544 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 15:54:23.94 ID:IDg01zbNo [36/89]



京太郎「先輩ー、シロ先輩ー!豊音さーん!どうかしましたー?」


ビクッ。

そう、シロ先輩の肩が揺れた。

そんな気がした。

それに気づいたのは、俺だけかも知れない。

だから多分、気のせいだろう。


豊音「あ、京太郎くーん!エイスリンさん!お帰りー!」

京太郎「ただいまっす」

エイスリン「タダイマ!」


挨拶して、近寄る。

ふと見れば、何時も通りの先輩たち。

ゆっくりと、シロ先輩が振り返った。


シロ「……京太郎?」

京太郎「はい、どうしました?というか、何してたんです?」

豊音「何もしてないよー。散歩行こうって、シロが言って…」

シロ「………そういうこと」


ぷいっ。

そんな感じで視線を逸らすシロ先輩。

気でも抜けたようにベンチに腰を下ろしていた。

………って、ちょっと待て。

まさかこのパターンって……。


シロ「京太郎、おんぶ」

京太郎「やっぱりか畜生!?」


ん、と手を俺に伸ばす先輩。

それに思わず叫ぶ。

予想通り。

それに小さく溜息を吐きながら、気合一発。

俺はシロ先輩を背負うと、エイスリン先輩、豊音さんに声をかけた。


京太郎「じゃあ、帰りましょうか」


皆の、ところに。






シロ「………きょーたろ…」ギュッ

・シロ、エイスリンの病み度が1上昇しました


575 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 16:14:41.27 ID:IDg01zbNo [41/89]
【8月20日:朝】



両手に花。

そういう言葉がある。

女性などに、その艶やかさから『華のある人』などと言うように。

男がそんな花々を両の手に持っている。

つまりは一人が複数の女性を侍らせている状態を両手に花という。

つまり。

今の俺みたいな状態を、両手に花、というのだろう。


エイスリン「ウミ!」

胡桃「海!」

塞「海だねぇ」

京太郎「海ですねぇ……」


右腕。

シロ先輩の浮き輪と腕の間に通している手をエイスリン先輩がおっかなびっくり手に取っている。


左腕。

クーラーボックスを持つ手をバランス崩した部長が握っていた。


頭。

肩車した鹿倉先輩が麦わら帽子を被ってちょこんとそこにいた。


何でこうなっているか。

それを答えるのは、まぁ面倒である。

順に説明しよう。

鹿倉先輩がサンダルを無くして、ガラスが割れてて危なかったから俺が肩車して。

砂場に足を取られたエイスリン先輩が俺の右手をとってバランスを正し。

それによって崩れた俺の姿勢を臼沢部長が左手をとって支えた。

以上である。

だがまぁ、それはあくまで俺たち4人の認識で。

永水の皆さんとか、他の海水浴客なんかは俺のことを見ていた。

……何か殺意すら感じるんですけど。

まぁそうですよね。

ぱっと見、俺が侍らせてるようにしか見えませんよね。

俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!!

主張するべきはしておくべきだけど、意味なさそうだ。

なんもかんもタイミングが悪いわ、本当に。






600 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 16:41:50.01 ID:IDg01zbNo [46/89]
【8月20日:昼】



それぞれが思い思いに楽しむ中。

俺は一人、荷物番としてパラソルの下に居た。

まぁ、当然である。

むしろ率先してやるべきだろう。

選手たちの慰労でもある海水浴。

ある意味では俺は場違いというものだ。

遠目に、シロ先輩と鹿倉先輩は浮き輪で漂流。

エイスリン先輩と豊音さんは永水の人とビーチバレーだ。

そんな、平和な光景を見ているとふと、俺の頬に押し当てられる感触。

冷たい。

……冷たい!?


塞「お疲れ様、須賀君」

京太郎「ぶ、部長!?」


振り返れば、そこには部長の姿。

手に持っているのはアイスキャンデーだ。

どっちがいい、と問われて俺はソーダ色のを選ぶ。

部長は俺の隣に座ると、俺と同じように小さくアイスキャンデーに舌を這わせていた。


塞「冷たっ」

京太郎「でもこれ美味いですね」

塞「私はさっきまで海に入ってたから、塩気のせいで余計に甘く感じるよ」


あむっ、と先輩の声。

あんまり見ないようにしつつ、俺も噛り付く。

しゃくっという音。

解れるように崩れたそれを咀嚼しつつ、俺はふと口に出した。


京太郎「豊音さんの言葉借りる訳じゃないんですけど」

塞「うん」

京太郎「なんつーか、こういうのも思い出になりますね」


やっぱり。

俺はそう言う。

永水の人たちも、先輩たちも。

その楽しげな表情に陰りはない。

綺麗な思い出。

きっと、そうなってくれるだろう。





615 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 17:16:51.18 ID:IDg01zbNo [49/89]



塞「……そっか」

京太郎「そうですよ」


先輩が小さく、呟く。

俺も呟く。

日差しが強い。

それに目を細めて、ぬっ、と。

太陽を遮る影があった。


豊音「京太郎君!早く来て!!」

京太郎「豊音さん!?」

塞「どうしたの?」

エイスリン「シロ、クルミ!ナガサレタ!」

京太郎・塞「はぁ!?」


俺と部長が揃って立ち上がる。

見れば、浮き輪。

ぷかぷかと流されているのが見える。

潮に浚われてるー!?


京太郎「あああああ!部長、行ってきますー!!」

塞「えちょ、わわっ!?」


部長にアイスキャンディーを渡し、猛ダッシュ。

ああもう!

あの人たちは本当にもー!!



  • 変化ありませんでした。

616 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 17:18:17.53 ID:IDg01zbNo [50/89]
【8月20日:夜】

海からの帰り道。

人気の少ない電車の車窓から見える東京の街を俺は見ていた。

今日は、色々とあった。

それは勿論トラブルもあったけど、何事にも発展していない。

よくある笑い話になるようなものばかりだろう。

俺はうっつらと舟を漕ぐ皆を見る。

はしゃいでいただけあって、疲労の色は濃い。

それは俺も同じだけど、元々の体力は俺が一番ある。

だからこそ、俺は眠りにつく皆の中で一人起きていた。

視線は、俺の膝に。

そこに頭を乗せて寝ている、鹿倉先輩。

今日、シロ先輩と流されていったあの時。

俺と塞さんの通報を受けたライフセーバーの人が来た時の安心した顔。

そして今の眠る表情。

とてもだが、年上には思えないようなあどけなさがある。

……これ言ったら、絶対に怒られるだろうけど。

ガタンッ。

電車が揺れる。

軽い体を持つ鹿倉先輩がびくりと反応。

目をぱちりと開いた。

俺と目が合う。


京太郎「あ、起きました?」

胡桃「………」


「∀」としている口。

そのまま、ゆっくりと汗が顔ににじみ出る。

表情が変化しない。

それに俺が「どうしました?」と声をかける前。

先輩は勢いよく、頭を起した。


京太郎「あれ、どうし―――痛っ!?あたっ、何で叩くんですか!?」

胡桃「う、うるさい!デリカシーなさすぎ!!」

京太郎「なんで!?」

胡桃「うるさいうるさいうるさい!!」


そう言って、ふん、と腕を組んでそっぽ向く先輩。

そんな赤くなるくらい興奮して怒らなくてもいいのに……。





  • 従順度が1上昇しました

660 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 20:18:01.71 ID:IDg01zbNo [55/89]
【8月21日:朝】


私にとって、大事なことは三つある。

それぞれが、私を作る構成材料だ。


一つ、ダルいこと。

私は労力を発揮する、というのが嫌いだ。

結果的に無駄になることはしない。

雨が降れば雨音を聞きながら部屋の天井の染みを数えることもなく、じっと。

ただただ眺めているだけでその日を過ごすくらいに何もしない。


二つ、今の状態が変わること。

今の関係。

部活の皆の関係が崩れることは、ダルいことだ。

少なくとも、私は全員とも気に入っている。

私の中にある、ダルくない。

友達たちの関係。


そして、三つ。

今では、これが一番大事になってしまった。

なんで、ということを考えるのも、ダルい。

だけど、それは確かに私の中にある。


シロ「………」

京太郎「Zzz………」


私が見下ろす、彼。

何処かだらしなく顔を歪めた、安心しきった表情で眠る、京太郎。

三つ目。

それが、京太郎。

何時、じゃない。

多分、いつの間にか、だと思う。

私の中にあるこの感情を自覚したのは。

私は、彼が好き。

………なんだろうか?

分からない。

ただ思うことが、ある。

エイスリンにも、豊音にも、塞にも、胡桃にも。

いや、他の誰かでも。

京太郎が一緒に居ると、酷く不快。

そう、不快だった。


シロ「………ダルい」



710 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 20:57:30.18 ID:IDg01zbNo [58/89]



ギシリ。

鈍く軋むベッドのスプリング。

京太郎が小さく、「ん…」と声を漏らす。

起きないでね。

私は無言でそう告げる。

起きたら、めんどくさいことになるから。

私はそのまま、彼の上に跨るように。

京太郎を見下ろす。

ああ、不味いな。

鍵は勝手にフロントから借りてるんだった。

こんなことしてる場合じゃないのに。

そうは思っても、体は。

私の体は、動く。

膝立ちから、四つんばいに。

京太郎の私の顔が、ぐんと近づいた。

寝息が、私の頬を撫でる。

薄く開いた唇。

ゆっくりと、京太郎の唇を触れる。

ざらり。

乾いた触感が、私の指を刺激した。


シロ「―――――」









シロ「いい、よね……?」


うん。

別にいいよね。





719 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 21:01:51.91 ID:IDg01zbNo [59/89]








                                   イタダキマス












739 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 21:14:54.23 ID:IDg01zbNo [60/89]
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─────
───
──



目が覚めたら、とんでもないことになってた。

そんな経験は無いだろうか。

妙な寝苦しさ。

それを覚えた俺が目を覚ましたのは朝の5時過ぎのことだ。

随分と早く目が覚めた。

そう思いつつ、俺は身を起そうとして、気づいた。

体が動かない。

というより、何かが居る。

目が冴え、思考がクリアになっていき、今の現実を認識する。

オーケーオーケー。

目が冴えたぜ。

俺は油断なく、しかし一気に布団を剥ぐ!


京太郎「……シロ先輩?」


そこに居たのは、少し肌蹴て、丸まっている、シロ先輩の姿。

朝日が目に入ったのだろうか。

うっすらと、目を開く。


シロ「ん……もう少し、寝る……」

京太郎「あ、はい。了解っす」


じゃなーい!?

え、え?

どういうこと?

何でシロ先輩が居るの?

思わずループ仕掛ける思考。

それを晴らすために一路俺は洗面所に向かう。

そこで、判明する。

俺の首筋とか、鎖骨とかに残る、赤い痕。

………ねぇ、これってキスの痕とかそんなんじゃないよね?

ね?








え、嘘でしょ?

まだ夢でも見てるのか俺。



749 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 21:24:34.93 ID:IDg01zbNo [61/89]



そんな俺の問い。

それに結構な時間がかかったのか、物音。

見れば、シロさんが装いを正している姿だ。

そのまま、ぺたぺたとサンダルを鳴らして俺の横に。

肩を、ぽん、と。

そうして無表情のまま。

俺を見た。


シロ「京太郎」

京太郎「は、はい……?」

シロ「私は気にしない、京太郎も気にしない。いいね?」


じゃ、朝ごはんで。

そう言って出て行く、シロさん。

え。

ええ?



京太郎「ええええええええええ!?」





  • シロの病み度が1上昇しました


768 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 21:31:24.05 ID:IDg01zbNo [63/89]
【8月21日:昼】

衝撃の朝から、三時間くらい。

麻雀を打つシロ先輩を見ながら、俺は頭を抱えていた。

記憶が無い。

昨日は俺、普通に部屋に帰って寝た……はずだよな?

疑心暗鬼がさらなる疑問を呼んで、何が本当か分からなくなってきた。

ただ、ちらりと。

俺はシロ先輩に視線を向ける。

先輩は、俺と目を合わせた。

そして小さく、舌を出す。

それだけだ。

やっちまったのか、俺。

マジなのか、俺よ。

覚えてないとか最低すぎるぞ。

そんなことで頭を抱える。

そこでふと、俺への視線を感じた。

見れば、鹿倉先輩だ。


胡桃「頭抱えて何やってるの?」

京太郎「いえ、別に……」

胡桃「何か悩んでるなら聞くよ!」


言えるわけねーです!

そう言えたらどれだけ幸せなことか。

俺は頭を再度抱える。

鹿倉先輩は、そんな俺の様子に頭を捻るばかりだった。




  • 変化ありませんでした

805 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 22:02:46.05 ID:IDg01zbNo [66/89]
【8月21日:夜】


一度、シロ先輩と一人で接触するか?

俺はレクレーション室で考える。

今朝の真偽。

それを確認するだけでも俺には何かのプラスになるだろう。

従順に話してくれるか。

それはまだ分からないが、悩んでるよりは確実だろう。

俺が一人考えていると、ドアが開く。

まさかのシロ先輩かとも思ったが、違う。

豊音さんだ。


豊音「京太郎君、こんばんわー」

京太郎「こんばんわです、豊音さん」


ふわふわと。

そんな雰囲気で挨拶をしてくる豊音さん。

そんなこの人を見て、俺の脳裏に一つの考えが浮かぶ。

相談。

出来るだろうか。

先生には、正直、言えない。

それはシロ先輩も同じだろう。

でも、部活の仲間たち。

それなら。

俺はそう思う。

ああでも。

この人がもし、それを聞いたとして。

どんな反応を、示すのだろうか。

それが俺には、怖かった。

だからこそ、口つぐむ。

俺は話を切り上げる。

そうするように。

小さく笑みを浮かべた。


京太郎「お休みなさい、豊音さん」




夜が来る。





863 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 22:48:05.36 ID:IDg01zbNo [73/89]
【8月22日:朝】


あの日から二日目。

今日も悩む。

なんてことはない。

もう考えても分からないものは分からないのだ。

なら、何らかの接触がシロ先輩からあるはずだ。

多分、きっと。

体が軽い。

こんな爽快な気持ちは初めてだ。

悩み無用。

CMは良い言葉を言うものである。


胡桃「何で朝からスキップしてるの?」

エイスリン「キョータロ、ウレシソウ!」

京太郎「いえいえ、悩みなんて悩んでも無駄って分かったんです!」


朝日が輝く!

なんて爽やかな日なんだろうか。

体が軽ry


胡桃「……それって根本的には解決してないよね?」

京太郎「げっはぁぁぁ!?」


鹿倉先輩の言葉のボディーブロー。

それに俺が崩れ落ちる。

そう、だった。

確かに解決した訳でもなんでもなかった……。

そうだよ!

ただの現実逃避だよ!

悪かったな!


エイスリン「キョウタロ、ファイト!」


手をぎゅっと握り、ファイティングポーズを取るエイスリン先輩。

ああもう、本当にこの人は癒されるなぁ。





924 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 23:14:27.63 ID:IDg01zbNo [81/89]
【8月22日:昼】

胡桃「それで、何に悩んでたの?」

京太郎「いや、何でもないですって!」


昼過ぎ。

散歩に出た俺の後ろでそう告げる鹿倉先輩。

俺はその人に何もない。

大丈夫。

そんな色々な表現で問題ないことを告げる。

しかし、この人の眉は歪んだまま。

どう考えても納得してないのが丸分かりである。


胡桃「お姉さんに相談できないこと?」

京太郎「お姉さん……?」

胡桃「私年上だよ!?」


お姉さん。

そう言われると思わず考えてしまった俺に鹿倉先輩が突っ込む。

はっはっは。

こうして反応するだけでも駄目です。

俺がそう言いたげに笑みを浮かべると、顔色が固まる。

ああ、きっとこの人は何も言わず“潰す”とかそういうこと考えてるな。

俺は静かにそう予測する。

もう流石にそれなりに分かるわ。


京太郎(………これがシロ先輩にも使えればなぁ…)


ままならない。

本当にままならないものだ。





944 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 23:27:11.56 ID:IDg01zbNo [84/89]
【8月22日:夜】



京太郎「エイスリン、先輩……?」

エイスリン「ウゴカナイデ」


俺は今現在、困惑していた。

俺の部屋。

そして、そこに居るのは俺だけのはずだ。

時刻は深夜。

それに程近い時を時計の針が示している。

聞こえる音。

それはペンを奔らせる音。

そして時計の音だ。

なんで、こうなっているんだったっけ。

ゆっくりと、思い返す。

そうだ。

確か、先輩がいきなり俺の部屋に来たのだ。

思いつめたような。

何かを我慢しているような顔だった。

そんな、気がする。

そうして今やっているのは、俺の絵描きだ。

どうにも落ち着くのに、これが一番らしい。

俺はそれに困ったような空返事を返して、今に至る。

この人は、何をしたいのだろうか。

普段のエイスリン先輩は、物静かだけど活発で、それでいて恥ずかしがり屋。

そんなイメージがある。

だけど、さっきの。

あの顔。


まるで、自分のやりたかったことを他人に先越されたような。

そんな、顔。

エイスリン先輩は、俺を見る。

気のせいだろうか。

そこに、薄ら寒いものを感じたのは。




990 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 23:58:57.80 ID:IDg01zbNo [89/89]



エイスリン「デキタ!」


出来た。

という声が響く。

手は慣れた手つきでスケッチブックを閉じ、そしてくるり。

ペンを一回しして耳へと挟んだ。


エイスリン「アリガト、キョウタロ!」

京太郎「いえ、気分転換になったのなら十分ですよ」


そこにあるのは、普段通りの先輩。

にこにこと、笑っている先輩。

じゃあね、と先輩が去っていく。

それに俺は拍子抜けすら感じつつ、出て行く先輩を見送る。

なんというか。

本当に絵を描きたかっただけみたいだな。


京太郎「寝る、か……」


うん、ゆっくりと寝るとしよう。




14 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 00:07:57.27 ID:OMedMnLEo [1/13]
──────
────
───
──



今手に取った、京太郎の絵。

私はそれを慎重に、丁寧にスケッチブックから外す。

そして、一つのファイルを出した。

そこにあるのは、今までの京太郎。

新しい、一番のページにその京太郎を私は仕舞う。

そして、ペンで日時を記入。

ベッドに転がるように、私は京太郎を胸に抱いていた。


エイスリン「フフ…」


ここには、私が出会った頃からの京太郎が居る。

こうして、眺めるしかできない。

そんな京太郎が、ここにはある。

幸せ。

小さく噛み締める幸せ。

私は日本語が苦手。

それに、少し恥ずかしい。

だから、何時もこっそり京太郎の絵を描いていた。

ああ、それは。

それは、誰にも渡さないでいい、私だけの京太郎。

だから、まだ。


エイスリン「モット、描キタイ」


京太郎のことを。

もっと。




  • 病み度1上昇

87 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 16:19:59.35 ID:OMedMnLEo [7/13]
【8月22日:朝】


もはや慣れてすらしまったホテルの天井。

それを見て俺は目を覚ます。

周辺確認。

誰もいない。

それに妙な安心感を覚える俺。

もしかして、夢遊病みたいに勝手に行動してた、とかは無いみたいだ。

気のせい、だろうか。

俺の周り。

それが妙に殺伐としている風に感じる。

そんなことありえないのに。

俺は食堂に集まった宮守の皆を見渡し、そう思う。

そうだ。

皆の空気が悪くなる、なんてない。

全国大会に負けた後だって、あんなに暖かい空気だったのだ。

ありえない、馬鹿な考えだな。

俺は一人納得する。

しかし、だ。


京太郎「なんか臼沢先輩と鹿倉先輩と飯食う回数増えましたね、そういや」

塞「偶然でしょ?」

胡桃「でしょ」


そうかなぁ。

いや、もしかすると無意識にシロ先輩を避けてたからかも知れない。

嫌悪とかじゃなくて、冷静になるために。

俺だって男である。

布団の中に女の人が居て、しかも意味深なこと言われればどきどきもする。

しかもシロ先輩みたいに可愛らしい人ならなお更だ。

意識の切り替え。

そのために距離を取っている……かもしれない。

うーん、ありえそうなのがまた。


塞「まぁ、皆で食べてるんだから変わりは無いでしょ」

胡桃「無いよ」


なーんか丸め込まれてるような気がしなくもないんだけどなぁ。





100 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 16:43:10.87 ID:OMedMnLEo [10/13]
【8月23日:昼】


京太郎「……」

豊音「~♪」


家でペットを飼ってる人。

そんな人は経験あると思う。

自分の後ろをついてくるペットの姿とか、そういうのだ。

今、俺の中にある感情はそれと非常に似通っていた。

前を行く俺。

後ろに続く豊音さん。

ちょっとした買い物ついでの散歩だったのだけど、なんでこうなってるのだろうか。

いや、何で着いてきてるんですか、と聞いてもいいんだ。

良いんだけど……。


豊音「あれ、どうしたのー?」

京太郎「何でもないっす!」

豊音「そうなのー?」


……なんといいますか。

『何で着いてきてるんですか』と聞いたらすっごい悲しそうな顔する。

そんな確信があるのだ。

だから俺は口に出さず、何も言わない。

豊音さんも当然、何も言わない。

ただ、そんな無言はどうにも長く続かないものだ。

気づけば、俺は豊音さんと並んで歩いている。

会話を少し交えつつ。

例えば好きなものとか。

身の回りのこととか。

そんな単純なこと。

そもそも、会話なんてものは話題となるものがあって、共感や理解があれば続くものだ。

気づけば、結構話し込んでいたような気もする。

笑って、すっきりもしたような気がする。

よし、と俺。

意識を切り替えて、行こう。

明後日から、個人戦が始まるのだから。

俺にやれること。

それをやっていこう。


144 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 19:11:35.89 ID:Itsf4tojo [5/53]
【8月23日:夜】


京太郎「今戻りましたー」

豊音「ただいまー」

胡桃「おかえり豊音ー須賀君」

塞「おかえり、散歩?」

京太郎「ええ、まぁ」

豊音「じゃあ私部屋に戻って着替えてくるよー」

胡桃「行ってらっしゃい、戻ってきたら麻雀しよ!」


レクレーションルーム。

そこで椅子に腰掛けていた臼沢部長、鹿倉先輩に声をかける。

どうやら暇していたのか、麻雀をするつもりだったらしい。


京太郎「あれ、シロ先輩とエイスリン先輩は居ないんですか?」

胡桃「二人とも居ないよ」

塞「シロがひとりでに外出なんて珍しいよね」

京太郎「ですねぇ」


牌を手元で遊ばせながら部長が言う。

確かに珍しい。

今頃何してるんだろうか?

エイスリン先輩にシロ先輩。

もう時間も時間、そろそろ帰ってきて欲しいものだけど。


胡桃「心配?」

京太郎「そりゃそうですよ、女の子なんですから」


女性の一人歩き。

それは心配するには十分だ。

いくら東京が明るい街であっても、それだけ人は多い。

相対的に変質者も多いだろう。

多分、きっと。

そう俺が思っていると、にやにやと笑う臼沢部長が俺に声をかけてきた。


塞「須賀君は過保護だねぇシロ達に」

京太郎「後輩として、男として当然です。勿論先輩たちだってそうですよ」


居なくなってたら心配する。

俺が当然だと言わんばかりに二人にもそう告げると、急に会話が止まる。

何でだ?





  • 塞の従順度が1上昇しました


193 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 19:46:36.03 ID:Itsf4tojo [10/53]
【8月24日:朝】


むすっとしてる。

俺を見上げるシロ先輩の表情を例えるなら。

というか、どういう顔しているかと言うのならそれだろうか。

不機嫌。

実に無言でそれを主張している顔だ。

はて。

俺は何かしただろうか?

いや、したかも知れないのだけど覚えてないのが一昨日あるけど。

まぁそれは置いておこう。

今現在、朝食終了。

今日の昼過ぎには団体戦の決勝が終わるかも知れない、という時間だ。

そんな中、俺は部屋に戻ったのではあるが、何時の間にかシロ先輩はそこにいる。

いや、着いて来て当然のように部屋に入ってきただけなんだけども。

ええと、部屋に帰らそうとしたんだっけ?

そしたら、今に至るんだったか。


京太郎「シロ先輩、何でそんな怒ってるんですか……」

シロ「怒って、ない」

京太郎「いや、怒ってるでしょう!?」


じゃなきゃそんな顔しない。

俺は表情変化を見分けるプロなのだ。

それくらい、もはや慣れて分かる。

しかし、だ。

何で怒るんだろうか?

帰れ、と言って怒ってる……そんな訳ないな。

となると、この間の件だろうか。

朝の、アレ。

もしかして、それをはっきりさせてないから怒ってる……のか?


京太郎「あの、先輩?怒ってる理由って……この間の朝のあれですか?」










シロ「………違うよ」


目を逸らし、バツが悪そうにそう言う。

あれ?

俺が頭を捻る。

この間のことで怒ってる訳じゃない。

ということは、怒るようなことは起こっていない。

そう取れるだろう。

と、いうことは。

俺、一線は越えてない?

マジで!?


京太郎「あ、はは……はぁ~~~……ッ!!」

シロ「?」


俺が思いっきり息を吐き出す。

いやぁ、心が軽い!

あれだけが心に引っかかってたからなお更だ。

ふふふ、今夜は枕を高くして眠れそうである。


京太郎「……って、あれ?」


じゃあ、あのキスマークはどうなるの?

今冷静になると、あれはどう考えても誤魔化しとかそういう問題じゃない気がする。

聞いてみたい。

でも怖い。

なんというジレンマだろうか。


シロ「………ねぇ、ここに居てもいい?」

京太郎「へ?あ、ええ、もうしょうがないからいいですけど……」

シロ「じゃあ、ここに居る……」


俺の思考の間をついて、シロ先輩がそう言う。

怒ってたように感じたのが、俺がここに居ても平気と言うと、嘘みたいに静かになる。

枕を抱き、ベッドの上で丸まる。

そしてそのまま、瞳を閉じてしまった。

………まさか、寝るつもりだったけど部屋に戻るのがダルかった。

そんな感じの理由なのか……?


シロ「………寝る?」

京太郎「寝ませんよ!!」



  • シロの従順度が1上昇しました、ぞろ目ボーナス(特別)で次の判定の従順度上昇コンマ範囲を大きくしましょうかね

261 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 20:19:31.13 ID:Itsf4tojo [14/53]
【8月24日:昼】







『試合、終了――――!!』

京太郎「………終わり、ましたね」

胡桃「そうだね」

塞「ああ、そうだね……」


テレビの前。

俺は無言でその結果を瞳に映す。

終わり。

全国団体。

それが今、終わった。

今、それを見ているのは俺と鹿倉先輩、臼沢部長だ。

妙な無言。

そんな空気がそこにはあった。

鹿倉先輩を見る。

何時も通りの表情。

そこには、でも、確かに。

一瞬の悲しみがあった。

多分。

それは、あの舞台に立てなかった。

そういう後悔もあるんだろうか。

俺はあまり見ないようにする。

少し、何かをこするような。

そんな音が聞こえたのだ。

ただ、それは直ぐに止まる。

椅子から降りる音。

それに俺と臼沢部長が視線を向ける。

何処に。

そう問う。

鹿倉先輩は背中を向けたまま。

振り返らず、少し震えた声で、言った。


胡桃「飲み物、買ってくるよ」

京太郎「………分かりました」

胡桃「うん、二人とも待っててね」


先輩が出て行く。

がちゃん。

そういう音がして、ドアのロックが自動で降りた。





342 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 20:48:17.59 ID:Itsf4tojo [18/53]



塞「……泣いてた、かな?」

京太郎「どうでしょうか、鹿倉先輩は強い人なので」


臼沢部長の問い。

それに俺はぼかすように答える。

泣いてた。

それを態々、言うことない。

そういう態度で俺は答えると、「そっか」と答える部長。

空白の時間が少し出来る。

その空気。

塗り替える言葉。

短く。

小さく。

部長が放つ。


塞「……行きたかったなぁ、あそこに」


そんな呟き。

ほろり。

それがトリガーであったように。

小さい水滴が部長の瞳から毀れ出る。

あれ。

おかしいな。

戸惑った声。

俺は無言でハンカチを差し出す。

それが、切っ掛け。

もう耐える必要がない。

ハンカチを見た瞬間、それを体が理解してしまった。

ぼろっと。

小さく泣く部長。

俺はそれに、ただ手を添えておくことしか出来なかった。

ゆっくりと。

手を握る。

部長が立ち上がった。

「ちょっと貸して」と、声かけて。

俺の胸に、顔を埋めていた。

この時。

部長の、鹿倉先輩の夏は、本当の意味で終わったのだろう。





346 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 20:50:30.58 ID:Itsf4tojo [19/53]
【8月24日:夜】


京太郎「……大丈夫ですか、臼沢部長」

塞「ん……ごめんね、ありがとう」


時間が少し過ぎる。

気づけば、もうすぐ夕方だろうか。

……結構な時間、抱きしめてた。

そんな気がする。

顔を見合わせ、毀れ出る笑い。

なんだかおかしくて、笑ってしまった。


塞「あははははっ……京太郎君、さっきも言ったけど、ありがとう」

京太郎「いえいえ……って、京太郎?」

塞「そ、これで私の部長としてのお仕事はおしまい。ある意味、もう君の先輩じゃないからね」

京太郎「そんなこと―――『だから』…?」


にこり、と笑う部長。

何処か晴れ晴れ……そんな雰囲気さえあった。


塞「だから、もう部の先輩後輩じゃなくて……京太郎君と私は友達、って間柄じゃないかな?」

京太郎「はい?」

塞「……あれ、嫌だった?」

京太郎「いえそんな!」


慌てて否定。

いや、部長が俺をそれくらい大切な。

大切な仲間に思ってくれている。

そうだと思うと、なんだろう……凄く、うれしい。

それに目元が熱くなりそうな気もする。

苦笑する部長は、また俺を見て続けた。


塞「友達だからね、私のこともこれからは塞って、呼んでくれないかな」

京太郎「はい、了解です部長……あっ」

塞「あ、部長って言ったね?」

京太郎「す、すいません!つい癖で…」


にぃ、と腕を組んで笑む塞さん。

俺はそれに小さく、頭を掻いて答える。




シロ「―――――え?」


え?





539 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 21:25:43.24 ID:Itsf4tojo [26/53]



声が聞こえた。

ドアが開く音は、無かった。

いや、気づかなかったのか。

視線を、俺の背後。

ドアへと向ける。

そこには、二人。

シロ先輩。

そして、エイスリン先輩が居た。

エイスリン先輩は、笑顔。

違和感すら感じるような、満面の笑み。

反対に。

シロ先輩は。

先輩は……。


シロ「何、してたの?」


何処か、怖い声で。

塞さんを、見ていた。


塞「ああ、シロ。おかえり。いや、ちょっと京太郎君と話してただけ―――」

シロ「答えて、塞」


ふらり、ふらり。

浮遊するように一歩。

また一歩と、近づくシロ先輩。

その動きに、生気はない。

びくり。

少し震えた塞さんが短く、「あ、ああ」と声を搾った。


塞「団体が、試合が終わったからね。もう私も部長なんかじゃなくて、京太郎君の友達として呼び方を変えたんだ」

シロ「京太郎」

京太郎「本当です」


嘘を言わせない。

そういう空気がある。

シロ先輩が俺を見た。

何を考えているか分からない、暗い瞳が俺を写している。

そのままゆっくりと、口を開くのが見えた。


シロ「私も―――先輩、なんて言わなくていい、よ」






554 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 21:31:30.72 ID:Itsf4tojo [27/53]



シロ「シロ、でいい」

エイスリン「ワタシモ!」


少し、空気が軽くなった。

俺は詰まっていた空気を吐き出し、はい、と頷く。

シロさん、エイスリンさん。

俺がそう言って、顔を見る。

頷くエイスリンさん。

少し考えた後、同じように頷くシロさん。

空気が晴れる。

張り詰めた風船。

それが割れるんじゃなくて、普通に空気が出て行った。

そんな感じだろうか。

見れば、そこに居るのは何時ものシロさん。

さっきのは、何だったんだろうか。

俺は少しの興味と、本能。

それに揺られ、息を吐く。

深く考えない方がいいだろう。

俺は小さく、息を吐いた。





569 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 21:34:39.95 ID:Itsf4tojo [29/53]





【クスクス】









【やっぱり幸せになれないんだね】








【早くこっちにおいで】







【“  ”が可愛がってあげるから】






584 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 21:37:47.77 ID:Itsf4tojo [30/53]
【8月25日:朝】

個人戦の抽選日。

うちの学校からはシロさん、エイスリンさんが出場することになっている。

豊音さんは残念ながら能力制限で出場逃し。

鹿倉先輩、塞さんは防御型ということもあってかこれも出場を逃した結果だ。

つまり、宮守の2枚看板火力。

その二人が個人戦に挑むのである。

さて、その抽選発表が今日の昼から。

現在は朝、何をしているかと言うと……。


胡桃「充電、充電!」

エイスリン「クルミ!ウゴカナイデー」

京太郎「何なんですかこの構図」


今、俺が鹿倉先輩を“充電”しているその状態をエイスリンさんが絵に描いていた。

妙にシュール。

そんな感じの光景である。

というか、鹿倉先輩ってシロ先輩とだけ充電してなかったか?

まぁそんな疑問は、エイスリンさんの言葉で消えるんだけど。


エイスリン「クルミ、キョウタローノ子供ミタイ!」

胡桃「え!?」

京太郎「はいぃ!?」


え、何でそんないきなり?

しかも満面の笑みでそう言ってるしこの人。

そんな俺の疑問。

それは聞こえていないのか。

ただただ、笑顔なエイスリンさんがそこにいた。


エイスリン「ア、デモ!キョウタロノ子供ナラ、クロイロオカシイ!」

京太郎「黒色?って、ああ髪の毛の色ですか」

エイスリン「ウン!私トキョータロ、カミイッショ!」

京太郎「あっはは、だったら絶対金髪の子供ですねー」

エイスリン「ア……ウン……///」

京太郎「?」

胡桃「変態!」

京太郎「ええ!?何でですか!?」





649 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 22:01:40.09 ID:Itsf4tojo [36/53]
【8月25日:昼】



中継が入る。

組み合わせ中継。

皆がそれを見つめている。

シロさんの相手が決まる。

エイスリンさんの相手が決まる。

それだけ。

ほんの一時間という放送。

それは終わった。

場に残ったのは、俺、鹿倉先輩、エイスリンさん、シロさん。

何やら鹿倉先輩が考えを二人に披露しているようで、俺は蚊帳の外だ。

だけど、ぽろり。

そう聞こえた中に、俺の名前があった。

ような気がする。


胡桃「―――以上!ということで頑張っちゃってね!」

エイスリン「ガンバル!」

シロ「頑張る」

京太郎「えええ!?エイスリンさんはともかくシロさんを頑張らせるだと!?」


俺の聞き間違いじゃないよね?

今、シロさんが「頑張る」って言ったよね!?

思わず戦慄。

鹿倉先輩、恐ろしい人……!

俺が慄く。

シロさん、エイスリンさんが俺を見た。

なんか視線が怖い。

まぁ、それは俺の気のせいなのだろう。

皆が解散。

俺は自分の部屋に戻る。

ノック音。

それにはい、と俺は答える。

ノックの感じは、少しテンポが悪い。

もしかすると。

俺の予想は当たる。

そこに居たのは、何時もの。

眠たげな目をした、シロさんだった。


京太郎「あの、どうしまし――――」






822 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 22:35:02.28 ID:Itsf4tojo [41/53]



ふわっ。

そんな風。

そして温かさ。

それが突然、俺に襲い掛かる。

固まったまま、俺は視線を下に。

胸元。

そこには、白色。

シロさんの、頭が見える。

抱きつかれてる。

それを理解するまで、結構の時間がかかった。

ような気がする。

多分。

いや、実際の接触時間はほんの数十秒なんだけど。

がちゃん。

鍵の閉まる音。

かちゃ。

チェーロックがかかる音。

その迷いのない動作。

俺が何かを言う前に。

先輩がまた俺に近づく。

ゆっくりと。

俺の脇から腰へと手を回し。

ぴったりと。

体を寄り添わせるように。

抱きつく。


京太郎「………」パクパク


絶句。

本当に今の状態は、それだ。

何を言うべきか。

そもそも喋っていいのか。

それが分からない状態だ。


シロ「京太郎…」


くぐもった声。

はい。

そうも答えれないほど、動揺していた。








シロ「喋らなくて、いい―――でも、聞いて」


静かに、そんな声で、シロさんが話す。

俺は小さく頷く。

それしか出来ない。

それを受けて。

シロさんが少し体を離して。

俺を見上げる。


シロ「私は………京太郎が、欲しい」


欲しい。

俺が、欲しい。

伝えた言葉。

それを肯定するように、首筋に唇を落とすシロさん。

それが、この間の俺の首筋についていた正体だと。

俺に教えるように。


シロ「ん……」

京太郎「痛―――ッ!」


カリッ。

痛み。

そして温かさ。

まるで猫が傷を舐めるように。

噛んだ痕を小さく舐める。

だけど、俺もそれで冷静になれた。

逆に。

痛みで正気を取り戻した。

そう言ってもいいかも知れない。

シロさんの肩を掴む。

そして、引き離す。

「あ…」と言う声。

そんな、甘さのある声。

俺を求める声なのだと。

そう思わせられると、思考がまたふやけそうになる。

だけど。

俺は息を呑む。

聞きたいことが、あったから。



889 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 23:18:32.08 ID:Itsf4tojo [45/53]



京太郎「―――何で、今なんです?」


そう、俺は聞く。

今、つまりは大会なのに。

この人は、ダルい。

そうは言っても、麻雀には真面目だったはずだ。

仲間を大事にしているはずだ。

いきなりだ。

こんなことをいきなり、された。

俺にはそれが、分からない。

混乱している。

時間が欲しい。

俺の脳みそはそう叫んでいる。

ああそうだ。

訳が分からない。

何でこんな。

こんなことになっているのかも。

それは、問いかけ。

俺の問いかけ。

シロさんは、答える。


シロ「京太郎に、愛して欲しいから」



シロ「私だけを見て欲しいから」



シロ「エイスリンにも、塞にも、豊音にも、胡桃にも」



シロ「渡したくない」



シロ「私だけを見て、ほしい」



シロ「それだけ」



シロ「それだけ」



シロ「他の子と、京太郎が話してる」



シロ「それだけで、嫌」





892 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 23:20:12.39 ID:Itsf4tojo [46/53]



シロさんが近づく。

俺が一歩下がる。

逃げれない。

俺の脳裏にそんな考えが浮かぶ。

渡したくない。

そう、言った。

愛している。

俺を。

だけど。

それは。

一方通行すぎるんじゃないか?

俺には分からない。

シロさんが、俺の目の前に。


シロ「京太郎――――」

京太郎「―――――」





963 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/13(日) 23:35:42.75 ID:Itsf4tojo [51/53]



シロ「京太郎……」

京太郎「し、シロさん………」


手を引かれる。

ああ。

なんでだろうか。

逆らえない。

俺は、逆らえなかった。

ベッド。

シロさんの体が小さく跳ねる。

ぎしり。

俺の体重が、かかる。

待て。

待て待て待て。

俺は何をしている?

こんな、いきなり。

俺はだって、まだ何も言っては。

言っては……。



シロ「――――来て」

京太郎「――――――」





【END:全ては薄氷の関係】