京太郎が来るって言ってたよ、って。
しずにそう言われた。だから、仕方なく、仕方なく服とか、髪型とか、気にして。
自分でも気がつかないうちに、舞い上がってた。
今日の朝まで、迎えに行く時の服装なんか考えたりして、用意したのに。
おめかしして、精一杯努力して、家まで連れてきたのに、あいつはただ座って外をぼーっと見てるだけ。
ドキドキしてたの、バカみたい。
「ん」
「…ん?」
「ん!」
「…あぁ麦茶か、ありがとな」
注いできたお茶を、突き出す。笑って受け取る顔に、また少し、ドキッとした。
久しぶりに見たこいつは、やけに大人っぽくなってる。
わたしなんて、150cmも行かなかったのに。
横に並んで歩いていたのに、こいつの顔を見上げなきゃいけなくて。
差をつけられたみたいで、悔しくて。
だから、横には立ちたくなかった。でも、並んでいたかった。
心だけは対等で居たい。そんな気持ちが、私を素直にさせなかった。
「しっかし、こんな田舎に来るなんて、京太郎暇なの?」
「暇だけど、暇じゃないぞ」
「なにそれ…」
すぐに麦茶を飲み始めるこいつの横に座る。
意地汚いのか、ただ単に慣れているのかわからないけど、その気安さが嬉しかった。
「…ほんとに、久しぶりね」
「そうか?」
「…正直、こっちのことなんて、忘れてるかと思うくらい」
「おいおい、忘れるわけないだろ?」
そんなことを言いながら頭を小突かれる。
すぐ手で払いのけるが、こいつは面白がって同じことをしてくる。
うっとおしく感じたけど、こいつは笑ってばっかりで。
たぶん、私も笑ってたと思う。
「大丈夫だって、憧は大切な友達だからさ、忘れるなんて寂しい事言うなって」
だから、不意に掛けられたその言葉が、心に突き刺さった、
「そ、そう…私は忘れちゃうかもしれないけどね」
「ひでーな」
意地を張って、強がって、本心なんて言えなくて。
きちんと笑えてるか、分からくて。
「きょうたろー!あこー!ボウリングいこー!」
「おー、しずも来たし行くぞ憧ー」
「…コップ下げてくるから、少し待ってて」
幼馴染の声がしたから、私はそこから逃げ出すように去った。
外に出てみれば、並んで仲良くしゃべっている二人が見えた。
二人とも笑っていて、とても楽しそうで。
京太郎がしずに、しずが京太郎に取られたみたいで。
「おまたせ、行こっか」
「もー!憧遅いよ!先行っちゃうから!」
「暑いからさっさと行こうぜ」
声をかければ、しずはすぐに駆けだしていき、京太郎は歩き出す。
また、自分だけが置いていかれたような気がして、気に入らなかった。
だから、京太郎を追い抜くときに背中を殴っておいた。
「ちょ、何すんだよ憧!」
「知らない!自分で考えて!」
「はぁ?」
困惑してる京太郎を置いて、さっさと走りだす。
ある程度距離をとって振り向いて、一言だけ叫んだ。
少しだけ、素直に。ちょっとだけ、本音を。
「私も、あんたのこと大切だって思ってるから!」
今は友達だとしても、いつか京太郎を振り向かせてやる、なんて考えながら。
驚いたような顔をしている京太郎を置いて、また走りだした。
よく晴れていて、眩しいほどの青空がとても綺麗だった。
カンッ
最終更新:2015年06月17日 03:10