531 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/06(日) 13:23:57.63 ID:3UgQHP65o [1/3]



――――須賀京太郎君。

元々女子高の新道寺高校が生徒数確保のために共学となったのが今年から。

その第一期として、最初の男子麻雀部員。

元々、我が校は女子高校。

それに麻雀部での強豪であるということを売りにしている高校だ。

そこに所属する男子部員ということで皆の視線を良く集めた。

そんな子だった、というのが当初、私が抱いた素直な感想だ。

彼は麻雀が強い、というほどじゃない。

むしろ弱い、素人のようなものだった。

聞けば、中学3年の春休みから触れたばっかりだそうだ。

基本的にネット麻雀漬けで、まだ完全に役などは完全に理解してない。

それでも前向きに学ぶ姿勢は彼と同じ一年生や指導に当たる二年生たちからは好意的に捉えられている。

それに、力仕事なんか率先してやってくれる面倒見の良さに目を向けている3年生も多い。

そんな中で、やっぱり目に入るのは彼と皆の姿だ。

……何時の間にか、仁美のドリンクがもう飲み終わってるのを察知して次のを準備してたり。

部長に付き添って牌譜を運んでたり。

それは先輩に付き従う後輩以上のものじゃない。

そう。
       ・ ・ ・ ・
私の敵は、あいつらだけだ。


姫子「やーん京たろ、ぶちょーに怒られてもーたー!」

京太郎「どわぁ!?」


須賀君の悲鳴。

ああまたか、と部員たちはその光景を見る。

姫子は、部長……白水哩との関係が悪くなるとすぐに泣きついてくる。

ああして、抱きつくようにだ。

からかうのが好きな、明るい少女だと皆は知っている。

だからその行為にも疑問はないだろう。

でも、知っている。

あの困り顔の下は、勝ち誇るような笑みを浮かべている。

独占欲の塊みたいな、一人目の敵。




532 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/06(日) 13:24:26.30 ID:3UgQHP65o [2/3]



煌「鶴田さん、今は指導中なのですが。これは実にすばらくないですよー」

京太郎「ということですので、後で俺が仲介に立ちますから背中に張り付くのは……」


そしてその姫子を窘めるような声。

花田煌は、中学時代にインタージュニアへと出場した高校の部長をしていた。

それ故に指導というのは非常に向いていて、一年生を任せることが多い子。

何時も崩さない笑み。

挫けない、へこまない、諦めない。

それを教えるには最高だと、監督も太鼓判を押している。

だから、だ。

あの子は静かに笑っている。

どんなに苦しかろうと、痛みがあろうと。

笑っていれば、それでいいと。

気づけば爆発してしまう、そんな子だった。

須賀君に向ける好意は、全員同じ。

ただそれが、独占欲なのか。

それとも自虐のためなのか。

それとも………



【次回に続く】


573 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/01/07(月) 17:09:32.91 ID:dVVYrGS5o [1/23]




夢を見た。

そこでは俺は小さな麻雀部の部員。

仲間たちと笑いあって過ごした毎日があった。

県大会を突破。

自分が実際に出場するわけじゃないけど喜び、祝福し、祝い合う。

あの人は、笑っていた。

最後の最後で夢を見てみたい、と。

俺もです。

そう、俺は微笑んでいた。







全国大会優勝。

それに沸くメンバーたち。

俺はあの人に近づく。

あの人は笑った。

俺は笑えなかった。

この部の絆を壊しかねない、秘密が俺とあの人にはあって。

それが怖くて、とても怖くて。

俺は笑うことができないでいた。






俺は麻雀部をやめた。

あの人が学校を去り、翌年には新入部員が大勢入った。

雑用も一年生がやってしまって、何もない。

まるでそれが自分のアイディンティであったように、それをしなくなると居場所が無くなった。

俺は気づけば、あの人の下に居る。

あの人は、優しく俺を抱きしめていた。

大丈夫、と。

私が君の居場所になってあげる、と。

俺は小さく、笑った。





あの人も、大きく笑っていた。




――――そんな、夢を見た。





588 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/07(月) 19:12:46.25 ID:dVVYrGS5o [4/23]



夢から目が覚めると、ふと思うことがある。

俺のどんな記憶がこんな夢を見せているんだろうか、と。

それに対しての答えはない。

一つだけ言えるのは、その夢は何処か怖くもあり、幸福でもある。

そんな、感性によって左右される程度の優しい夢だった。

それだけは、事実だ。

……まぁ、訳分からなさではどうにもならないのだけれど。


京太郎「うっし、今日も頑張ろう!」


そこまでで、俺は思考を改める。

今、俺は東京に居る。

俺の通う学校、新道寺高校の女子が福岡県代表として全国大会に出場しているのだ。

そんな中に俺が居るのは、まぁ雑用なんだけど。




【8月14日:朝】



新道寺高校麻雀部ご一行様。

そう書かれた札が下がるこのホテル。

朝食、昼食、夕食とを取ることが出来るレストランは最上階にあり、それなりに見晴らしはよい。

その一箇所。

四人用の席に、俺たちは居た。

右を見る。


美子「ん、須賀君、どげんしよっと?」

京太郎「あ、いえ何でもありません」


俺から見て右手には、安河内先輩。

即応性が高く、堅実な手で和了する変幻自在のスタイルを持つ人だ。

続いて、左を見る。


煌「いやー、朝から実に豪勢なことですねー」スバラッ

京太郎「花田先輩は朝からお元気っすね、いや本当に」


俺から見て左に居るこの人は花田先輩。

昔は長野に住んでたらしく、俺も途中まで長野に住んでたこともあり、話は中々に会うフレンドリーな人。

続いて、対面。


姫子「んー?京たろ、どげんしたと?」


この人は、鶴田先輩。

高火力を売りにする白水部長との強力タッグを組む人だ。

その全員が、何でか俺の席に迷わず集まっている。

……俺の気のせいじゃなければ、相当に空気が悪い。

それに何でだ、という疑問が上がるが、今は朝食の時間。

何もないとは、思うんだけど………。








姫子「んふふ……」

美子「………」

煌「………」

京太郎(く、空気が重てぇ……!)


息が詰まる!

何でこんな晴天なのにここだけどんよりしてるんだよ!

俺なんかしたか?

何もしてないよな!?

そう思いながら、バイキングスタイルの朝食を片付けようと箸を伸ばす。

畜生、調子に乗ってこんなに盛るんじゃなかった、とか嘆きたいが今はそんな場合じゃない。

俺が漬物を一つ、口に放り込む。

うん、ほどよい塩気がいい。

これとご飯の甘みが実に合うのだ。

日本人ってやっぱり米だよな。


京太郎「………ん?」


そこで、違和感。

足に何かぶつかったのが分かる。

それは誰かの足。

多分、鶴田先輩の足だ。

その足は俺の足の間に差し込まれ、ちょっとずつ上に……ってえええええええええ!?


京太郎「(え、いやこれは何をッ!?)」

姫子「んー?―――どげんしたと、京たろ?」


くふふ、と笑う鶴田先輩。

その小悪魔のような笑みには悦が入っているのが俺には分かった。

そうである。この人、こうして何かと俺をからかうのだ。

ぶっちゃけた話、この人と部長の“仲”は部内公認のようなものだ。

だからこの人にその気は無いと分かるからこそ、こういった行為がからかいだと俺は断言している。

いやまぁ、ぶっちゃけた話こんな可愛い先輩にいじられるとか何それご褒美なんですけどね!?


京太郎「ごッ、ごちそうさまっす!!」ダッ

姫子「あ、逃げたー」


花田煌:レベル3(病み度1/3、従順度2/6)
安河内美子:レベル3(病み度1/3、従順度2/6)
江崎仁美:レベル1(病み度0/3、従順度0/6)
白水哩:レベル1(病み度0/3、従順度1/6)
鶴田姫子レベル3(病み度0/3、従順度2/6)

に変化しました。

623 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/07(月) 20:13:44.39 ID:dVVYrGS5o [9/23]

【8月14日:昼】


針の筵から少し時間が過ぎた。

今日は試合が無いため、特訓や休息といった風にそれぞれが分かれている中、俺も手持ち無沙汰だ。

さて、どうしようか……。







京太郎「ん?」


何をするかと思いながら俺がホテルのロビーへ向かう。

そこで目に映ったのは、見覚えのある髪型だ。

二つに分けたおさげ髪。

あそこに居るのは白水部長だ。

部長、それにおさげ。

何故かズキンと頭が痛むが、それを振り払って俺は声をかけた。


京太郎「部長、お疲れさまです」

哩「ん、須賀か」

京太郎「ちょっと散歩で出てきますね」


足を組み、一人ティーカップを傾けている部長に挨拶をする。

少し外に出よう。

そう思ったから告げておいたが、手の先で「こっちに来い」をされる。

それに従い、俺は部長の対面へ。

カップを置き、腕を組む部長の顔は何処か渋かった。


哩「……姫子んこつでちょこっと話ばあっけん」

京太郎「は、はあ……」


聞けば、俺に対する行為はどうにも止まりそうにない、とか。

悪意は無いと思うから相手してやってくれ、とか。

相談あれば乗るくらいは何時でもしてくれる、とか。

お茶を一杯ご馳走になりつつ、俺は結構真摯に聞く。

当然である。

あの人に対抗するには白水部長の力が一番だと俺は知っているのだ。

むしろ学ばなきゃいけなかったにすぎない。

江崎先輩は「何もかんも須賀が悪い」としか言ってくれないし。

安河内先輩はたまに俺をじっと見てくる。

花田先輩は頼りになるけど、あの人の言うこと聞くとは思えないし……。


京太郎「いや本当に、部長は頼りになりますよ……」

哩「……褒めてもなんもいげなかぞ」


ちっくしょ、クールだなこの人。









哩「………」

京太郎「………」


少し、無言が続く。

俺と部長、それぞれが茶を啜る音と店内のBGMだろう静かなピアノジャズ。

そんな空間の中で小さく。

小さく部長が、俺を見た。

視線にあるのは、なんだろうか。

俺を見ている……というより、何か同じものを見るような目だ。

その意味までは分からない。

というより、俺はそんな訓練してないから読めなくて当然だ。

……はて、何でだろうか?

何で俺は、部長と自分が似ている、というような意味合いの思考をしたんだろうか?


京太郎「むむむ……?」






  |.:.:.:..::.:|  :.:.:.:.:.:  '     :.:.:.:.:.::.:.:    ノ.:.:.:..:  哩「………ッ」
  |.:.:.:..::.:|                   __/i..:.::.:./
  |.:.:.:..::.:| 圦     - -        /〔 .:.:i|:::.::/     ヽ_,
  |i .:.:..::.| 八:`:..              イ\.:...::.:リ:.:/ ___    ヽ(_/
  |i .:.:..::.|__\:.:>            ├─\_/'´  /〉     ) (
  |i .:.:..::.||//// 〕ニ{´ 〕_斤     y∧// }_.]   //     ノ (`
.  八.:.:..::.|∨// /:.:.ト:/|/     /  \/::::ト //{     ´⌒\ ビビクンッ
  ′ \:.:| V_/'.:.::.Ⅴ_ゝ   _/      `ト:|   ̄
.     Ν_   -‐= ´ /    へ        ノ   =‐- _
・白水哩のレベルが1から2に上昇しました。

676 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/07(月) 22:12:55.10 ID:dVVYrGS5o [14/23]
【8月14日:夜】






京太郎「東京はぁ~雨降り~」


なんとやら。

昔、親父が聞いていた歌にそんな歌詞のものがあったような気がする。

夜になって雨が降り出した中、俺はふと視線を外に向けている。

試合は、明日。

俺に出来ることは何かあるだろうか、ということだ。

全国大会一回戦は一位通過が規定。

負ければ、即終了だ。

部長も、鶴田先輩も、安河内先輩も、江崎先輩、花田先輩も。

今はきっと明日に備えているだろう。

なら俺もさっさと寝ようか。

そうも思ったが、その前にコンビニに行こうと俺は思う。

特に江崎先輩なんかは飲み物の消費が激しいから、前もって仕入れておくのも手だ。

そうと決まれば、俺は傘を掴んでホテルを出る。

歩いて数分。

傘が無かったらずぶ濡れになるな、と思いつつ、傘を閉じる。

そこで見えたのは、また特徴的な髪型。

何処か困ったような、そんな顔をした……


京太郎「は、花田先輩!?」

煌「すばらぁ!?」


いや、それ驚愕の声なんですか?




689 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/07(月) 22:49:37.30 ID:dVVYrGS5o [16/23]



花田「いやー助かりましたよー須賀君。あいにく、散歩していたらタイミング悪く雨に会ってしまいまして」

京太郎「いえいえ、濡れなくて良かったです」


俺は片手に買い物袋、片手に傘を持って花田先輩と並んで歩く。

相合傘、という形で俺と先輩が歩く。

距離も近いし、俺の傘は男物で大きいサイズだ。

ビニール傘買うのは勿体ないと俺が薦めたのだが、やっぱり少しは面積が足りない。

まぁ、選手である先輩を濡らす訳にもいかないので俺は少し肩を濡らすことになっているのだが。

それは必要な行動だと、納得して貰うとしよう。


京太郎「………」

煌「……」


雨音が強い。

もうすぐホテルが見えてくるころだろう。

俺はふと、先輩を見てみる。

ちょこん、と。

まるで小動物のように俺の隣にぴったりと居る姿が目に入る。

なんというか、この人はそういう姿が似合うと思う。

ホテルの前につく。

俺は傘を閉じて、水気を払う。

先輩は申し訳なさそうに、俺を見て口を開いた。


煌「ああ、濡れてしまいましたか?」

京太郎「ああ、大丈夫ですって。これくらいじゃ何もありませんよ」

煌「そう、ですか……須賀君、ありがとうございます。とてもすばらな行為でしたよ」


そう、小さく笑む。

俺はそれに頭をぽりぽりと掻き、頷く。

賞賛の言葉は素直に受け取っておくべきだろう。

俺が頭を下げると、では、と花田先輩が歩きだす。

その背中に、俺は、とっさに声を出す。


京太郎「先輩!」

煌「!」

京太郎「明日!頑張ってください!!あと濡れたのは全然気にしないで平気ですから!」






煌「………!」


俺のかけた声。

何かを受けたのか、先輩は少し俯く。

きゅっと結ばれた唇。

それがゆっくりと、何時もの笑みに。

きゅぴーん、という音と共に、先輩が笑った。


煌「その声援、すばらです!見事、見せ付けてあげましょう!」


先輩が答える。

自信に満ちた、そんな声で。

俺はそれに、サムズアップで返事を返した。

夜が、深くなっていく。





【8月14日:終了】
花田煌:レベル3(病み度1/3、従順度3/6)
安河内美子:レベル3(病み度1/3、従順度2/6)
江崎仁美:レベル1(病み度0/3、従順度0/6)
白水哩:レベル2(病み度0/3、従順度1/6)
鶴田姫子レベル3(病み度0/3、従順度2/6)
に変化しました。


706 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/07(月) 23:21:41.07 ID:dVVYrGS5o [19/23]
【8月15日:朝】


今日、大会が開幕する。

正確には、俺たち新道寺高校の試合が、だ。

それぞれ、先輩たちは全員が落ち着いてる。

花田先輩なんかはもうやる気満々、という風ですらある。

少なくとも、ここで負けるような先輩たちじゃない。

俺は一歩、前へと行く先輩の背中を見送っていく。









770 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 19:01:30.52 ID:YninyfmJo [3/37]



日常生活で、一度見たことがある、という経験はないだろうか。

例えばテレビ番組。

例えば日常の出来事。

例えば初めて会ったはずの人。

そういった物事に接した時、感じる違和感。

霞んだ記憶の中で、確実に知っている。

そういう記憶。

それが既視感だ。

大会会場。

パンフレット片手に会場内を歩く俺にとって、この光景は初めて見る世界だ。

少し顔を強張らせた子、余裕ある笑みを浮かべた人。

負けてしまったのか、涙を流す子。

こういった光景に俺は既視感はありえない。

ただ、不意に。

俺は何かの風を感じた。

誰かとすれ違った時に起こる、風。

それはとても弱いけど、俺に認識させるだけの力があった。


久「……!」

京太郎「……!」


振り返る。

相手も、振り返る。

目と目が合う。

自然と、お互いの顔が合った。

目に有るのは、驚き。

いや、これは……





771 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/01/08(火) 19:03:45.42 ID:YninyfmJo [4/37]

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775 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 19:10:28.22 ID:YninyfmJo [5/37]



京太郎「―――――ッッッ!!!」


その時、一瞬。

一瞬、誰かの笑みが見えた。

誰の。

目の前の、名前も知らない人の。

見ていたことがある。

そういう認識と共に。

後ずさりする。

自然と、足が動いた。

逃げなきゃ。

この人から、逃げなきゃいけない。

何でだ?

初対面だぞ?


久「―――ねぇ、君……」

京太郎「………は、い……」


一歩、近づく。

“部長”が近づく。

近づいて、俺の顔を覗き込んでいた。







久「―――もしかして君、男子部の出場者かしら?」

京太郎「…………はい?」

久「え、違うの?何か見覚えあるからテレビか何かで見たんじゃないかと思ったんだけど……」


違うのならごめんね。

そう言って去っていく。

俺は小さく息を吐く。





……あれ、何でこんなに汗をかいてるんだろうか?



778 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 19:25:20.24 ID:YninyfmJo [6/37]

【8月15日:昼】


姫子「勝っちきたばい!」

京太郎「お疲れさまです!」


わーい。

そんな感じで部長や俺とハイタッチをするテンション高めな鶴田先輩。

一回戦を見事に突破して皆が少しの余裕を取り戻していた。

そんな空気の中、手を打ち鳴らす部長。

視線が集まると、部長は口を開いた。


哩「今日はよーやった、次も今日のごたぁに行こう」


全員が「はい!」と答える。

さてさて、撤収撤収。



  • 接触対象指定↓2

788 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 19:49:08.04 ID:YninyfmJo [7/37]

撤収準備を終え、それぞれが移動を開始する。

部長はこの後の試合を見に、それには鶴田先輩も付いていっている。

江崎先輩、安河内先輩も何時の間にか居ない。

さっき、「何もかんも飲みすぎが悪い」と青い顔してたから、もしかすると先に帰ったのかも知れない。

安河内先輩はその付き添いだろう。

となると。


京太郎「……あれ?花田先輩は?」


そういやあの人が消えている。

あれれ、と思いつつ移動開始。

午後から、俺が今いる待機部屋は他の高校が利用するのだ。

比較的広い広場。

足は自然とそこに向かう。

ふと、聞き覚えのある声が雑踏の中から響いた。

………すばらって、あの人だよなぁやっぱり。


京太郎「花田先輩!ここに居たんですか!?」

煌「どわぁ!?す、須賀君!?」

和「何方ですか?」

優希「じぇ?」


そこに居たのは、朝出会った人と同じ制服を着た生徒。

俺が困惑したように花田先輩に顔を向ける。

ああ、と先輩は一本の指を天に立て、口を開いた。


花田「私が通っていた中学で麻雀部員だった、片岡優希さんと原村和さんですっ!」

和「原村和です」

優希「片岡優希ちゃんだじぇ!」

京太郎「は、初めまして。花田先輩の後輩の須賀京太郎です……なんか、邪魔しちゃいました?」

煌「いえいえっ!須賀君も私も原村さんも片岡さんも長野に関係してますから、無関係ではないですよー」

和「長野の出身なんですか?あと同学年ですので、そんなに堅苦しくなくても大丈夫ですけど」

京太郎「助かります……いや、助かる。そうそう、俺も長野の出身でさ」


妙に会話が弾む。

うん、なんか同郷の人間に会って会話がつながるってのはいいよな。

………咲も、今頃は何してんのかなぁ……。



797 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 19:59:33.52 ID:YninyfmJo [9/37]
【8月15日:夜】


………時刻は夜。

気づけばもう外は暗くなりつつある。

夏の昼間は長いというけど、そろそろそれも終わりだろう。

夕日を見ると、少し悲しい気持ちになる。

なんというか、今日が終わってしまう。

夢の終わりみたいな。

今が全国大会だから、そう感じるのかもしれない。














京太郎「部長?」

哩「須賀か」


ホテルの廊下。

俺の部屋がある階にある自販機からの帰り道。

そこで上階に居るはずの白水部長とばったり出会う。

風呂上りなのか、ホテルの備品である浴衣を着ている部長。

うん、やっぱり色っぽい。

しかし、だ。

ここで出会うということは自販機が目的なんだろう。

手に財布も持ってるし。

だが、俺はそんな部長に言わなきゃいけないことがあった。


京太郎「部長、自販機に用ですか?」

哩「そうやけど」

京太郎「売り切れでした」

哩「ほんまか?」


手を振り、俺がアピールする。

事実、売り切れだ。

そういうと、部長が小さく息を吐いた。


哩「そうやったら、外に買いにいかいなかといけなか…」


着替えないと。

そう呟く部長。

俺は少し考えて、部長に提案した。


京太郎「……俺の部屋、来ます?」

哩「………は?」

京太郎「いえ、江崎先輩用のドリンク、俺の冷蔵庫に一杯あるんですよ」


あの人用に今日帰りがけに安売り買ってきたのが冷蔵庫にある。

飲む気は無いけど、こういう場合ならいいだろう。


哩「い、いや、そぎゃん悪い……」

京太郎「まぁまぁ、別に部員用に買ったみたいなもんですから気にしないでも」

哩「ちょ、ちょこっと押さなかでって!?」




809 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 21:12:05.99 ID:YninyfmJo [12/37]


連れてきてしまった。

部屋に入り、俺はダンボールの山に手を伸ばす。

部長は後ろに。

気づけば、ゆっくりとベッドに腰掛けていた。

……俺、勢いでとんでもないことしてないか?

部長を部屋に連れ込むとか。

いや普通に用事があるだけなんだけどさ。


哩「……凄い量やね」

京太郎「いやーはっは。江崎先輩ずっと飲んでますから、全部の試合中」


そのせいで今日青い顔してたけどな。

それは口にしない。

ただ、俺の言いたいことは察したらしい。

何処か呆れてるように溜息を吐いていた。


哩「……仁美にも気ぃばつけるごと言うておくちゃ」

京太郎「お願いします……部長、スポーツドリンクでいいですか?」

哩「ん、よかよ」


ダンボールを退けて冷蔵庫を開き、俺は一本のスポーツドリンクを掴む。

机の下にある小さい冷蔵庫。

意外と冷えててキンキンだ。

冷凍庫の部分に入ってた奴かな、とか思いつつ。

俺は部長にそれを渡した。

手にとった部長は、目を丸くしていた。


哩「ひゃっ、冷たか!?」

京太郎「いや、なんかすいません……」





810 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 21:12:35.41 ID:YninyfmJo [13/37]
【8月15日:終了】
花田煌:レベル3(病み度1/3、従順度4/6)
安河内美子:レベル3(病み度1/3、従順度2/6)
江崎仁美:レベル1(病み度0/3、従順度0/6)
白水哩:レベル2(病み度0/3、従順度2/6)
鶴田姫子レベル3(病み度0/3、従順度2/6)
に変化しました。


814 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 21:20:35.17 ID:YninyfmJo [14/37]


【8月16日:朝】


……なんでだろうか。

初めて、今日という日を迎えた気がする。

まぁそんなのはもう15年以上前から迎えているわけで。

とりあえずは一日を過ごすべきだろう。

今日は試合なし。

一日フリーだから、何をするにも慌てなくていいだろう。




829 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 21:35:03.67 ID:YninyfmJo [16/37]



仁美「んー、須賀やん」チュー

京太郎「お、おはようございます江崎先輩」


もう飲んでるんですか、貴女。

俺はストローを咥える江崎先輩に挨拶する。

……今日はフリーで、しかも朝のせいか髪の毛の巻きが少し弱い気がする。

いや、知らんけど。

そう思っていると、先輩は口を開いた。


仁美「部長に姫子は?」

京太郎「え、まだ朝食きてないんですか?」

仁美「来てなかよ。丁度よかから呼んできて」

京太郎「了解っす」


俺は頷き、白水先輩と鶴田先輩の部屋に向かうために一度食堂から出る。

朝食終了まであと一時間。

早く起こさないとなぁ。


仁美「すまぬ……」




841 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 21:47:48.27 ID:YninyfmJo [17/37]



なんか、「すまぬ……すまぬ…」とかいう声が聞こえた気がする。

振り返れば何時もの江崎先輩の姿。

それに首を傾げつつ、俺はエレベーターに乗った。

30秒もしないうちに到着。

部屋の番号は把握しているので、俺は迷わずその部屋に向かう。

ノック。

聞こえるのは、シャワーの音だ。

それと壁越しの声。

えーっと、「ダレヤー?」か?


京太郎「すいません!須賀です!」

姫子「京たろ?ちょこっと待ってね、今開けるけん」


ドアが開く。

そこには白い布。

………ばすたおる?


京太郎「ファッ!?」

姫子「入ってまっとってええけん、やあね」


そう言って、また風呂場に入ってしまう鶴田先輩。

中から聞こえる会話からして、白水先輩も居るだろう。

ああ、江崎先輩。

貴女が「すまぬ」って言ってたの、これですか。

この噎せ返るような甘い空気ですか。

女性はまだしも男には何倍もの破壊力ですよこれ?







姫子「ぶちょー、今京たろがこのドア開いたら、見えちゃいますね?」

哩「………!」

姫子「んふふ……」




843 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 21:53:14.94 ID:YninyfmJo [18/37]



  •  ・ ・ ・ ・ ・
  •  ・ ・ ・
  •  ・ ・
  •  ・


姫子「おまたー♪」

哩「待たせてすまなか」

京太郎「い、いえ……」ゲッソリ


だめだよ。

待つってだけの行為なのにこんなに消耗しちゃったよ。

狭いところが落ち着くっていうんで部屋の隅で座ってたけど全然落ち着かねぇよ。

まぁとりあえず。


京太郎「早く、メシ行きましょうか」




花田煌:レベル3(病み度1/3、従順度4/6)
安河内美子:レベル3(病み度1/3、従順度2/6)
江崎仁美:レベル1(病み度0/3、従順度0/6)
白水哩:レベル2(病み度1/3、従順度2/6)
鶴田姫子レベル3(病み度0/3、従順度3/6)
に変化しました。


850 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 22:00:33.27 ID:YninyfmJo [19/37]
【8月16日:昼】


江崎先輩に肩を優しく、ぽんっ、と叩かれて「ようやった」と褒められはや数時間。

もうそろそろ昼時の時間帯だ。

昼はホテルじゃなく、外食を取るようにしているので出かける必要があるだろう。

まぁ、ホテルのレストランでも普通にオーダーすれば食べれるけど。

それはこれからの用事に合わせて変化していこう。

麻雀も生活も、臨機応変なのが大事である。




しかし、試合が無い。

そうなるととことん暇になるものである。

いや、別に俺が試合に出るわけじゃないんだけど。

こう、気分の問題である。


京太郎「買出し……するもん無いか」


飲み物はあるし。

めっちゃあるし。

小腹に入れるものは試合当日に何がいいか聞いて買ってくればいい。

となると、半マネージャーな俺には仕事が無いのである。

いかん、それだと俺が居る理由が無くなる…!


京太郎「仕事……仕事ぉ……」

哩「………なしてそげんえずい顔しとるん?」

京太郎「どわぁ!?部長!!」


後ろから声。

思わず跳ねて俺は振り向く。

そこには腕を組み、呆れた視線を俺に向ける部長の姿。

いや、俺は別に不審者じゃないんだけど慌てる。

えーっと。


京太郎「……部長!仕事ください!!」

哩「なかよ」


えーっ………




【変動はありませんでした】

862 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 22:19:08.89 ID:YninyfmJo [22/37]
【8月16日:夜】




京太郎「安河内先輩、おかえりなさい」

美子「た、ただいま、須賀君」


ホテルロビー。

コインランドリーの帰りにちょうど会った安河内先輩に挨拶をする。

先輩の手には鞄。

出かけていたんだろうか?

それにしては制服を着ているのは珍しい。

そんな俺の疑問。

それが顔に浮かんでいたのか、先輩は小さく微笑んだ。


美子「今日は大会ば見とったんだ」

京太郎「大会ですか?」

美子「相手に合わせて打ち筋ば変えるのも大事やけんね」


そう、笑う先輩。

確かに、花田先輩の後に控える次峰や中堅の先輩たちには確実性が求められている。

確実にプラスの結果を出す。

そのための研究、そのための練習だ。

努力の人。

この言葉が似合う人だ。


京太郎「先輩!応援してます、頑張ってください!」

美子「うん、頑張るけんね!」



917 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 23:06:20.58 ID:YninyfmJo [27/37]
【8月17日:朝】


第2回戦は18日。

第三回戦、準決勝は21日。

第四回戦、決勝。

それは24日だ。


第二回戦、俺たちは覇者である白糸台とぶつかり合う。

オーダーからして、花田先輩があの宮永照さんの相手。

俺にできること。

それは、とにかくバックアップにすぎない。

でも、きっと。

それが力になるなら………。



935 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 23:21:47.68 ID:YninyfmJo [29/37]


ミーティング終了後。

俺は気づけば花田先輩の後ろ姿を追っていた。

何処か動きが硬い。

ぎくしゃくしてる、というか。

そう、例えるなら疲れた老人のような空気だ。

何もかもを抱え、足腰が上手く進まない。

そういう、歩み。

俺は追う。

追って、外へ。

視線を向ければ、ベンチに座る先輩が居た。


京太郎「先輩……」

煌「………須賀君ですか、どうしました?」


ぱぁ。

そう聞こえるような笑み。

何時も通りの笑み。

先輩は笑って俺を見る。

ただ、少し、見えた。

びくりと震えた肩。

この人は、不安なのだということを。

王者に挑むということ。

次に繋ぐということ。

それを成すために各高校エースが多く配置される先鋒。

真っ先にぶつかり合うのだ。

その重圧は、俺の想像できないレベルだろう。

こうして笑う先輩だって。

怖いのだ。

自分が負けたらどうしよう、と。

自分のせいで皆が終わってしまったら。

だから俺は笑う。

笑って、先輩へと声をかけた。




939 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 23:30:12.12 ID:YninyfmJo [30/37]


京太郎「先輩、明日はよろしくお願いします!……先輩が皆に結果を見せてくれる。それは誰よりも知ってますから!」

煌「……須賀、君……」

京太郎「はい、ほらだからすばらすばら」


にっこりと笑う。

何処か呆けた、でもそんな俺の姿が滑稽なのか。

小さく、先輩が笑った。


煌「ぷっ、く、くく……あは、あっはっはっは……!」

京太郎「そ、そんなに笑います?」

煌「いえいえ―――ええ、須賀君。“貴方”にしっかりと見せてあげましょう!」

京太郎「あはは…(ん?)」


お互い笑いつつ、何か違和感がある。

先輩の言い方。

それはチームのため。

そういう色の声のはずだ。

しかし、これは、なんだろうか。

違和感が拭えない。

そんな俺の思考は中断される。

花田先輩が立ち上がって、瞳を輝かせていた。


煌「さー、王者が何ぼのもんですよ!」


そう吼える。

その意気です、と俺。

ええ、と先輩は頷く。

俺を見て、頷く。

ゆっくりと、視線を外さず。

口を開いた。




煌「ええ――――……絶対に捧げてみせますよ、勝利を」






  • 花田煌:レベル3(病み度1/3、従順度4/6)
に上昇しました

958 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/08(火) 23:42:04.66 ID:YninyfmJo [34/37]
【8月17日:昼】




こういうホテルのお約束。

それは事件だろう。

名○偵コナ○とか、金○一とか。

そういった推理ものではこういうステージが多い。

……いや、どっちもやばいな。

○ナン君とか周りで800人くらい死んでるし。

しかして。

なんで俺がそんなことを言うのか。

それに今、答えよう。


仁美「」チーン

京太郎「し、死んでる……!」

仁美「うちば勝手に殺さなかで!」ムクリ


起き上がる。

何で息絶えてたのか分からない。

しかも俺の部屋の前でだ。

そう考えていると、先輩の手元を見た。

ストローである。


京太郎「………目、逸らさないでください」

仁美「………」


この人、俺の部屋に保管してある飲み物狙ってきたな?


仁美「ち、違う。これはただの吸入道具じゃ」

京太郎「その言い方はもっと不味いです先輩」

27 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 00:07:05.53 ID:5ZVVILC7o [1/10]
【8月17日:夜】



明日は最初の山場。

一つ目の山を攻略する必要がある。

眠りが浅い。

気合入れて21時くらいに布団に入ったが、寝付けないでいる。

駄目だな、と俺。

少し夜風にでも当たろう。

気づけば足は外へと向かっていた。

だけど、それは俺だけじゃないらしい。

そこには、部長も居た。


京太郎「部長」

哩「須賀か……って、前もこぎゃんやりとりしたな」

京太郎「ですね」


無言で並ぶ。

俺は眠れない理由の一つ。

それを部長に、聞いてみた。


京太郎「部長……花田先輩、大丈夫でしょうか」

哩「………宮永照、か」


先輩の実力を疑う訳じゃない。

だけど、それでも相手は絶対王者。

心配になってしまう部分はある。

そんな俺に部長は「なんも問題なか」と、短く答えた。


哩「あいつは……花田は飛ばん。心配なんていらなか」

京太郎「………はい」


部長がそう言うのなら、俺はそれに頷くしかない。

俺が頷くと、部長が不意に笑って俺を見た。


哩「須賀、こっちの心配はしてくれなかのか?」

京太郎「え、いや心配してますけど!」

哩「声が上ずってっちょる」

京太郎「うぐぅ」






130 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 19:02:22.74 ID:BkpBaiMJo [2/41]
【8月18日:朝】



これから、試合が始まる。

そして、周りの雰囲気は普段より一層華々しいといえるものだ。

特に、報道陣の割合も。

応援席の濃密さも今までの中で最大だろう。

それもそうだ。

今日は昨年王者、白糸台高校の試合がある日。

この試合を見に来た誰もが、白糸台高校が勝つところを見に来たのだ。

耳を澄ませば、時折聞こえる他高校の話。

白糸台に続いて何処が勝ち上がるか。

先鋒エース対決は何処が白糸台に続くか。

そもそも次峰に回るのだろうか。

勝手な憶測が渦巻いていた。

その中に、先輩は。

花田先輩は行く。

薄い笑み。

普段通りのまま、あの人は笑っていた。

そんな花田先輩を一回戦で見ていた人が居たのだろう。

誰が言ったか、聞こえない。

ただ、小さく。

小さく、呟きが響いていた。

『可哀想に』
『新道寺は初戦を捨ててるな』
『そんな中で大会に出ても楽しいのかね?』


京太郎「………ッ!」


俺がその声の一帯を睨む。

少しざわめいたような雰囲気が回りを包む。

そんな俺に、背中を向けたまま、声が間に入った。


煌「須賀君」

京太郎「……はい」


先輩が立ち止まる。

俺も立ち止まる。

くるりと、先輩が振り返る。

そこにあるのは、不敵な笑み。

自信に満ちた、笑みだった。


煌「――――行って参ります!」











『先鋒戦終了―――ッ!圧倒的!圧倒的展開となったァー!!』

『王者白糸台!チャンピオン宮永照!!今大会も一片の隙は存在しなぁーい!!』

京太郎「先輩……!」

哩「待て、須賀」


思わず駆け出そうと立ち上がる。

だが、制止の声があった。

部長だ。

部長は静かに、腕を組んで座っていた。


哩「あいつば迎えに行くのは駄目たい」

京太郎「何でですか!」

哩「あいつは飛ばんかった」


短い言葉。

部長が俺を見る。

それは、前も言っていた言葉。

部長が小さく、「美子」と呼んだ。


哩「後は任せた」


頷く安河内先輩。

そして入れ違いのように、戻ってくる花田先輩。

うつむいた顔。

俺が何も言えないでいると、がばっと、顔を上げた。


煌「―――後はお任せしますよ!部長に先輩方!」

哩「ああ、ようやった」


そこにあるのは、笑顔。

……この人は、強い人だ。

こっちに小さくウインクする花田先輩。

それに頭を一つ、俺は下げることしかできなかった。





143 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 19:22:18.25 ID:BkpBaiMJo [5/41]
【8月18日:昼】




――――試合は、終わった。

結果だけ言えば、他高校が飛びで終了だった。

安河内先輩、江崎先輩が大きく稼いでくれたお陰で2位浮上。

俺たちは、準決勝の切符を手に入れた。

だけど、会話はやっぱり少なくて。

先ず、部長と鶴田先輩が席を立った。

続いて、江崎先輩は花田先輩の肩を優しく叩き、外へ。

安河内先輩も何か言いたげにしていたが、江崎先輩に引っ張られて外に出て行った。

……残ったのは、俺と花田先輩だけ。

時間を見る。

あと少しで、次の高校の利用時間だ。


京太郎「……先輩、そろそろ…」

煌「――――ええ、了解ですよ」


ゆっくりと立ち上がる先輩。

その様子に、俺は少し声を上げた。


京太郎「ほら、先輩!俺たち2位通過ですって!次があるじゃないですか!」

煌「………」

京太郎「部長たちだって怒る訳ないですよ。だからそんなに気にしないで―――」


その時だった。

俺と先輩の、瞳が合う。

先輩の瞳。

そこにあるのは、何だ?

それが分からないまま。

先輩が。

ゆっくりと。

その口を。

開く。






煌「―――――京太郎、君に、見せ、て……」




  • 煌の判定
【直後、レベル4判定】
コンマ01~74:次判定へ
コンマ75~00:現状況を以ってエンディング(レベル3:2名×コンマ5)


197 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 19:57:07.01 ID:BkpBaiMJo [10/41]


京太郎「え?」

煌「あ、あう……あ、あぁあ……っ!」

京太郎「先輩!!」

煌「ごめ、なさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!約束、したのに…!」

京太郎「やく、そく……?」

煌「京太郎、君に……ちゃんと、勝つところ……ごめん、なさい……」


ぽろり。

笑顔のまま、涙が一筋目から毀れる。

それが呼び水であったように。

先輩が口を押さえて嗚咽を漏らしていた。

勝てなかった。

駄目だった。

そう繰り返し、体を掻き毟る先輩。

俺の思考が停止する。

何で、そんな。

だって、まだ終わった訳じゃないのに。

負けた訳じゃ、無いのに。

俺は、気づけない。

先輩が言う意味。

それは、俺のために結果を出せなかったということ。

チームの次じゃない、俺個人に。

約束を裏切ってしまったこと。

ただそれが、許せないだけ。

それだけのこと。




姫子「―――――あは」




そんな俺の背中に、聞こえる声。

じゃらりと、鎖の音を鳴らす。

鶴田先輩の声。

え?

振り返る。

そこに見えたのは、鎖。

縛られた部長の姿が、目に入る。




219 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 20:08:02.47 ID:BkpBaiMJo [11/41]



姫子「『花田の奴が遅い』っゆーて、心配そうな顔しとったんですよ、部長が」

京太郎「え?」


からからと笑う。

鶴田先輩が笑う。

一歩。

俺の前に近づく。


姫子「―――ずるいやなかやろか……なんで花田が京たろと部長の視線ば集めるなんて」

京太郎「鶴田……先、輩……?」


駄目だ。

俺はもう理解できない。

どういうことか、分からない。

気づけば花田先輩が場に伏し、目の前には部長を拘束して頬を赤らめ、俺を見る鶴田先輩。

だけど。

これは。

なんだ。

その視線。

そこにあるのは……


姫子「うち以外に視線ば向けるなんて、そぎゃん……」






姫子「ずるい」







姫子「許せなか」





そこにあるのは、怒り。





【判明!】
白水哩(百合デレ/束縛)
鶴田姫子(強襲/魔性/百合デレ)

235 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 20:15:49.89 ID:BkpBaiMJo [12/41]



ふらりと、花田先輩が立ち上がる。

一歩、鶴田先輩が前に進む。

花田先輩がドアを掴んだ。

一度、こちらを見る。

唇が、言葉をなぞる。



             ご


                            め

      ん

                      な


 さ



                            い。



ごめんなさい。

その一言。

そうして、ドアが開かれた。

ドアが開かれた瞬間、外の景色が見える。

見えたのは、安河内先輩。

それを羽交い絞めにする江崎先輩。

扉が、閉まる。

誰かの悲鳴が、響き渡った。

ああ。

そして。

ドアが。

開く―――――。




246 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/01/09(水) 20:20:57.14 ID:BkpBaiMJo [13/41]

            :,:           :(::)
            /⌒''⌒) :,,゜      '         ,,,,,,,
           (:::::::::::::::!'                 (::::::)
           ヽ::::::::';'''                 ''``   。
           τ'::/ .;:
            )/
         。            '  、       ;: 。
                               `'''`~''・    ' `
     f''`⌒(     ,,,,               !:(',,,,、              ::,,,,,、...
     ,!,,,、(     /::τ             ノ:::::::::::::::::)          。  !::::::::::`! 、
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       ゜     (/      ⌒・ .   ・、;::::::::::::;;.;`` ''
     ,,、..   //   ノ'          //'''`'`'` `       ..,,.. _,,,.、 ・         ,, ...:・..
  π /;::::::::(,.,.(;;;::::(   ,,.,  ・っ                    ;,;;( ):::::;.    c::── '`'''::::::::::;''
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 τ !::::::::::::::::::::::::::::)/,,,,, γ               :'`'``:!
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263 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 20:27:04.84 ID:BkpBaiMJo [14/41]


悲鳴。

赤。

救急車。

サイレン。

赤。

赤。

ビル。

屋上。

フェンス。

拘束。

喪失。

敗退。

赤。

赤。

赤。

赤。

赤。

赤。

赤。

赤。

赤。

赤。

あか。





赤。




【エンド:赤色の結末】