「へっへーん、また私の勝ちですよー、先生」

「くっ、くっそ、もう一回だ!」

 金髪の青年の右隣で意気揚々と壁と比喩しても過言ではないほどの胸を張り、威張る少女。
振り上げた手には使い古されたゲームのコントローラーが小さな手でしっかりと握られており、目の前にあるテレビには力尽きた男の絵と右手を上げる屈強な男の絵が描かれている。
何故、小学校の担任が、自らの受け持つ生徒の家で殴り合いってドンパチするゲームをしなければいけないんだ! と青年は内心疑問に思う。
それもこれも授業を真面目に受けない少女の、ゲームで勝てば未来永劫真面目に授業を受けるという甘美な言葉に、
花の甘い芳香に誘われる蝶の如くほいほいと釣られてしまったからであるのだが血の上った青年の頭はそのことをすっかりと脳の片隅に追い遣っている。
ついでに言えばもう一つ約束をしていて、それは負ければ何でも言うことを聞くという今となってはすっかり陳腐化してしまっている内容だった。

「うおおおおおおおぉぉ! おりゃ! そこだぁっ!」

 年甲斐も無くはしゃぐ青年を傍目に淡々と作業のようにコマンドを入力し壁際に追いやる少女。
そこからは少女の独壇場で浮き上がってしまった青年のキャラに未来はなかった。

「も、もう一回……」

「これで何回目だと思ってるんですか。甘い私もさすがにこれ以上のリトライは許さないですよー」

 慈悲の無い少女の言葉に項垂れる青年。心は年端にもいかぬ少女に一回の栄光も掴めず叩きのめされたことにより折れてしまっていた。
そんな青年をにっこりと天使のような――青年から見れば悪魔のようなだが――笑みで見つめる少女。
 それに気づいた青年は虎にでも狙われた小動物のように肩をびくりと情けなく震わせ、自分の言ってしまった
「わかってるわかってる、本当になんでも言うこと聞くって! 大人舐めんじゃないぜ、なんだったら足だって舐めてやらぁ!」
という言葉を今になって思い出し、負けるとは思ってなかったと内心言い訳を独り言つ。
 ――ま、まさか小学生の癖に本当に足舐めろだなんて言わない、よな?
負けることなんてありえないし、負けても大したことは命令されないだろうと高を括っていた青年だが少女の悪魔のような微笑みを見てしまってすっかりと怖気づいてしまった。

「それじゃ、せんせ――京太郎にはどんな命令聞いてもらいましょうかねー」

「お、おう、”聞く”だけならなんだって聞いてやるさ、はっはっは」

 さり気無く己の担任を呼び捨てにした少女の発言を右から左へと聞き流しながら青年は大人としての意地も誇りもプライドもゴミに捨てたかのような発言をした。

「ちゃんと実行もしてもらいますよー。逃げようとしたらすぐに悲鳴あげて、変なことされたって言うですよ。京太郎、村社会って、情報の伝達なんてとても迅速で恐ろしいんですよー?」

 もちろん、同年齢の子供と頭の出来を比較しても子供と大人ぐらいの差は存在する聡明な少女は青年の言葉の裏を理解できぬ訳はなく、
やろうとしていることにも気づいた少女は釘を刺す。大人と子供の地位の差なんていう言葉は無くなったに等しく個人個人としての世界が二人には広がっていた。
妖しげな雰囲気が二人の間を支配し、とても子供とは思えぬ魑魅魍魎と例えても過言ではないほどの妖気が少女から出ているように見えた。
 少女とは数年の付き合いになる青年だが少女のこういった姿を見たのは初めてなようでマヌケに口を魚のようにパクパクと閉じたり開いたりして懸命に言葉を捜していた。
よからぬことを命令しようとしているのは少女の顔をみれば明らかで、回避のしようがない恐るべき未来に先ほどは温まっていた身体を今度は氷のように冷やしていた。

「それじゃあ命令はぁ……よし、これから先生のことを京太郎って呼び捨てにさせてもらうですよー」

 正しく命令とは言えぬ子供らしい命令に頬を緩ませ、もう呼び捨てにしてるぞ、と口を開こうとしたが次の少女の言葉で気分は一気にどん底へ落ちることになる。

「私のふともも、舐めるですよー」

 そう言って少女は幼くあまり肉がついているとは言えぬ太ももを差し出した。