519 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/25(月) 22:25:10.59 ID:NE2j6i/Ao [17/32]



HAHA-!ヘイ、マイハンド!

なんでそんなご立派なおもちを捏ね繰り回してるんだい?

愚問だなボーイ、そこにおもちがあるからさ!


京太郎「すいませんっしたあああああああ!!!」


その日、俺はきっと初めて空中バク転土下座を行った人になっただろう。

ゴンッと。

額が地面と打つ。

痛い。

でもまずい。

今の、明らかにセクハラだよね?

アウトだよね?

いや、俺だけがアウトならいい!

いや良くないけどもだ!

俺だけがアウトなら、まだ皆に迷惑かけない。

だから、だからここは一つ!


京太郎「お慈悲を!お慈悲を!!」


衆目とか関係ねぇ!

もう俺にはプライドなんてないしな!

……やべぇ、本当に涙が流れてきたぞこれ。

そんな俺にかかる影。

見れば、俺の前に膝立ちする小蒔さんの姿があった。


小蒔「京太郎様、頭を上げてください」

京太郎「いやでも、小蒔さん」

小蒔「お忘れですか?」


手を握られる。

そのまま、小蒔さんの頬に手を。

まるで猫が体を摺り寄せるように、頬ずりする。

小蒔さんは、にこりと、笑っていた。


小蒔「私の全ては、京太郎様のものなんですよ……?」


そう、何処か10代の少女が放つとは思えない。

妖艶な笑みを以って。

笑っていた。





526 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/02/25(月) 22:26:53.17 ID:NE2j6i/Ao [18/32]









                          チッ













547 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/25(月) 22:37:59.34 ID:NE2j6i/Ao [19/32]



京太郎「え?」

宥「ど、どうしたの?京太郎君?」


何か、聞こえたような。

いや、気のせいか。

そこで気づいた。

妙に意識がはっきりしている。

さっきまで、何かに“魅了”されてたみたいに、目の前の女の人にしか目が行かなかったのに。

兎に角――――どうやら、小蒔さんは問題ないらしい。

俺は謝罪を一つ。

そのまま宥さんと店へと行く。

背中に、笑顔でこちらに手を振る小蒔さんの視線を受けながら。

俺は妙な違和感と共に。

そこから、立ち去っていった。

……あれ?

何で、俺はあの人の名前を――――










シロ「……知り合い?」

小蒔「はい!とても大切な人です!」

シロ「そっか……だる……」

小蒔「“今回”はシロさん、気にしないんですか?」

シロ「え?」

小蒔「いえ――――それなら、いいんです」

シロ「ふぅん……」





シロ(なんか、知ってる顔だったなぁ、きょうたろー)







555 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/25(月) 22:41:08.92 ID:NE2j6i/Ao [20/32]
【8月20日:昼】……昼と夜は鶴賀と風越の皆さんと練習ですのよ


朝の出会いはさて置いて。

俺は部屋の片隅で宥さんのマフラーを補修しつつ、今も賑やかに卓を囲む面々を眺めていた。

偶然、と言うには運命的かも知れない。

今、卓を囲む面子。

それは清澄高校と決勝戦で争った強豪たちなのだ。

明日に迫る準決勝。

阿知賀は白糸台、千里山、新道寺と卓を囲む。

2回戦ではしてやられた、というのが本音だろう。

千里山一校に弄ばれたという感が否めない試合だった。

そのための対策。

一日で何処まで出来るか。

そう問われれば、俺に答えれることは無い。

全員、俺以上のセンスを持つ人ばかり。

それに俺の常識を当てはめる方が間違ってるだろう。

そんなことをちくちくと編み物しつつ考える俺。

……うん、まぁあれだ。

時期が夏なのにマフラー弄ってるとか、女の子ばかりの部屋で男が編み物してるとか、言いたいことは分かる。

浮いてるってレベルじゃないよな、うん。

正直言うと視線がそろそろ辛いです…。

そんな俺だったが、今現在。

丁度空き時間なのだろうか。

こっちに穏乃、鷺森さん、玄さんが来るのが見えた。


穏乃「京太郎、何やってるのー?」

京太郎「見りゃ分かるだろ」

灼「相変わらず器用だね、須賀君」


それぞれがからかうように。

しかし興味有り気に俺の手元を覗き込んでいる。


京太郎「掃除に洗濯、料理に作法、悲しいけど何でかこういうのだけは身につくのが異常なんですよねー」

灼「……主夫にでもなるの?」

京太郎「それもいいかも知れませんね……」


ふふふ、と笑う俺。

でっかい汗を浮かべる鷺森さんと穏乃。

そんな俺に唐突に、あっけらかんとした声が割り込む。


玄「じゃあ京太郎君、ウチの旅館でよければ就職面倒見るよ?」




784 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/28(木) 21:11:23.27 ID:1uZxanBCo [4/29]



京太郎「へ?」

穏乃「京太郎、玄さんところで働くの?」

灼「……大胆?」


玄さんの発言。

それに三者三様の反応を見せる俺たち。

いやいや、いきなり過ぎるいきなり過ぎる。

玄さんは玄さんで「?」というマークを頭上に浮かべてるし、鷺森さんはジト目だし、穏乃は普通にそういうもんだと思ってるし。


玄「え?え?なにその反応?」

灼「いや、なんというか…ちょっとこっち」


玄さんが鷺森さんに手を引かれていく。

数秒後、ぽんっと。

顔を赤くする玄さん。

はて、なんだろう?

勢いよくこっちに来てるんだけど。


玄「違うからね!?そういう意味じゃないからね!?」

京太郎「何がですか?」


うん、わかんねーわ。

わっかんねー全てがわっかんねー。





788 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/28(木) 21:17:12.44 ID:1uZxanBCo [5/29]
【8月20日:夜】


少女、新子憧にとって――――正直に語ろう。

須賀京太郎という存在は、信用におけない存在だった。

昨年まで女子高。

その中に入ってきた、未だに異物である男子。

見た目も金髪と、チャラそうだ。

そんな第一印象だったのは認めよう。

男慣れしていないからこその距離感。

京太郎が麻雀部に入った当初。

その距離感を作って接していたのは、事実だった。


憧(ま、そんなの考えすぎだってのは今だからこそ言える話なんだけど、ね…)


憧は、己の前を行く京太郎を見る。

明日の試合中に消費する物の買い出し。

そうして外に出ようとした京太郎に散歩名義でついて行く自分。

気づけば、気心知れた仲―――流石にシズや玄さんほどじゃないけど―――になっている。

こいつは―――京太郎は、不器用だ。

人の好意に気づかない不器用な奴だ。

今日の昼間だって、普通に聞こえるような玄さんの言葉。

それも彼女の表情と合わせれば、別の意味があるように感じるだろう。

京太郎は優しい。

皆に接する時は何時も笑顔。

そうして無自覚に、こうして当てられていく。

所謂、魅力、という奴だ。

京太郎は不思議な魅力に満ちている男の子だった。

だから玄さんも、ああしてそんな言葉が出てしまうのだろう。

それがとても悔しい。

自分は素直じゃないから。

素直になれないから。

玄さんという男女変わらず笑顔を振りまける、積極的な人。

京太郎とはお似合い、なんだろう。






それがたまらなく憎い。







846 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/28(木) 22:34:33.53 ID:1uZxanBCo [12/29]



憧「え……」

京太郎「どうした?」

憧「な、なんでもないわよ!」

京太郎「そ、そうか?なんか顔、怖いぞ」

憧「大丈夫……大丈夫よ」


何を、考えてしまったのだ?

今、とても。

……とても、考えちゃいけない。

そんなことを、考えてしまわなかったか?

思わず、額を触れる。

冷たい。

おかげで、正気に戻れた。

大丈夫。

うん、大丈夫。

私は私、何時もどおりだ。

何時もどおりになれる。

きっと明日も、笑って。

笑って、京太郎や皆と会話できるだろう。

それが、楽しいのだから。







本当に?




860 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/28(木) 22:42:50.52 ID:1uZxanBCo [15/29]
【8月21日:朝】準決勝ですのよ



穏乃「準決勝だー!!」

憧「はいはい、シズ。行くわよー」

京太郎「やれるだけはやったしな、二人とも」


朝。

ホテルのロビーに真っ先に集まった俺たちはサービスのコーヒーが入った紙コップ片手に佇みつつ、会話を交わす。

準決勝だ。

もう、決勝戦の手前。

その日が来たんだ。

そう思うと、妙な高揚感がある。

なんというか、あれだ。


京太郎「気づけば、こんなとこまで登ってきちまったんだなぁ…」

憧「実際に登ったのは私たちだけどね」

京太郎「ぐふぅ!?」


こ、言葉の槍…。

……泣いてないぞ。


穏乃「まったまた~、憧ってば照れちゃって」

京太郎「へ?」

憧「ちょ、シズ!!」

穏乃「京太郎の頑張りを何気に一番評価してるのって憧じゃ―――」

憧「ふんっ!!」

穏乃「いったぁぁぁい!?」


振り落とされる拳骨。

それが直撃した穏乃が頭を抱えてしゃがみ込む。

うん、あれはマジだったな。


憧「余計なこと言わないの!!こいつが調子に乗ったらどうすんのよ!」


こいつって俺か?

俺のことなのか?

……俺だって聖人じゃないぞ。

こうまで言われれば、反撃だってしたくもなる。

憧め、目を見開くといいわ…!




913 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/28(木) 23:06:28.22 ID:1uZxanBCo [20/29]



憧「全く、シズったら……」

京太郎「憧……」

憧「何よ?言っとくけど、さっきのは全部シズの出任せ―――」

京太郎「お前、本当にいい奴だな」

憧「ふきゅ」


にこやかにそう笑いかける。

恐らく生涯で一番の笑みだろう。

その自負がある。

なぁに、向こうが俺を調子に乗らせないって言うなら簡単だ。

俺はただ素直に感謝すればいい。

がはははは、憧め!

罪悪感でも感じてくれればやりやすいぞ!!


京太郎「憧、ありがとな。俺、もっと憧に認めて貰えるように頑張るからさ」

憧「……」

京太郎「……?あ、憧ー?」

憧「――――きゅぅ」

穏乃「憧が倒れたぁぁぁ!?」

京太郎「何ぃぃぃぃぃ!?」


え、ちょ、何で!?





919 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/28(木) 23:09:04.85 ID:1uZxanBCo [21/29]
【8月21日:昼】準決勝ですのよ

準決勝。

現在は中堅戦の真っ最中、というところだ。

俺は穏乃と一緒に会場内を移動しつつ、あとどれくらいだろうか、と考えた。


京太郎「白糸台の渋谷さんの役満も怖いけど、千里山の江口さんがやばいよなぁ」

穏乃「火力あるからねー、先鋒で取れなかった分稼ぎ直してるって感じだね」


俺と穏乃の手にはジュースのボトル。

買った量が少なかったこともあり、結構早く切れてしまった。

そんなこんなで穏乃に手伝って貰い、買いにきたのだ。

だけど宥さん、この時期にホットは厳しいっすよ、探すの。

いや、なんとか見つけましたけどね。

しかし、あれだ。

こう暑いと海とか行きたくなるな。

長野に住んでた頃なんか、海なんて新潟にでも抜けないと行けなかったしなぁ。

個人的には川なんかでもいいんだけど。

川水浴とか、案外風流な気がしなくもない。


小蒔「海でしたら、昨日タイミングが会えば一緒に行けましたのに」

京太郎「いやぁ、そいつは残念でしたよ」

小蒔「はい、とっても」

京太郎「はっはっは……」

小蒔「うふふ……」

京太郎「……」

小蒔「………」

京太郎「………何時の間に?」

小蒔「京太郎様が海に行きたそうな顔をしていた時からです」


すげぇな神代さん。

ステルスと読心術使えるのか。

って違う!!


穏乃「あれ、その人誰?京太郎」

京太郎「え、えっと……」

小蒔「さあ……ご想像にお任せしますね?」

京太郎「……いや、本当にどういう関係でしたっけ!?」


おかしい!

なんかおかしいぞ!!

俺、この人がこうだっての受け入れてねぇか!?

あ、あれー?




951 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/28(木) 23:31:24.23 ID:1uZxanBCo [25/29]
【8月21日:夜】準決勝終了ー




長い戦いが、終わった。

ああ、なんというか。

見てるだけで疲れる、というような展開だった。

それは確かだろう。

かなりの激戦だったのだ。

準決勝大将戦という戦いは。


京太郎「まぁ……」

穏乃「うん…」

灼「そうだね……」

宥「終わった、んだよね……」


そうだ、終わった。

あの長い戦いは。

俺たちが、決勝に足を進める、という形で。

胸にあるのは、寂しさにも似た感情なんだろう。

燃え尽き症候群。

そういうのと似てるかも知れない。

穏乃は、大将戦の熱が冷めてしまったから。

鷺森さんは、師の思いを決勝に繋げれたから。

宥さんは、きっとそんなことはなく、ふんわりと微笑んでるだろう。

誰かが言った。

頂上が見えると、人は安心する。

それと同時に、虚無感を覚える。

有名なプロ雀士の言葉だったような、違ったような。

それを置いても、俺は顔を叩き「よっしゃ!」と声を張り上げた。


京太郎「次、決勝ですよ!決勝!!」

穏乃「お、おー…?」

灼「あ、そうだね……そっか、決勝だ……」

宥「うん、決勝だね」

京太郎「穏乃、鷺森さん、しっかりしてくださいよ……」


……いかんなぁこれ。

気力を回復。

それが明日にでもやんなきゃいけないことかも知れないな。





540 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/04(月) 21:34:38.90 ID:CR+GJ5Z2o [14/39]
【8月22日:朝】



準決勝から一夜明けて。

俺は眠りが浅かったせいか、妙に早く目を覚ましていた。

シャワーでも浴びれば良い時間になる。

そんな思いもあったが、結果としては本当に時間に変化は無い。

カラスの行水。

そんなつもりは無いけど、あれだ。

女子の入浴と比べればやっぱりそういう時間差はあるだろうな、うん。

飯まで時間あるし、散歩でも行くか。

そう思って俺は部屋を出る。

しかし、あれだな。

昨日の熱気がまだ体に残ってるみたいだ。

寝つきが悪かったのも、きっとそれだ。

極度の興奮状態、とか。

そういう感じ。

他の皆は寝れたんだろうか?

俺であれだから、あんまり寝れてない気がするんだけども。

そんなこと考えながらホテルの外に出ると、見覚えのある背中。

宥さんと、穏乃だ。

その二人並んだ間から見える少女。

なんというか、絵本の中から出てきたような、そんなふわふわな……あれだ、ゴシックロリータ?とかいうファッションだろうか。

そんなレースを多く使った服に身を包む小柄な少女と、目が合う。

目が合ったのは片目だけ。

眼帯のように、リボンで少女は右目を覆っているのだ。

前者の服装と合わせ、個性的。

いや、個性的というかもはや属性の塊みたいな感じだ。

そう、これで中高年生がかかるという一種の選民的思想。

所謂中二病だったら数え役満だ。

例えば、「“ご機嫌いかが(ハロー)”――――“怪物さん(モンスター)”」とか。

……怪物で白糸台の照さんが思い浮かんだ俺は、悪くない。


京太郎「二人とも、どうしましたー?」


この間、わずか数秒ッ!

そんなナレーションを合間に挟みつつ、俺は宥さんと穏乃に声をかける。

二人も気づいたのだろう。

こちらに振り向くと、それぞれ声をかけてくれた。


穏乃「おはよ、京太郎」

宥「おはよう、京太郎君」




567 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/04(月) 22:15:03.71 ID:CR+GJ5Z2o [18/39]



京太郎「うっす、おはようございます……それで、そちらの人は?」

宥「前に、練習に付き合ってくれた東海王者の対木さん」

穏乃「個人戦にも出てるんだよ!」

京太郎「あ、その節はどうも…」


俺が居なかった時の知り合いだったか。

ぺこりと俺が頭を下げると、向こうもぺこりと頭を下げる。

服装はあれだけど、髪型と体格が知り合いに似ている。

今のお辞儀も、何故かあいつを思わせた。

ぺっこりん。


もこ「………」


その思い返すような視線。

それに気づいたのか、こちらを見上げる片目がくりりと丸い。

思わず見返す。

見つめあう俺と対木さん。

……何故か、急に顔を逸らされたけど。

何でだろうか。





573 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/04(月) 22:22:43.89 ID:CR+GJ5Z2o [19/39]
【8月22日:昼】


何やらぼそぼそと呟きつつ、ふらふらとどこぞに行ってしまった対木さん。

それを見送った俺たちは皆と朝食を済ませ、それぞれ自由行動となっていた。

とは言っても、俺は個人行動にならないのだけれど。

宥さんと穏乃。

その二人とよく接触するのだ。

俺は今も一緒にいた。

やってることはそれぞれ別だけど。


京太郎「あの」

穏乃「え?どうしたの?」

宥「京太郎君?」

京太郎「あ、穏乃。用事は宥さんにあるんだ」

穏乃「あ、ごめん…」

宥「それで、何かな?」


妙にうれしげな宥さん。

しょぼくれる穏乃。

それからしばらくして、今度は逆パターン。

穏乃に用事があると、宥さんが落ち込む。

そんな循環に陥っているのだ。

なんでだろう。

俺、何も悪いことしてないよな?

実に居心地悪いぞ、これ。

いや、そんなことないか?

二人とも笑顔だし。

うん、あれだ。

気のせいだな。

二人のタイミングが妙に被った。

それだけに過ぎないんだろう。

うんうん。

仲の良い姿しか見えないし、きっとそうだろうな。





619 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/04(月) 22:47:00.42 ID:CR+GJ5Z2o [23/39]
【8月22日:夜】


灼「ということで、明日は予定通り決勝に向けての調整、ってことで……」


灼さんの一言。

それによって会議が終わる。

風呂がまだだったのだろう。

穏乃と玄さんが真っ先に部屋を出て行き、残ったのは俺、灼さん、憧、宥さんだ。

何するか。

そう思ったが、ここは俺の部屋。

皆が居なくならないと私事も出来ないだろう。

見れば、宥さんは俺のベッドの布団に包まって震えている。

憧は牌譜と睨めっこ。

灼さんはグローブの手入れ中だ。

というか宥さん。

それかなり雀の涙な気がします。

夏の布団なんて薄いもんばっかりですしおすし。

そんな願いは通じる訳も無い。

無為に過ぎていく時間。

不意に、灼さんが口を開いた。


灼「決勝……」


その呟き。

一日が過ぎて、実感する。

今は、決勝に備えている。

その事実に。

それぞれ、敗退していった相手高校との知り合いも出来ていた。

負けるな。

そう背中を押された人も居る。

阿知賀はそれが特に顕著だろう。

全国各地で、そう背中を押されていったのだから。


憧「やれるだけ、やるしか無いですよね」

宥「うん……そうだね」

灼「色んな人の思いを背に、受けてるからね」


くすりと、笑う。

なんというか、うん。

なんか、気持ちのいい空気だ。

これがずっと続けば、いいな。





675 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/04(月) 23:08:51.47 ID:CR+GJ5Z2o [32/39]
【8月23日:朝】


――――京太郎君は、ひどい子だ。



いつも皆の視線を集めている。

ほら、今日もまた。

シズちゃんも、憧ちゃんも、玄ちゃんも、灼ちゃんも。

京太郎君に視線を向けている。

無自覚な優しさ。

それに気づけば惹かれているのだ。

皆も。

私も。

それがとても嫌なことだ。

そう思う自分が居る。

最初は認めたくなかった。

嘘だ。

こんなことを考えるなんて、私じゃない。

きっと私の中にもう一人の私が居るんだ。

そうじゃなきゃ、あんなこと思わない。

皆が京太郎君に向ける顔。

その笑顔がとても汚いものに見えたなんて。

ああ、駄目。

そんなのは嘘にしか思えない。

でも。

こうも思うと、納得してしまう。


『皆は、敵なんだ』


その一言。

それだけで何も悩まず、断じることが出来る。

玄ちゃんも、シズちゃんも、憧ちゃんも、灼ちゃんも。

そして、もう一人増えた巫女さんも。

全部敵。

全部、敵。





820 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/03/06(水) 23:59:15.57 ID:xgRrhZ2go [2/2]



そっか。

敵は、倒さなきゃいけない。

京太郎君を私から離してしまうのなら。

“○○”しても、離さなきゃ。

だって、京太郎君はあったかいから。

あったかいから。

他の人にそれを取られたく、無いなぁ。

………そうだ。

取られたくないなら、取られない方法を取ろう。

例えば、京太郎君を取られないように隠しちゃうとか。

例えば、もうあの子たちが京太郎君の前に出れないようにしちゃうとか。

例えば、京太郎君が私を必要としてくれるようにするとか。

ふふふ、と。

口元をマフラーに隠して笑う。

そうだ、そうしよう。

いっしょに、あったかくなろう。

そうすれば、京太郎君だって。

京ちゃんだって、“私”から離れていかないよね?

ね……?




823 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/07(木) 00:03:37.32 ID:7H4LaEISo [1/17]
【8月23日:昼】


朝。

俺はまた偶然と出会った巫女さんこと、神代さんと会話を交わした。

言ってることは何かとあれだったが、そこに悪意なんてものは無い。

むしろ何処までも楽しげで、微笑ましい気持ちになる。

そんな気持ちのまま迎えた、今日。

俺は穏乃と会話したり、また今では宥さんと会話していた。

やることはある。

というより、ここまで来ると慌てて動く方が逆効果だ。

決勝は明日。

それに備えるというのも、メンタル面での調整の仕事だ。

まぁ、と俺は思う。

穏乃が一番リラックスしているだろう。

逆に玄さんはまだ固い。

それを払拭するため、憧と灼さん、赤土さんが付きっ切り。

宥さんと共に過ごしている時間が長いのも、それが理由かも知れない。

しかし、あれだな。

なんというか、二人っきりってのは恥ずかしい。

宥さんがにこにこしてる、というのもある。

それもあるが、なんというか。

……なんというか、宥さんが近い。

距離が妙に近いのだ。

ソファーは3人がけ。

余裕はあるけど、近いぞこれ。


宥「京太郎君」

京太郎「な、なんでしょう」

宥「……ごめんね、何でも無いの」


くすくす、と笑う宥さん。

からかわれた、のか?

子供っぽく笑う宥さんにそんな感情が浮かぶ。

いや、むしろギャップがあって非常にいいのだけれど。

それからまた時間は過ぎていく。

気づけば、宥さんは俺の肩に頭を預けて眠っていた。

……やばい、ちょっとずつずれておもちが当たってる……!!





848 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/07(木) 00:28:51.67 ID:7H4LaEISo [4/17]
【8月23日:夜】



京太郎「………はっ!?」


いかん、寝てた!?

俺はソファーに背を預けたまま上を向いた状態で寝ていたらしい。

ゆっくりと、妙に固まった首を解しつつ曲げる。

そうだ。

宥さんが寄りかかってきて、動こうにも動けなかったからそのままにしていて。

気づけば、寝てた……のか?

たぶん。

きっと。

俺は腕時計を見る。

だいたい、一時間くらいか?

そんなには寝ては無いらしい。

そこまで考えて、体が違和感を感じる。

なんか、体に乗ってる。

視線を、下に。

見れば、そこには宥さんの顔。

……ああ、そういうことか。

ずれて、俺にしな垂れかかってる感じなのか。

いやーっはっはっは。





京太郎「憧に見られたら殺される……!!」


宥さん!宥さん!

お願いします!

起きてください!!

ああくそ体全体があったっけぇな!!

宥さんの体やわらけぇなぁ!!

しかも「ん…」とか色っぽい声漏れてますから!

やめてください、しんでしまいます。


宥「あったかぁい……」ギュッ


さらにきつくホーミタイ入りましたぁ!!





893 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/07(木) 00:56:04.16 ID:7H4LaEISo [10/17]
【8月24日:朝】決勝戦は朝~昼なのよー



決勝戦、当日。

思えば、遠くに来たものだ。

そう俺は思っていた。

決勝戦だ。

決勝戦。

この時点で、阿知賀の皆は全国において4位の地位。

そこに納まっている。

その道。

思い返せば数ヶ月しか俺には無い。

だけど、その中で皆が積んできた努力。

それは知っている。

努力した。

苦心した。

足掻いた。

上を向き続けた。

決して諦めなかった、時間だった。

その努力が。

願いが。

報われる時が来たんだろう。

俺は朝早くから自分の仕度を終え、一人牌譜を眺めていた。

今の俺が出来ることは無い。

これだって、落ち着くためだ。

ふぅ、と息を吐く。

こういう時、何か出来ればいいんだけどな。

一つのことに集中すると気がまぎれるし。

そう思ってたとき、部屋をノックする音。

はて、誰だ?

そう思いつつ、俺はドアを開く。

そこには、シャツとスカート姿の宥さんが居る。

……あれ?

セーター着てないぞ?


宥「こ、こここにわすれれちゃっててて……!」ガクガク

京太郎「ちょ、取り合えず中に入ってください!」


身を抱いてガタガタ震える宥さん。

シャツ一枚だからこそ分かるおもち。

実にすばらである……って違う!!





974 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/07(木) 01:47:10.16 ID:7H4LaEISo [14/17]



俺は宥さんを部屋に招き、そして部屋を探す。

セーター、セーター。

あった、椅子の裏。

それを拾い上げて、俺は宥さんの元に。

ちょっと目を離した隙に人の布団に丸まってる宥さんの前にセーターを持っていくと、セーターがすっぽりと引き込まれていった。

あれだ。

巣穴にひまわりの種を溜め込むハムスターみたいな、そんな感じだ。

もぞもぞと脈動する布団。

内部から微妙に聞こえる衣擦れ音。

なんというか、うん。

青少年の育成に多大な影響を及ぼしそうな感じだ。

きっとそうだろう、そうに違いない。

しかし、その脈動は止まる。

それに思わず、不審顔。

はて、一体どうしたんだ?


宥「………すぅ…」

京太郎「寝ないでください!!」

宥「あう」


こ、この人。

油断も隙もねぇというか、なんか変だぞ!?








誰だって、負けたくない。

負けて悔しいと思わない人間なんて、いない。

その感情の変化する先。

それが怒りなのか、悲しみなのか、屈辱なのか。

それは千差万別、人それぞれだ。

玄さんは、その中では“悲しみ”へと感情が向かう人だった。

本選第二回戦でも、悲しみに包まれた人だった。

今回の、試合。

決勝卓。

それは言うならば、殲滅だった。

照さん―――宮永照。

彼女によって、決勝卓の先鋒は今まで以上の混沌を示していたのだ。

玄さんは火力を抑えた。

清澄―――片岡選手は火力を捨て、速度を上げた。

臨海―――辻垣内選手はその両者のサポートを受け、照さんを押さえ込んだ。

恐らく、千里山の園城寺さんや花田さん以上に。

だけども、それは届かない。

結果としては。

点を失う清澄と阿知賀。

少しながらも+出資に持ち込んだ臨海。

そして、2回戦、準決勝と同じように稼いだ白糸台。

それに明確に分かれた、試合だった。

絶対王者。

それがまさに白糸台なのだと。

そう示すように、無言で試合終了のブザーに耳傾ける照さんの姿が、印象的だった。


宥「―――それじゃあ、行ってくるね」


宥さんが立ち上がる。

その時、俺に小さく目配せ。

それが意味するものを理解して、俺も立ち上がる。

見れば、とぼとぼと。

歩いてくる玄さんが見えた。

宥さんを視界に、玄さんが移したと同時にぽたりと。

涙が零れ落ちる。

あんなに頑張ったのに、と――――そう叫ぶように。

玄さんが、宥さんの胸に顔を落としていた。





209 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/09(土) 22:07:55.35 ID:jKLDaReGo [4/17]



《間もなく、決勝戦次峰戦が開始します。選手は卓に移動してください》

京太郎「……宥さん」

宥「うん……玄ちゃんを、お願いね」


アナウンス。

それと同時にゆっくりと、宥さんが玄さんの肩を押す。

引き離すように、しかし、優しげに。

玄さんはまだ泣いていた。

泣いていたが、自分のやるべきことも理解していた。

震える声で。

宥さんへ、笑いかけていた。


玄「がんばって――――お姉ちゃん!!」

宥「うん、お任せあれっ♪」


そう、お茶目に笑みを浮かべる宥さん。

それに小さく、玄さんが笑う。

そうして、宥さんが去っていった後。

俺は小さく笑みを顔に貼り付けたまま玄さんに話しかけようとして――――その表情に、体が硬直する。

玄さんの表情。

先ほどの小さな笑みはない。

あるのは、暗い感情だろうか。

恐怖とも言えるだろう。

自分の全てを否定された、そんな顔だ。

玄さんの全てを否定し、排除された。

そういう、試合だ。

今、玄さんは所謂虚脱状態。

無力感に包まれているのだろう。

言葉をかける、ということが出来ない。

俺は何も出来ないのだから。

今、この場で彼女を理解できる人である宥さんは試合へと行ってしまった。

だから。

だから、今の俺が出来ること。

それは――――。



京太郎「………玄さん、散歩にでも、行きませんか?」




210 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/09(土) 22:16:56.49 ID:jKLDaReGo [5/17]



会場の外に出る。

少し曇り空。

もしかすると夕立になるかも知れないな、と思う。

前を行く俺。

後ろについてくる、玄さん。

暫く歩く。

歩いて、立ち止まる。

ベンチ。

そこに何も言わず腰掛けると、玄さんも隣に腰掛けた。

さて。

会場内に居るよりは開放的。

そう思って連れ出してみたが、どうしようか。

正直、ノープランだ。

ただ言えるのは、俺は女の子の涙が苦手であるということ。

そしてもう一つ。

俺には、これくらいしか出来ないということ。

気づけば、玄さんの肩を抱き寄せて。

俺は自然と、頭を撫でていた。

怒るかな?

そう思ったけれど、そうじゃなくて。

静かに、とても静かに。

涙を流す、玄さんの嗚咽。

それが俺の耳に、響き渡っていた。

時間は、そろそろ中堅戦になるだろう。

でも、今は。

今くらいは、皆を信じてここに居たい。

玄さんが、笑顔で皆の下に戻れるように。

きっと。








               {   |   |  〃〃 ..:::::::;:::::::::.. 〃〃 !   |   }
               { i  :|   |i        ′        |   }
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             {  八  乂........〕ト     r<......} /  八
             {   \(⌒^..........`"""""´.........ノイ  :/  \
            八    :「`.................................................八 /"',   丶
             /  V   V.............................................../   /......}     ,
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            /  |   V   V  i""""了i'""""/   /      Y    ,
237 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/09(土) 22:38:00.94 ID:jKLDaReGo [6/17]



そうして、俺たちの夏は―――終わる。

決勝卓、決勝戦。

そこで起こる、一つの戦い。

その結果は、語るべきじゃない。

誰も、知っている。

そこには勝者と敗者。

そのどれかに分かれていたのだから。

一つ、最後に言うとすれば。

俺たち、阿知賀は。

全員が全員、笑顔で。

笑顔で、その結果を受け入れていた。

その事実が、あった。

ホテルへと戻る。

どんちゃん騒ぎをしてからで、皆部屋に戻っていた。

当然、俺も。

しかし、こう終わってしまうと寂しい。

花火も、桜も。

ぱっと咲いて、ぱっと散る。

そんな刹那的な輝きに魅せられる日本人の感性だろうか。

今もそんなものだ。

祭りは行くまでが一番楽しく、終わった後は空しい。

そういうのは、本当に楽しめたから。

きっと、そうだからだ。


京太郎「………はぁ」


ぼふん。

ベッドに倒れこみ、俺はため息を一つ。

これはこれで、妙な感覚だ。

俺だって、阿知賀の一員なんだ。

それを再度実感するような、そんな感覚。

きっと、来年も。

来年は、きっと。


京太郎「……って、ノック?」


なんだなんだ?

今朝に似たような展開があった気がするぞ?

そう思いつつ、俺はドアの鍵を解除した。





239 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/03/09(土) 22:40:47.84 ID:jKLDaReGo [7/17]

                /                `ヽ,
                   /                   ,   ′
               /   /    {         ′     ,
                 /    ′   {     │        ′
                      │{     │     |  |
                 :{   ノ !八      トミ   !   |   }   ―――こんばんは、京太郎君
                    │ :{  |  |  \  :|  l\  .:|  |   }
               {   |  :从 |\|i    \|\|  \ |  |   }
               {   |  ! 斗云f   :::::::::::: f云ミ `|  |   }
               {   |   |  しzノ  ::::::::::::: しzノ  |  |   }
               {   |   |  〃〃 ..:::::::;:::::::::.. 〃〃 !   |   }
               { i  :|   |i        ′        |   }
               リ  :|   从      ____       从  j  }
             {  :|   .:{个:...    `ー´    ...:个   / :リ
             {  八  乂........〕ト     r<......} /  八
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        {/i{   叭i    jイ八`    ∨ /  乂{ヽ{      /.............}   ノ
        { 八  {...{   ´    \   V     /    /}.............八/\
.       /......\ {...V          ヽ  δ     /      }.........ノイ........... \
.     /.................`.....V         }      /        ノ.................................. \
264 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/09(土) 23:02:40.66 ID:jKLDaReGo [8/17]



京太郎「ゆ、宥さん?どうしたんです、こんな時間に」

宥「ごめんね、昼間のことなの」


入っていい?

そう尋ねる宥さんに俺は「部屋に変なものないよな……な?」と、自分の脳内を思い返し、どうぞ、と頷く。

今出てるのは何枚かの服と、雑誌。

それも週間漫画のそれだ。

問題ないだろう。

部屋に入る宥さん。

お茶でも入れますよ、と俺。

それににこりと、宥さんが笑った。


宥「ありがとうね、京太郎君」

京太郎「いえいえ、これくらいしか出来ませんから」


紅茶でいいかな。

そう考えたが時間を見て改める。

紅茶のカフェイン含有量はコーヒーよりも多い。

コーヒーにしておこう。

ミルク大目のカフェオレ仕立てにすれば、そんなに気にならないだろうし。

そんなこと思いつつ、俺は手元で作業を続けながら声をかけた。


京太郎「それで、昼間のことなんですけど……」

宥「うん。玄ちゃんに接しててくれたよね?玄ちゃん、それですっごく楽になったみたいなの」

京太郎「そうですか……うん、よかったです」

宥「だから、そのお礼を言いに」


えらく“らしい”理由だ。

となると、お茶は長いさせるような理由になってしまうか。

そうは思ったが、何か含みある。

そんな気配を感じた。

俺は少し身構えつつも、カップを渡す。

宥さんはそれを両手で受け取ると、「あったかい…」と。

そう漏らしていた。





275 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/09(土) 23:11:20.52 ID:jKLDaReGo [9/17]



俺も一口。

砂糖は抑え目のカフェオレだ。

俺はこういうミルクたっぷりの砂糖少な目。

そういう飲み物を好む。

ココアの砂糖少な目ミルク大目とか、実に好物だ。

カロリーも抑えれて、なおかつ味もしっかり、カルシウム摂取も出来る。

効率的ではあると思う。


京太郎「それで、何ですか?」

宥「……終わっちゃったな、って思って」


終わっちゃった。

それが意味するのは今日の試合。

大会が、ということだ。

「そうですね」と俺。

一口、またカフェオレを啜り、「でも」と口を開いた。


京太郎「でも、また来年があります。来年には絶対に全国一位に……っ!!」

宥「……」


自分の喋る内容。

それに慌てて口を噤む。

そうだ。

宥さんは、三年生。

もう、来年は無い。

これが最初で―――これが最後だったのだ。

宥さんが笑みを浮かべる。

自然と、「すみません」と。

俺は頭を下げていた。


京太郎「すみません……俺、無神経なこと……」

宥「ううん、大丈夫……それでね、話はそのことなの」

京太郎「は、はあ……」


困惑する俺。

来年のこと。

それを言われると、俺は何のことだろうか、と考える。

そんな俺に、宥さんは微笑んだ。


宥「来年は、もう私が居ないから……玄ちゃんも、皆も……京太郎君が支えて上げて」




283 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/09(土) 23:19:31.06 ID:jKLDaReGo [10/17]



京太郎「宥さん………」

宥「私は、皆とは一番付き合いが浅いから……それでも、玄ちゃんとはよく接せれたけど…」


つまりは、皆を支えて欲しい。

そう、宥さんは言っているのだ。

確かに、と。

俺は考える。

宥さんは、皆から頼りにされていた。

それこそ、本当のお姉さんのように。

でも、自分は居なくなる。

近い内に、確定した未来だ。

だからこそ、自分の分も。

宥さんは皆の支えをと、俺に頼んでいる。

そういう、ことなんだろうか。


京太郎「なんで、そんなに……」


そんなに、嬉しげなんですか。

そう問いかけようとして。

宥さんが俺の唇に人差し指を当てることでその先を言わせない。

そのまま、その指を自分の口元に、シーッ、のポーズ。

片目を閉じた宥さんが小さく、笑みを浮かべていた。


宥「―――私、お姉ちゃんだから」

京太郎「……!」


……少し、どきりとした。

というかドキドキしてる。

宥さんの新しい面を多く見せられた。

そんな気分が、あった。

だから、だろうか。

俺は気づけば、口を開いている。

自然と。

宥さんの顔を、見つめて。

まるで引き込まれるように。

宥さんの手を、しっかりと握って。


京太郎「そんなこと、言わないでくださいよ!」

京太郎「俺が、宥さんと皆の絆を断ち切らせませんから―――!!」





293 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/03/09(土) 23:28:28.33 ID:jKLDaReGo [11/17]

: : :.|:| |ハ |:::|:::::::::  ::::::::::::::::::::::::::::::|:::::\: :
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ヽ/: :Ⅳ:::   :.              ::::::::
_ハ: :ド、
: :|ヽ、|
: :| ,\            ヽ  _,       ────―――――。
: :{  、
: :{  ヽ       、____
:ハ    \         ー-- ̄>--
:| |    \       、 ___,
:|         \        ̄ ̄ ̄


ふと。

宥さんの唇が、歪んだように見えた。

だけど、次の瞬間には表情は違う。

まるでどう言えばいいか分からない。

そんな、そんなもやもやとした可愛らしい表情。

気のせい、か。

うん、きっとそうだ。

気のせいだろう。

俺は未だに宥さんの手を握っているせいか、少し恥ずかしげな宥さんと目がまた合う。

慌てて、手を離す。

少し、目を逸らしてしまう。

くそ。

何だ俺、顔赤いぞ。

そんなことを知ってか知らずか。

宥さんはことん、と。

俺の肩に、まるでそれが当然のように。

ゆっくりと頭を預けて、呟くのであった。




宥「あったかい……」






《END:限りなく自分の手を汚さないで男を墜とす方法その1》