「すこやーんこっち来て一緒に呑もうぜぃ。」


そう言って来たのは三尋木プロ。

断るのも気が引けるので快く受ける。

テーブルに着くとそこには先ほど見ていたプロたちが既に座っていた。


「どうも初めまして小鍛治プロ。」


「あ、これはどうも赤土プロ。」


「私みたいな弱小プロをご存知でしたか。」


「ええ、直接打ったわけでもないけど確かインターハイに出てたはずですし。」

「それにテレビで活躍してたのを見てました。」

「えっと博多エバーグリーンズでしたっけ?」


「ええ、熊倉さんにスカウトされて。」

「と言っても今はもう実業団は潰れてしまってるんですけど。」

「で、プロになったあとほかの事務所に。」


そんな話を赤土さんと話していた。

そのあとは三尋木プロと京太郎君の話を。

しかもそれに瑞原プロと赤土プロが乗っかってきた。

適当に流していたけどね。

それにしても九州二人がだんまりがすごい。

二人して焼酎を呷っていた。

渋い大沼プロに孫ほどの年の差の野依プロ。

見てるだけで何とも言えない雰囲気がこっちまで来る。

一応元ファンとしてはお近づきになりたいけどさ。

再び京太郎君の話を蒸し返す三人。

その時気付いた。

九州二人が耳をぴくぴく動かしているのを。

もしかして興味があるのかな?

案外話題を振ると乗ってくれるかもしれない。

そんなこんなの飲み会。






打ち上げが終わると色んな人と携帯の番号とか交換した。

明日はさっさと長野に帰って京太郎君の顔を拝みに行くとしよう。

大沼プロからサイン貰っちゃった、換わりに私もサインしたけど。

あとで自慢してやろう。

ホテルに着くとそのままベッドにダイブ。

おっとと足が引っ掛かった、現在ちょっと呑みすぎか。

途中おんぶしてくれる男の子を捜したが居るわけがなかった。

ああ、昔の事を思い出すなぁ。








とある日のこと。

実家から写真が送られてきた。

所謂お見合い写真と言うものだ。

しかし私としては大恋愛の後に結婚したいわけで。

だからと言ってそれで成功した例がないわけで。

どうしよう。

もういっそのことお見合いでもいいかな。

お見合い結婚は恋愛結婚より離婚率低いって聞くし。

うん、お見合いしてみるか。

ふと思いつきの様なお見合いを受けてみた。

相手は中々にいい感じで高年収。

麻雀も嗜んでいたようで多少は打てるらしい。

どれ、どれほど打てるか試してみようか。

私このお見合いが成功したら結婚するんだぁ……

だが打とうと思ったのが運の尽き。

相手は焼き鳥の上、私が0にした後役満をぶつけて-48000でトび。

周りの人はどん引きでした。

死亡フラグの代わりに結婚フラグを立てたつもりが結婚フラグごと折ってしまいました。

だから結婚できないんだろうね……

御破算になった見合い話を須賀家で話したら気を使われたよ……

京太郎君からのフォローは……


「大丈夫だって、健夜さんならきっといい相手が見つかるって。」


「ああ、そうだな、小鍛治さんなら見つかる見つかる。」


親子揃って適当な事言って……

慰めなら要らない!

同情するなら旦那をくれ!








その後も何回かお見合いしたが相手が尻込みして上手く行かず。

所謂惨敗である。

落ち込んだまま須賀家に行くと須賀さんがたまたま居た。


「どうしたんだ。」


「京太郎君に会いに来たんですけどカピーちゃんの相手してたんで……」


「ああ、それで見合いは? 上手く行った?」


「そんなお見合いありません。」

「略してSOAです。」


SOA!SOA!

若干やけになっていたかも。

そんな私を見た須賀さんからの一言。


「まぁ悩みがあったら俺に言ってくれ、若しくは京太郎でもいいし。」

「普段お世話になってるから相談くらいなら乗る。」

「俺が聞ける範囲なら何でも言ってくれ。」


ん? 今何でもするって……するとは言ってないね。

でも何故か須賀さんは男として見れない不思議。

何というか家族とかそっち方面。

京太郎君の存在がそう思わせるのかな?

そういえば京太郎君のお母さんの顔ってどんなのだろう?








それから暫くして部室に照ちゃんがやってきた。

どうやら今は後輩が出来て三麻をやれるようになったらしい。

と言ってもその後輩は実家の手伝いで来れない日もあるようだけど。

その日は珍しく京太郎君と咲ちゃんが来るのが遅かった。

なので今は部室に照ちゃんと私の二人きりだ。

照ちゃんが不意に聞いてくる、無表情のまま。


「健夜さんは京ちゃんのことが好き?」


「うん? 好きと言えば好きかな、まぁ付き合いも長いからね。」


「……ねぇ健夜さん、もしかして京ちゃんに女としての幸せを求めるつもり?」


「まさか……そんなつもりはないよ。」

「私は今までも、これからもお姉さんで居たいんだよ。」

「まぁ所謂一つの愛だよ、愛。」


「年齢=彼氏居ない歴の健夜さんが愛を語る……」


「うん……自分で言うのもなんだけど説得力無いね……」


「そのための婚活……」


「それ絶対私の前では禁句のワードだからね!?」


「でもお見合いが成功しないと京ちゃんに健夜さんの毒牙が……」


「しないよ!」


そもそもそんなことしたら私、青い制服の素敵なお兄さんたちに銀色のブレスレットをプレゼントされちゃうじゃない。

それから少ししたら京太郎君と咲ちゃんがやってきて四人で打つことにした。

そういえばもう部としての活動は終わりかな……

ここでこうして打つのもあと何回出来ることやら。









最近京太郎君が変だ。

というか声が変だ。

所謂変声期というものなのだろうけど今のところ風邪を引いたような声である。

身長も伸びていて今では大体170を超えたくらいだろうか。

この間照ちゃんが京太郎君を見たとき若干戸惑っていたのを覚えている。

「前は私より背が低かったのに……」って。

それは仕方ないよ、京太郎君は成長期だから。

成長期と言えばこの間福路さんを見たら成長していた。

ところで宮永姉妹の成長期はいつ来るんだろうね。







そろそろ秋も近くなって肌寒い空気が入ってくる頃。

私は須賀家に来ていた。


「健夜さん、今日は何か食っていきますか?」


「ん~、何が食べたい?」


「聞いてるのは俺なんだけどなぁ……」


「私が作るから良いんだよ。」

「今日須賀さん居ないんでしょ?」


「うん、父さん今日は夜勤らしいから。」

「ま、それはそれとしていつも健夜さんに世話になりっ放しだからさ。」

「たまには俺がご馳走作ろうと思って。」


「京太郎君が料理? 大丈夫かなぁ……」


「大丈夫だって、そりゃ健夜さんほど上手くは出来ないかもしれないけどさ。」

「誠心誠意作らせて貰います。」


「じゃあ、期待して待ってようかな?」


おどけたように言っておいた。

火の克服してから京太郎君はよく手伝いをしてくれたし家でも料理していたみたいだから心配はしてないけどさ。

でも京太郎君の手料理かー、久し振りな気がするなー。

体感時間で何世紀振りだろうか。

そんなこと思っていながら京太郎君の手元を見てると本人が「集中し難いからテレビでもみて待っててくれ。」と言って台所から追い出されてしまった。

私は勝手知ったる須賀家でのんびりしていると仏壇の方に目をやった。

そこには京太郎君の母親らしき女性が写っており、その顔見て違和感を持つ。

あれ? どこかで見た気がする……

最初の世界? それともその次の世界? はたまた京太郎君が御曹司の世界? もしかして京太郎君が照ちゃんとイチャイチャしてる世界?

私は思い出そうとしても思い出せないもどかしさを感じながらいると京太郎君から声を掛けられてはっとした。


「健夜さん、ご飯出来たよ。」


「あ、うん、今行くね。」


一体誰だったんだろうか……

いや、多分京太郎君の母親以外の誰でもないんだろうけど。









部室で部活動しているときの話。

と言っても京太郎君も咲ちゃんも引退した身だから部活と言えないし、来年廃部確定なんだけどさ。

手慰みとして麻雀を打ちながらふと話題として思いついたことを聞いてみる。


「そういえば二人は進学先どうするの?」


「俺は今のところは特には決めてないっすね。」

「あ、風越とかだめすか?」


「あそこは女子高だよ……」


「なんだと……」


京太郎君の突飛な発言に呆れつつも突っ込んでおく。

もう一方の咲ちゃんはどうやら決めているようだ。


「私も特には無いけど清澄に行こうかなって。」

「お姉ちゃんも居るし。」


「咲は清澄に行くのか。」

「俺はどうするかな。」

「風越行けたらそれで確定だったのに。」


「だから風越は女子高だって。」


「近くの高校って言ったら龍門渕と鶴賀くらいか。」

「二つとも結構遠いけど。」


結局進路どうすんのさ。









季節は過ぎ行き、向かえた11月。

私は悟りを開いたような顔をしていたと思う。

もう今年で今年で27になる。

既にアラサーの圏内。

やばい、三十路の足音がひたひたひたひたと聞こえてくる。

やめて! 来ないで! 私まだ充分に若いよ!

三十路なんてもう来なくていいのに!

ああ……京太郎君が高校三年生になる頃には三十路かぁ……

そのあと教え子達に祝ってもらい、いい気分になった私は教え子帰した後、須賀家に行って酒を呑んでいた。

須賀さんは例の如くさっさと夜勤に行ってしまった。

私がお酒を呑むと同時にそそくさと。

まぁいいよ、私は今はお酒呑んでいい気分なのだ~。


「はい健夜さん。」


「どうも~。」


京太郎君がお酒のつまみを作って寄越してくれる。

よく出来た子ですよ本当。

私はお礼も兼ねて酔っ払った勢いで抱きついてチューしようとした。


「やめてくださいよー。」


「よいではないかーよいではないかー。」


「あーはいはい、わかりましたわかりました。」


「私は本気でお礼をだねー……」


「健夜さん酒くさい。」


「なんだよ~、恥ずかしがっちゃって~。」


「ああ、もう、こんなに呑みやがって……健夜さん大して酒強くないのに……」


連れないなー京太郎君はー。

京太郎君は私のお礼のチューを躱しながら締めのお蕎麦を茹でてくれた。

もう旦那さん作るのはやめて一生京太郎君に世話をしてもらおう。

うんそうしよう、それがいい。








次の日起きると京太郎君がとなりで寝ていた。

どうやら私ががっちり掴んだまま寝てしまったようだ。

なんか申し訳ないね。

若干二日酔いの傾向だけど幸いにも今日と明日は休みなので迎え酒と洒落込みますか。

そうとなればお酒と肴の確保だ。

そういうことで京太郎君よろしく。








また別のある日。

私は藤田さんと呑んでいた。

事務所の話とか冬季オリンピックの話とか。

あとは来年高校生になる二人の話とか。


「そういえば小鍛治さん、京太郎の火の鳥って小鍛治さんが教えたんですか?」


「うん、そうだよ。」

「結構厄介でしょ?」


「勘弁してくださいよ、アレのせいでよくオーラスの連荘止められたりするんですから。」

「しかも咲と同卓したときは更に手がつけられない。」


「でも藤田さんもプロなんだからそのくらい何とかしないと。」


「わかってますよ、別に負けっぱなしって訳でもないですし。」

「ただ捲くる時に厄介ってだけであって。」


「私の教え子は優秀だからね。」


「小鍛治さんの教え子なだけあって将来有望ですね。」


そんなことを話していた。

暫くすると私はぐでんぐでんに酔っ払っていたようで藤田さんが京太郎君を呼んでくれたようだ。

京太郎君が私を背負って藤田さんと話している。

私は結構酔っているせいか話が頭に入ってこない。

まぁいいや。

それから少しして京太郎君が歩き出す。

大きくなった京太郎君の背中に揺らされながら私の家に向かっていった。

ああ、そういえば前にもこんなこと有ったっけ……

とても懐かしい光景。

でも彼は居ない。

彼は、彼とは違う。

彼はあの子じゃない。

あの子は彼じゃない。

分かっていても重ねてしまう。

いつからだったんだろう、彼に縋って生きるようになったのは。

いつの間にこうなったんだろう、彼を忘れることが出来ない人生を送るようになったのは。

私の中では未だに答えは出ていない。







その晩、酔っていたせいか抽象的な、若しくは印象を象った夢を見る。

闇に吸い込まれていく手。

私はいつも間が悪く、その手を掴めない。

多分私では彼の手は掴めない。


自分で言うのもなんだけど私の手って結構綺麗で整っているんだよね。

でもね、大事なものはいつもするりと手から抜けて行くの。

どんなに大事に持っていても。

どんなに必死に掴もうとしても。

手から抜け落ちていってしまう。

まるで掬った水が指の隙間から零れて行く様に。

きっと私の手はそういう風に出来ているんだよ。

だから似たようなものを掴んでそれを本物だと思い込んでた。

彼にとっての私は母親の代替かもしれないけど。

私にとっての彼は彼自身の代替なのかもしれない。

私は京太郎君の母親には似ても似つかないけど、彼の母親代わりになれるならそれでもいいと思っていたことも有った。

私も似たようなものだったから。

でもここの彼はあのときの彼じゃない。

彼は二度と戻ってこない。

当たり前のことなのに、分かりきっていたことなのに。

多分心のどこかではこのままじゃいけないとは思っていたけど止められずに居た。

でもよくないんだよね、このままじゃ。

縋って生きてるだけじゃどうしようもないんだ。

だから、もう進もう。

新たな形へ。

どんなに歩みが遅くても、一歩一歩進んでいこう。

あのときの彼と違っても、今ここに居る彼と新しい思い出は作れる。





朝になり、起きて色々とうだうだ考えながら時間を無為に潰す。

今日は折角の休みだからダラダラとしよう。

教え子の誰かが来たら麻雀打ってもいいし。

そう思っているとやっぱりいつも通りに宮永姉妹と京太郎君がやってきた。

おいおい、照ちゃんはいいけど君たち二人は受験生だろうに。

こんなところで油売ってていいのかい?

咲ちゃんは問題ないとしても京太郎君の成績は中の上ってところでしょ。

まぁ清澄行くなら問題ないだろけどさ。

何だったら現役教師の私が教えても良いんだけど。

そういえば私は来年どうするか考えてなかった。

人のことは言えないものですね。





色々とやってると時間はあっという間に過ぎていくわけで。

たまにこーこちゃんが押し掛けて来ること以外はいつも通りな訳だけど、それでも仕事やっていると色んな人と出会う。

大沼プロとか南浦プロとか。

あ、息子さんとかお孫さんで妙齢の男性は居ませんか?

あ、いない、そうですか。

もうなんかそういうことを聞くのが自分のキャラのような気がして半ば義務になっていた気もする。

話が逸れてしまったが時間が過ぎると教え子二人も成長しながら進路を決めたりするわけで。

結局二人とも清澄に行くことになった。

私はどうするべきかな。

そういえば何か忘れているような……





冬に入りそろそろ寒さに弱さが出来た頃。

京太郎君の火の鳥がちゃんと出来上がっていてこれからどう伸ばそうかと思いつつ新たな考えを探す。

うーん、火にプラスして何かにするかそれとも火の鳥にプラスして何かにするか。

火の鳥に何かするとしたら何がいいだろう。

火の鳥単体はカウンターみたいなものだけど更に追加すると攻撃的に出来そうな感じがする。

流石に一朝一夕と言うわけには行かないけど多分大丈夫。





人生の区分点と言うものは過ぎるとあれよあれよと進んでしまうものである。

進路のことや卒業式の準備で慌しい日々を過ごすといつの間にか時間は過ぎ去る。

そして訪れた卒業式の日。

友と友が涙を流し別れを惜しむ日がやってきた。

あるものはこれから訪れる新しい日々に不安を抱えたり。

あるものは先輩の第二ボタンなどを貰いに行ったり。

教師陣と言えばある意味肩の荷が下りたと一区切りつけたりと様々である。

私はというとこれから巣立っていく生徒たちと話したあと職員室でまったりしていた。

知ってる子がいなくなると一気に寂しくなるものだなぁ……

そんな風に黄昏ていると校長先生から呼び出された。


「あ、小鍛治先生、一つ聞いておきたいんだが……」

「中学の臨時免許の更新ってどうなっていますか?」

「どうにも今年は忙しくて聞きそびれていたんですが……」

「例外とはいえ6年まで中学校の教師をするならまずちゃんとした教育免許を取った方が……」


云々かんぬん。

あはははは、何か忘れてたと思ったらこれだったかー。

いっけなーい、臨時免許の更新忘れてたー。

これじゃ中学の先生出来ないやー。

でも幸いなことに高校の教育免許持ってるから高校の先生でもやろうかなー。

仕方ないよね、免許更新忘れてたんだからー。

ちゃんとした教育免許は10年更新でよかったー。

そんなこんなで中学の先生を続けることが出来なくなった私は泣く泣く高校の先生をやるしかなくなった。

場所は近いところの高校がいいなー。

具体的に言えば清澄高校みたいな?








新たな就職口を探して高校に面接を受けに行った。

時期も遅かったのにあっさり通っちゃった。

こういうとき私のネームバリューはすごいと思う。

すごく便利です。

入学式の挨拶のときはどよめきがすごかった。

もっと黄色い悲鳴をあげてもよかったんだよ?

例えば『すこやんかわいい!』とか『すこやん結婚して!』だとか。

まぁそれはそれとして早速部活の顧問をすることになりました。

私は部室の位置を確認するためにもふらっと旧校舎に行き、苦も無く探し当てた部室に入るとそこには……


「失礼します。」

「……あれ?」


まだ誰も来ていなかった。

しかも部室と言うには余りに殺風景な部屋である。

ここにはまだ何も運んでないのか何も無い。

おかしい。

さきほどから十分くらい経ってるのに誰も来ない。

更に十分ほど待つ。

やはり誰も来ない。

もしかして今日は部活ない日だったり……?

ありえてくるのがこわい。





もうちょっとだけ待ってみると扉が開いた。

扉を開けたのは馴染みのある顔触れだった。

私は空かさず挨拶する。


「照ちゃん、咲ちゃん、やっほー。」


「……部屋間違えました。」


そう言って二人は部屋を出て行こうとした。


「ちょちょちょ!? 二人とも待って!」


「でも部屋間違えたのは事実。」


「え。」


「咲を連れて行こうと思ったら道に迷っ……部屋を一つ間違えた。」


「お姉ちゃんそうなの?」


「うん。」

「健夜さんは間違ってここに来たみたい。」

「だから健夜さんはとんだおっちょこちょいだね。」


あの、照ちゃん?

多分それは真っ直ぐ貴女に戻っていくブーメランだと思うよ?

西城秀樹も秀樹感激しながらつい歌っちゃうレベルの。







姉妹二人と一緒に部室に行くとそこには三人の少女が居た。

照ちゃんはその中に居た年長者の学生議会長である竹井さんに声を掛ける。


「久、新入部員確保してきた。」


「本当? これでやっと女子団体戦に出れるわね。」


「後でもう一人来る予定だけど。」


「もしかして照が言っていた京ちゃん?」


「うん、そう。」


「あ、私は今日から顧問になる小鍛治健夜だよ。」

「若いからって学生と間違えないでね?」


「ははは、中々個性的な先生ね……」


「健夜さん、ナイスジョーク。」


竹井さんが乾いた笑い声を上げて照ちゃんが茶化す。

あ、やばい。

これは私が火傷するパターンだ……

上手いこと流してみんなの事を聞いてみる。

それからお互い自己紹介をする流れに。




「片岡優希! 一年生だじぇ!」

「麻雀は好きだがタコスがあるから清澄に来ました!」


うん、いかにも元気印って感じの子だ。


「わしは二年の染谷まこじゃ。」

「よろしくな。」

「実家の雀荘を手伝うことも多いけぇ、抜けることも有るじゃろうけど……よかったら家の雀荘にも寄ってきんさい。」


実家が雀荘なのか、大変そうだね。


「私は竹井久、知ってるとは思うけどここの部長よ。」

「あとついでに学生議会長でもあるわ。」

「皆よろしくね。」


堂々としてるなー。

流石は学生議会長なだけあって人前で話すことがしっかりしてる。


「宮永照です、みんなのために頑張って全国制覇目指します♪」


誰だお前。

所謂インタビュー用というか外面用なんだろうけど流石にやりすぎではなかろうか。


「宮永咲です。」

「お姉ちゃんや京ちゃん、そして健夜さんとはよく打っていましたが他の人とは余り打ったことないので下手かもしれませんがよろしくお願いします。」


咲ちゃん、女子インターミドルで二年連続覇者になった貴女がそういうのは嫌味に聞こえるよ。

本人にはそんなつもりは無いんだろうけど。








今部室に居る全員の自己紹介が終わった後、お互いの実力を測るためにも早速麻雀をすることになった。

入る人間は染谷さん、片岡さん、咲ちゃん、竹井さんの四人。

照ちゃんは今お菓子に夢中。

暫くすると部室の扉が開けられた。


「こんにちはー。」

「っと、対局中でしたか。」


「京ちゃんこっち。」


「あ、照さん。」


「遅かったね京太郎君、何処行ってたの?」


「ちょっと学食のチェックをしてたんですよ。」

「今まで給食だから気になっちゃって。」


「京太郎君は色気よ食い気だね。」


「食い気もそうですけど打ち気もありますよ。」

「出来れば今すぐにも俺も打ちたいんだけど……って。」

「皆今打ってるんだもんな。」


「京ちゃん京ちゃん。」


残念そうに言う京太郎君に照ちゃんが反応して何か取り出す。

照ちゃんがその何か持って手招きしている。

その何かに気付いた私は躊躇いがちに聞く。


「照ちゃん、それ……」


「健夜さんもやる?」


「いいけど……まさか麻雀部でそれやるとは思わなかったなぁ……」


「なんすかそれ?」


「ドンジャラ。」


京太郎君の問いに対し、照ちゃんは得意そうにそう答えた。





「えっと、そのドラ○もんポン。」


「……あ、和了った。」


「くそぉ……ドンジャラだと勝手が分かんねぇ……」


「やっぱチェスとか囲碁とかオセロの方がよかった?」


「何で麻雀部にそんなものがあるんですか……」


「まこが来るまでは久と二人でやってた。」


なんか悲しいなぁ……部員が集まらないのって……

しかしまさか女子インハイチャンプと世界一位と男子インターミドルチャンプが揃ってドンジャラするとは……

ここは本当に麻雀部なのだろうか……





本物の卓の方が漸く決着がつき、京太郎君と照ちゃんの出番が回ってきた。

入るのは京太郎君に照ちゃんと先ほど入っていた咲ちゃんに片岡さん。

さっきちょろっと見てたけど片岡さんの実力だったらトばなければ御の字と言う感じかな。

賽が回りだすと京太郎君が口を開いた。


「この面子っていうか咲と俺と照さんが同卓するの久し振りだな。」


「うん、私も四麻自体久し振り。」


「京ちゃんとお姉ちゃん相手だと本気出さないとだめだよね。」


「ちょっとー私も居るんですけどー?」


「わりぃわりぃ、片岡さんだっけか?」

「ちゃんと真面目に打つから許してくれよな?」


「構わないじぇ、私は心が広いからな。」

「それよりも金髪、お前こそトばないように気をつけろよ?」


「ま、頑張るさ。」


何で片岡さんはそうやってフラグ立てちゃうかなぁ……

しかもよりによってこの面子相手に。

ああ、修羅場。

南無片岡さん。









「ぐぁぁぁ……世間は厳しいじぇ……」


そう言ってへたれ込む片岡さん。

対局は案外あっさり終わった。

まず結果を言います。

片岡さんのトび終了。

照ちゃんは二位の咲ちゃん三位。

そして京太郎君が一位。

最初ロケットスタートを切った片岡さんが4000オールをツモ。

そのあとは鏡で見終わった照ちゃんが片岡さんから連続和了で巻き上げる。

それを止めるように咲ちゃんが照ちゃんの捨牌を連槓で削る。

宮永姉妹の点数が並んだくらいで京太郎君が親となりそこへ片岡さんが親倍を振り込んでトび終了。

なんともむごい。

片岡さんは頻りに「タコスがあれば……タコスさえあれば……」と呟いていた。


「何で金髪はそんなに強いんだじぇ……」


「こう見えても京ちゃんはインターミドルのチャンピオン。」


「なぬ!? お前そんなに偉かったのか!?」

「私女子しか興味が無かったから知らなかったじぇ。」


「俺なんて大したこと無いけどな。」

「未だにリベンジ出来てない相手が居るし。」


「うおぉ……男子って魔境なのか……」


魔境なのは私たちと年がら年中打ってた京太郎君だけだと思うよ……

しかも京太郎君の負け越しの相手はプロだし。

片岡さんと京太郎君が喋っていると竹井さんが声を掛ける。


「ほらほら、次の面子入れるわよ。」


次の対局が始まる。

面子は連卓で京太郎君に宮永姉妹と染谷さんだ。

染谷さんならトびはしないだろうし上手く立ち回れるとは思うけどきつい戦いになると思うな。

京太郎君が卓に着いてる状態で聞く。






「あれ、部長さんは入らないんですか?」


「え、私?」

「だってほら、その……」

「私が入ったら皆トんじゃうでしょ?」


「言ってんさい。」


「健夜さんも打ちたいとか言いませんね。」


いやいや、流石に学生に混じって打ちたいなんて言わないよ。

大人だから我慢するもん。

そう思った私は竹井さんの言葉に便乗して言う。


「私が入ったら皆潰しちゃうでしょ?」


「…………」

「…………」

「……さて打とうか。」


「流さないで!?」


「だって健夜さんのは洒落になってない。」


「ひどいよ! 流石の私でもそんなことやらないよ!?」


「『出来ない』じゃなくて『やらない』なのが怖いな……」


「健夜さんは麻雀で人を殺せるって噂が有るけど、あれ本当なんじゃ……」


「ああ……ドツボに嵌っていく……」

「違うんだよ……違うんだよぉ……」









私の呟きも空しく消えて行く。

流石に麻雀で人を殺したことは無いよ。

だって目覚めが悪いじゃん。

というかそんな変な噂流したの誰だ! 出て来い責任者!

暫くすると対局の結果が出た。

染谷さんがラス、京太郎君が三位。

照ちゃんが僅差で一位、咲ちゃんは二位。

染谷さん、貴女は相手と運が悪かった。

私の教え子達は打ち筋に甘さがないから少しでも牌が浮いたら必然的に集中砲火を受ける破目になるもの。

少しでも打牌が甘くなれば集中砲火。

調子を少しでも崩せば集中砲火。

凹んだところに集中砲火。

ひどい教え子に育ったものだ。






対局が一頻り終わった頃に照ちゃんが聞いてくる。


「そういえば健夜さん、中学校の先生をやっていたんじゃ……」


「残念だったね、トリックだよ。」

「というのは冗談だけど。」


「健夜さん、もしかして嫌いな先生に麻雀を楽しませたんじゃ……」


「そんなことしてないよ!?」


君たちの中で私はどんな人物像なのさ!

というか付き合い長いんだからそんなことわかるでしょ。

私は自分の汚点を恥ずかしそうに言った。


「実は臨時免許の更新忘れてて失効しちゃった……」


「……え?」


「うわぁ……」


「健夜さん……」


教え子三人の目が何ていうかダメな大人を見る目だった。

やめてよ、そういうの本当に心に来るから……





私は自分に向かって来る空気を入れ替えるために話を振る。


「そういえば何で今まで部員が三人しか居なかったの?」


人のことは言えないけどインハイチャンプが居るならもっと部員が居てもおかしくないのに。

そうしたら竹井さんと照ちゃんが口を開いた。


「久が悪い。」
「照が悪い。」


ほぼ同時に二人がお互いを指して言った。


「久が強引に生徒を連れてきて勧誘したあと悪待ちで狙い撃ちするから。」


「照が加減もせずに連続和了するからよ。」


なんとも醜い擦り付け合いか。

でも何となく理由が分かった気がする。

ここは変人の集まりだ。

そんな灰汁が強いというか個性溢れる部員達が集まった麻雀部。

何とか部活初日は終わった。







ある日、食堂で京太郎君を見つけた。

京太郎君は既に180台に達しており、しかも金髪であることも相まってよく目立つ。

どうやら何を食べるか悩んでいるようだった。


「京太郎君、何を悩んでいるの?」


「あ、健夜さん、実はレディースランチがすっげー美味そうなんですけど……」


「ああ、確かに……」

「でも京太郎君は男の子だから頼み辛いと。」


「そういうことです。」


「ならこうしようか。」

「私は……」


私はそう言いながら学食の献立を眺めて決める。


「日替わりランチがいいかな。」


「……! わかりました、代わりにレディースランチお願いしますね。」


私の言わんとしている事が分かった京太郎君は学食の券売機で日替わりランチの券を買う。

私も京太郎君に続き、レディースランチの券を買った。

お互い買った食券を食堂のおばちゃんに渡すと直ぐ様用意してくれた。

私たちはテーブルに着くとお互いに注文したものを交換した。


二人して手を合わせて「いただきます。」と言った後とある男子生徒がこっちにやってきた。

確か京太郎君と仲がいい友達だったはず。


「あれ? 今日は咲ちゃんじゃないのか。」


え、なに? 京太郎君咲ちゃんにも頼んでいたの?


「というかこの間は宮永先輩に頼んで今日は小鍛治先生かよ。」


照ちゃんにまで? どれだけいろんな人にレディースランチ頼んでいるのさ。


「頼める人が居なくてよ。」


「それでか。」

「でもそれに付き合ってくれる小鍛治先生はいいおか……」

「いいお姉さんですね。」


ちょっとまった、今何て言おうとした?

先生ちょっと聞き逃せなかったなー。

よし嫁田君、あとで体育館裏ね。







嫁田君が危険察知したのかそそくさと去って行った後、程無くして宮永姉妹と竹井さんが隣に座ってきた。

挨拶を軽くして竹井さんが京太郎君に話しかける。


「須賀君はレディースランチ?」


「ええ、とても美味そうだったんで。」

「それに普段こういうの食べたこと無かったですし。」


「へぇ……普段はどんなもの食べているのかしら?」


「一体どういうつもりで? もしかして俺に興味持ちました?」


京太郎君が冗談めかして言うと宮永姉妹がピクッと微かに反応した。


「そうね、興味有るわよ。」


「う~ん、そうですねぇ……」


京太郎君が少し考えたあとちらりとこちらと宮永姉妹を見た後言ってのける。


「健夜さんと照さんと咲が作ってくれるフルコースかな?」


あれ、三人でフルコースなんて作ったっけ……?

竹井さんは尚も続ける。


「須賀君って、案外グルメなのね。」

「結構ジャンクフードを食べてる人間だと思っていたわ。」


「そりゃ出されればジャンクフードでも食べますよ。」

「ただ美味しい料理の方が好きってだけで。」

「一番いいのは自分の身の丈にあった料理ですけど、どうにも高級料理ばかりに囲まれて生きてきたみたいで。」

「だから高級料理の方が馴染みがありますね。」


「よく言うわね。」

「ところで私たちは須賀君から見ればどうかしら?」


「美味しそうな素材ですかね?」

「それを美味しく調理できるかどうかは料理人次第なんじゃないですか?」


「ふふ、小鍛治先生に期待ね。」


ええ~!? ここで私に振るの?

というよりいつの間に麻雀の話に移ったのさ!

若干嬉しそうな照ちゃんと複雑そうな咲ちゃんが何か印象的だった。











放課後、皆が皆部室に集まり打っていく。

私が育てすぎたせいか教え子三人と他三人の実力差が顕著である。

これは何とかしないといけない。

と言っても教え子三人にも伸ばしたいところはまだまだあるのだけれど。

特に京太郎君、中学の終わりに育てていたものをちゃんと形にしたい。

だけどそうすれば実力差がより顕著になってしまう。

う~むどうしたものか。

私が悩んでいるとふと気付いたことがあった。

竹井さんも何か考えているようだ。

どうやら私だけではなかったようだ。

突如竹井さんが口を開く。


「須賀君、照、咲、三人に行って欲しいところがあるの。」


「どこっすか?」


「雀荘よ、しかもまこのね。」


「ん? そういうことならわしも行った方がいいんじゃなかろうか?」


「何言ってるのよまこ、私たちは私たちですることがあるのよ?」


「ふむ、ほうか。」

「だがちと不安じゃのう。」


「大丈夫ですよ、染谷先輩。」

「俺が頑張りますんで。」


「京太郎がか……それなら大丈夫かのぅ……」


「む、私だって三年生、京ちゃんよりお姉さん。」

「だから私に信頼を置くべき。」


「宮永先輩が居るから不安なんじゃけど……」


私も不安だった。

どうやら竹井さんは三人の鼻っ柱を折るつもりだったのだろうけど……

あの三人が雀荘で働くことを考えると不安だった。

仕事とか相手とか、いろんな意味で。

…………大丈夫! きっと京太郎君がフォローしてくれるはず!






三人が部室を後にして私たちが四人が打っているとき。

とりあえず三人のステータスアップを急務に行っていた。


「ほらほら、片岡さん集中力が切れてきているよ。」


「だってタコスがー……」


「竹井さん、悪待ちばかりだと読まれるよ。」

「もっと相手を翻弄するように、もっと相手を追い詰めるように。」


「は、はい……」


「染谷さんは私の打ち筋をよく見て。」

「貴女が対処できないような打ち方を優先的にしていくから。」


「お願いします。」


結構スパルタになってるけど、このぐらいしないと追いつけないしインターハイじゃ県予選止まり。

時間が圧倒的に足りない。

何せ風越にはあの子が居るんだから。

それに風越を破った龍門渕も気になる。

部活時間だけでは足りない。

ではどうするか。

私は打ちながらある程度考えを纏めて竹井さんに打診しておいた。

そのあとは染谷さんと竹井さんは県予選の抽選会に出かけた。

現時点でオーダーは決まっちゃったけど、そういえば今更だけど清澄ってこのメンバーじゃなかったような……

照ちゃんの代わりに入っていたのは誰だっけ……?










部活時間が終わる頃、三人が雀荘から帰ってきた。

ちなみに私と二人で猛特訓していた片岡さんは今は煙を吐きながら倒れている。


「おかえり、どうだった?」


「ただいま健夜さん、実は染谷先輩の雀荘に藤田さんが居てですね。」

「久し振りに思いっきり打てましたよ。」


「やっぱり藤田さんはプロなだけ有って強いですね。」

「私も久し振りに藤田さんと打てて楽しかったです。」


「……お菓子ある?」


あ……藤田さんごめん……

今度奢ってあげるから……

それで元気出して。

あと照ちゃん、口を開けばお菓子を求める口癖は直しなさい。










その次の日の放課後、皆が集まるとつかつかと竹井さんがホワイトボード前に行き、仁王立ちをしている。


「はーい注目! 皆集まれー!」


竹井さんが声を張ってホワイトボードをひっくり返すとそこにはでかでかと文字が書かれていた。

それをみた部員達が呆気に取られながらその単語を口にする。


「「合宿?」」


「そう、小鍛治先生の立案でもあるのよ。」

「県予選を突破するにはまず練習時間が足りないわ。」

「だからその為の合宿。」

「今から資料渡すから各自目を通しておいて。」


竹井さんが軽く説明を済ませて合宿のしおりや県予選のルール等を渡すと照ちゃんの手が挙がる。


「ん。」


「なによ照?」


「お菓子は何円まで?」


「お約束はいらないわよ。」

「お菓子は好きなだけ持ってくるといいわ。」

「もちろん自己責任でね。」

「あ、そうだ、男手が必要だから須賀君には色々手伝ってもらうわよ。」


「わっかりましたー。」


「一応これを渡しておくわ。」


竹井さんがそういうとメモを京太郎君に渡した。


「んー、大体分かりましたけど何か解らないことがあったら連絡します。」


「そうね、あ、これ私の番号よ。」

「寂しくなったらいつでもかけてね?」


さりげなく電話番号の交換をする二人。

何だろう……このコミュ力の違い……

私なんてプロの人たちと交換するのにアレだけ勇気を出したのに……









「じゃあ、買出し行って来ます。」


「京太郎君、車出そうか?」

「何なら他に必要なものがあったら多少は私のポケットから出すけど。」


「マジすか? ありがとうございます。」


「京ちゃん、私も行く。」

「京ちゃんだけだときっと大変。」


照ちゃんがキリッとした顔で言う。

あの、私も行くんだけど……

さてはお菓子目当てだな。

ということで照ちゃんが付いて来る事になった、

部員達が我も我もと追加で注文していく。


「京太郎、ついでに私にタコス買って来い!」

「合宿分もたんまりな!」


「タコスは現地で何とかしろ、今買ったら悪くなっちまうだろ。」


「大丈夫だじぇ! タコスはそんなに弱くない!」


「なんじゃそりゃ。」


「京太郎、すまんがお茶が切れそうじゃ、追加で頼む。」


「はい、わかりました。」


云々かんぬん。

買出しに三人で行ったけど結構大変だった。

しかも一人は戦力になってないので余計に。

買い物籠の一つがお菓子って君は遠慮が無いね。

稼いでお金は余ってはいるけどびっくりだよお姉さん。













そして合宿当日。

学校から借りた8人乗りの車で合宿先へと向かう、が……


「はい、あなた、あ~ん。」


「あなたじゃねぇ。」


「いや~ん、怒っちゃやーよ、あ・な・た?」


新婚夫婦やカップルのようないちゃいちゃの寸劇が始められていた。

やめてください死んでしまいます。

というかハンドルがぶれて心中してしまいます。

すると照ちゃんが後ろに動いて京太郎君を挟んで片岡さんの反対側に着いた。


「京ちゃん、そんな子より私のポッキーの方が美味しいよ?」


「ぬぬぬ、照先輩も参加するのか!?」


何処からともあのBGMが掛かる。

カーラジオからだった。





「何を言ってるのか解らないけどそんな色気の無い体じゃ京ちゃんは抱いてくれないわよ?」

「まぁ多少成長したところで妻である私の座は揺るがないけど。」


また始まったー!? それ小学校のときに卒業したんじゃないの!?

橋田須賀子劇場なの!? 渡鬼な空間なの!?

今日はこっちまで巻き添えにしないでよね!


「ふふ、優希も照も甘いわね……」

「須賀君ならもう私のものよ。」


「部長……いや久。」


竹井さんも乗ったー!?

なんで!? 何でなのさ!?

なんでそんなにノリがいいのさ!?






「そんな、京ちゃん本当なの……?」


「悪い、照さん……」


「ふふふ、須賀君は……いえ京太郎はやっぱりいい子だわ。」

「私のような女にも優しくしてくれるもの。」


「どうせ抱かれてるときに愛の言葉を囁かれたんでしょう。」

「それとも久はベッドの上の言葉を真に受けるのかしら?」


「好きに思えばいいわ、最近夫からベッドでは見向きもされなくなった、『奥さん』。」


「くっ……」


皆演劇部に入りなよ……

そんなこんなの寸劇がありながらも合宿先に着いた。

もうなんかへとへと……












合宿所に着くと咲ちゃんが誰に言うでもなく言葉を放つ。


「合宿所なのに旅館みたい……」


「ここは人気じゃけぇ、時期が時期じゃと混むらしいぞ。」


確かに学校の合宿所というには聊か快適すぎるような気もする。

まぁ快適すぎて困ることは無いと思うけど。

荷物を置いて一息着いたところで気合を入れるように竹井さんが言う。


「さて、着いて早々だけど……」


「早速特打ちか?」


「まずは……やっぱり!」


「温泉。」


「照、私の台詞を取らないでよ。」


竹井さんが折角勿体振って溜めた台詞を照ちゃんが奪って言った。

しかもその手にはちゃっかり浴衣やタオルを持って。

私たちも照ちゃんに着いていき温泉に入る。

お風呂は心の洗濯だぁ……

いいお湯でした……

私たちがお風呂に入って上がると片岡さんが何か飲んでいた。


「ぷはぁ~やっぱりお風呂上りはフルーツ牛乳に限るんな!」


「私はビールを呑みたいんだけどね。」

「でも呑みません、一応仕事中だから。」


「小鍛治先生は大人だなー。」


そういう片岡さんは浴衣をだらしなく着ている。

流石に先生として注意しておくべきかな。