http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1342270571/



久「みんな、団体戦お疲れ様」

咲「はい、何とか優勝できてよかったです」

和「全国に向けて、さらに頑張りましょう」

まこ「その前に個人戦もあるがの」

優希「おー! この勢いで個人戦も代表取るじぇ!」

京太郎「……おう、頑張れよ!」

優希「京太郎、お前も一回くらいは勝ってみせるじぇ!」


京太郎「…………」

京太郎(はぁ……みんなは県大会優勝か……)

京太郎(きっと個人戦も、誰かは代表を取るだろう……それにひきかえ俺は……)

京太郎(自分なりに勉強はしてるつもりだし、時々みんな相手でも2位くらいなら取れることもある)

京太郎(だが……やっぱり咲みたいな力はない)

京太郎(これが才能なのか……? 俺はどんなに頑張っても、凡人の雑用係で終わるのか……?)

京太郎(みんなはあれほど活躍しているのに、俺は……)

京太郎(このまま……)

京太郎(このまま、終わりたくねぇ!)


優希「……一発ツモだじぇ!」

まこ「ふぅ、やはり東場は優希には勝てんのう」

優希「京太郎、タコスを買ってくるじぇ!」


京太郎(俺にも……)


咲「ツモ、嶺上開花です」

和「うぅ、またですか……」

久「絶好調ね、個人戦も期待できるわ」


京太郎(俺にも、あんな力があれば……!)


………
……



ハギヨシ「失礼します、衣様」

衣「ハギヨシか、何用だ」

ハギヨシ「それが、衣様にぜひとも面会したいという客人が……」

衣「む……こんな夜にか。一体何者だ?」

ハギヨシ「それが、どうやら清澄麻雀部の方のようです。須賀京太郎と名乗っていました」

衣「清澄の……?」

ハギヨシ「いかがいたしましょうか?」

衣「……面白い、通せ」



京太郎「……そういうわけで天江さん、お願いします。その力の秘訣を教えてください」

衣「話はわかったが……なぜ、そこまでして強さを求める」

衣「お前は決して、清澄の麻雀部を退屈に感じていたわけではなかったのだろう?」

京太郎「……確かに、以前はそうでした。雑用は大変だったけど、嫌ではありませんでした」

京太郎「でも、気付いてしまったんです。自分が、みんなから取り残されているって」

京太郎「俺も……みんなに認めてもらいたい。一緒に戦いたい。そのために、勝ちたいんです」

衣「……そんなことをしなくとも、他の部員はおそらく今でもお前を認めて……」

京太郎「でも、それは麻雀の強さで……ではない」

衣「……呆れたものだ。結局のところ妬みや嫉みではないか」

衣「そのような感情で強くなったとしても、お前の幸福に結びつくとは思えぬ」

京太郎「それでも……お願いします、天江さん」

衣「…………」


衣「……長々と話してから申し訳ないが、衣の力は気付いたら身についていたもの」

衣「決定的なアドバイスを送ることはできない……せいぜい、もしかしたら程度だ」

京太郎「かまいません」

衣「京太郎と言ったな。お前は、麻雀を打つ時に何か覚悟はあるのか?」

京太郎「覚悟……ですか?」

衣「今までずっと負け続きなのだろう。だから『今度もどうせ負ける』『負けて当たり前』と思ってないか?」

京太郎「…………」

衣「勝つ気のない者に道は開けぬ。まず、勝つ気を持つことだ」

衣「たとえば……勝つための制約、目標、条件……など、様々なことを考えてみよ」

衣「思えば衣も……不自由と引き換えに、雀力を得たのかもしれぬな」

京太郎「……勝つための……」

京太郎(…………!)


衣「む、何か考え付いたようだな」

京太郎「……はい」

衣「ならば、もう衣の助言は必要なかろう……せっかく来たのだ、一局ほど打っていくか?」

京太郎「いいんですか?」

衣「問題ない、ちょっとした戯れだ。ではハギヨシ、卓へ案内せよ」

ハギヨシ「かしこまりました。皆様もお揃いです」


純「……弱い……」

智紀「……弱い……」

一「……弱いね……」

透華「……弱いですわ……」

京太郎「……これが今の俺の、全身全霊の力です。皆さんの足元にも及ばない、これが」

京太郎「でも……やってみせますよ。すぐに、強く……そう、天江さんよりも……」

衣「……ほう、ずいぶん大きく出たな」

京太郎「天江さん、皆さん。ありがとうございました」


京太郎(天江さんと話して、収穫はあった)

京太郎(強くなるための、覚悟……勝つための制約、目標、条件……俺にはそれが欠けていた)

京太郎(優希はタコスを食べることで、東場に圧倒的な力を発揮する)

京太郎(あれはもしかして『タコスを食べなければ力が出せない』という制約を無意識に作ってたのでは?)

京太郎(咲は『勝つことも負けることも許されない』という条件に縛られることで、プラマイゼロや嶺上の力を得たのでは?)

京太郎(なら俺も、何かを食べなければ力が……いや、俺の雀力じゃそれでは生ぬるい!)

京太郎(もっと、強い覚悟が必要……そう……)

京太郎(何かを、犠牲にするような)


京太郎「おはよう、咲に優希」

咲「おはよう、京ちゃん」

優希「あ、のどちゃんもあそこにいるじぇ!」

咲「おはよう、原村さん」

和「おはようございます。優希、宮永さん……須賀君もご一緒ですか?」

京太郎「……ああ。じゃあ教室行くから」スタスタ

和「あ……須賀君?」

優希「京太郎の奴、ずいぶんそっけないじぇ。咲ちゃん、何かあったのか?」

咲「さ、さぁ……」



久「それじゃ、今日も打つとしますか」

優希「おー! タコスも水も準備かんりょ……あっ、手が滑ったじぇ!」バシャッ

和「きゃあっ!」

優希「うわっ、のどちゃんのおっぱいがスケスケだじぇ!」

咲「きょ、京ちゃん、見ちゃダメぇーっ!」

京太郎「……始めましょうか。和は着替えてきな」

久「……へ?」

優希「ど、どうしたんだじぇ京太郎!? のどちゃんのおっぱいだじょ!?」

京太郎「個人戦も近いんだ。時間は無駄にできない、それだけのことだろ」

和「す、須賀君……?」

まこ「……な、何があったんじゃ……」

久「須賀君が、和に興味を示さないなんて……雪でも降るのかしら……」


久「ふぅ、そろそろ終わりにしましょうか」

まこ「京太郎やるのぅ。今日はわしらといい勝負だったぞ」

京太郎「いい勝負……ですか?」

優希「京太郎もたまには勝つ時もあるのか、なかなかやるじぇ」

京太郎「……いい勝負じゃ、駄目なんだよ……」

咲「え? 何か言った?」

京太郎「……お先に失礼します。では」


京太郎(……和……)

京太郎(俺は、お前が好きだった。でも今は……それ以上に、麻雀が強くなりたい)

京太郎(麻雀と比べれば、恋心などチンケなもんだ。俺はもう、お前に一切興味を示さない)

京太郎(でも……まだまだ足りない。男子のレベルは高いんだ)

京太郎(みんなといい勝負程度じゃ駄目だ……和だけじゃ足りない。まだまだ、何かを捨てないといけない)

京太郎(最後に一体、俺に何が残るのか……いや、今は考えるのはよそう)

京太郎(……さよなら、和……)


咲「……ねぇ京ちゃん、最近やっぱりおかしいよ」

京太郎「……そうか?」

咲「そうだよ。クラスの友達とも全然遊んでないじゃん」

咲「原村さんとも……優希ちゃんとも、染谷先輩とも、部長ともあまりお喋りしなくなったよね」

京太郎「気のせいだろ」

咲「嘘だよ……京ちゃん、何か隠してない?」

京太郎「…………」



京太郎「ツモ……4000オール……」

優希「ま、また京太郎の勝ち……?」

久「……凄いわね、下手したらもう咲や和よりも強いんじゃないの?」

まこ「京太郎、一体どんな特訓をしたんじゃ?」

京太郎「別に、大したことは……はぁっ……してません、よ……」

和「須賀君、大丈夫ですか……? 具合悪そうですが……」

久「でも、これなら個人戦でもかなりのところまで……」

京太郎「かなりのところ……? 俺は優勝以外、考えてない」

京太郎「そう、勝たなきゃ駄目なんだ……勝って、優勝しなきゃ……」

咲「きょ、京ちゃん……」



京太郎「そうだ部長……俺、少なくとも個人戦が終わるまでは……もう、部活には来ませんから」

久「えぇ!? な、何言ってるの!?」

京太郎「ご心配なく……雑用はメールででも連絡していただければ、ちゃんとやりますんで」

まこ「京太郎、やっぱりお前さん最近変じゃぞ!」

久「須賀君……どうして……」

京太郎「……麻雀部は、俺にとって大切なものなんです……」

久「だったら……」

京太郎「だからこそ、来ちゃ駄目なんです……それじゃ、また大会で……」

優希「京太郎……一体どうしたんだじぇ……」

咲「…………」



京太郎「ぐっ……はぁ、はぁ……」

京太郎「ここ最近、ずっと体が重い……息が苦しい……」

京太郎「やっぱり……急激な強化に、体がついてこれなかったか……」

京太郎「だが大会は、もう近い……何とか、もたせないと……」

京太郎「…………」

京太郎「……今夜は、満月か……」

京太郎「行って、みなければな。龍門渕に」



京太郎「……ロン、2000点」

衣「なっ……」

純「ば、馬鹿な……」

智代「満月の、衣に勝った……」

一「それも、つい最近まで初心者だったのに……」

京太郎「ぐぅっ!」

透華「ちょ、ちょっと大丈夫ですの!?」

京太郎「……いえ、問題ありません……」

衣「それほど急激に強くなり、それほど体を酷使し……」

衣「京太郎……お前は、一体どれほどのものを犠牲にしたのだ……」

京太郎「…………」

衣「そこまでして得る勝利に……一体、何の意味があるというのだ」

京太郎「……天江さんには、わかりませんよ。凡人の、苦悩は……」

京太郎「俺は、ただ……みんなと一緒に、戦いたいだけです」

衣「京太郎……」

京太郎「天江さん、皆さん。お世話になりました」

京太郎「絶対に……代表、取ってきますんで」



衣(…………)

衣(須賀京太郎……あの強さは本物だ)

衣(このまま頂点へ駆け上がるか、地獄の業火に焼かれるか……衣にも分からぬ)

衣(だが……お前は言っていた。みんなと一緒に、戦いたいだけだと)

衣(京太郎……気付いているのか?)

衣(どの道を歩むにせよ、そこには……お前の望む『みんな』はいないということに)



京太郎「個人戦まで、あと三日か……」

京太郎「はは……もう、学校からの帰り道すらもきついな……」

京太郎「だが、勝たなきゃ……勝って、みんなに……」

京太郎「…………」

京太郎「……よぉ、どうした?」

京太郎「この時間は……部活じゃ、ないのか?」

咲「……部活よりも、京ちゃんが心配だよ」

京太郎「俺のことは……心配ない。勝って、みせるさ……」

咲「どうしたの……学校でもずっと一人だし、顔色だって……」

京太郎「でもさ……俺、強くなっただろ。優勝、狙えるくらい……」

咲「……強くなんか、ならなくていいよ。私は、いつもの京ちゃんが戻ってきてくれれば」

京太郎「……駄目だ。俺は、勝たなきゃいけない」

咲「どうして、そこまでして勝ちたいの!」

京太郎「……咲には、わからないだろうな。力のある咲には……」

京太郎「みんなに、取り残された者の気持ちは……」

咲「……京ちゃん……」



個人戦当日

久「さて、集まったかしら」

優希「みんなで代表取るじぇー……って、あれは……」

まこ「……京太郎?」

京太郎「はぁ、はぁ……ひ、久しぶり……みんな」

和「須賀君……どうしたんですか? 真っ青ですよ……」

京太郎「だ、大丈夫さ……今日一日だけ、もたせてみせる」

京太郎「それより…部長、お願いがあります」

久「お願い?」

京太郎「もし女子の部が終わって、俺がまだ勝ち残っていたら……見てください」

京太郎「どうしようもなく弱くて、いつもみんなの遥か後ろを歩いていた……俺の、戦いを」

咲「……京ちゃん……」

久「……わかったわ。でも、無理しちゃ駄目よ」

京太郎「ありがとうございます……それじゃ、みんなも頑張れよ……」


優希「京太郎……なんなんだじぇ……」

久「今は……私たちも、目先の大会に集中するしかないみたいね」

まこ「……じゃのう」

和「あれ……宮永さんは?」



京太郎「…………」

咲「京ちゃん!」

京太郎「……何だ、咲。女子の会場は向こうだぜ」

咲「戻って、来るよね……」

京太郎「…………」

咲「いなくなったり……しないよね……」

京太郎「……ははっ、当たり前だろ。じゃないと誰が、お前の面倒見るってんだよ」

咲「……京ちゃん……」

京太郎「もう行くぜ。お前も……勝てよ、咲」


咲(京ちゃん……)

咲(京ちゃんは、ああ言ったけど……私はやっぱり、今の京ちゃんには勝ってほしくないよ)

咲(ただ、いつもみたいに……私の隣で、笑っていてくれれば)



優希「お昼だじぇー!」

和「部長、このご飯は……」

久「須賀君が買ってきてくれたのよ……頼んでないんだけどね」

まこ「……あんな状態でも、本来の仕事は欠かさないってことかの」

咲「あの……京ちゃんの、様子は……」

久「さっき男子の部を見てきたけど……一応、勝ち進んではいるわね」

和「一応……というのは?」

久「……フラフラだったわ。それこそ、今にも倒れそうなくらい」

優希「きょ、京太郎……やっぱり風邪なのか?」

久「……風邪なら、まだいいんだけど……それ以上の、何かのような気がしてならないのよ」

久「今は……何とも言えないけど」

咲「…………」



京太郎(麻雀部も、友人も……)

京太郎(この日のために、全てを犠牲にしてきた……)

京太郎(みんな、負けるんじゃないぜ……俺も必ず、そこへ……)

京太郎(たとえ……)


『それでは、男子個人戦の一回戦を始めます!』


京太郎(この体が、壊れようと!)



京太郎「げほっ、げほっ……」

京太郎「苦しい……あと、何回戦えば……」

京太郎「いや……何回だろうと、関係ねぇ」

京太郎「十回だろうと、二十回だろうと……」

京太郎「立ち塞がる奴は……全員、倒してやる!」



優希「咲ちゃん、のどちゃん。代表おめでとうだじぇ」

和「ありがとうございます、優希」

まこ「部長も惜しかったのう」

久「残念ながら、届かなかったわね。ところで……男子の方は?」

まこ「……最後の半荘のようじゃ。ここで勝てば……京太郎が、代表じゃ」

久「そう……あの、須賀君が……」

優希「あんなに弱かった京太郎が、あと一勝で代表……」

まこ「信じられんのう……」

和「……みなさん、男子の会場に行ってみましょう。スクリーンで様子も見られるでしょうし」

咲「……うん……」



京太郎(みんなは……勝ったのか? いや、勝ったに決まってるな)

京太郎(俺も、すぐそこだ。驚いたかみんな、あの弱っちい男が今や全国目前だぜ)

京太郎(絶対に勝って、みんなと全国に……)

京太郎(あと一半荘なら……きっと体の方は、何とかなる……いや、何とかしてみせる……)

京太郎(だが今回に限っては、別の問題があるようだ)

京太郎(それは……)


「狂気の沙汰ほど面白い……」

「傀……と、呼ばれています。よろしくお願いします」

「さて……打(ぶ)つか」


『さぁ、ついに男子の部も最後の半荘!』

『赤木選手、傀選手、阿佐田選手、須賀選手! 代表の切符を手にするのは誰だ!』


京太郎(相手が、今の俺でも……勝てるかどうかわからない、化け物揃いだってことだ)

京太郎(いいぜ……やってやるよ!)



傀「御無礼、ロンです」

哲也「これで南入だな」

京太郎「く……12000か。げほっ、げほっ……」

赤木「ククク……病院にでも行った方がいいんじゃねえのか?」

京太郎(さすがは決勝まで勝ち進んだ猛者……とても同じ、高校生とは思えない……)

京太郎(今の俺でも……敵いはしないのか?)

京太郎(ここまで、なのか……?)



優希「京太郎、押されてるじぇ……」

まこ「それより、今にも倒れそうじゃ……」

咲「京ちゃん……」

衣「……清澄よ。あの男の様子はどうだ」

和「あ、あなたは……」

久「天江さん……なぜ、ここに?」

衣「む……そうか、勝ち進んでおるのか……馬鹿者め、無茶をしおって……」

まこ「お前さん……何か、知っとるんか……?」

衣「……京太郎は以前、衣を訪ねてきたのだ」



和「……そんなことが」

まこ「何考えとるんじゃ、あいつは! そんなことをして手に入れた強さに、何の意味がある!」

咲「……それでも、京ちゃんは勝ちたかったんです。私たちの、ように」

久「咲?」

咲「京ちゃんは、ずっと苦しんでいました。自分だけ、麻雀が弱いということに」

咲「団体戦で、優勝した時も……自分ひとりだけ、輪の外にいるような気分だったんだと思います」

咲「私は……」

咲「私は、京ちゃんのことを忘れたことなんか……一瞬たりともなかったのに」

和「宮永さん……」


『ついにオーラス、最終盤だ! トップは傀選手、このまま決まってしまうのか!』



衣「いずれにせよ、このまま進めば京太郎の敗北は必至だ」

衣「あの三人……今の京太郎でも太刀打ちできぬほどの、魑魅魍魎の類」

衣「このまま、終わってくれればよいのだがな」

久「まだ、何かあると?」

優希「で、でも……この点差じゃ、もうどうしようもないじぇ」

衣「……それはわからぬ」

衣「まだ……京太郎に、捨てるものがあれば」

咲「!」



京太郎(逆転条件は役満ツモ……厳しいってもんじゃねぇな)

京太郎(くっ、牌が重い……目も霞んできやがった……)

京太郎(みんなと共に、全国へ……行きたかった)

京太郎(全てを捨てても……やっぱり、届かないのか?)

京太郎(……いや……まだ、手はあったな……)

京太郎(全てを捨てたつもりだった。でも、それは違う)

京太郎(まだ、残ってたじゃないか……一番、大切なものが)

京太郎(でも、それを捨ててまで……勝つ意味が、あるのか……?)

京太郎(…………)

京太郎(俺の、一番大切なもの……)

京太郎(それは……)


京太郎(全てを、捨てたつもりだった……)

京太郎(でも、お前だけは……ずっと、俺の心の中にいた。捨て切ることができなかった)

京太郎(こんなになった俺でも……いつも心配してくれて、話しかけてきてくれた……)

京太郎(誰よりも大切な、幼馴染……)

京太郎(…………)

京太郎(ごめんな、咲……)


京太郎「リーチ」


和「多面張を捨てて、単騎待ちリーチ……?」

優希「それ以前に……これではリーヅモタンヤオ、赤1。逆転には届かないじぇ」

まこ「京太郎……なんのつもりじゃ……まさか久の……?」

久「……違うわ。須賀君は、悪い待ちを選んだんじゃない」

まこ「何じゃと?」

久「彼は……」


京太郎「……カン」


久「カンできる待ちを、選んだのよ」


京太郎(あいつの……一番得意な役だったな)

京太郎(咲、見てるか?)

京太郎(今まで、ありがとな……)

京太郎(でも、これで……さよならだ)


咲「京……ちゃん?」


京太郎「ツモ。リーヅモタンヤオ赤1、嶺上開花」

京太郎「裏……8。逆転だ」



京太郎「はぁ……はぁ……」

京太郎「はは、勝ったぜ……見てたか、みんな……」

咲「……京、ちゃん……だよね?」

京太郎「……その声、咲か……」

咲「…………」

京太郎「咲……俺は、勝つためにお前を捨てた」

京太郎「もう、お前とは……会話することもないだろう」

咲「……なんでなの……」

咲「京ちゃん、こっち向いてよ……」

京太郎「…………」

咲「また、昔みたいにさ……頭なでたり、ほっぺたつついたりしてよ……」

咲「昔みたいに……笑ってよ……」

京太郎「……咲、今の俺とお前……どっちが強い?」

咲「……京ちゃんの方が、強いよ……ずっと」

京太郎「そうか……」

咲「私よりも、勝つことが大事なの……?」

京太郎「……あぁ」

京太郎「これで俺も、お前らと一緒に全国の舞台で戦える」

咲「全然、一緒なんかじゃないよ……本当はわかってるんでしょ、京ちゃん」

京太郎「咲、ありがとな……お前は、最後の最後まで俺を……」

京太郎「でも、これが俺の選んだ道なんだ……だから……」

京太郎「さよなら、咲」

咲「京ちゃん、待って!」


咲「うっ……うぅ……」

咲「京……ちゃん……」



-数年後-

同僚A「……じゃあ、かんぱーい!」

同僚B「かんぱーい! ふぅ、仕事あがりのビールはおいしーね!」

同僚C「これであとは彼氏でもいれば、言うことなしなんだけどね」

同僚A「こら、それは言っちゃだめ!」

咲「あははは……」

同僚B「あーあ、須賀プロみたいなイケメンの彼氏欲しいな~」

咲「……!」

同僚A「須賀プロかー、若いのにすっごい強いって評判だよね」

同僚C「あまりの強さに、地獄の皇帝(ヘルカイザー)とか呼ばれてるんだっけ」

同僚A「でも友人とか全然いないって話聞くけど本当なのかな?」

同僚B「一匹狼って感じでカッコイイじゃん」

咲「…………」

同僚B「咲なんかは、彼氏とか好きな男とかはいないの?」

咲「……好きな人なら、いたよ……」

咲「でも……私がいると、あの人の邪魔になっちゃうから……」

同僚A「へぇ、何か色々あったのね」

同僚B「須賀プロといえばさ、咲って麻雀めっちゃ強かったんでしょ」

同僚C「え、そうなの?」

同僚B「高校の頃、全国とか行ったって聞いたんだけど」

同僚C「マジ? そんな強いなら、プロになればよかったのに」

咲「……私はプロには、なれないよ」

咲(プロになったら……)

咲(きっと、また顔を合わせちゃうから)



咲「ふぅ、ただいま……と」

咲「何か面白い番組はないかな……」ピッピッ

咲「…………」


『須賀プロ、またもタイトル奪取!』

『まさに圧殺! 強い、圧倒的に強い! この強さは本物だぁーっ!』

『地獄の皇帝、ヘルカイザー京太郎!』


咲「京ちゃん……また勝ったんだ」

咲「本当に、強くなったね……」

咲(京ちゃん……)

咲(清澄のみんなで一緒に麻雀を打ってた日が、懐かしいよ)

咲(京ちゃんは……今の自分に、満足してるの?)

咲(いや、してるはずだよね……あんなに、強くなれたんだから)

咲(そう、京ちゃんが望んでいたように……)

咲(でも……)



咲「私は、寂しいよ……京ちゃん」



END






【分岐ルート①】



京太郎(……まだ、捨てられるものがあったじゃないか……)

京太郎(それは……俺の命)

京太郎(もう、みんなには二度と会えなくなってしまう……)

京太郎(それでも……俺はみんなと、ずっと共にある)

京太郎(あの世から……一緒に、戦おう。全国の舞台で!)


京太郎「……いくぜ」ゴォッ!

アカギ「……へぇ」

傀「…………」

哲也「……こいつ……」


咲「京ちゃん!」

衣「まずい、あの馬鹿者……死ぬ気だ!」

和「ど、どういうことですか!?」

衣「京太郎の体から、溢れ出ている力……あれはまさに、京太郎の生命力そのもの」

衣「死と引き換えに……勝利を手にする気か……」

優希「そ、そんな!」

久「須賀君……なんで……」



優希「京太郎!」

京太郎(優希……もっとお前にタコス、作ってやりたかったぜ)



まこ「京太郎!」

京太郎(染谷先輩……いつも俺を気にかけてくださって、ありがとうございました)



久「須賀君!」

京太郎(部長……散々迷惑かけて、申し訳ありませんでした)



和「須賀君!」

京太郎(和……知ってるか? 俺、お前に憧れてたんだぜ)



咲「京ちゃん!」

京太郎(咲……)

京太郎(今まで、色々なことがあったな……どれもこれも、懐かしい日々だ)

京太郎(もっと……)

京太郎(お前と、一緒にいたかった)



京太郎「ツモ……数え役満……」

京太郎「逆、転……だ……」

咲「京ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」



和「もう一年ですか、早いものですね……」

優希「まったく、京太郎のせいで雑用が大変だったじぇ!」

まこ「……それじゃ、もう行くかの」

咲「……私、もう少しだけここにいます」

久「咲?」

和「……部長、ここは一人にさせてあげましょう」

久「……そうね。じゃあ、先に行ってるわ」


咲「京ちゃん、お墓の下でも聞こえてるかな……?」

咲「この一年、色々なことがあったよ」

咲「部長は卒業して、新入部員も入って……あ、私はお姉ちゃんとも会えたんだ」

咲「優希ちゃんはタコス係がいないっていつも不満たらたら。和ちゃんは相変わらずだけど、時々寂しそうだよ」

咲「……そうだ、あの決勝の牌譜……みんな、驚いてたよ」

咲「衣ちゃんも、見事だって褒めてた。えへへ、凄いね京ちゃん……」

咲「…………」

咲「……ねぇ、京ちゃん……」

咲「京ちゃんは……幸せだった?」

咲「命を落としてまで、麻雀を打って……勝って……」

咲「……ううん、きっと幸せだったよね。じゃないとあんな素敵な牌譜、残せないから……」

咲「……でもね、京ちゃん……」

咲「私は、あんまり……幸せじゃない、かな」

咲「…………」

咲「……ぐすっ……」

咲「忘れないよ……京ちゃん」

咲「清澄高校の麻雀部には……須賀京太郎っていう、ものすごく強い男の子がいたこと……」

咲「絶対に……うぅっ……忘れないから……!」

咲「京ちゃん……!」



END





【分岐ルート②】




京太郎(命も……咲も……どちらも捨てる)

京太郎(もう、何もいらない。勝利の二文字さえあれば、それでいい)

京太郎(この勝負に……何もかもを賭ける!)

京太郎(……さぁ、いくぜ……みんな、見ててくれ)

京太郎(俺の人生の……最終幕だ!)ゴォッ


衣「……ッ! 馬鹿者が!」


京太郎(さようなら、みんな……)

京太郎(俺なんかに付き合ってくれて、ありがとうな……)

京太郎(でも、これで……永遠に、お別れだ……)

京太郎(これが俺の……手向けだ!)


京太郎「リー……」




              (京ちゃん……)





京太郎「……!」

哲也「ん? どうした?」

京太郎「……いえ……」




傀「……御無礼、ツモです」



『試合終了! 代表の切符を手にしたのは、傀選手だぁーっ!』


赤木「クク……ちょっと届かなかったか……」

傀「……対局、ありがとうございました」

哲也「おう、お前もお疲……ん?」

京太郎「…………」グラッ

哲也「お、おい!」



ドサァッ

京太郎(ん……ここは……)

京太郎(天国か? 俺、死んだのか……?)

京太郎(みんなには……最後まで、迷惑かけっぱなしだったな……)

京太郎(でも……天国って、案外狭……)

京太郎(いや、違う……ここは、病院?)


衣「気が付いたか、京太郎」

京太郎「天江、さん……」

衣「ここは龍門渕家所有の病院だ。あの後、倒れたお前を運んできた」

京太郎「そっか……俺、負けたんですね……」

衣「魔の領域から、人の世に舞い戻った感想はどうだ?」

京太郎「……不思議ですね。本当は、あの場で……燃え尽きるつもりだった」

京太郎「でも……その時、咲の声が聞こえた気がしたんです」

京太郎「そうしたら……最後の一歩を踏み出すことを、ためらってしまった」

衣「…………」

京太郎「俺は、勝利に飢えながら……やっぱり何も、捨て去ることができなかった……」

京太郎「結局、俺は……弱いままだったんですよ」

衣「……それは違うぞ。京太郎よ」

衣「お前の闘牌は……実に、素晴らしいものだった。衣も見たことのないほどの」

衣「衣だけじゃない。純も、智紀も、一も、透華も……清澄の面々も」

衣「誰もを魅了する……見事なものだった」

京太郎「…………」

衣「衣は忘れぬよ。この夜を、あの魔物ひしめく半荘を、あの数百打を」

衣「それを戦い抜いた……須賀京太郎という、誰よりも強き男のことを」

衣「あの試合を見ていた者は……あの時のお前の雄姿を、未来永劫忘れぬよ。きっと」

京太郎「天江さん……」

衣「さて、そろそろ衣は退散するとしよう」

京太郎「……帰るんですか?」

衣「ふ……馬に蹴られたくはないんでな。では、また何処かで会おうぞ」


タッタッタッタッ


ガラッ!


咲「はぁ、はぁ……京、ちゃん……」



京太郎「咲……」

咲「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

京太郎「お、おい……」

咲「よ、よかった……京ちゃん……無事で、本当によかったよぉ!」

京太郎「咲……ごめんな」

咲「京ちゃん……! 京ちゃん……!」

京太郎「お前のおかげで……俺は、踏みとどまれた」

京太郎「もう、どこにも行かないよ……」

咲「京ちゃん……!」



久「じゃ、須賀君。買い出しよろしくね」

京太郎「へいへい、了解です……」

和「ごめんなさいね、須賀君」

優希「京太郎、タコスちゃんと買ってくるんだじぇ!」

まこ「いつもながら、迷惑かけるのう」

京太郎「ははは……みんなはこれから全国大会なんですから、お気になさらず」



咲「京ちゃん」

京太郎「ん……咲、ついてきたのか?」

咲「えへへ……無理言って来ちゃった」

京太郎「やれやれ……じゃ、一緒に行くか」

咲「うんっ!」

咲「京ちゃん……正直、残念だった?」

京太郎「……あの個人戦のことなら、まぁ確かに惜しい気持ちはあるよ」

京太郎「でも……今になってわかった。俺は……やっぱりこれが、一番性に合ってるさ」

京太郎「もちろん、麻雀は強くなりたいけどな!」

咲「ふふ……一緒に頑張ろうね、京ちゃん」

京太郎「だけど、俺やっぱ馬鹿だから……また、馬鹿なことをするかもしれない」

京太郎「だからさ、咲……」

咲「……うん、いいよ」

咲「京ちゃんがまた無茶をしそうになったら、私が止める」

咲「だから……ずっと、そばにいてあげるよ。何か月でも、何年でも……」

京太郎「……ありがとな、咲。」

京太郎「全国大会……俺の分まで頑張れよ!」

咲「うんっ!」

咲「……ねぇ、京ちゃん」

京太郎「ん……何だ?」

咲「……大好きだよ、京ちゃん!」



END