エキシビジョンマッチは三尋木プロがゴミ手を和了りその幕を閉じた。

和了った本人はあまりいい顔はしていなかった。

スタイルを崩して、年下の子供たちに肉薄されて焦ったからか。

しかし勝ちは勝ちだ。

だけど彼女は呟く、京太郎君の前で。


「プロにはプロの、大人には大人のプライドがあんのさ。」

「それと同様にあたしにもあたしのプライドがあんの。」

「だから最後の和了りはすっきりしないんだよね……」

「部外者にはさっぱりわっかんねーと思うけど。」

「でもよぉ、部外者なんて知らんしどうでもいいけど。」

「あたしは納得行かない。」


詰まらない和了りをしてしまった自分がいやだったのか。

でもそんなことよりなにより彼女は強い相手を求めている。

ひりつくような打牌を、ゾクゾクするような緊迫感を味わった人間は、その麻薬のような快感を忘れられないだろう。

一度味わった快楽を忘れられず、再び快楽に身を興じるためにまた求める。

強者とぶつかり合える幸せ、だから強者は渇望する。


「だから、また打とうぜ。」

「次はちゃんと坊主のことをコテンパンにしてやっからよ。」


ギラギラと妖しい光を宿した瞳で京太郎君を見ながら三尋木さんは再戦を求めた。

京太郎君も負けじと言い返す。


「次こそリベンジしてやる。」

「それも、中学のときの分も合わせてだ。」


「跳ねっ返りなやつは嫌いじゃないぜぃ。」


福路さんも照ちゃんも次を見据えて目標を決めているようだった。

二人とも「プロになってリベンジ。」ってところかな?

いいね、そういうの。










エキシビジョンマッチも無事終わって大会が終わり、長野に戻る前。

初出場で女子団体、男女個人優勝したので取材やら何やら受ける破目になりそうなのでとりあえずホテルに皆を帰して休むように言った。

と言っても遊びたい盛りなのでおとなしくしているとは思えないけど。

こっちで出来た友達もいるだろうし、何より観光したいだろうに。

若さってすごいね。

それに比べて私のバイタリティは……考えるのはよそう。

そう思っているとプロの陣営と偶々遭遇する。

というかプロが集まってるところに私が意図せず入っちゃったと言った方が正しい。

赤土プロが私を誘っている。

ふと彼女を見て京太郎君達の楽しそうに打つ姿を思い出す。

彼女では私を楽しめないだろう。

今の彼女には私の食指は動かない。

多分もう、彼女は私には届かないだろう。

わりと期待していたのに。

瑞原さんも、三尋木さんも、赤土さんも。

打ったとしても多分私だけ楽しめない。

「無いものねだり」なんてしても意味無いので、このあと普通にお茶して帰った。











長野に戻る日。

私達は忘れ物が無いか確認したあと、泊まっていたホテルから出て帰ることに。

その道すがら色々と思うこともあって、私は感慨に耽っていた。

長野に帰ったら部長の竹井さんはまだ引継ぎがあるけど照ちゃんと一緒に引退だし。

それと交友関係も広がったね。

良いお友達がたくさん出来、携帯の番号やメールアドレスなどの連絡先を交換していた。

竹井さんは各校の部長さんとか対戦した人とか。

片岡さんも何だかんだ言って人懐っこいから人に好かれやすいんだよね。

染谷さんも染谷さんで実家が実家だから愛想はいいし。

京太郎君もおっぱいに関してのことを除けば紳士的だし、コミュニケーションとか取れるほうだから。

この間言っていたんだけど、京太郎君曰く。

「少々顔がよろしくなくても胸が大きいと許してしまうのが男の悪いところ。」

だそうだ。

君はおっぱいに騙されて変な方向に行かないように注意しなよ?

まぁ色々とあったけどインターハイ優勝してよかったね。

え? 宮永姉妹?

宮永姉妹は……うん。

ご想像にお任せします。









長野に戻り、休みを挟んでからの初部活。

竹井さんが引き継ぎで次期部長を染谷さんを指定した。

そして副部長は京太郎君を指名する。

まぁ順当だよね。

だって咲ちゃんも片岡さんも部長って柄じゃないし。

染谷さんが部長になって初めての仕事をする。


「さぁ、練習じゃ。」


案外あっさりとした号令だった。

三年生二人が引退したからと言って別に打たないわけでもないので結局暫くは今まで通りだった。







時折チェスやオセロ、囲碁などをやりながら秋季の大会、所謂国麻や新人大会でうちの子が優勝したりしながら季節は過ぎ行く。

そんな折、進路指導の先生からお願いされた。


「あの、小鍛治先生。」

「宮永のやつの進路なんですけど……」


何で私に……

本来だったら担任の先生に行くはずでしょ。

まぁ付き合いが長いのもあるんだろうけどさ。

そう思いながらも照ちゃんの出した進路希望表を見て愕然とした。


1.お嫁さん

2.お菓子ソムリエ

3.麻雀プロ


あの子らしいと言えばあの子らしいと言えるけど、私は波のように押し寄せる頭痛に耐え切れず、思わずこめかみを押さえた。


「小鍛治先生……お願いします。」


進路指導の先生も心配はしてくれるけど私に問題を投げた。

でも確かにこれは文句も言いたくなるね。

何考えているんだろうあの子は……






私は問い質す。

照ちゃんに。

お嫁さんとはなんだと。


「お嫁さんってのは結婚して永久就職すること……」


違う、そうじゃない。

というかそもそも照ちゃん相手いないじゃん。


「お菓子ソムリエも突っ込みたいけどお嫁さんって相手いるの?」


「京ちゃん。」


「「え。」」


「……え?」


色んな方向から聞こえた戸惑いの声。

そりゃそうだ。

だって先輩の進路希望に自分が関係してるとは思わないだろう。


「そうか、京ちゃんまだ15歳だった。」


照ちゃんが一人納得してるけど、違う、そうじゃない。

問題はそこじゃない。








とりあえず照ちゃんを説得するために言っておいた。


「照ちゃん、お菓子ソムリエなんて仕事はありません。」

「お嫁さんも相手の同意が無いとできないからね?」

「それにお嫁さんは兼業できるよ。」

「お菓子いっぱい食べたいなら麻雀プロでお金稼いでいっぱい食べようか。」


「健夜さんがそう言うならそうする。」


何とか説得できたみたいだ。

それにしてもこのこの将来が不安である。

下手したら私がこの子のドラフト(斡旋)先を決めないといけないのかと思うと眩暈がする。

何と言うか早く立派な大人になってほしい。






もう一方の三年生である竹井さんは既に進路が決まっている。

結構有名な大学に特待推薦である。

授業料などの学費免除などの好待遇だ。

照ちゃんも一応部活動による特待推薦を取れるのだけれどプロになるのだったら関係ないよね。








三年生が部活動から完全に引退して部員が4人になってしまった。

女子三人の男子一人。

う~ん、来年二人以上入らなかったらとてもまずいことになる。

インターハイに初出場にして優勝した栄えある清澄高校が『部員不足で個人戦にしか出れませんでした。』なんてなったらお笑い種である。

……もしかして中学校の悪夢再びなのだろうか?

また変な着ぐるみを着るのはごめんだ。









その日は珍しく残暑がぶり返したのか思うほどの暖かい日で、薄着でも汗ばむ気温だった。

私は職員室で書類に目を通していた。

その中で目に止まったものがある。

練習試合がどうのという話だ。

うちもインハイで優勝したのでこういうことに関してお声が掛かることが多くなった。

申し込みが来たのは白糸台、姫松、千里山、臨海、永水、新道寺に風越。

所謂強豪校と呼ばれるところばかりである。

しかも人数ギリギリのうちとは違って部員の層も厚い。

こっちとしてはありがたい話ではあるけど。

だけどそれにしても多い。

申し出があったところ全部と打つわけにも行かないし、ある程度絞らないといけないかな。

部室に行ったときどこと打ちたいか聞いて置こう。








部室の扉を開き質問をする。


「ちょっと皆に聞きたいんだけど。」

「今度他校との練習試合したいと思うんだけど、どこがいい?」


私はリストアップした高校の名前をホワイトボードに書いていって聞いてみる。

4人しかいないので話なんてあっさり纏まるはず。

だとおもったんだけどなぁ……


「姫松とか良いんじゃないかな。」


「そうじゃのう……臨海がええと思うんじゃが……」


「私は新道寺だじぇ。」


「白糸台とかがいいんじゃないか?」


こんな感じで中々決まらない。

あーでもないこーでもないと決めあぐねていると染谷さんが私に聞いてくる。


「全く持って決まらんのう。」

「小鍛治先生、最終的には誰が決めるんじゃ?」

「全員の意見を聞くって言っても限度があるじゃろうて。」


「う~ん、決まらないんだったら私の独断と偏見で決めてもよかったんだけど……」

「本来なら部長である染谷さんが決定権をもってるんだよ。」


私がそういうと染谷さんは少し考えて周りに聞き出す。








「全員が推す高校とその理由を聞きたい、まずは優希、おんしからじゃ。」


「新道寺女子だじぇ! 理由は花田先輩がいるからだ!」


「……優希らしい考えじゃな。」

「まぁ気心知れた人間と打つのも悪くは無いかも知れんの。」

「次、咲はどうじゃ。」


「あ、はい、私は姫松いいかなって。」

「私と当たった末原さんだっけ……が結構強かったですし。」


「ふむふむ、なるほどのう。」

「じゃ、副部長はどうじゃ?」


「俺の意見としては白糸台ですね。」

「どこも名門校ですけどインハイで出てきた三年生は既に引退しているはずですし。」


「京ちゃんにしては意外とまとも。」


「なんだとこのやろう。」


「いはい、いはい。」


京太郎君に茶々を入れた咲ちゃんがほっぺたを弄繰り回されている。

染谷さんが続きを促すとほっぺたを弄りながら説明を続けた。







「永水、千里山、新道寺、姫松はインハイに出た5人中3人が三年。」

「多少層が厚いからといってその3年生より強いのがくるかと言ったら望み薄っすよ。」

「風越は近いから割と行けますし。」

「実力的に優希に合わせるとしたら白糸台あたりがいいと。」


「おっぱいもあるし?」


「う~ん、咲。」

「俺は今真面目に言っただろう?」


「でもおっぱいでしょ?」


「それならちゃんと永水や姫松を選ぶって。」

「あそこビッグスリーの二つだし。」

「そこをあえて我慢したんだ。」

「流石に私欲で選ぶわけには行かないからな。」


「副部長としてそれなりに考えているってわけじゃな。」

「そうかそうか。」

「では東京辺りかのう……いっそのこと大阪・東京・長野・九州でぶつかるのもありじゃのう。」


そう言いながら染谷さんはケラケラ笑ってた。

流石に全部と当たるのはキツイって。

まぁさっき言ってた通り、順当なところで東京かな。






東京の高校に話を通して日程を合わせておく。

週末土日に合わせて白糸台と臨海女子にと練習試合と行こうじゃないか。

あ、そうだ。

大阪と九州にお断りの電話入れないと。

久保さんにも一応話さないとな~。








週末の金曜になり、放課後を迎えると部員を車に乗せて東京まで向かう。

今回はホテルに泊まって土日で白糸台と臨海女子を回る。

ちなみにホテルを取るときに全員同じ部屋でいいかなと?と冗談で聞いたら案外あっさりOKが出てしまった。

ただ京太郎君がデリカシーが無いと反対したので男女別々の部屋にした。

でもはっきり言っちゃうと間違いなんて起きそうに無い面子だけど。










翌日となり私と染谷さんで全員を叩き起こして身支度と朝食を済ませる。

そのあと出発するのだけど今回はまずは白糸台に向かう。

ここにはやたらと多くの人数の部員が所属している。

今現在私達は一軍が居る部室に案内されてはいるものの完全におのぼりさん丸出しである。

照ちゃんほどふてぶてしいのなら問題ないのだろうけど部員達は浮き足立っていた。

やはりなんだかんだ言ってあんな三年生でも精神的な柱になっていたんだろうね。

数少ない具材から人参と牛蒡が抜けたのは痛い。

おかげで今あるのは豚肉・葱・蒟蒻と味噌・大根である

葱は染谷さん、大根は京太郎君。

味噌は色んな意味で私。

残った蒟蒻と豚肉が誰かは推して知るべし。

対して相手側は通称虎姫と呼ばれるチーム。

チーム豚汁対チーム虎姫。

名前だけ聞いたら明らかにこっちが弱そう。









一軍、チーム虎姫の居る部屋の扉を開けるとそこには金髪の子が居た。

手にはペロペロキャンディを持ってポージングをしている。


「ふははは、良くぞ来たな清澄の!」

「だがここまで来たことを後悔させてやる!」


何でこの子は悪役風なんだろう……

そう思いながら呆気に取られているとこちらの突撃弾頭が反応してしまった。


「おのれ魔王! 両親の敵は取らせてもらうじぇ!」


「ふっふっふ、どこからでも掛かってきなさい!」


あほの子だ。

間違う事なきアホの子だ。

片岡さんと大星選手が何かやっている傍らからベリーショートの少女が出てきた。

その子がこちらにやってきて挨拶をしてくる。


「すいません、うちの淡が馬鹿なことをして……」


「ええよ、うちの一年も同じようなもんじゃから。」

「っと、その前に挨拶せんとな。」

「清澄高校麻雀部部長、染谷まこじゃ。」

「今日はよろしくおねがいします。」


「あ、申し遅れました、白糸台高校麻雀部の部長やらせてもらっています、亦野誠子です。」

「こちらこそよろしくお願いします。」


ぺこぺこと二人とも頭を下げて挨拶をする。

何か二人とも苦労人の雰囲気してるよね。

……まぁ誰にでも悩みはあるよね。








片岡さんと大星選手を止めるために京太郎君が向かうことになった。

だが相手側も同じことを思ったらしく、大星選手を止めるために一人向かっていた。

ピンクの頭髪に大きな胸がトレードマークの原村選手だった。


「もう、淡? お客様が来たのですから少しは大人しくしてなさい。」


「えー? ノドカってば堅いよ。」

「こういうときこそもっとノリよく行こうよ。」


「まったくもう、すみません私の友人が粗相をしました。」


「いやいや、気にしてないよ、それにこっちも悪乗りしてたし。」


「私も気にしてないじぇ!」


「むしろお前は気にしろ!」


何か向こうの一年生とも仲良くなってるみたいだ。

若干京太郎君の目付きが怪しいけど同性の私でも気になるサイズではある。









そのあと咲ちゃんも混ぜて一年同士で会話している横で部長同士が会話をする。

亦野選手が染谷さんに出した提案。


「ところで練習試合の形式なんだけど……こちらは四人、そちらもちょうど四人。」

「ちょうどいい人数だから2-2で卓に着くというのはどうかな?」


「それでええよ、コンビ打ちかどうかそいつらに任せるがな。」

「おーい、一年生、これから練習試合始めるから切り替えんさい。」


「「「はーい。」」」


染谷さんの言葉にいい返事を返す一年生達、どういう組み合わせで当たるかな?

といっても結構時間あるから色んな人と打てるはずだけど。











交流が始まるのだが、その前に組み合わせを考える。

まずは京太郎君と咲ちゃん、これはコンビネーションが高くてどうしようもないだろう。

一人一人のレベルが高いのにこの二人が組んだらもうどうしようもない。

2(白糸台)VS1VS1なら何とかなるかもしれないけど。

次に片岡さんと京太郎君、実はオカルト面で非情に相性が良い。

前半しか持たない片岡さんにスロースターターの京太郎君。

単純に稼ぐならこれでもいいんだけど相手が焼き鳥になりかねない。

となると染谷さんと京太郎君かな。

打ち方はえげつないけど精神的に負担は少ないし試合後は気遣いもできる。

うん、これがいいかな。

私は残った二人に対して全力で目を背けて決定した。







「京太郎君、染谷さん、卓に入って。」


「うっす。」


「わかりました。」


私の合図で京太郎君と染谷さんが動き出した。

それを見て相手側の部長さんも動く。


「じゃあこちらは私と……淡がいいか。」


「あんたたちなんてけちょんけちょんにしてやるんだから!」

とインハイの個人で咲ちゃんと照ちゃんにぼっこぼこにされた大星選手が勢いよく言っている。

威勢がいいのはいいけど足が完全に生まれたての子鹿みたいなかんじなんですけど大丈夫ですか?







試合が始まると先程とは打って変わって緊張感がある空気になった。

最初は小手調べかと思われた。

いきなり飛ばしてもつまらないだろうし。

しかし構わず全力で行った者が一人。


「淡ちゃん立直!」


大星選手のダブル立直。

しかも京太郎君達の手を見る限り『絶対安全圏』もセットのようだ。

そしてそれから五巡後、更に大星選手が動く。


「槓!」


自摸った牌を暗槓してドラを増やす。

そして次順、次の山に入ったところで大星選手が和了った。


「ツモ、ダブリー裏ドラ4! 3000・6000!」


京太郎君と染谷さんが感心したように見ていた。

大星選手の全力のオカルトを見て面白いと思ったのだろうか。









続いて東二局、大星選手の猛攻が続く。


「またまた淡ちゃん立直!」


そして次の山に入る前に。

大星選手は暗槓する。


「槓!」


そして次の山に入ると。

大星選手が和了る。


「ツモ! ダブリー裏4! 3000・6000!」


大星選手はすごくドヤ顔で和了り宣言している。


「インハイ優勝校って言っても淡ちゃんに掛かれば大した事無いね。」


あ、こいつ調子に乗ってるな?

というか準決勝敗退してる時点で負け犬の遠吠えにしか聞こえない。

京太郎君がそれを聞いて言い返す。


「大星、余り嘗めないほうがいいぜ。」

「染谷先輩が本気出したらあっという間に終わるんだぞ!」


おい、やめろ馬鹿。

この対局は早くも終了ですね。










というか引き合いに自分ではなく染谷さんを出すのはどうなんだろう。

そこは格好良く自分の力で勝ってみせるぜ的なことを言おうよ。

そして結果だけが残る。


染谷さん+35300点。

京太郎君+40200点。

大星選手+8300点。

亦野選手+16200点。


ダブリーしたことによって防御が薄くなったところに突き刺さる。

『大星選手はダブリーしてから山を越すまで和了らない。』

ここがキーポイントである。

詳しいことはある程度省くけど要は『賽が8以上なら勝てる。』と言うことだ。

立直と能力にしがみついた結果がこれ一足早く言うべきだったな?お前調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?

そして今、当の本人は下唇を出して剥れている。

そこを宥めて賺して機嫌を直す京太郎君と染谷さん。

後輩が粗相をして凄く申し訳なさそうな亦野選手。

高校百年生とか言う割には小学生並みの精神年齢だ……








第一戦目が終わり、二戦目の組み合わせになる。

二戦目のこちらの組み合わせは京太郎君と咲ちゃん。

相手側は渋谷選手と原村選手。

京太郎君が爽やかに挨拶すると相手方も返してくれる。

しかし気になるのは京太郎君の視線の所在。

原村選手の胸はかなりおおきい。

渋谷選手も原村選手ほどではないけど中々のサイズである。

立てばブルン、座ればボヨン。

歩く姿はボインボイン。

京太郎君の目線が若干上下に揺れる。

これはアウトと言えるのだろうか?

咲ちゃんの米噛みには浮き筋が立っていた。

黒か白かで言うなら松崎しげるである。

親の仇を見るよう目で咲ちゃんは対局者を見ていた。

胸が大きければ偉いってわけじゃない。

それを証明するが如く咲ちゃんは和了る。

京太郎君も対局が始まるとちゃんと雀士の顔になる。

原村選手は前に見た通りペンギンのぬいぐるみを抱きながら打つ。

渋谷選手は眉一つ動かさずお茶を啜っている。

局が進むたびにヒートアップしていく。

原村和がリアルでのどっちモードになる瞬間。

京太郎君と原村選手のスピード勝負。

咲ちゃんと渋谷選手の刈り取る対決。

だけど悲しいかな、地力が違った。

各々の対決は清澄に軍配が上がる。

一位になった咲ちゃんが小さく声を漏らしている。


「悪は滅した。」


乳・即・斬である。

と言っても相手側は何とも思ってないようだけど。

さすがクッションある人は違いますね。

だが原村選手や渋谷選手が対局終わりに挨拶しようとした時、事件が起きる。


「「「「ありがとうございました。」」」」

「あ!?」


「!?」


それは原村選手が挨拶するときに頭を下げて戻すと、はち切れんばかりのバストが衣服に負荷をかける。

ブツンと言う音。

冬服のブラウスのボタンが飛んで京太郎君の顔面に直撃したあと、跳ね返ったボタンが咲ちゃんのほっぺにぶつかって落ちた。

ボタンが飛ぶなんて初めて見た……


「す、すみません!」

「怪我は無いですか!?」


「ははは、大丈夫だって。」


「私も大丈夫だよ。」


「すみません……」


二人とも笑顔で返していたけど咲ちゃんは目が笑ってなかった。








そのあとも入れ替わり立ち代わりで打っていたけど概ねこちらが勝っていた。

さすがに2:2でずっと打つのもなんなので3:1で打ったり逆に1:3で打ったりもしていた。

大星選手・渋谷選手・亦野選手・染谷さんで打ったり。

京太郎君・咲ちゃん・片岡さん・原村選手で打ったり。

大体そんな感じだった。

一頻り打つと休憩に入る。

京太郎君と片岡さんがぐいぐいと咲ちゃんを巻き込んで白糸台と仲良くなって行く。

コミュニケーション能力高い、私も少しは見習わないとなぁ……

そう思ってから早く、既に幾数十年である。







「でねーその時ノドカってば……」


「淡!? その話はやめてっていってるじゃないですか!」


「え~? ノドカの面白エピソードは笑いが取れるのにー。」


「私は笑えませんよ!」


「私はその話が気になるじぇ!」

「のどちゃんもどんどん曝け出すんだじょ!」


「優希まで……んもう!」


「ははは、和って印象より可愛い性格してるんだな。」


「京ちゃん、そんな言い方したら失礼だよ?」


「わりぃわりぃ。」


「いえ、よく言われますから気にしてないですよ。」


と、こんな感じに気付けば打ち解けあって談笑していた。

すっかり一年生達は仲良くなっている。

一方二年生は完全にまったりモードに入ってお茶を啜っている。

学年は一つしか違わないはずなのに何でそんなに老け込んでいるんだろう……






日が後半に入り、腹ごなしに私も時々参加することにした。

一応他校の教職員であるとは言え、指導してはいけないとも言われて無いので問題ないはずだ。

私の卓に一緒に打つ人は結構限られていた。

染谷さんと片岡さんは完全に敬遠状態。

入る気はさらさら無いといった感じか。

京太郎君と咲ちゃんは打ちなれているせいか変わりばんこに入ってたりしていた。

「結構私って人気者なんじゃないかな?」と勘違いして調子に乗りそうなる。

指導のとき、白糸台の選手は私の言うことに耳を傾けて実践していた。

素直なのはいいことである。

一日の最後に締めの一局を打つことに。

卓に着いたのは亦野選手・原村選手・京太郎君に私だった。

二人とも私から言われたことを守って打っている。

順位は亦野選手がラスだったけど。

原村選手が終わりの際に凄い笑顔でこう言った。


「今日は最後に楽しく打ててよかったです。」


「ああ、俺も。」


「……うん、そうだね。」


「?」


原村選手の言葉を受けた亦野選手の表情が翳っている。

それを見た私と京太郎君の頭に疑問符がついたけど答えは出ない。

原村選手は続ける。






「最後に良い思い出ができました。」

「高名な小鍛治プロと打てましたし、良い友達も出来ました。」


「和、最後の思い出って?」


「その、実はですね……」

「私、麻雀部を辞めようかと思うんです。」

「前から父に麻雀部より勉強を優先しろと言われてまして。」

「その時に、実は父と約束していて……インターハイで勝ったら麻雀を続けて良いって……」

「でも、個人戦でも、団体戦でも良い成績は残せませんでした。」

「だから私は……」


成り行きとは言え込み入った事情を話すけど徐々に消え入りそうになって行く原村選手の声。

亦野選手は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

今の白糸台の部長は彼女だ、恐らく事情は聞いているのだろう。

京太郎君が何を思ったのか原村選手に声をかけた。


「……和の羽は綺麗だな。」


「……え?」


「和が打つとき……飛ぶときに、俺には綺麗な羽が見えた。」


「白くて、光った羽だ。」


「でも……飛べなかったんです、私……」


そう言った原村選手はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

まるで自分の無力を押し殺すように。

京太郎君はなおも続ける。




「ああ、綺麗な羽なのに、傷一つ無い羽なのに飛べてなかったな。」


「……何が言いたいんですか?」


「なぁ、エトペンって知ってるよな?」


「はい、大好きなんです。」


「小さい頃はよく絵本を読んでいました。」


「そうか、だったら話は早いな。」


「ペンギンだったけどエトペンは飛ぼうとしていたぞ。」


「例え自分が飛べない鳥だとわかっていても。」


「ペンギンが綺麗な嘴に憧れて、足掻いていた。」


「和は立派な羽があるのに足掻かないのか?」


「私は……」


「足掻かないで後悔するより足掻いて後悔しろよ。」


「俺はずっとそうしてきた。」


「そしてこれからもそうする。」


「決めるのは原村和だ。」


「決めるのは俺でもない、周りでも親でもなくて、和自身だ。」


「私は……」


戸惑った原村選手が俯いてしまった。

だけど京太郎君は構わずまっすぐ原村選手を見据えて問いかける。


「敢えて俺は聞くぜ……原村和はどうしたい?」




「私は……」


「私は、麻雀が打ちたい。」


「例え父に反対されても、私は麻雀を打ちたい。」


「なんだよ、答えが出てんじゃねぇか。」


一つの決意をした原村選手に京太郎君はすぱっと言う。











「ええ、こんな簡単な答えが引き出せなかったなんて……」

「亦野部長、この間の退部届けですが……」


「ああ、これね。」


そう言って亦野選手が取り出した一つの封筒。

亦野選手は原村選手に渡して言い放つ。


「これは返すよ、破って焼却炉にでも入れちゃいな。」


「はい、面倒おかけしました。」


「いいって。」


亦野選手は笑って言っていた。

原村選手が京太郎君に向き直って宣言する。


「今日はありがとうございました。」

「でも次に会うまでにはもっと強くなって清澄に勝ちます。」


「おお、言ってくれるな。」

「だけどうちの女子はかなり強いぞ?」


「ええ、わかってます。」

「でも挑戦者の立場って燃えるじゃありませんか。」


「それには同意できるな。」


「それと……」

「貴方にも勝ってみせますよ。」

「負けっぱなしは悔しいですから。」


「おう、いつでも受けてやるよ。」


二人の爽やかなやり取り。

お姉さんにはちょっとフレッシュすぎて付いていけない。









「また来なさいよ!」


「また来るじぇ!」


片岡さんと大星選手はそんな別れの挨拶をしていた。

白糸台との練習試合を終えて疲れのたまった体を動かしホテルに引き上げる。

今日は中々に楽しかった。

一人の麻雀少女を救ったし気分もいい。

今夜はいい夢が見れそうだ。

明日は臨海女子と練習試合だ早めに就寝しておこう。













朝になり全員に朝食を取らせて支度させると臨海女子に向かう。

今更ながらではあるけど女子高に京太郎君を連れて来てよかったのだろうか?

しかも相手はあのアレクサンドラ監督である、警戒しなくては。

女子高だから大丈夫だとは思うけど京太郎君にも目を配りながら臨海女子の部室まで向かう。

部室までの道をずんずん進み、戸を開けるとそこに待っていたのはパーティの準備をしている浮かれた外国人4人だった。



「……間違えました。」


「Stop! Just a moment!」

「これは貴方達を歓迎するために用意したんですよ!」


「やっぱり受けが悪かったね。」


「ね。」


「え~……」


パーティーキャップを被ったアレクサンドラ監督が部員の槍玉に挙げられてるところを他所に片岡さんは色々と料理を見ている。

何故料理を用意してあるのか、何故それを食べようとしているのか、何故京太郎君にタコスを作らせて振舞おうとしているのかは理解に苦しむ。







「えっと、とりあえず挨拶をしておきます。」

「顧問の小鍛治健夜です。」


「質問、プロって稼げるの?」


「トップランカーなら稼げるよ。」

「国内だけなら年で1000万くらいだけど世界や大きいタイトルでなら億は簡単に稼げるからね。」


と不意に聞かれた質問に答えるとそこには指折り数える少女が居た。

彼女は確かネリー選手だったはずだ。

何でもグルジア出身でお金が必要らしい。

グルジアって確かスターリンの出身国だっけ?

世界中のあちこちに行く機会は多いけどあんまりわからない。

そのあと私達は軽く自己紹介して練習試合をすることにした。


「こっちは今三人しか居ないので足りなかったら私も入ることにする。」


そういうアレクサンドラ監督の目にはどこか楽しげな光が宿っていた。




私は用意されたお菓子を食べながら観戦していた。

京太郎君と咲ちゃん、ネリー選手と臨海監督が入っている。

もう一方の卓は染谷さん・片岡さん・ハオ選手・雀選手が入っている。

というわけで私は今絶賛暇中である。

コアラのマーチを食べ終わると次のお菓子を開けてまた観戦。

咲ちゃんたちの卓を眺めながらお菓子を食べる贅沢。

正直ネリー選手にはキツイ卓だろうね。

監督さんはプロレベルの腕前っぽいし。

京太郎君も咲ちゃんにもいい経験だけど監督さんの目が野獣の眼光のそれである。

よかった、外国枠だからと言って森の妖精が乱舞しなくて。

あ、このお菓子おいしい、今度照ちゃんに買って行ってあげようかな。






そのあと特に面白くもなく対局は終わる。

実力がハイレベルな卓は一方的な搾取が始まり、ネリー選手はいいカモとなっていた。

誰が最初にネリー選手をトばすかの黒髭危機一髪のチキンレースである。

ちょっとかわいそうだけどこれ勝負なのよね。

もう一方の卓は染谷さんが一位で片岡さんが三位。

流石ランカーと言えばいいのか、うちの子相手に雀選手は二位であり、一方のハオ選手はラスを引いている。

若干涙目のハオ選手は「中国麻将なら負けないのに……」と呟いていた。

残念、ここは日本だ。

振聴も立直もあるんだよ。

私からしてみれば特筆すべき点はなかったけどそれでもお互いの生徒にはいい経験になったであろう。

帰りの際、アレクサンドラ監督が京太郎君に声をかけた。


「ねぇ、キョウタロウだっけ?」

「君、強くなりたい?」


「ええ、それは勿論。」


「強くなりたいなら餓えるべき。」

「そして食べたものは必要なところにまわす。」

「ただそれだけ。」

「精々餓えなさい。」


「……肝に銘じておきます。」

「出来るだけ気高く餓えるように。」


とはいえ京太郎君は既に餓えている。

三尋木さんと打ったあのときから。

そういえばアレクサンドラ監督は貪欲だけど胸やお尻に脂肪が回らないって聞いた。

私と違ってスレンダーだなぁ……







白糸台、臨海女子と練習試合をして長野に戻ることにした。

今回の遠征で目標や成すべきことを見つけられているなら及第点と言ったところか。

既に私の教え子兼君達の先輩達は目標を見据えているよ。


そして長野に戻って少しするとブラックデーがやってくる。

そう、11月7日である。

私はこの日で瑞原はやりプロと同年齢になってしまった。

いや誕生日迎える度に同じ年齢になるんだけどさ。

でも瑞原はやりプロが事務所の方針とかで23歳と名乗るなら私も必然的に23歳を名乗って良い訳で。

ちなみになぜ23歳かと言うと流石に17歳は厳しいけど23歳だったら「あれ? 事務所でそういう風に言えって言われてるのかな?」って思われるかもしれないし。

まぁなんなら27歳(と12ヶ月)とか26歳(と24ヶ月)とか名乗ればいいんだし。

ああ、そういえば京太郎君や宮永姉妹が祝ってくれたよ、「28歳の誕生日おめでとうございます。」って……

三桁超えた頃から考えちゃいけないと思った。







それから更に暫くすると正月がやってきて、お年玉と称して麻雀を教え込んでおいた。

照ちゃんは確実にこのあと役に立つからいいでしょ、プロコース一直線だし。

プロコースと言えば福路さんも進学ではなくプロに進むらしい。

この間の25日に教えてくれた。

え? クリスマス? 何それおいしいの?









更に時節は進み迎える2月2日。

私が今回用意したのは新しい巾着袋とマフラーである。

もう毎回こんな感じになりそうで怖い。

だって男の子って何が好きなのかわかんないんだもん。

まぁ京太郎君が喜ぶならそれでも良いのかな?









そしていつかは迎える卒業式。

照ちゃんと竹井さんは卒業生として。

一年生二年生の後輩は在校生として。

一年間とは言え、竹井さんとお別れは結構寂しいものである。

竹井さんのことだし進学先でも上手くやるとは思うけど頑張るんだよ。

照ちゃんは福路さんと同じところだってさ。

悪い人に騙されそうな福路さんに。

お菓子に釣られてどこか行きそうな照ちゃん。

お互いで穴を埋めてくれればいいんだけど。

それでもどうしようもないなら私が何とかするよ。

同じ事務所だから。









皆が一年繰り上がり、染谷さんは上級生として。

咲ちゃんたちは二年生として後輩を迎え入れることになり。

そして照ちゃんと福路さんは佐久フェレッターズで新入りとして働くことになる。

今回のミッションは進入部員をなんとしても迎え入れることである。

最低でも女子二人。

でないと女子団体が出場すら出来ない。

大丈夫、今回は中学の時とは違って片岡さんと染谷さんが居るんだ!

きっと進入部員が入れ食いに違いないよ!









笑うがいいさ。

見事に惨敗した無様な女の姿を笑うがいいさ!

笑えよ……

とは言え一応新入部員はきてくれた。

加藤ミカに室橋裕子、片岡さんの後輩。

元々先輩を追っかけてきたので清澄に入る予定だったらしいし確定事項だったとの事。

あ~……よかったよ~……









京太郎君と咲ちゃん話している。


「あー、よかったー。」

「今年は中学のようなことにはならなくて。」


「そうだな。」


「京ちゃん余り嬉しくなさそうだね?」

「新しく出来た後輩が嬉しくないの?」


「男子が一切入ってこないことを考えなければ嬉しいかな。」

「結局俺は去年同様団体戦出れない。」


「京ちゃんのレベルならワンマンチームになっちゃうよ。」


「かもな。」

「でもたまには咲たちと同じ目線に立ってみたいよ。」


「そんなものなの?」


「ああ、そんなもんだよ。」


京太郎君、個人戦確定です。

でもね、無理だよ。

男子で団体戦なんて。

男子で麻雀やってる子は別のところに行くだろうし。

そもそも去年の暴れっぷりを見るにハードル高く感じちゃうだろうね。







そんなこんなで新しく入った加藤さんと室橋さんを迎えて新たに始動である。

っとその前に歓迎会をしなくちゃ。

皆が仲良くなるのにはコミュニケーションだよね。

だから歓迎しよう、盛大に。








加藤さんと室橋さんを固定で歓迎卓を始める。

最初は部長の染谷さんに二人の先輩の片岡さんが入る。

見た感じ、加藤さんの打ち方はオーソドックスな打ち方。

室橋さんはやや染谷さんに近い感じだろうか。

片岡さんのロケットスタート、染谷さんの老獪な打ち回し。

それを相手にどこまでやれるのかな?







片岡さんが逃げ切り一位。

染谷さんが余力を残して連帯二位。

加藤さんは三位で室橋さんはラス。

戦力差に圧倒的な開きがある。

片岡さんは元々オカルトがあったとは言え、ある程度打てていたけど弱かった。

今でも計算処理は怪しいけどそれでも一年前から比べて相当に地力を上げている。

片岡さんは負けん気が強いから同年代の周りの存在に触発されて居たのも要因だろう。

染谷さんのほうは膨大な牌譜を覚えていてそれを元に打っている。

だからこそ私は去年に初心者の打ち方や特殊な打ち方を模倣して染谷さんに覚えさせた。

それにプラスして人の対応の仕方にあわせてこちらが打ち方を変えるという芸当を教えている。

今では染谷さんの打ち方も様々な方法になっている。

要は二人は強くなった。

それも一年前とは比べるまでもなく。

新一年生さんたちは圧倒されて手も足も出なかったって思っているようだ。

でもね、これからだよ?

私の愛弟子二人は更に格が違うから。

それを肌で体感しなさい。

多分二人はAランクのプロではどうにもなら無いレベルだよ。







対局はあっさりと終了。

東3局で室橋さんのトび終了だった。


「「ありがとうございました」」


「くっそー……咲に負けた。」


「まぁそんな簡単に負けるわけには行かないからね。」

「京ちゃんが加速しきる前に勝たせてもらったよ。」


私は新入生に声をかけた。

負け癖をつけてもらっては拙いけどしっかり自分の実力を見定めてもらわないとこの先生きのこれない。


「室橋さんに加藤さん、打った感じどうだったかな?」


「これが全国レベル……なんですね……」

「私達に務まるんでしょうか……ここの部員が。」


「う~ん、二人とも片岡さんの事知っているよね?」


「はい。」


「貴方達もやる気と練習を積めば片岡さんレベルにはなれるよ。」


首肯した二人に対してあっさりと言ってのけてあげた。

しかし私の言葉を受けても尚、俄かには信じられないのか戸惑っていた。

そういうときにフォローを入れてくれるのが先輩方である。




「大丈夫じゃ、優希なんぞ未だに計算が怪しいからのう。」


「そうそう、優希なんて俺が作ったタコスが無いと弱いしな。」


「そうだよ、優希ちゃんは入ってきたとき初心者と大して変わらないのに猪武者なんてあだ名で……」


「なんで私ばっか集中砲火食らってるんだじょ!?」


「ふふふ。」


「あー! 笑いやがったなお前ら!」


「すみません!」


室橋さんも加藤さんも笑っている。

そしてそれを弄る片岡さん。

思った以上に仲がよくなるの早い。

やばい、私がむしろやばい。

コミュ力足りてないのばれちゃう。

咲ちゃんもこっち側の人間なのに京太郎君という楯があるからかコミュ力のなさが表立っていない。

完全に私ぼっち……

今までを思い起こすと今更だった。





ある日事務所に行くと社長が頭を抱えていた。

一体何事かと思ったら福路さんが教えてくれた。


「社長うんうん唸ってるけどどうしたの?」


「あ、何でも今度の団体戦のオーダーに悩んでいるようでして。」

「それで監督(社長)は小鍛治先生が来るまで待ってたんです。」


「ふ~ん、なるほど。」

「わかった、社長にちょっと話してくるね。」

「あと、福路さん。」


「はい?」


「ここで小鍛治先生はやめようよ。」


「あら、すみません、中学の時の癖がつい。」

「でも、私の中では小鍛治さんが今でも麻雀の先生なのは変わりませんから。」


「……その厚意は受け取っておくね。」


うん、悪い気はしないけど一途って言うより結構重い子だった。

照ちゃんのお世話なりなんなりしてるから『ダメな子育成機』な部分が目立ってたけど結構重い。

あとおっぱいもおもい。

そのあと私は社長の元に行ってオーダーの進言しといた。

先鋒・照ちゃん、中堅・福路さん、大将・藤田さん。

次鋒と副将は適当に入れてって言っておいた。

ちなみに私はこの間(咲ちゃんたちが一年生のとき)のオリンピックで派手に暴れたので少しお休みである。

そういえば何故か私は靖子ちゃんのことを「藤田さん」と呼んでいる。

それには理由があるのだけれど、私は元々知り合いだったけれどこっちの靖子ちゃんは私との面識は無いから「藤田さん」と呼び始めてそのままなのである。

そういえばいつだったか本で読んだんだけど……

下の名前で呼べるようになったらお互いの親密度があがっている証拠なのでアタックしてみましょう。

というもの。

あれはうそだよ。

一回試してみたけど見事にお見合い失敗したもん。


というか思い出した。

どこかで読んだと思ったら私が昔書いた本のネタだった。

私は過去の私に騙された!





それから数日して部活でこんな話が出てきた。

それは折りしも偶々染谷さんが家の手伝いでいなかった日だった。

そんな時京太郎君が卓に入って打っているメンバーを傍から眺めながら私に言ってきたのだ。


「合宿、しませんか?」


「もしかして去年と同じように?」


「ええ、去年県予選前に合宿所に行ったじゃないですか。」

「だから今年も行っておきたいなって。」

「ミカやムロの強化もしないといけないだろうし。」


その言葉が出た瞬間加藤さんと室橋さんが肩をピクリと動かしていた。

びっくりしすぎでしょう。


「染谷さんには?」


「部長はそろそろそんな時期かと言ってました。」

「というより言いだしっぺは部長です。」


「そっか。」

「じゃあ県予選前合宿しようか。」


私がそう言うと室橋さんが小さく言った。


「遺書書いておかないと……」


何もそんなに悲観しなくても……






そして来る合宿の日、荷物と部員を学校の車に詰め込んで出発。

引率をしている顧問ですが車内の雰囲気が最悪です。

片岡さんが京太郎君にイチャイチャ漫才しかけて咲ちゃんが泥棒猫役でキレかけている。

新一年生は萎縮しているし染谷さんは我関せずを貫いている。

何より空気を最悪にしてるのは甘ったるい漫才の雰囲気を当てられてイライラしている私だった。

更年期はまだ来てない。

あと月の物でもない。

ただちょっとイラッて来てるだけ。

京太郎君は片岡さんじゃなくて私に構うといいよ。

それと小鍛治健夜は絶賛彼氏というか旦那さん募集中です。

部員の中に「家事が得意で年上OKで浮気癖やDV癖も無くてそんなに理想も高くなくてフリーのイケメン」の知り合いはいませんか?

もし知っていたら私に教えてください。

小鍛治健夜(28)は今丁度、熟れ時ですよ。