういうこと言うからやりたくなるんですよ」



憩「はーい、カレーできたでー」

「私がサラダ作ったんだよ、えっへん!」

照「甘口……甘口はないの……」

「母さん、みんな中辛まで食べられるんだよ……」

照「くっ、しくじったか……」

咏「辛さ調整スティック?なんての買って来たぜぃ」

照「三袋もらう!」ドバァー

京太郎「あ、バッカお前……」

郁乃「冷める前に食べよか~」

「いただきま~す」

照「いただきます」モグモグ

照「…………っ!」

京太郎「辛さ調整って辛くすることしかできないからな、あれ」

照「咏に騙された……」

咏「へへーん、そっちが勝手にだまされたんだろ~」

エイスリン「二人とも喧嘩しないで、ご飯は仲良く食べましょ?」

咏「へいへーい」

照「ぐぬぬぅ……」

郁乃「憩ちゃんも望ちゃんの料理も美味しいなぁ~」

「ほんまやね~」

憩「そう言うてもらえると、腕によりをかけた甲斐があるってもんや」

京太郎「いやぁ、ほんっと美味いっすよこれ!」

憩「そう?そんなに褒めてくれるんやったら……ご褒美とか、欲しいなぁ」

京太郎「ご褒美ですか?」

憩「一番手っ取り早いのは……ほら、わかるやろ?」ツンツン

咏「いやいや、京太郎と今夜寝んのは私だから邪魔すんなよな」

憩「そんなん誰がいつ決めたんや?何月何日何時何分何十秒地球が何回まわった日?」

咏「さあ?知らんけど」

「憩お姉ちゃん、こどもみたいだね」

「せやね~」

咏「とーにかく!京太郎は私と寝るんだよ!」グイッ

憩「ちゃうもん、ウチが寝るんやー」グイッ

京太郎「喧嘩は止めてー♪」

エイスリン「京太郎は私と寝るのよ」グイッ

京太郎「二人を止めてー♪」

照「違う、私と」グイッ

郁乃「ほな私も私も~」グイグイ

京太郎「やめてって言ってるでしょうがぁー!」






 俺がここを初めて訪れてから、もう十年の時が経つ

 荒川病院を継ぐべく、某国立大学医学部へ進学し、医者となった俺は霞さんの後を継いでここの管理人になった

 照はプロとしては下火となったものの活動は続けているが、今は主に作家活動をして稼いでいる。その稼ぎの大半はお菓子に変換されていくのは言うまでもないだろう

 憩さんは荒川病院で看護師として働いている、地元の患者さんには老若男女問わず人気があるらしくお義父さんもそれを誇りに思っているようだ

 咏も今となっては立派なOLで、お義母さんの会社を継ぐために働いている、会社帰りにコンビニで酒を買おうとするが毎度毎度店員に高校生だと誤解され買えずじまいでいつも愚痴をこぼしている

 エイスリンさんは自由気ままな人気画家で、日中は絵を描きながら我が家の娘三人の面倒を見てくれている。これ以上に無いまでの嫁さんだと思う

 郁乃さんは教員免許を取得し、三箇牧高校に勤めて麻雀部の顧問をしている、年長者でありながら責任感の無さは相変わらずだ



 憩さんの言う通り、こうやってみんなで笑いあえて、飯を食べているんだから、俺の答えは間違っていなかったんだと思う


 娘三人が家族に加わった後でも、この思いは変わらなかった


 こんな未来をずっと前の俺は望んでいて、期待していたんだから、きっとこの先もこの思いは変わらないんだろう


 これから何があっても、何も無くても、ずっと変わらないんだろう


 恋しあいながら


 愛しあいながら


 笑いあいながら


 いつか終わるそのときまでずっと


 ずっと、これから先も、ずっと



 俺たちはまた、ここで生きていくんだ



 ――――そう、ここで、この場所で








 京太郎「清々荘にて」   












カン!