私たちがお菓子を食べていると一年生だろうか、扉の向こう側からおずおずとこちらを覗いている子が居た。

私はそれに気付いて手招きすると少しずつ体を出して挨拶してきた。


「あの……ここが麻雀部で合っていますか?」


「うん、ここが麻雀部。」


「よかった……間違えてたらどうしようかと……」


片目を閉じた金髪の少女が現れた、あれ……どこかで見たことあるような……

ああ、個人戦で出てた子だ。

確かふくみちだかふくじだか。

生徒名簿を軽く見といてよかった。

担任とか持っていたら全員覚えないといけないんだろうなぁ……

うわぁ……大変だぁ……



「ところで自己紹介がまだだったね。」

「知ってるかもしれないけど私は顧問の小鍛治健夜、よろしくね。」


「あ、一年の福路美穂子です。」


「ん……もぐもぐ……一年……ゴックン……宮永照。」


君はもう……なんというか……もう……お菓子が口の周りについてるから。

その日は軽く三麻を打ってそれだけだった。

部員ちゃんと集まるかなぁ……

もうちょっと世界一位を推し出してアピールしないと生徒来てくれないかな?

よし、とりあえずアピールしてみよう。









次の日、新入部員はこない。

なぜだ。

やっぱりアピールしないといけないんだろうか。

仕方ない今度試合出たときに超絶アピール大作戦だ。

そう思いながら三麻を打っていた。

照ちゃんはお菓子を手放さないのでお菓子のくずがぽろぽろと落ちている。

そしてそれを福路さんが掃除する。

ダメだ、ぐうたらすぎる。

まるでかつての私を見ているようで心苦しい。

ああ、ごめんよ……京太郎君にお母さん。

かつての私は二人に面倒見てもらいっぱなしだったね……

本当にもう、ごめんなさい……







更に次の日、フェレッターズの元に行きちょっと試合に出て相手チームを全員トばしてあげた。

これだけすれば印象に残るよね。

そして勝利者インタビューでこんなことを私は言った。


「やっほー学校の皆見てる~?」

「先生は頑張っちゃったけど部活の部員がまだまだ足りません。」

「だから少しでも興味がある生徒が来てくれる事を先生はまってまーす。」


これだけ言えば誰か来るだろう。

と言うかインタビューを私的に使ったのは幾等なんでもまずかったろうか?










次の日になって放課後三人で待つ。

来ない。

何故か来ない。

どうしてだろう……メジャーな競技にローカルだけど地域にはメジャーな麻雀番組なのに……

あれだけアピールしてもダメって事?

そして次の日もその次の日も来なかった。

世界一位の女は敗北を味わった。

一体何がいけなかったんだろうね……

やっぱ私が若いからかなぁ?




人数足りなくて三麻しか打てないからどうしようと考えていると照ちゃんが提案してくる。


「健夜さん、ちょっといい?」


「うん、なに?」


「多分健夜さんがテレビでやらかしたせいで部員は集まらないから京ちゃんや咲を呼ぼうと思って。」


「え、私やらかしてたの!?」


「はい、正直小鍛治先生の凄さに引いたのではないのでしょうか。」


「あれ!? 福路さんも!?」


「あ~そっか~……私やらかしてたんだ……」


「で、どう? 健夜さん。」


「ああ、うん、無理させない程度で呼ぼうか。」


「あの……」


「うん?」


自分の行動を嘆きながら照ちゃんの提案を承諾すると福路さんから質問が来た。


「その、京ちゃんとか、咲ってのはどなたでしょうか?」


「咲は私の妹で京ちゃんってのは幼馴染。」


「ついでに言うなら京太郎君は私のご近所さんで照ちゃん含めて私の教え子だよ。」


「そうなんですか。」


福路さんから質問に答えると京太郎君と咲ちゃんを後日来れる日に呼ぶことになった。

結局部員は集まらない。

はぁ……所謂同好会ってやつだよね。





で、早速次の日に二人が来てくれた。

照ちゃんに連れられておっかなびっくり来てくれた二人。

そういえば周り中学生ばかりだからそういうことになるよね。

小学生から見たら中学生って大人っぽく見えるし。

福路さんは掃除当番でちょっと遅れるからあとで挨拶させるとして、今は久し振りの四麻をしよう。

というかいつも打ってる面子である。

緊張から解き放たれたのか京太郎君がこんなことを言い出した。


「照さん制服なんだね。」


「うん、どう? 似合う?」


「……多少は大人っぽく見えると俺は思う。」


「何か含んだ言い方……」


若干思っていた返答とは違う言い方なのが気に入らなかったのかお菓子を頬張りだす。

嘘でもいいから似合ってるとか綺麗くらい言えばいいと思うよ。

それが処世術だと私は思う。

それから少しして福路さんがやってきた。


「遅くなりました……あら?」

「貴方が京太郎君に宮永さんの妹さんの咲ちゃんね?」


「はい、いつもお姉ちゃんがお世話になってます。」


「そんなことないわ。」


「うん、むしろ私のほうがお世話してるくらい。」


どの口でそんな事を言うんだろうね、この子は。

照ちゃんにそんなこと思いつつ京太郎君に視線をずらすと何か福路さんをじっと見つめている。





「須賀京太郎です! よろしくお願いします!」


「あら、元気なご挨拶ね。」

「私は福路美穂子よ。」


「よろしくおねがいします福路お姉さん!」


ああ、何となく元気な挨拶で察してしまった。

京太郎君的にはもろに好みなお姉さんなんだろうなぁ。

しかも今はまだ発達しかけだけど三年後辺りにはふくよかな身体つきになってるはずだし。

本当に君は見る目あるよね、ある意味。

まったく君はとんだはりきりボーイだよ。








今日の部活ははりきりボーイとおどおどガールを追加しての活動です。

実はこの中で一番実力があるのが咲ちゃん、それとほぼ同じくらいなのが照ちゃん。

その後に福路さんと京太郎君といった感じである。

といってもそこまで実力差はなくて誰が勝ってもおかしくないくらいだ。

さすが私の教え子、中学生とも張り合えるとは。



もう今年は部員来ないだろうと思ってそろそろ本格的に技術を叩き込もうと思う。

幸いにも福路さんは基礎はしっかりしてるし、照ちゃんにも教えてあげられる。

京太郎君にはまだちょっと早い話だけど下の子二人はきっちり基礎は教えたから問題ないし。

上の子二人はまだ中一だけどインターミドルでも通用するレベルにしてあげよう。


「じゃあ今日は中学生'sに重要であり戦術の基礎でもある"観察眼"を本格的に鍛えていくよ。」


「私たち……ですか?」


「うん、福路さんのその目、武器に出来ると思って。」


「…………」


片目を瞑った少女が動揺する。

隠された片目に何かコンプレックスを抱えているのだろうか?

武器に出来るという見立ては間違っていないはずだから気にせず行こう。




「観察眼を極めれば相手の力量を測ることも出来るし相対的に自分や周りの流れも把握出来るよ。」

「照ちゃんに関しては鏡に必要だと思うしね。」


「健夜さん。」


「何京太郎君?」


「流れって何?」


「そういえばデジタルばっか教えていたから言ってなかったね。」

「流れって言うのはね……そう!」

「重要な場面で鳴いてUnicornが流れたときに『流れ変わったな』っていう……」


「?」


え、もしかして通じなかった!?

何その反応……まるで私が滑ったみたいじゃない……

私は咳払いして仕切りなおす。


「まぁ運みたいなものかな。」

「今の咲ちゃんは流れに乗ってるから一番早く和了れる、とか。」

「要はその人の和了りまでの有効牌などが来やすい状態。」

「当然それは人によって日によって変わるし、誰かが鳴く事で変わるものだよ。」

「人によっては流れを読む人が居るから何となくでいいから頭の片隅に置いておいて。」


「ありがとう健夜さん。」


何とか流れで滑ったことを誤魔化した。


「でも健夜さんのUnicornの流れはわかんなかった。」


「ごめん……」


それは出来れば水に流してください。





福路さんはやたら気が利く、それはよく周りを見ているからだ。

つまり観察しているから気が利く、それを武器にするのだ。

その後は相手のスタイルや理牌での癖を見抜く練習をした。

こうすることで観察眼だけではなく、逆に自分の理牌の癖を意識して直すことにも繋がる。


観察眼の練習中京太郎君は穴が開くのではないかというほどじっと人の顔をみていた。

君は言われたことを素直に聞くのはいいけれどもうちょっとさり気なくやろうか。

あと京太郎君、福路お姉さんばかり見ても自分の手牌だけ見ても観察眼は養えないぞ。






最初、福路さんは両目を開けるのを躊躇っていた。

でもそれじゃあ見抜けるものに限度がある。

何とかして両目を使わせたい私も考えて説得してみた。

すると福路さんは渋々ながらももう片方の目を開く。

蒼い目。

左目とは違う色。

福路さんは開いた目を直ぐ様閉じてしまった。

所謂オッドアイというやつだ。

成るほど、そういうことか。

多分子供の頃からオッドアイで何か言われてきたのだろう。

だから頑なに片目を閉じたままだったのか。

何か声を掛けるべきなんだろうけど言葉が直ぐに出てこない。

こういうときに私は先生として直ぐ様フォローの言葉が出すべきなのに……

その時京太郎君が言い出した。




「何でお姉さんはキレイな目なのに閉じちゃうの?」


「え……でも私……」


突然の言葉にびっくりする福路さん。

元々京太郎君が福路さんに好意的だったのもあるだろうけど。

子供故の感性というべきか、素直さと言うか、そういうものが京太郎君にはあった。

尚も京太郎君は続ける。


「福路お姉さんの目をもっと見せて!」


「私の目を……?」



「うん! だって宝石みたいですっごくキレイなんだもん。」







それを聞いた福路さんが泣き始めた。

そんな福路さんを見て京太郎君が慌てる。


「お姉さんどっか痛いの!?」

「もしかして俺ひどいこと言っちゃった!?」


「ううん、違うの……」

「そんなこと言われたの初めてだったから……」


多分福路さんは小さい頃から自分の目で嫌なことがあって、傷付いて、コンプレックスを抱えて居たんだと思う。

そしてそれを京太郎君の素直さに救われたんだろう。

それは子供故の正直さなのかそれとも京太郎君自身の歯に衣着せぬ普段の言葉が功を奏したのか。

偶然だったのかもしれないけど京太郎君に救われたんだろう。

まるでかつての私のように。




福路さんの涙が止まる頃にはキラキラとした目で宝石のような目を見る京太郎君を見ていた咲ちゃんがおずおずと福路さんに聞く。


「あ、あの……私にも見せて貰えますか……?」


「あ、私も見たい。」


「ええ、恥ずかしいから、少しだけよ?」


それに乗っかって照ちゃんも福路さんの目を見だす。

これは乗るしかないでしょ。

このビックウェーブに!


「あの私にも見せて……」


「健夜さんはやめてあげて。」


「うん、やめてあげて。」


「え、なんで!?」

「なんで私だけ仲間はずれなの!?」


「邪念を感じた。」


「え~……」


「冗談。」


照ちゃんめ……何かこーこちゃんに弄られた気分だ。

それから麻雀部に限り福路さんは両目を開けるようになった。

気持ちも少し前より上向きな感じかな?








それから二ヶ月もすると皆の観察眼も板についてきた。

スタイルやオカルトなども一局で見抜く照ちゃん。

相手の理牌や癖から有効牌を見抜く福路さん。

流れや自分のテリトリーにある牌を見抜く咲ちゃん。

全体的に何となく牌を察知してる京太郎君。

京太郎君に関しては観察眼余り関係なかった……








そんな4人の対局。

今ではすっかり仲良しだが麻雀のときだけは皆が皆ライバルだ。

お互いある程度手の内が分かっているので踏み込む部分と慎重になる部分がはっきりしている。

だけどそれはあくまで知っている者の視点でと言う事。

プロ並みかそれに準ずるレベルじゃない限り4人の攻防が流麗過ぎて傍から見たらどういう状況下わからないと思う。

まるで四人は将棋や囲碁を打つように攻めと守りを繰り返していた。

この4人が打つ場合、相当安全だと思わない限り立直をかけない。

それは立直したとすると鳴かれて巡目をずらされ守りが手薄になると理解しているからだろう。





おっとどうやら動きそうだ。


「ポン。」 222s


「チー。」345p


「!」


「…………」


咲ちゃんが仕掛け始める。

それに京太郎君が乗った。

福路さんが警戒を強めて。

照ちゃんだけは静観。

さて、どうなるかな。


「……カン」2222s

「ツモ、嶺上開花、800・1600。」


咲ちゃんが和了り二位浮上。

福路さんは親被りとなりラス転落。

そして京太郎君はラスから三位に。

照ちゃんはギリギリリードを保っている。

何れも点差は微々たる物だ。










次の局。


「カン。」


「!」


最初に仕掛けたのは福路さん、明らかに誘って《挑発して》いる。

福路さんが咲ちゃんの前でカンをする、咲ちゃんの手を潰しにかかっていると言うこと。

乗れば策で負ける、乗らなくてもスピードで負ける。

そう判断したであろう咲ちゃんは自分が被害を貰う前にオリた。


「チー。」


だが照ちゃんがそれを許さない。

照ちゃんが暗に「お前の牌を貰う。」と言ってるのだ。

こうなれば実質強制的に参加させられてる状態。

さて、咲ちゃんはどう対処するのかな?


「ロン、1600よ。」


咲ちゃんが福路さんに振り込んだ、いや差し込んだの方が正しいのかな?

ジリ貧になった咲ちゃんは点数の低そうな福路さんを選んだ。

これで咲ちゃんは2位のまま、福路さんが三位、京太郎君がラス。







更に次の局、いよいよオーラス。

照ちゃんが早目に流して一位を狙いにいった。

正直照ちゃんの信条的にはしたくないことだろうけどそれほど危うい差になっていると言うことだ。

照ちゃんの親だから流局しても和了り止めすればいいのだけれど相手たちに17枚引かせるのを危険視したのか。

だけどそこを狙って福路さんが咲ちゃんと一緒に攻める。

照ちゃんも早めに和了ろうとするが二人の邪魔が入って藻掻けば藻掻くほど泥沼に呈していく。


「ツモ、1300・2600。」


攻めあぐねている時に京太郎君が和了った。

親かぶりした照ちゃんは三位に転落。

押し出された咲ちゃんはたなぼたトップ。

和了った京太郎君は二位連帯。

福路さんは一歩及ばずラス。


「ドキドキした。」


と咲ちゃんがもらしていた。

京太郎君が和了ると予想して咲ちゃんが福路さんに乗っかっていたということだ。

福路さんは逆に照ちゃんと京太郎君を和了らせないようにしつつトップを狙っていたが一度に三つは無理だった。

照ちゃんも全員を相手にしないといけなかったから無理が出て潰れた。

そんなところだろうね。







対局が終わると先ほどまで張り詰めていた空気が一気に和やかになる。


「疲れた……お菓子がないと死んじゃう。」


「お姉ちゃんは疲れてなくても食べるでしょ……」


「お茶飲む人ー?」


私がそう聞くと全員手を上げた。

照ちゃんはびしっと、京太郎君はぶんぶんと手を振りながら。

それに遅れて咲ちゃんも小さく手を上げる。

咲ちゃんはもっとお姉さんを見習うべき。

あそこまで図太くならなくていいけど。


「あ、じゃあ私お茶入れますね。」


「あれ? 私が淹れようかなって思ったんだけど……」


「先生は休んでいてください。」


福路さんごめんね、ごめんね。

そう思いつつも動かない私のぐうたらさが恨めしい……

福路さん、貴女はいいお嫁さんになると思うよ。

私の元にいる限り結婚できないとは思うけど。

ああ、健夜教室は無常なり……







インターミドルの時期になり、少し強めのメニューしてみた。

と言っても部員が余りにも少ないので基本的に私と照ちゃんと福路さんが入って京太郎君と咲ちゃんがローテーションで入ると言った具合だ。

小学生二人は空いた時間を使って麻雀の勉強か学校の宿題をやらせている、ただし宿題は京太郎君だけしかない。

今の中学生二人はインターミドルでも十分上位に食い込めるレベルだけどどうせならやっぱり優勝狙いたいだろうと思って多目に時間を取った。

その甲斐あってか、二人はインターハイの個人でもそこそこ通用するレベルまでになった。

進めるのに一番難航したのは京太郎君の宿題だった気がする。

さくさく危な気も無く進んでインターミドル決勝、やっぱりこの二人が覇を競っていた。


「美穂子、手は抜かないでね。」


「宮永さんこそ、いつも打ってるからって気を抜かないでくださいね?」


う~ん、教え子が頑張ってるのはいいけど周りにも気を配ってあげて……

あ、ほら、気弱そうな子がびくびくしてるじゃん。

結果としては僅差で福路さんの勝ち。

対局したときに周りを扱き使ったおかげかな。

帰りに二人を車に乗せてお菓子を買い与えた。

ちょっとした労いみたいなものです。

私ってばやっさしー。

……そういえば会場のひそひそ声が聞こえたんだけど。


「ほらあれ、あそこにいるのは大魔王小鍛治プロだよ……」


「目が合っただけで失禁するって話よ……」


「大魔王の弟子か……今年からは会場が荒れるな。」


私は育てただけ、二人の素の能力が強いから私は背中を押しただけ。

私は悪くない、私は悪くない。

だって先生がやれって言うから……

そうだ、先生が悪いんだ。

あ……先生は私だった……








インターミドルの時期が過ぎ、部の雰囲気が落ち着いた頃。

京太郎君がこんなことを言い出した。


「俺もオカルト欲しい。」

「咲みたいなオカルト。」


欲しいと言ってあげられるものじゃないけどそろそろオカルトの方も本格的に育てては行きたいとは思っていた。


「私もお姉ちゃんに負けないくらい嶺上開花を強くしたいです。」


「あ、私も目の方をもっと……」


「鏡以外にもオカルトが欲しい、108式くらい。」


そんな京太郎君の言葉を聞いていたのか他の子も挙ってオカルトが欲しいと言ってた。

オカルトだけが麻雀じゃないぞ。

オカルトだけだと負けちゃうぞ。

というより108式って照ちゃんは欲張りすぎだよ。

このよくばりガールめ。

そんなこんなで欲張りガール、世話焼きガール、おどおどガール、張り切りボーイにオカルトを教えることになった。






他の三人は既に持ってるものを伸ばすとして、問題は京太郎君だ。

京太郎君だけこの中で唯一オカルトらしいオカルトを持ってない。

一応核になるものは持っているのだけれど、それがまだ芽吹いていない。

だから今まではオカルト無しで戦術、戦略で何とか3人と戦ってきたけど分の悪さは否めない。

まぁだからこそ京太郎君はオカルトが欲しいと言ってきたのだろうけど。


小さい頃から少しずつ種を肥やしてきたのでそろそろ芽吹かせる時期なのだけれど、肝心の京太郎君のオカルトが芽吹かない理由が今一わからない。

恐らくオカルトは炎に関するものなんだけど、何か他にも必要なファクターがあるのだろうか?

念のため照ちゃんにも鏡でみてもらったけど炎は間違いないみたいだ。

う~ん、やっぱり何か足りないのかな?








夏になり、むしむしと暑い時期になる。

私達は気分転換に花火を買って近くの公園にやってきた。

大体いつもの面子が集まったが福路さんは夜の外出に関して親の許可が下りなかったので来れなかった。

ちなみに残りの子達は宮永夫妻からはちゃんと許可は出させたし、須賀さんからは全幅の信頼を置かれているので問題ない。

ススキと呼ばれる花火に火を点ける。

咲ちゃんや照ちゃんは綺麗だ綺麗だと言いながら楽しんでいる。

京太郎君は少し離れているところで打ち上げ花火の用意をしている。

そういえば花火なんていつ頃振りだろうか?

ネズミ花火に火を点けながら過去を思い起こす。

花火は独楽のようにくるくると回り出しながら弾けた。

京太郎君が火種を求めてかこちらにやってきた。


「ライターはどこに?」


「はい、でも気をつけてね。」


「わかってるって。」


京太郎君にライターを渡して見守る。

京太郎君が打ち上げ花火に火を点ける。

花火が打ち上げられ、次の瞬間には花が開く。

ふと京太郎君から感じた違和感。

足りないと感じたのはこれだったのか。

まぁ今は無粋だから詮索するのはいいや。




照ちゃんが花火をやりつくしたのか締めに線香花火を取り出した。


「京ちゃん、線香花火……やろ?」


「え、ああ、うん。」


男女の線香花火。

それは一夏の思い出。

とはいえ、相手は京太郎君だけど。

それでも私には縁のなかったシチュエーション……

4人でそれぞれ線香花火に火を点けるとぱちぱちと弾けだしてきた。

火を点けてから少しすると照ちゃんが京太郎君に近づいて言う。


「京ちゃん、線香花火ってくっつけられるんだよ。」


「へぇ、そうなんだ。」


え、もしかしてやるの? やっちゃうの?

あの甘酸っぱいやつを!?


「照ちゃん! やるんだね!? 今……! ここで!」


照ちゃんはこくりと頷くと京太郎君が持つ線香花火の火玉に自分が持ってる火玉をくっつけて一つにする。

京太郎君はそれを見て初めて知った感じに驚いていた。







「おお~。」


「ふふん。」

「……あ。」


照ちゃんは終始したり顔だったが日玉が落ちて落ち込んでいた。

だがそのあと照ちゃんは次の線香花火を用意した。

それをみて私も次の線香花火を取り出す。

咲ちゃんもそれに倣って後に続いてきた。


「もういっかい。」


「お姉ちゃん、私もやる。」


「あ、私も。」

「京太郎君今度は私とやろう。」


「うん。」


4人で線香花火をくっつけて大きな火玉を作り出す。

くっつけていた火玉が離れる。

それは宮永姉妹が持つ花火についていた。

私はそれを見て思わず言った。


「畜生ォ……持って行かれた…………!」

「女子力だろうが!麻雀だろうが!」

「…婚期だろうがくれてやる……だから!」

「返してよ! たった一人の弟なんだよ!」


これはナウなヤングにもバカウケでしょ。


「え? なにそれは?」


あれ? 駄々滑り?

照ちゃんが冷めた目で見て言ってくる。


「そんなだから鏡に婚期なんて文字が浮かぶんだよ。」


「あ……」








咲ちゃんの短い声が漏れる。

だけどそんなことはどうでもよかった。

それよりも照ちゃんが言った言葉が問題だ。

言ったね? 今言っちゃったね?

私に対して最大の禁句を……言ったよね?

卓に着こうよ……久し振りに……キレちゃったよ……


「来なさいド三流、格の違いってやつを見せてあげる。」


ちょっと教育的指導で麻雀を楽しませてやった。

トラウマ? 大丈夫、多少のことでは潰れない様に教育してあるから。

花火楽しかったなぁ。

照ちゃんもそう思わない?










とある日のこと。

私は雑誌の取材を受けてその発売日に出版社から送られてきた見本品を読もうとしていたときだった。

私は元々インタビューとか得意な分野ではなかったので乗り気ではなかったのだけど社長がどうしてもと言うので渋々受けていたのだ。

そのことを含めて言ったのだが編集さんからは「大丈夫です、かっこいいコピー入れておきますんで!」と言われていた。

さて、肝心の内容はどうじゃろな、と。

ざっと目を通してみる。

…………うん、これはやばい。


『今話題の世界一位の女、小鍛治健夜プロ!』


まぁ、うん、それはいいけどさ……

問題はこの後だよ。

私が和了ったときの写真にコピーが入っている。


『千の言葉より残酷な私という説得力』


おおう、もう……

だがこれだけではない。

まだあるのだ。

今度は索子の清一を一索でロンしたときの写真にこんな文言が……


『知ってた?孔雀は堕天使の象徴なんだよ』


何かこれだと私が中二病患ってるみたいじゃん。

だが雑誌の文言はまだまだ続く。

地和で和了ったときの文言。


『ガイアが私にもっと和了れと囁いている』


誰だよガイアって……

私ってそんな危ない人に見えるのかな?

今度は回し打って心理戦で勝った時の文言。


『来なさい、何処までもクレバーに和了ってあげる』


もうなんというか私のキャラと違う。

最後の極めつけは相手をトばした時の写真に文言。


『この瞬間、世界の中心は間違いなく私』


もう好きにしなさいよ……

好きにするといいよ……

但し文句は言わせて貰うけど!






いつも通り料理を作っているときのこと。

私も今では料理スキルをあげてまともな料理を作って人に振舞っていた。

まさかあのぐうたら生活から脱却できるとは思いもしなかった。

まぁ今日も今日とて京太郎君に栄養のあるものを作ろうとしたときだ。

私はふと思いつき、京太郎君と一緒に台所に立とうと思い、声を掛けてみた。


「ねぇ京太郎君、少し手伝ってくれないかな?」


「え、うん。」


「私は包丁使うから京太郎君はフライパンを見ててくれないかな?」


「俺が包丁使うよ。」


「……うん、じゃあお願いね。」


疑念に近いものだったけどほぼ当たりだと思う。

それから数分後、私はお皿を取りに行くためにその場を離れようとすると京太郎君が止めた。


「ちょっとお皿取るから火の方を見ていてくれないかな?」


「健夜さん、皿なら俺が取るよ。」


「うん、お願い。」


お皿を京太郎君から渡されてそのお皿に料理を盛り付けていく。

食卓に料理を並べて食べ始める。

そのときに食べながら聞いてみる。

あくまでも然り気無く。





「ねぇ京太郎君、料理は苦手?」


「そんなことは無いと思うよ、健夜さんに任せっ放しだから何とも言えないけど。」


「そう、じゃあ今度料理やってみる?」


「う~ん……」


「どうしたの? もしかして失敗が怖い?」


「そうじゃないけど……何か近寄りがたい。」


「理由は解らないけど。」


「もしかして、火元?」


「多分そう、でも何でかわからないんだ。」


やっぱりだ、この子は多分無意識に選択している。

無意識下にある火への恐怖。

それが麻雀への阻害になってる。

皮肉なものだね、性質が火なことと、なのに火を怖がるなんて。

これは何とかしないといけないかなぁ。





放課後に部室で考え事をしていると福路さんが聞いてきた。


「どうしたんですか、小鍛治先生。」

「そんなに眉間に皺を寄せて……」


「う~ん、ちょっとねー。」


「健夜さん、そんなに眉間に皺を寄せてるとおばさんみたいだよ。」


「よし、照ちゃんには私と特打ちしようか。」


「アラサーの先生なんかに負けない。」


「なんだとぉ?」


照ちゃんが三大禁句の一つを連呼したのを嗜めた後に少しティータイムに入る。

ちなみにまだ京太郎君と咲ちゃんは来ていない。

私はお菓子を摘まみながら考えていたことを打ち明けてみた。

京太郎君のオカルトに関して、それと無意識に火を忌避することについて。

それを聞いた福路さんと照ちゃんも悩み始めた。

福路さんがテレビで聞き齧った様な事を言い始める。


「そういえばトラウマの原因になったことを知るのがいいって聞きますね。」

「昔の記憶を呼び起こしてそれと向き合うとか何とか。」


「ああ、私も聞いたことあるよ、でも多分京太郎君が物心つく前のことだからなぁ……」


すると何か思いついたように照ちゃんが言う。


「私にいい考えがある。」


そう言いながら前に出て自信満々な顔の照ちゃん。

何かすごい不安だけど本人がやる気なら一応任せてみようかな……

それから間も無く扉が開いてお二人さんがやってきた。


「「こんにちはー。」」


「ちょうどよく来た、京ちゃん、ここに座って。」







京太郎君と咲ちゃんがやってきて挨拶したと思ったら照ちゃんが早速京太郎君を椅子に座らせる。

続いて照ちゃんは麻雀牌を糸に括り付けて揺らし始める。

うわぁ、麻雀牌ってそんな使い方も出来るんだ。

さっきまで怪しげな本を読んでいたけどこのためか。

まぁ私だったら思いついてもやらないけど。


「テルテルテルテルテルテルテルテル……」


「う~ん、う~ん……」


そうして少し経つとコテンと京太郎君が眠ったように傾いた。

一応照ちゃんに任せたけど……

これ、大丈夫かな……?

でも私では心の傷を抉る事は出来ても塞ぐことは出来ないからなぁ……

照ちゃんが聞き出す。


「あなたのお名前は?」


「須賀……京太郎……」


「では須賀京太郎さん。」

「あなたの趣味はなんですか?」


「麻雀……」


おお? 余り期待してなかったけど何かいい感じだ。

このまま行けば何とかなるかもしれないね。





「京ちゃんの好きな人は?」


あ、これダメなパターンだ。

そう思っていると福路さんが困惑して照ちゃんに聞く。


「何聞いてるんですか宮永さん……」


「え、だって聞いておきたかった。」


「お姉ちゃん……何をやってるの……」


「でも咲も気にならない?」


「……ちょっとだけ。」


みんなノリノリじゃないですか。

照ちゃんが再度聞いた。


「京ちゃんが一番好きな人は?」


「う~ん……カピー……?」


好きな人って聞いてるのにカピーって……

いや多分一番可愛がってるのがカピーちゃんだから仕方ないかもしれないけどさ……

それにしても照ちゃん報われないなぁ……

いつまでも茶番に付き合うのもなんなのでちゃちゃっと私が暗示をかける。


「京太郎君は火が怖くなくなる、火が怖くなくなる、怖くなくなる……」


「う~ん、怖くない、怖くない……」


あ、そうだついでに他のことも……





「京太郎君は健夜お姉さんに甘えたくなる、健夜お姉さんに甘えたくなる、甘えたくなる……」


「あ、健夜さん、ずるい。」

「照が好きになる、好きになる、好きになる……」


「お姉ちゃんばっかずるいよ。」

「同級生を気にかける、気にかける、気にかける……」


「みんながしてるなら……」

「えっとえっと……美穂子お姉さんのことが……美穂子お姉さんのことが……」


「美穂子、思い付かないなら無理しなくても……」


「どうせなら混ざっておこうと思って。」


それからなんやかんやありまして。

今ではこんな感じなわけで……


「さきさきさきさき……」


「てるてるてるてる……」


「すこすこすこすこ……」


「みほみほみほみほ……」


冷静に考えたら私たち何やってるんだろうね……

傍から見たら不気味な儀式をやってみたいだよ。





「う~ん……ん?」

「……もしかして俺寝てた?」


「あ~うん、多分ちょっと疲れてたんだね。」


「あーそうなのかー……」

「ごめん、寝ちゃって。」


「気にしなくていいのよ、京太郎君。」


「やっぱり美穂子お姉さんは優しい。」


京太郎君が起きた頃には暗示は掛け終り、部活は再開していた。

と言っても基本お菓子を食べたりお茶を飲んだりお喋りしていて麻雀を打つのに専念していたわけではないけど。

さてさて、京太郎君にかけた暗示は上手く行っているのだろうか?

京太郎君が卓に着くと即座にその片鱗を表した。

思った通り、炎をイメージさせるもので、それは多分系統的に言えば支配系の能力。

時間は掛かるけどしっかり使いこなせば立派な武器になりえるだろう。

だけど覚えたばかりだから扱い方が覚束無いし、未熟である。

今はまだ小さい火種だけど、ゆっくり育てていこう。




あれ、そういえばもう一つの暗示はどうなったんだろう?

対局が終わると京太郎君が福路さんの方へ向かう。


「美穂子お姉さん!」


「あら? あらあら。」


そしていきなり抱きついた。

おいおい、どうしてそうなったんだい?


「む……」


「なんか美穂子お姉さんに甘えないといけない気がして。」


「そうなの……京太郎君、今日は甘えていいのよ。」


ああ、暗示が混ざってそうなっちゃったのね。

悪いことは出来ないものです。

その日は終始照ちゃんが機嫌が悪かった。

福路さんの甘やかし方を見て思ったことがある。

福路さんはあれだね、人をダメにする気がする。

人は甘やかしすぎるとダメ、ゼッタイ。

かつての私のような人間を増産してしまう。




とある休日のなんとも無い話。

休日で何も無い日だったけど京太郎君がいつも通り家にやってきていた。

最初は最近覚えたばかりのオカルトを伸ばすためにも麻雀を打っていたがその内疲れたのか眠そうにしていた。

私は膝を貸して京太郎君を休ませて上げることにした。

今はもう、京太郎君は私の膝の上で静かに寝息を立てている。

私は暫く眠ったこの子の頭を静かに優しく撫でていた。

あとどのくらいこうして撫でていられるのだろう。

あとどのくらいこの子と一緒にいられるのだろう。

いつまでも一緒にいられるわけではないけど、出来るだけこの子のそばに居たいと思って頭を撫で続けた。






また別の日、私は珍しく体調が優れなくて何もする気が起きなかった。

幸いにも休日だったので一日中休めば何とかなると思って布団の中でゴロンと寝そべってた。

しかし一人暮らしというのは不便なもので誰かが代わりに料理を作ってくれるわけでも、買い物に行ってくれるわけでもない。

結局面倒くさいと思いながら買い物に出ることにした。

必要な日用品や食材を買い足して家に戻る途中、体の倦怠感が増したので少し休むことにした。

結構まずいかもとも思いつつも家には帰らないといけないので少し休んだあとすぐに家路に就いた。

漸く辿り着いた家の前で鍵を取り出そうとして手から滑り落としてしまった。

鍵を拾おうとして屈んで立ち上がったときに立ち眩みが起きてそこから記憶が無い。

あったのはふわふわした感覚と温かい腕の感触。

ああ、そういえば昔々、あの子にお姫様抱っこされて運ばれたことあったっけ。

そのときの感触に似ている。





私が目を覚ましたときには布団の中に居て、傍らには金髪の彼が居た。


「あ、気付いた?」


「私……倒れてた?」


「うん、玄関の前でだって。」


京太郎君が運んでくれたんだろうか?

しかし今の彼では体が未発達で無理がある。

疑問を口にしてみる。


「誰が、運んでくれたの?」


「お父さん。」

「健夜さんを見付けたのもお父さん。」

「多分単なる風邪だろうって。」


「そっか。」


成るほど、須賀さんが私を運んでくれたんだ。

運がよかったというかなんというか。

あとで須賀さんにはお礼を言わないと。

京太郎君が不安そうな顔をして聞く。


「健夜さん大丈夫?」


「うん、大丈夫。」


「無理しないでね。」

「今日は一緒に居るから欲しいものがあったら何でも言ってね。」


「大丈夫だよ、大丈夫。」





そういうと京太郎君が寂しそうな顔をして黙ってしまった。

少し間が空き、何か話そうと思ったがその前に京太郎君が口を開く。


「ねぇ、健夜さん。」

「俺じゃ頼りにならないかな……?」

「やっぱりお父さんみたいな大人じゃないとダメかな?」

「俺じゃダメかな……」


それを聞いて私は静かに京太郎君の頭を抱き寄せて言う。


「そんなことないよ。」

「君が居てくれるだけで充分心強い。」


「……うん。」


病気は人の心を弱くするけど、子供から見れば普段頼りにしていた大人がこんな状態じゃ不安で仕方ないんだろう。

彼に触れていると私は安心するけど彼から不安は取り除けただろうか?

体調を元に戻すのが一番不安を消せるのだろうけど。

こんな風邪は早く治しちゃおう。





季節は過ぎ行き秋になる。

憂鬱な日がやってきた。

日付は11月7日。

ここまで来ればほぼ答えを言っているようなものだけど、私の誕生日である。

あーもー、二十過ぎたら時間止まっていいよ。

もしくは二十過ぎたら任意で年を取っていいシステムを国が作ってよ。

くだらないことを考えているといつもの少年少女がやってきた。

その手にはちゃんとお土産を持って。

今回は皆でケーキを作っていたらしい。

初めてケーキ作りとのことで苦労したことも有ったらしいがやり遂げたらしい。

ちなみにだけど基本的に照ちゃんは味見役ばかりだったとか。

想像に難くない辺り普段のポンコツっぷりが垣間見える。

君は将来確実に私と同じ道を歩むと思うよ。

もう私が手を貸さなくても喪女の道を勝手に進んでいくだろうさ。

よっぽど奇特な人が君の傍に居ない限りだけど。

まぁ彼女はそこを分かっていて虎視眈々と狙っているんだろうなぁ、誰とは言わないけどさ。

でも私の目が黒い内は無理だと思った方がいいぞー?




京太郎君のオカルト教えていたときのことだ。

京太郎君が一生懸命打ってる時に羽根が落ちる幻覚を見た。

そしてその上を見ると何か影が見えた。

鳥が。

羽ばたいていた。

何も身に纏ってない鳥がいた。

ただの鳥が羽ばたいている。

雛鳥を見ながら羽ばたいている。

落ちてきた羽根が雛に触れた瞬間、羽根は焼けて消えてしまった。

多分雛はいつか炎を纏った鳥のようになるかもしれない。

炎の翼を持った紅蓮の火の鳥に。

彼の本質は炎のはずだから。

炎が鳥の形をしているとは不思議だ。




時間が進み迎える年末年始。

宮永姉妹と京太郎君が私の家にやってきていた。

今年も始まるお年玉争奪戦。

と言っても私からは取らないけど。

だけど今日は真剣勝負。

譲る気なんてこれっぽっちもない。

例え三人が組んで掛かってこようが関係ない。

全力で点数調整だ!


しまった、油断した。

まさかそんな手で来るとは思わなかったよ……

京太郎君が出して、咲ちゃんが鳴いて、照ちゃんがツモる。

危ないと感じたら京太郎君か咲ちゃんがバンバン差し込む。

ツモ順を飛ばされると流石の私もきつい。

どのくらいきついかって言うと今の瑞原プロ(24)くらい。

このローテーションを抜けて直撃はむずいなぁ。

それでも失点は少なくした方だけど三人で1万円の出費かぁ……

と言っても咲ちゃんが2000で照ちゃんが8000円、京太郎君が残念ながら0円……

お金はあるけど教育上よろしくないかも……

!? 照ちゃんがお年玉分けてる!?

ああ、オヒキだから分けたのか……

してやられた感じがする。

そしてそのあと普通に打つときはオヒキ行為はしなかった。

利害の一致は怖いなぁ……(財布の)戸締りしとこ。

そして麻雀が終わった後、私は介抱のお礼も兼ねて新年の挨拶のために須賀家に訪れた。


「この間は迷惑をお掛けしまして……」

「須賀さんにお礼を言わないといけないと思っていたんですけど。」


「いやいや、気にしないでくれ。」

「普段京太郎の世話してもらっているし、その恩返しってわけじゃないけどさ。」

「ああ、でも、もしよかったら今後も京太郎のこと気にかけてくれるとありがたいかな。」

「京太郎は小鍛治さんに懐いてるみたいだしさ。」


「京太郎君のことを引き受けるのは私からお願いしたいくらいですよ。」


「いつも悪いね。」


「いえいえ。」






そんな軽い会話をして自分の家(隣)に戻った。

そういえば京太郎君のお母さんってどんな人だったんだろう?

顔も見たことないから何とも言えないけど結構立派な人だったんだろうね。








2月2日の今日。

私は新しい麻雀牌を京太郎君にプレゼントした。

須賀さんと似た意匠の牌だったけど京太郎君は若干複雑な顔をしていた。

それもそうか、何せお父さんからプレゼントだからね。

でも結構磨り減ったり傷付いたりしてるから新しいのにするように言って見ると了承してくれた。

もしかして無意識の内にガン牌してないよね?

新しい牌で打たせても変わってないのでそんな疑問は払拭された。

単純に思い入れが強いだけだったか。

私はそのあと小さい巾着袋を作って首から下げられるように紐を通しておいた。

京太郎君は古い一索を入れて喜んでいた。

私のプレゼントより巾着袋のほうを喜んでいた。

ふふふ、手編み事件のときにお母さんから教えてもらった甲斐があった。

何か若干空しい……

今度はちゃんとした手作りのものをあげよう。







迎えた春。

照ちゃんたちが中学二年生に進級してまた少し大人になった。

私は社会人二年目になった(一応の年齢で)。

今年は新入部員を増やすと意気込んで勧誘の準備に勤しんでいた。

それは照ちゃんや福路さんを巻き込んでだ。

照ちゃんは若干ボーっとしていた。

福路さんは面白がっていた。

私は深夜テンションから明けて後悔していた。


「小鍛治先生、もっと大きな声で呼びかけましょう!」


福路さんの励ましで頑張ろうとするも力が入らない。

なんで牌の着ぐるみ来て勧誘なんかやってるんだろ……

私って世界一位なんだけどこんなところ同業者に見られたらどん引きだよね……?

いや、これ考えたのは私なんだけどね……


「牌の形した着ぐるみ……お菓子食べ難い。」


君はホントマイペースだね。

あと、何でインターミドル1位と2位と世界一位の私がこんな格好してるのに誰も目を合わせてくれないのさ……





ははは、あはははは。

もう乾いた笑いしか出てこない。

何がいけなかったんだろうね。


「多分、私たちが有名になりすぎたせい。」


そんなことを言う照ちゃん。

こんな少人数部活に何を気後れすることがあるのだろうか。

もしかして今年も同好会止まりで小学生の手を借りないといけないのかなぁ……

生徒一人集められない世界一位です。

やっぱり何か私からでてるかな、何かが。






時間は飛んでインターミドルの季節。

この時期になると結構追い込みにかかる。

主に私だけが。

夏休み前に課題作成しないといけないし、フェレッターズからお呼びがかかるし、部活は見ないといけないしで。

まったく助教諭になった途端これだよ。

講師の方が幾分楽だけど勤続は一年までだから仕方ないと言えば仕方ない。

仕事が一段落したら部室の方へ向かおう。

今年から部の(未だ同好会だけど)功績が認められて多少優遇されるようになった。

具体的に言えば部費とか備品とか。

あとお菓子。

と言ってもご年配の先生方からの差し入れだが照ちゃんやその他部員には概ね好評である。

今年は照ちゃんと福路さん、どっちが勝つかなぁ。








今年のインターミドルの優勝者は……

なんと照ちゃんでした。

福路さんが周りを利用しようとしたところを照ちゃんが先んじて潰しまくる。

その戦法が功を奏したのか僅差で照ちゃんが勝った。

何とか去年のリベンジが出来てどこかすっきりした顔をしてる照ちゃん。

福路さんは福路さんでニコニコしてる。

帰りに照ちゃんが「優勝したから賞品が欲しい。」と抜かしおった。

ちゃっかりしてるなぁ。

奢ったものはお察しである。

しかし来年には咲ちゃんが入ってくるからどうなるかわからなくなるねー。






インターミドルが終わり、教職者としての業務も一通り落ち着いた頃。

結局部員が集まらないので小学生二人に出張ってもらった。

夏休み中にも来て貰っていたけど宿題をやらせながらだったので今日からは本格的に身を入れることになる。

教えてる私が言うのもおかしいけど小学生二人は小学生のレベルじゃないし中学生二人も中学生のレベルじゃないんだよね。

確実に魔王とか覇王とかの育成になってきてるような……

う~ん、そしてそれを育てている私は何になるんだろうか。

大魔王? とか? 

いやいや、私って若くて優しく可愛い美人先生だからそんな二つ名は似合わないから。

ね? ね?







今、部内で血で血を洗う戦いが始まろうとしている。

それはお菓子を廻ってだ。

ポッキー派、福路さん。

トッポ派、京太郎君。

プリッツ派、照ちゃん。

フラン派、咲ちゃん。

何と言うか不毛である。

お互いがお互いの弱点を突いて直撃させるし、おまけにトラッシュトーク染みたお菓子戦争をするもんだからひどいことになった。

たかがお菓子一つでそこまでになる君たちはすごいよ

ちなみに私的にはルマンドとかエリーゼが美味しいと思うんだけどなー。

そしてやがて疲弊しきった4人が休戦協定が結ばれて休憩に入った。

しょうがないから疲れてぐったりしている4人に差し入れにきのこの山とたけのこ里を買ってきてあげた。

たけのこを取った咲ちゃんときのこを取った照ちゃんが睨みあう。

それはもうこのままキスでもするんじゃないかというくらいメンチの切り合いだった。

お菓子戦争はいつになったら終わるんだろ。

因みに私は大樹の小枝が好きです。