今年は奇しくも新規部員を逃し、あわや部から同好会に格下げかと思ったら過去の実績と私の輝かしい栄光のおかげで難を逃れた。

オリンピック優勝がこんなところで役に立つなんて……

何かの役に立つかなと思って取っておいて良かった。

部室に向かうと既に生徒達が待っていた。

私に気付いた室橋さんが口を開く。


「で、どうでしたか?」


「あ、うん、何とか部として続けられるみたい。」


「そうですか、それはよかったです。」

「部員確保できなくて団体戦に出れない上に部としても存続できなかったら先輩方に顔向けできないじゃないですか。」


「あっはい。」


部長の笑顔がとても怖い。

それもこれも原因は私がやらかしたせいなんだけど。

そこで私は言い訳や言い逃れを考えて取り繕う。


「でもでも、今年のインターハイは個人戦だけだけどそこで活躍しておけば部員が中途入部して秋季やスプリングで団体戦が……」


「今までインターハイ以外の団体戦に出れた例しがなかったじゃないですか。」

「まあ今年はそのインターハイすら出れていませんが。」


「うう……ごめんってば。」


あっさり返されたあげく薮蛇で更にダメージである。

13も年下の教え子に情けない話だ。

そこに横から口を挟む人が。


「別に私は元から個人戦だけでも構いませんでしたよ。」


「え、そうなの?」


「はい、団体戦に出れればそれで良かったですけれど私にとっては個人戦のほうが大事なので。」






そう加藤さんがさらっと言うと卓に着いて打つ準備を始める。

それを見た夢乃さんが自分も、と用意をする。

最後には室橋さんも諦めて卓に着いた。

加藤さんがこっちを向いて言い出す。


「先生、早く打ちましょう、個人戦まで時間が無いんですから。」


「焦らなくても加藤さんたちなら十分優勝できると思うよ?」


「勝ちたい相手が出来たんです。」

「それもすごく強い相手です。」


「ああ、その人に負けたくないんだ。」


「ええ、『負けたくない』ですから。」

「絶対に。」


加藤さんからは言い知れない気迫を感じた。

一体何が彼女をここまで駆り立てるのか。

勝ちたい相手とは誰なのか、私には知りようの無いことだった。







事務所での話。

私が事務所に向かい、咲ちゃん達と談話していたときのこと。


「そういえば最近京ちゃん見ないですね。」


「ん? ああ、京太郎君なら社長と一緒に色々回ってるみたいだよ。」


「へぇ~、最近会ってないから何しているのかと思ったらそんなことしていたんだ。」


照ちゃんが気の抜けた返事をしながらお菓子を食べている。

彼は仕事と勉学の両立しないといけないから大変である。

勿論大人としてサポートはしているけどそれでも本人がしないといけないことはごまんとあるから多少顔を合わせなくても仕方ない。

でも福路さんが居てよかった。

私だけだと照ちゃんや咲ちゃん、片岡さんの面倒は見切れないからね。

その後、社長と京太郎君が帰ってきたあと京太郎君は咲ちゃん達のところで談話し始めた。

社長は帰ってきてからすぐに私の元へ来て仕事の打診をしてくる。


「実は今度のインターハイの仕事なんだけど……」


「解説ですか? 別に良いですけど。」


「いや、それもあるけどそれとは別件でもう一つあるんだ。」

「それに関しては京太郎君も絡んでいる。」


「え?」


只でさえ忙しいのに更に仕事を積むのか。

まぁ彼を売り出したくて半ばアイドルみたいな感じみたいになってるのはわかるけどさ。

顔悪くないし、実力あるし男性の部の花形プレイヤーだから営業したくなるのも仕方ない。

ただ、先輩としてはまだまだ仕事面が気になるので補佐するためにも受けて置こう。


「わかりました、京太郎君が関わってるなら私も受けます。」


「そうか、ありがとう。」

「後で仕事の詳細を教えるから読んでおいてくれ。」

「あと、インハイの仕事だからって暴れすぎないように。」


「わかってますって。」


社長に釘を刺された。

顧問として暴れまくった過去と解説としてちゃんと仕事した実績を混ぜて考えないで貰いたい。

ちゃんと学校は学校、プロはプロとしてやりますから。

多分。









今年も合宿の季節がやってまいりました。

とは言っても今回学校でお泊り会をするだけですが。

部が同好会に降格しなかったとは言え人数が減ったのと予算確保に回せる人手が減ったのでこの体たらくだ。

きっちり予算を確保していた歴代の部長さん達には本当に頭が下がる思いです。

土日の一泊二日だけどそれなりに数は打てるはず。

というか私含めてきっちり4人なので休めない。

今更遅いがチームから誰か呼んでおくべきだった。






そして時間は流れてついにインターハイ予選だ。

一応敵情視察も含めて団体戦も見ておいたのだけれど大会の雰囲気と言うか選手の雰囲気がおかしかった。

何と言うか皆笑顔。

皆して笑顔で楽しそうに打っている。

中には感涙を流しながら打ってる人も。

涙を流していたり晴れやかな笑顔をしていたのは大抵二年生三年生とコーチ・監督枠の人たちばかりだった。

久保さん何て仏のようなスマイルでびっくりした。

貴女私の知っているところでは鬼のような形相だったりかなり怖い感じでしたよ?

人って変われば変わるもんだね。





「あ、見てください! 須賀ぶちょ、先輩が解説してますよ!」


夢乃さんの声に釣られてモニターのほうを見る、そこには金髪の彼が映っていた。

そういえばあまりに会場の異様な雰囲気で吹っ飛んでいたけど、今回実はウチのチームからも解説が来ている。

仕事のオファーだから仕方ないけど京太郎君が何故か女子の方の解説をしているのだ。

まだプロに入ってから日の浅い彼に男子なら兎も角何故女子に?

と疑問に思っていたけど周りに聞いたら理解した。

実は彼は女子アナや同業者からの人気が高いのである。

実況や解説を回す現場の人間から人気が高いと言うことはその分オファーも多い。

しかも大体二十代後半からの要望が強かったとのこと。

要は行き遅れの心配をしたアラサー女子共が将来有望な青年に唾を付けておこうとしていたのである。

希少価値というのはそれだけでも目立つし有難がられるものだ。


「それにしても大丈夫かな。」


「何がですか?」


「あの子解説の仕事なんて初めてなのにちゃんとできるのかなって。」


「大丈夫ですよ、今回私がついてますんで。」


「あれ、靖子ちゃんも来てたんだ。」


「ええ、私は男子の方の解説だったんですけど早めに終わったんでこっちに回ってきました。」

「京太郎の奴初心者にもわかりやすいように丁寧に解説してますよ。」

「余程下級生に教え慣れてるのかかなり優しい口調ですけどね。」


解説と言う仕事は自分が理解して且つ人に理解させる仕事だ。

だからデジタルの理論なり牌読みを理解していないといけないし、噛み砕いた説明をするためには選手の心境なども読まないといけない。

優しい口調というのは普段の彼が如何に後進の育成に力を注いでいたのかを表している言葉だ。

部長としての経験がこんなところで役に立つとはね。





京太郎君の解説をBGMにしながら試合を見ていく。

笑顔の団体戦が始まっているがあまりぱっとしない。

風越女子は順当に進んでいるが平々凡々と言ったところか。

それ以外は言っては悪いが誰かの言葉を借りれば有象無象だ。

そこいらに埋まっているじゃがいも同然である。

食べるほうとしては美味しいけど。








団体戦は特筆することも無く終了し後日の個人戦に移っていく。

だけども何のことは無い、地方の個人戦なんてのにいきなりすごい子なんて出てくるわけでもないのだから。

ウチの生徒達が暴れて、はい終了。

個人戦のTOP3はうちが頂いた。

それにしても夢乃さんは能力的に極悪度が増した気がする。

性格はいいんだけどね。

レパートリーが増えて真似出来る範囲が増えたからだろうね。

それにしても個人戦は団体戦と打って変わってお葬式モードだった。

天国の団体戦、地獄の個人戦。

どうしてこうなった。








個人戦が終わった後、帰りにラーメンを食べに行った。

最近気になることがある私はとある言葉をふと洩らす。


「この時間に食べると太りやすいんだよね。」

「あ、大将、私ラーメン小で。」


「あいよ。」


「……私もラーメン小で。」


「私も……」


「マホもです。」


三人とも一様に注文していく。

皆、少食だなぁ。

夢乃さんは本当に少食っぽいけど。

私と一緒に御腹周りを気にしようよ。






皆を送り届けた後、家路に着くととある方から連絡が来ていた。

私は家に戻った後に折り返し電話を掛ける。


『もしもし、小鍛治か、オレオレ。』


「先輩、新手の詐欺ですか?」


『え、なにそれこわい。』


ナイスバディ先輩に掛かった電話。

最近再会してからは時折こうして連絡を取っている。

情報交換や子供の育て方というか接し方とか。

といってももう結構慣れてるんですけどね先生になってからそれなりに経ったし。

その後の話の流れで私の愚痴が始まる。


「それでその人結婚したんですよ、私より先に。」


『成るほどね、仕方ないな。』


「仕方ないって何ですか、先輩も私と似たようなもんじゃないですか。」


『え、そうなの?』


「そうですよ、一緒にこのまま独身のまま売れ残りましょう。」


『え、あれ、言ってなかったっけ?』

『俺結婚したんだよ、地元の幼馴染と。』


ブルータス、お前もか。

先輩の言葉を受けて視界がぐにゃりと歪む。





『悪い、悪い。』

『多分言うの忘れてたと思うけど今は子供も居るんだわ。』


ここでまさかの追い討ち……!

考えてみれば当然……!

男勝りだがふとみせる女らしさ……!

女の私でもつい見てしまうほどのスタイル……!

そして私からの理不尽な仕打ちでも笑って流せるくらいの器量持ち……!

世の男が放って置く訳が無い……!


『でも気にすんなよ、人生結婚が全てじゃないぞ。』


先輩の慰め……! 要らない……!

そんなの上っ面の慰め……!

麻雀で勝てても人生で負けたらダメ……!

女は例え仕事で勝ち組になっても結婚出来なかったら負け犬同然っ……!

もしかしたらと思っていたけど現実は非常……! 残酷……!

何だかもうその日は飛散したい気分だった







先輩曰く結納婚姻は地元ですると決まっていたらしくそれなら身内だけで済ませてしまおうとなったらしい(と言っても霧島の身内だけでも相当多いとのことだが)。

その後、簡素だけど各方面の親しい人に葉書を認めて送ったらしいのだが私は知らない。

ほら、ナイスバディ先輩は悪く言うと大雑把だし。

うちのお母さんも悪く言うと適当で私は悪く言わなくてもズボラだ。

だから見逃してても仕方ないし届いてなくても仕方ない。

でも数年前から来ている友人達の結婚・出産葉書を漁って見る。

写真が写っている物はどれも幸せそうで独り身としては見るのが辛い……

しかし漁っても漁ってもナイスバディ先輩の葉書が見つからない。

ここで一つ私は重要な事に気付いた。



私、先輩の本名覚えてない。



そりゃ葉書なんて見付かるはずも無い。

先輩曰く写真載せてないらしいし。

今更先輩の名前なんでしたっけなんて聞けない。








インターハイ予選が終わり夏休みのなかのとある日。

私は家に帰った後ゴロゴロとしていた。

学校は無いけど部活はあったので半ドンだけやって事務所に寄ってから家に戻ったのだけどすることがなかったのだ。

しかし疲れていたのかそうしている内にいつの間にかうたた寝をしてしまい微睡みから抜けた頃にはすっかり辺りが暗くなってしまっていた。

また無駄な時間を過ごしてしまったと後悔していると家の戸が叩かれる。

私が戸を開けるとそこには誰も居らず、ただ「なき声」がした。

その声がどこから聞こえていているのかと姿無き声を探していると須賀さん宅の間にある茂みからなにやら物音が聞こえる。


「きゅるるる。」


「あ、何だカピちゃんかぁ。」


およそ抜け出したであろうカピちゃんがうちに来ていたみたいである。

カピちゃんとはよく遊んだり可愛がったりしていたしカピちゃんの小屋と私の家は目と鼻の先ではあるが家に来るのは珍しい。

顔だけ出したカピちゃんは三回ほど頭を振るとお辞儀のような格好をしてまた茂みに入って戻っていった。

一体どうしたんだろう、遊んでほしかったのかな。










翌日、カピちゃんは息を引き取っていた。



たまたま非番だった須賀さんがカピちゃんの異変に気付き動物病院に運んだけど病院に着く頃には既に事切れていたらしい。

死因は老衰、大体12年くらい生きてたけどカピバラとしては長生きだったんだろう。

天寿を全うしたとは言え京太郎君は目に見えて気落ちしていた。

須賀さんは悲しくないわけではないのだろうけど死に直面しすぎていたのかあまり感情を表に出していない。

三人でカピちゃんの遺骸を埋葬してあげたあと須賀さんが私に耳打ちしてきた。


「すみません、京太郎のことお願いします。」


須賀さんが申し訳なさそうにそう言うと会釈して去っていった。

残った私と京太郎君。

彼は俯いたまま何も言わない。

私も何も言わずに背中を擦ってあげた。


「……すいません。」


「別にいいよ。」

「悲しいときは泣いてもいいよ。」


「泣かないっす。」


「何で?」


「だって男が泣くのは格好悪いじゃないですか。」


「確かに今は京太郎君にとって格好悪く思えるかもしれないよ、でもね。」

「私はそれ以上に貴方の格好良い所を知っているから。」


「健夜さん……」

「……じゃあ、ちょっとだけ泣いてもいいですか?」


「うん。」


彼の顔を見ないようにして胸を貸す。

私は何も言わずにただただ背中を擦った。

カピちゃんの死。

だけどあの子は家に来た。

もしかして昨日カピちゃんが来たのって最期の挨拶だったのだろうか。

今は「なき声」が耳に残っている。











長い休みも明けてインターハイに出場するために都心に向かっていた。

私は生徒を監督しないといけないので京太郎君達とは一緒に行けないけどそこはチームメイトがフォローしてくれるだろう。

現にこの間だって事務所に出たときに京太郎君の異変に気付いた咲ちゃん達がそれとなく気遣っていたもん。

チームには靖子ちゃんも福路さんも咲ちゃんも照ちゃんも片岡さんもいるのだ(最後二人はカウントできないかもしれないけど)。

京太郎君は気遣われたことに対してこんな事を言っていた。


「俺ってそんなにわかりやすいですかね?」


「麻雀以外だと割と。」


「もっとしっかりしないとなー。」


「京太郎君は年の割りに十分しっかりしていると思うけどね。」


照れ隠しにそんな会話をしていた。

案外この世界では私が居なくても彼の周りは上手く回っているのかもしれない。

そもそも本来なら長野とは関わっていないはずなので上手く回らないほうがおかしいのだけれど。








現地入りして開会式に出て個人戦まで待つ。

その間ちゃんとマークするべき相手はマークした。

うちは今回団体戦が無いので解説の仕事をしながらだったけど。

それより京太郎君が団体戦の解説の仕事をしているのが気になる。

アナウンサーの佐藤さんに粗相をしないか不安だ。

なにしろ彼女は胸が大きいからね、年齢が10歳差あるから大丈夫だと思うけど。

佐藤アナは今年で28ですってよ。

アラサーですよ、アラサー。

みそじょしの私が言うのもなんだけど。

みそじょし、今何となく思いついた言葉。

三十路と女子をくっつけた、決して味噌っかすの味噌ではない。

三十代ならまだ女子だしおっけーおっけー。





個人戦に入ると永水女子の石戸明星選手と十曽選手が要注意と言ったところか。

逆に言ってしまえばこの二人にさえ注意すればいいのだ。

その二人も加藤さんや室橋さんに掛かれば問題ないだろう。

夢乃さんはまぁ運が悪いと負けないかもしれないけど勝てないかも。

彼女は錯和は完全になくなって腕は上がったし能力の幅も増えたけど時折残念な判断をすることがあるからね。

コピー能力があっても使いどころを間違えたり、使い方がワンパターンだったり、コピーだと役に立たない能力を使ったり……

そこさえ何とかなれば一級品なんだけれども如何とも上手くいかない。

こればっかりは他の能力系専任の人のほうがいいのかな?

例えば熊倉さんとかナイスバディ先輩とか、あとかつての赤土さんとか。

主にオカルト系を扱ってる方々。

私は先生をやっていてなんだけどお世辞にも教えるのが上手いとはいえない。

一流のプレイヤーが一流の指導者とは限らないのだ。

これは逆もそうだけど、大概どちらかの方に才があることが多い。

もし私が一流の指導者に見えるのなら多分私はプレイヤーとしては超一流と言うことだろう。









終始朗らかで笑顔の絶えない団体戦も個人戦に入れば空気が変わる。

ここからが本当の地獄の始まりと言わんばかりの空気。

多分県予選で派手に暴れたのが耳に届いているのだろう。

戦々恐々と言った雰囲気である。

インターハイ個人戦はあっさりと終わる。

最早実力的に出来レースとか言われているけど頑張れば勝てなくも無いと思うんだよね。

順位は加藤さん一位、室橋さん二位。

夢乃さんは不運が重なり五位。

では三位・四位は誰かというと石戸明星選手と十曽選手である。

手牌事故と振込み事故が無ければ三位は確実だっただけに夢乃さんは涙目になって悔しがっていた。

君は来年頑張ろう、来年麻雀部があればだけれど。

そしてそれと別に今回派手に暴れた加藤さん。

今まで京太郎君や咲ちゃんの陰に隠れて目立たなかったけど世代が変わって日の目を見た彼女にも二つ名が付いた。


スチールハート。

これが今の加藤さんについている二つ名だ。


盗むのstealと鋼のsteelを掛けているのだろう。

鋼のような心臓で大胆な打ち方をして見ている者のハートを盗むから。

心臓の弱い彼女に付いた皮肉のような二つ名である。










個人戦が終わり、その後に来るのはエキシビジョンマッチ。

毎年恒例のインターハイの目玉だ。

エキシビジョンは毎回個人戦の一位、二位の男女とプロが闘牌するのが通例である。

今回の出場するプロの一人は私です。

実は事務所のからオファーが来ていた仕事はこっちがメインだった。

ただそれを始まる前に告知した結果、私が出場すると聞いた男子個人戦優勝者が突然の腹痛を訴えて棄権した。

明らかな仮病、失礼極まりないね。

では男子の準優勝者はと聞いた所「小鍛治プロと打つなと家訓にあるんで。」とか抜かして辞退していた。

そうか、家訓なら仕方ないね。

で、結局女子の個人戦の優勝者・準優勝者がエキシビジョンに出ることになったわけだけど……

もう一人のプロについて私は聞いてない。

そしてその答えは今知ることとなった。

卓に着くとき、見慣れた彼がやってくる。

そして私に一瞥した後、口を開く。


「健夜さん、今日はよろしくお願いしますね。」


「う、うん。」


彼の何とも言えない気迫に私は気圧されてしまう。

一体何をそんなに気負っているのか。

そしてその後やってきた加藤さんと室橋さんも挨拶をしてくる。

室橋さんは面子を見た後少々顰めた面をしながら卓に着く。

加藤さんも一言呟いてから席に着く。

誰に対して言ったとも取れないくらいの呟きだったがその言葉にはとても強い情念を感じた。



「私、負けませんから。」



妙に頭の中に残る言葉だった。















始まった対局。

公式の場ではあるが何とも見慣れた面子なわけで。

見事に身内の勝負になってしまった、それもこれも個人戦の男子が逃げたからだ。

ところでこの勝負、生徒に華を持たせるべきか、後輩に華を持たせるべきか。

それとも私が勝ちに行くべきなのか。

なんとも悩ましい問題である。


東一局。


悩んだ私はとりあえず様子見と行くことにした。

京太郎君は気炎を揚げてガンガン攻める。

加藤さんもそれに追随するかのように反応している。

室橋さんにはあまり動きが無い、私と同じく状況が動くまで静観しているのだろうか?


「ロン、8000。」


最初の和了りは京太郎君だった。

表情には出ていないが室橋さんの苦い顔が目に浮かぶようだ。

今の彼の能力的には一度波に乗られると止めるのは容易ではないだろう。

つまり彼に和了らせないか奇襲か何かで無理矢理にでも止めないといけないのだ。

さて、彼の後輩たちはどう出るか見物だ。


東二局。


「ロン、12000。」


僅か五巡目での出来事。

今度は加藤さんが毟られた。

明らかなオーバースピードな上しかも跳満。

高校生じゃ対応に苦しむだろう。

親も流されて踏んだり蹴ったりである。

しかし後輩とは言え容赦なく毟っていくね。





東三局。


周りは全くと言ってもいいほど手が進まない中、彼は悠々と和了っていく。


「ツモ、4000・8000。」


室橋さんには痛い親被り。

これで一番点差が近い私と彼でも40000点差になった。

爆炎を吐いて加速しながら辺りを火の海に沈める。

彼からは何か鬼気迫るものがある。



東四局。


彼の親番であるが二人じゃ流せないだろうね。

私はまだ動く気無いし次局まで待っていることにした。

すると時間を待たずに宣言が出てくる。


「ツモ、4000オール。」


これで彼は73000点。

私は17000点のほか二人は5000点ずつ。

さて、そろそろ動き始めますか。





東四局一本場。


ついに動き始めることにした私だがいまいち考えが纏まらない。

誰に勝たせるか、もしくは私が勝つかを未だに決めていないのである。

私が勝つべきか、それとも事務所の後輩に華を持たせるべきか。

はたまた事故を装ってウチの生徒を勝たせるのか。

傍から見たら多分相当悩んで打っているように見えただろう。

麻雀ではなく勝者を決めかねてだが。

私はそのくらい無駄に悩んで打っていた。

悩んで打っているうちに麻雀のほうは無意識でやっていた。

ふと自分の手牌を見て気付く。

そして思わず癖で口に出してしまった。


「あ、ツモ。」


しまった。

つい言ってしまった。

しかし和了宣言してしまった以上点数の申告をしないといけない。

私は自分のしたことを失敗した思いながら点数を口にした。


「……8000・16000は8100・16100です。」


思いがけぬ形で試合終了。

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした京太郎君。

がっくりと肩を落とし溜息をつく室橋さん。

室橋さん共々トんで顔面蒼白な加藤さん。

つい役満出しちゃった。

二位だけどまぁ連対だからいいか。














何かあっさりとエキシビジョンが終わってしまった。

が、終わってしまったものは仕方ない、表彰式やら閉会式やらがあるのだから次に切り替えていこう。

そう思って挨拶して卓を後にしようと思ったのだが加藤さんの様子がおかしい。

彼女の息が荒く見るからに倒れそうで立っているのもやっとのようだ。

先ほどから顔面蒼白だったとは言えこれはちょっとやばい。

すぐに医務室に連れて行こうとして手を引いて廊下に出た矢先、引いていた手が離れて後ろから彼女の倒れる音がした。


「加藤さん? 加藤さん!」


私の呼びかけにも反応せずただ苦しそうにしている彼女。

正直私ではどうしようもない。

私では彼女を医務室に運ぶ力はないのだ。

私が人を呼びに行こうとした時、袖を掴まれた。

きっと何か私に伝えたいことがあるのだろうか。

それとも一人では心細いから行くなと言いたくて掴んだのだろうか。

どちらにせよ人を呼ぶか携帯を取りに行かないといけない。

そう思っていたときに横から声を掛けられる。


「健夜さん、俺がやります。」


気付いたら金髪の彼が横に居た。

そしてそのまま加藤さんに人工呼吸を施す。

最近はなかったとけど加藤さんはよく練習中とかに倒れその度に人工呼吸されていた。

しかし今回は無意識とは言え久しぶりに私が本気を出した結果彼女が倒れてしまった。

彼がたまたま居合わせたからよかったものの人が居ないときにこれが起きていたら彼女は本当に危なかったかもしれない。








京太郎君が人工呼吸をした後、彼に抱えられて医務室に運ばれた加藤さん。

一応暫らく安静にして居たおかげか加藤さんは目を覚ました。


「あの、ここは?」


「医務室、試合の後に加藤さんが倒れたから京太郎君が運んでくれたんだよ。」


「そうなんですか……」


加藤さんの顔に少し翳りが見えた。

京太郎は何も言わず去ろうとしたとき、彼女が引き止めた。

それはまるで一縷の望みを掛けるような、そんな風に感じるか細い声だった。








引き止めた彼女が彼に聞いた。

動いた彼女の体重で医務室のベッドが微かに軋む。


「なんで先輩は、私を助けてくれるんですか……?」

「私のこと、放って置いてくれればいいのに……」


「……大事な後輩だからな。」


顔すら合わせない彼。

相当後ろめたいことがあるのだろうか。

彼女が淡々と問う、その目元は微かに煌いていた。


「嘘でも『好きだから』って言ってくれないんですね……」


「……悪い。」


「良いんです、知ってましたから……」


彼の苦々しい表情と、彼女の諦めたような表情。

ああ、何となくだけどわかった。

わかってしまった。

きっと卒業の日のアレは告白だったんだ。

彼女が再びベッドに潜ると京太郎君に頼み事をした。










「……先輩、お願いがあります。」

「私が眠るまで……手を握って貰っていても良いですか?」


「……ああ。」


彼は彼女の手を握り、布団を掛け直してあげる。

まるで宮永姉妹や片岡さんにするかのように。


「先輩……もう一つお願いがあります。」


「何だ。」


「これからも変わらず、貴方をずっと好きでいても良いですか……」


「…………」


彼は何も言わない。

何も言おうとしない。

恐らくだが彼は彼女を振ったのだから、何が言えようと言うのだろうか。

何も言えない彼に彼女は笑顔で返す。

最初から自分の問いに対し沈黙が帰ってくるとわかっていたかのように。


「では勝手に想ってますね。」

「そのくらいのわがまま、許してもらっても良いですよね……」





彼女の瞼が静かに下りる。

暫らくすると彼女は寝息を立てていた。

京太郎君は握っていた手をベッドの中に入れてあげた後真剣な顔つきで口を開く。


「健夜さん、改めてお話があるんで後で時間貰っていいですか?」


「ここじゃダメなの?」


「大事な話なんで。」


「そっか……うん、わかった。」


「健夜さん、俺は待ってますから。」


そういうと彼は医務室から出て行った。

残っているのは私と寝ている彼女だけだ。

私も少し加藤さんの様子を見た後に戻ろうとしたら声を掛けられた。


「先生。」


「加藤さん……寝た振りだったの?」


「先輩がいると言えないこともありますから。」


「私に何か言いたいことがあるんだね。」


「ええ。」

「今から言うのはただの懺悔みたいな物で先生が特にどうこうって話ではないので気にしなくてもいいんですけど。」

「まあ、その、ちょっとした愚痴です。」


加藤さんが何か前置きをしておく。

そして一呼吸置いてから話し始めた。





「この間、負けたくない相手が出来たって言いましたよね。」


「うん。」


「あれ、実は今回のエキシビジョンのことだったんです。」

「先輩、『今回のエキシビジョンでけりをつけたい』って言っていたんです。」

「先生にも出てもらうような口ぶりでしたし。」

「先輩の『けりをつける』の意味、何となくわかってましたから。」

「それで、先輩の邪魔したくなっちゃいまして。」

「……嫌な女ですよね、私。」


「もしかして卒業式の日に?」


「見られていたんですね……」

「……ええ、卒業式の日に私、先輩に告白したんです。」

「でも、振られました。」

「そのときに先輩がインターハイで何をするか聞いていたんです。」

「私そのとき悔しくて先輩の第二ボタンとって逃げ出しちゃったんですけどね。」


そういった彼女は自嘲的な笑みを浮かべた。

無理して笑っているのがわかる。

私は聞いてしまった。

彼女の核心を。


「やっぱり加藤さん、京太郎君のこと……」


「はい、好きですよ、先輩が。」

「勿論、LIKEじゃなくてLOVEのほうで。」

「って、さっき先生の前でも先輩に言ったじゃないですか。」





「これ以上のことは教えません。」

「あとは先生が自分で考えることです。」


それを言うと彼女はベッドに潜って寝てしまった。

言葉の真意はわからないが自分で考えないといけないことなのだろう。

それから暫らく彼女の様子を見て医務室をあとにした。





事後処理とか人との付き合いやらで彼との対話が遅くなってしまった。

辺りはすっかり夜に覆われてしまっている。

しかし今夜は凄く綺麗な月が出ている。

こんなに月が輝く日には、小さな君を抱いて眠る夜を思い出す。


そういえばこっちの彼の力の本質は分かるけど、私が最初に会った彼の力は何だったのか。

魂の分化?

でも他の女子を真似る様な能力を持っていた。

としたら鏡が近いのかな?

でも只の鏡ではないような……

そこで彼の苗字はとても神話に深く係わっていることを思い出す。

神話で鏡と言えば三種の神器の八咫鏡。

でもこれは天照大神かその孫の物であって須佐之男命には関係ないのでは?

そういえば他にも鏡の話があった。

太平記か何かに載っていた水鏡。

須佐之男命が棚の上に置いた稲田姫が水鏡に映り、それを見た八岐大蛇が水の中に姫が居ると勘違いして八千石湛えた酒を飲み干すと言う話。

恐らくそれがあのときの彼の力、だと思う。

その水鏡に彼の姿を映すことによって分身を作ることが出来て尚且つ人の技を真似ることが出来た。

確かめられれば確実だけど今となっては確かめる方法など無いから只の推測で終わるけど。





考えても仕方ないことを考えていると京太郎君が待ってる場所に着いた。

そこホテルの屋上なのだが凄く見晴らしがいいところだった。

眼下にはネオンや街灯が煌びやかに灯されている。

京太郎君が私に気付いて話しかけてくる。


「今晩は、いい場所でしょう?」


「うん、いいスポットだね。」


「街も綺麗だけどここだと月が綺麗に見えるんです。」

「無駄な灯りが無いからなんですけどね。」


「それで、話って何かな?」


「……つまり『月が綺麗ですね。』ってことです。」


「はい?」


多分私の口から間抜けな声が出たと思う。

そのくらい唐突だった。


「俺、前に言いましたよね。」

「健夜さんが好きだって。」


そういえば言われたことがあった。

そのときはもっと軽い感じに受け止めていたけど。


「改めて言います。」

「俺は健夜さんが好きです。」

「一人の女性として。」





まさに青天の霹靂、嵐の神様らしいね。

少しくらい前兆があってもいいと思った。

例えばそれらしい態度とかサインとか。

いや、彼はサインを出していたのかもしれない。

ただそれを私が見落としていただけで。

今までの好きはLIKEの方だと思っていたし、LOVEのほうの行動は所謂昼ドラの茶番の延長くらいに思って流していたのかもしれない。

何よりそう思っていたのは私が『人が私に対する心の機微』について疎かった。

もっと正確に言うなら長い時間のせいで麻痺していたのだろう。


「前に返事は要らないって言いましたけど撤回します。」

「健夜さん、俺の事は好きですか。」


まっすぐ私のことを見つめる目。

私では彼のことをまっすぐ見れない。

私は伏目がちに聞いた。


「もしかして改めて告白してきたのって、加藤さんのことが関係しているの?」

「卒業式の日に告白されたんでしょ?」


「……関係なくは無いですね。」

「ミカに告白されて、告白される側に回って気付いたんです。」

「中途半端なままはよくないなって。」


「そうだね……」

「よくないよね……」

「でも私は……」


自分でも分かっているがはっきりしない態度だ。

彼のことは好きではあるのだが、だからと言ってそれが男女のものかと言われたら悩まざるを得ない。

そのくらい私の中の彼への気持ちはあやふやなのだ。

そんな悩んだ私を見かねたのか京太郎君は一呼吸してこんなことを言い出した。





「俺、今から健夜さんに抱きつきます。」

「嫌だったら拒絶してください。」


そういった彼の声は若干上擦っている。

彼にとって相当勇気を出して言った事だと言うことだろう。

今まで築いて来た関係が壊れる可能性を考慮して言ってるのだから当たり前なのかもしれない。

彼が軽く腕を広げてゆっくりと一歩ずつ歩み寄ってくる。

残り五歩。

四歩。

三歩。

二歩。

……一歩。



そして彼は私を抱きしめた。

とても暖かい彼の体。

夏とは言え屋上の夜風で冷えた私の体を温めてくれる。


「よかった……」


安堵したかのような声。

恐らく拒絶されなくてよかったと言う意味だろう。






だが彼に抱きつかれて気付いたことがある。

彼の腕は温かく心地よいものだ。

でも違和感があった。

多分私は彼に抱かれたいのではなく、彼を抱いていたいのだ。

もしかしたら、これから先、彼を男として認識できないのかもしれない。

それほどまでに私は、私と彼との思い出を綺麗にしすぎていた。







だから



私は……




「ごめんね。」



「勘違いだよ。」

「それは京太郎君の勘違い。」


彼の温かい腕から逃れ、そう言って逸らかした。

彼の顔を見れない。

怖くて直視出来ない。

もし君がとても悲しそうな顔をしていたら私は耐えられない。

彼の声が聞こえる。





「なんで健夜さん泣いてるんですか……」


私の頬を伝う雫。

私には泣く資格なんて無いのに。

泣きたいのは彼のはずなのに。


「健夜さん……もしかして俺じゃあ貴女と釣り合いが取れませんか?」


違うんだけど声は出せない。

涙声なんて聞かせられない。

違うの、私が君を拒否した理由は違うんだよ。

だって京太郎君に私のような女は似合わないもん。

私は京太郎君が好きだから、京太郎君にはより幸せになれる人と結ばれて欲しい。

ちゃんと幸せになれる可愛い女の子と一緒になって欲しい。

私のような汚く醜い女を好きになっちゃ駄目。

私が一緒になれないのは。

君のことが好きだから。

そしてなにより。

私の心が弱いから。

もし京太郎君と一緒になったらそれは幸せだと思う。

でも。

そんなに大きな幸せを貰ってしまったら、きっと私は壊れてしまう。


私は何も言わず彼を置き去りにしたまま逃げて、部屋に戻った。


結局私はいじけて、拗ねて、羨んで、そのくせ逃げ出して。

何も変わってない。





落ちたままでいればいいと思った夜の帳が開けてしまう。

次の日なんて来なくいいと思ったのに来てしまう。

鏡を見るとひどい顔だった。

それをメイクで誤魔化して生徒を束ねて長野に戻ることにした。

幸い彼とは顔を合わさずに帰ることが出来たがこの先どうなるだろうか。







明くる日、憂鬱な気持ちで事務所に向かう。

彼と会ったらどんな顔をすればいいのだろうか。

いつも通り過ごせばいいんだろうけどその自信が無い。

平静を装うことに努められればいいのだが……

事務所に入ると既に皆が居る。

いや、厳密には女子の部は、だ。

社長と数名の男子プロが居ない。

元々うちのチームは人数がそこまで多くないので欠員が出ると目立つ。


「社長とかはどうしたの?」


「社長はいつも通り京ちゃんと外回り。」

「他の人は知らない。」


「ふ~ん、どうしたんだろうね。」


気の無い返事をしたが内心ほっとしていた。

もし彼と会って気まずい雰囲気になったらとても辛い。

安堵した私の横で照ちゃんが黙っている。


「…………」


「どうしたの?」


「お菓子食べる?」


「え?」


「要らないなら別にいいけど。」


「あ、ありがとう。」


照ちゃんがそう言うと袋の中に入っていた御菓子をくれた。

どうやら気を遣わせちゃったみたいだ。





その後は適当に他チームと試合をして午後には事務所でまったりとしていた。

靖子ちゃんはカツ丼を頼み片岡さんはタコスを食べて照ちゃん御菓子を食べている。

咲ちゃんは読書をしていて福路さんは全員分のお茶を淹れてくれている。

そのうちカツ丼とタコスが切れたのか最初の二人はどこか行ってしまった。

私の隣で本を読んでいる咲ちゃんが小声で話しかけてきた。


「健夜さん、京ちゃんと何かあったの?」


「……よく分かるね。」


「何となくそうなんだろうなって。」

「京ちゃんとも健夜さんとも、付き合い長いしね。」

「多分お姉ちゃんと美穂子さんも気付いていると思うよ。」

「二人とも人のことよく見ているから。」


「うん……」


全く持ってその通りでした。

照ちゃんからお菓子貰うなんて相当だと思うよ。





「で、何があったんですか?」


お茶のおかわりを出してくれた福路さんが単刀直入に聞いてくる。

意外だった。

彼女はもうちょっと遠回し聞いてくる人間だと思っていたから。

普段の彼女は照ちゃんのフォロー役、気を遣う側で照ちゃんとは対照的な役割だった。

だけど今回は照ちゃんが気を遣っているから福路さんがズバッと来ているのだろうか。

若しくは福路さんがそう来ているから照ちゃんが気を遣っている?

何にせよいつもとは逆の立ち回りをしているのだ。


「……京太郎君から何か聞いた?」


私が恐る恐る聞いた質問に対し福路さんは首を振る。

単純に察せられたということだ。

そりゃそうだ、彼はそういうことを自分で話すタイプではないのだから。

とはいえ大体バレてるも当然なので観念して白状する。


「えっと、多分お察しの通りです。」


そのあと事の顛末を洗いざらい喋った。










「はぁ……」


「ふぅん。」


「…………」


三者三様の反応。

一人は呆れたような反応。

一人は何か納得したような反応。

そして最後の一人は無反応、というか無言。

まず福路さんが口を開く。


「京太郎君がかわいそうです。」


「うっ……」


「以前から好意を向けてたのにそれを悉く気付かれてなかったり。」

「一度は希望を持たせておいてそこから拒絶するなんて。」

「断るにしてもやり方や傷を浅く済ませる時期が有ったのでは?」


はい、聖女福路さんにそう言われたらぐうの音も出ません。

小さくなった私に福路さんは呆れているようだった。

普段性格の善い人にこういうこと言われるとかなり堪える。

そこへ今まで無口だった照ちゃんが口を開いた。


「健夜さん勿体無い。」

「京ちゃんの申し出を受けておけばこれからの人生安泰だったのに。」


私は別に恋愛を打算で決めてるわけじゃないよ!

と思わず言いかけたけど実際には客観的に見たら勿体無いのは確かなのだ。

最後に咲ちゃんが口を開いた。





「でも健夜さんの気持ちはわかるかな。」

「今までずっと家族みたいな感覚だったんだから急に言われてもピンとは来ないかも。」

「勿論京ちゃんの気持ちもわかるけど多分お互いのために気持ちの整理をする時間が必要なんじゃないかな。」


珍しく咲ちゃんが良い事を言ってるようで感心したが咲ちゃんの持っている本が恋愛小説だった。

完全に本に影響されてる気がする。

そこへ照ちゃんが口を挟む。


「時間が必要ってのもわかるけどそんなに時間は無いかもよ。」

「京ちゃんモテるかもしれないし?」

「あと健夜さんあと少しで31歳だし。」


京太郎君に関しては断言してあげなよ!

というか年に関しては触れないで!

とはいえ後が無いのも事実。

悲しいかな、嫁の貰い手なんてここで逃したらこの先もう無いだろう。

それでも私の中で踏ん切りがつかないのは彼がとても大切であるからだ。






それから少しの間三人と話していた。

終わったあと自宅に戻り、自分と彼との関係を見つめ直す。

これからどうするべきか。

どうしたいのか。

どうあるべきか。

中々決まらないまま布団に潜った。








その数ヵ月後、私の31の誕生日が迎えられた。

あのあとからは運がいいのか悪いのか彼とは会えていないままである。

常にウチの社長に引っ付いて外を回っているから仕方ないといえば仕方ないのだが。

しかしそれとは別に気になる噂も聞こえてくる。

彼が大沼プロや南浦プロに誘われて裏で打っているという噂だ。

しかも大学を休学してまで。

彼から事情を聞きたいけど会えない上に今更どんな顔して会えばいいのか分からない。

今はもう彼にとやかく言える立場ではないのだ。







いつも通り学校に行くと部室に顔を出した。

そこには加藤さんと室橋さんと夢乃さんがいた。

引退してるはずの二人が何故居るのか。

実は部長の引継ぎは既に済んである、済んであるのだが……

今正式な部員は夢乃さんしか居ないので私と夢乃さんで部活を切り盛りしている状況。

加藤さんと室橋さんは夢乃さんが心配なのか引退してからもちょくちょくやってきては彼女の相手をしている。

来年は部員増やさないとマジでやばい。

気合入れて勧誘しなきゃ……





12月に入り、冬の特番などで慌ただしくなってきている。

その最たる例が彼なのだが社長は完全に稼ぎ時と言った感じで彼を出ずっぱりにしている。

最近アイドル路線気味なせいか牌のお姉さんとバッティングしてるね。

彼女の野獣のような鋭い眼光が何か怖いですね。

周りに大人が居るから大丈夫だろうけどさ。





近頃京太郎君の噂がまた流れてきた。

裏で打っているとかそういうのではなく彼がチームから抜けるのではないかという話だ。

あくまで噂だから鵜呑みには出来ないけどもしそれが本当だったのならチームを抜ける理由は私にあるのだろうか?

もしそうだとしたら申し訳ない気分だ。

しかし彼は休学して、その上ウチの事務所から抜けたとしたらこの先どうするつもりなのか?

私にはそれを聞く度胸も面の厚さもないからわからないけど。





年度末の前に、その答えは返ってきた。

端的に言うと彼は事務所を抜けた。

契約を満期になったときに更新しなかったようだ。

簡素な挨拶をして事務所去って行った。




そして彼と共に去った人物が二人。

何故簡素な挨拶だったのか。

それは実に簡単なことだ、次は敵として会いましょうということだ。

去った二人も彼についていって一緒に打ちたいということだ。

彼が1からチームを作るのには心配では有る。

でも今思えば京太郎君は社長とよく一緒に動いていたね。

それを織り込み済みで同行していたのかも。

彼が新しく立ち上げるチームはどんなものになるのだろうか。

若手達が担う新たな時代になるのかそれとも……







数ヶ月して事務所に案内通知が届いた。

そこには新規チーム名と登録されているプロの名が記載されていた。


『吉野ファイアドラゴンズ』


  • 天江衣

  • 松実宥

  • 高鴨穏乃

  • 原村和

  • 大星淡

  • 宮永照

  • 福路美穂子

  • 池田華菜


代表取締役:須賀京太郎


多分チームの名前とかホームの場所とか掲載順で揉めたであろう事が容易に想像できる。

しかし彼の交友関係には驚いた。

まさかここまでの面子を揃えるとは思わなかったからだ。

特に福路さんと照ちゃん、そして京太郎君の三人が組むととても厄介な指導者になるだろう。