特別編、阿知賀ver

とある執事との出会い


その人と出会ったのは、人生でもっとも怖いもの知らずになれ、そしてもっとも馬鹿になれる時期、中2の時だ

あの頃は薬局前のゴム製品の自販機の存在だけで盛り上がれ、い○ご100%を学校に持ってきた奴は勇者になれた。全巻持ってきた真の勇者もいた

そして男達は皆、エロ本やAVを手に入れるために、全力だった

当時の俺は親父が良く言えば寛容、ぶっちゃけドスケベでエロ方面に理解があった、ということもあり、親父秘蔵のブツを借りることも、

レンタルビデオ屋で親父のカードを借りて、AVを借りることもできる、でき、同級生よりもある意味進んでいたと言えるだろう

そうやって友人達で貸し借りをしたり、頼まれたジャンルの物を借りてきて、一緒に見たりしていた

そうやって過ごしていたが、どうしても気になった存在があった

それは、自動販売機だ

ある時は山の麓、またある時は町中の人気のないところにポツンと存在した、エロ本、もしくはAVの自動販売機

トタンか何かの小さい小屋に24時間営業と書かれたそれは、何故か俺の記憶の片隅に残り続けた

極稀に友人達との話題に上がることこそあったが、ぼったくられる、ヤクザが商品を補充している、等の様々な噂により、なんとなく近寄りがたいものだった

しかし、そこは中2。怖い噂より、好奇心、そしてエロへの探求心が上だ

ある夜、俺はついにそこへと行った

誰にも言わず、しかしワクワクしながら自転車で向かった

近くに自転車を停めて、辺りに誰もいないことを確認し、俺は意を決してその小屋へと入った

小屋の中は思ったより何も無い空間だった

ただ、いかがわしいパッケージが並び、やけに高い値段の自販機2台、そこにあった

ついに、ついに俺はやるんだ

そうして俺が財布に手を伸ばした瞬間だった

「それは止めた方がいいですよ」

不意に横から聞こえた声だった

誰もいないことを確認したはずだったのに、聞こえてきた

慌てて横を向くと、ジーンズにポロシャツという、ラフな格好の男の人が、そこに立っていた

「失礼。あぁ、あなたが未成年だから、等という無粋な真似をする気はありません」

その男性は俺を手で制したまま、続けた

「おそらくあなたはまだ中学生でしょう。するとおこずかいも限られる……ここへ来る勇気は称賛に値しますが、中学生でそんなハイリスクなことをするのはお勧めできません」

「ハイリスク……ですか?」

初めて会った人だったが、俺はつい聞いてしまった

「えぇ……こういう自販機のものは、大概が普通に売っているものより高額です。さらにパッケージで選ぶことすらできない……」

「最悪の場合、高額使った結果、おぞましいものを手にすることになる……そんな悲劇を、中学生に経験させる訳にはいきません」

「だったら……だったら俺がここに来た意味はどうなる!?」

声を荒げてしまうのを、抑えられなかった

「勇気を出して……ここまで来て……大金を使う覚悟をして……でも、直前で何も買わずに帰った……それじゃ何の意味もないじゃないか!!」

その男性は俺をじっと見ていたと思うと、静かに、しかしはっきりと、拍手した

「……その勇気とその覚悟……それだけでも、とても価値のあるものです」

「そんなものを持っている、あなただからこそ、悲劇を経験させ、道を踏み外すようなことはさせたくない」

「うっかり見たもので性癖が歪んでしまったり、トラウマになってしまったりするものも、少なくないのです」

悲しそうに目を閉じるその男性

過去に一体何を見たのだろうか

ひょっとして、踏み外してしまった友人でもいたのだろうか

「……よければ、これを受け取ってください」

「こ、これは……」

その男性がどこからともなく取り出したもの……それは、メイドもののエロ本……しかも、かつて俺が見たことが無いほどのクオリティだった

「あなたの勇気、そして覚悟……これを受け取るに値します」

「いいんですか?」

「えぇ……あなたは漢(おとこ)と呼ぶべきものを見せてくれました」

「……ありがとうございます!!」

心から頭を下げ、俺はその男性とともに、その場を去った

帰り道、歩きながら俺達は話した

年齢、性格、性癖、様々なものが違う俺達だったが、俺達は分かりあえていた

この日、俺は生涯における親友に出会えたのだった

後になってから、俺はその男性……ハギヨシさんに聞いた

「あそこがハイリスクだと知って、なぜあの日、あそこに居たんですか?」

「……漢(おとこ)には、例えハイリスクでも、それに身を投じたくなる瞬間があるのです」

「それが、どんな結果であろうと、ね」

その背中は語っていた

君もそうだろう、と

ああ……そうだとも



それから1年とちょっと経った時

俺は長野から引っ越す前に、なんとなくその自販機の場所へと向かった

しかし、そこには何も無かった

まるで、元々なにも存在していなかったように、トタンの小屋は無くなっていた

俺はなんとも言えない切ない想いを抱え、帰った

そして思う

1度くらい、買ってみたかったなぁ……


カンッ!!