放課後・部室にて


京太郎「♪~」

咲「……ねえ京ちゃん」

京太郎「♪~」

咲「京ちゃんってば」

京太郎「ん? ああ、悪い悪い。なんだよ咲」

咲「……さっきから何かとても楽しそうだね」

京太郎「ん? そ、そうか?」

咲「そうだよ。鼻歌なんて歌っちゃってさ。すごくウキウキしてるのがバレバレだよ」

京太郎「う゛」

咲「はぁ、京ちゃんのことだからどうせ」

咲「『うちの部は女子多いから、今年はチョコいっぱいもらえるだろうなー』」

咲「……とか、考えちゃってるんでしょ」

京太郎「ぐ」

咲「まったく……能天気だなあ、京ちゃんは」

京太郎「ああそうだよ、ウキウキしてるよ。だってそうだろ、同じ部の仲間が全員女子なんだぜ?
     しかも5人居るんだぞ5人。男にこの状況でウキウキするなって方が無理な話だろ」

咲「┐(-。ー;)┌ヤレヤレ」

京太郎「……なんだよそのアメリカン式むかつくポーズは」

咲「京ちゃん、認識が甘すぎだよ。これまでバレンタインに無縁だった人が、
  いきなり貰えるようになるわけないじゃない」

京太郎「べ、別に無縁じゃねーし」

咲「へぇ、おばさんと私以外の人からは一度もチョコ貰ったこと無いのに?」

京太郎「うぐぅ……そりゃ俺もさすがに本命がもらえるなんて思うほど自惚れちゃいないけどさ、
     義理ならさあ……」

咲「そういえば、お昼休みに和ちゃんとバレンタインの話をしたんだけど」

咲「和ちゃんに『チョコ誰にあげる?』って聞いたら、『父にあげようと思います』だって」

京太郎「」

咲「それから優希ちゃんは、行きつけのタコス屋さんでバレンタイン限定のタコスが出るから
  今日は授業が済んだらすぐ買いにに行くんだって言ってたなぁー」

京太郎「」

咲「染谷先輩は……確かお店でバレンタインに合わせた催しをやるって言ってたっけ。
  先輩、きっと今日はすごく忙しいんだろうなー」

京太郎「」

咲「部長は三年だから、今は受験間近で追い込みの時期だよね。
  そもそも今日学校に来てるのかなぁ?」

京太郎「」

京太郎「なんてことだ……なんてことだ……」

咲「だからさ、京ちゃん。貰える見込みのありそうにないチョコを期待するよりも――」

 ガラガラガラ

まこ「おお、良かったもう来とったか」

京太郎「染谷先輩……」

咲「あれ、染谷先輩、今日はお店が忙しくなるんじゃ……?」

まこ「ああ、今日はこのまま帰って手伝いじゃ」

京太郎「そうですか……そうですよね……」

咲「あれ? それじゃあどうしてここに?」

まこ「いやなに、部活には出られんが、ちょっと用はあったからな。つーわけで、ほれ、京太郎!」

 ポイッ

京太郎「え!? あの、染谷先輩、この包みってまさか……!」

まこ「おんしにはいつも世話になってるからの。渡さんわけにはいかんじゃろ」

京太郎「……!」

咲「」

まこ「じゃあの」

京太郎「やっぱり染谷先輩は優しくて後輩思いのすばらしい先輩だよなぁー。
     まるで天使のよう……いや、天使なんてメじゃない、女神だ。聖母マリア様だな!
     万歳! 染谷先輩万歳!

咲「むぅぅ……」

京太郎「いやー天は俺を見放してはいなかったみたいだな!」

咲「なにさ、浮かれちゃって――」

 ガラガラガラ

優希「お、やっぱりここにいたじぇ!」

咲「優希ちゃん!?」

京太郎「おう、優希」

咲「ゆ、優希ちゃん。今日はタコス買いに行くって……」

優希「ん、たった今行ってきた所だじょ。
    じゃーん! そしてこれが戦利品だじぇ!」

京太郎「なんだその真っ黒いタコス……イカスミ味?」

優希「ちっちっち。これは14日限定のスペシャルショコラタコスなんだじぇ!」

咲「!」

優希「味は私が保証するじぇ。何せ今食べてきたところだからな! 
   ほれ京太郎、ありがたーく賞味するがいいじょ」

京太郎「お、なんだ俺にくれるのか?」

優希「義理だからな!」

京太郎「わーってるって」

咲「」

京太郎「おお、意外にイケるなこれ」

優希「だろー?」

咲「アレハタコスダカラノーカンアレハタコスダカラノーカン…」

 ガラガラガラ

久「お、よしよし、ちゃんといるわね」

京太郎・優希「あ、部長。お疲れ様っす(だじぇ)」

久「あら須賀君。何? 優希からバレンタインチョコ貰ったの?」

京太郎「チョコっつーか、タコスですけどね」

久「ふぅん。で、そっちの包みは……」

京太郎「あ、これは染谷先輩がさっきくれたやつで」

久「へぇー、須賀君ったらモテモテねぇ。じゃあこれは必要なかったかしら?」

京太郎「!?」

久「いやー朝から勉強漬けだったから、気分転換にちょっと作ってみたんだけどねー。
  可愛い後輩が義理チョコ一つ貰えずに意気消沈してたら可哀想だと思って
  持ってきたんだけど、余計な心配だったかしらねぇ?」

京太郎「いえいえ余計だなんてとんでもないです超嬉しいっすマジ感激っす。
     部長お手製のチョコを頂けるなんて俺は世界一の幸せ者っす」

久「まぁぶっちゃけた話、最初は皆への差し入れのつもりで作ってたんだけどね。
  どうせなら須賀君のバレンタインの分も込みで良いかなって」

京太郎「そういう裏事情は聞きたくなかったです。わりと真面目に嬉しかったのに」

久「まあまあそう言わない。貰えるってだけで恵まれてるんだから。
  こっちは皆で食べて。で、はいこっちが須賀君の分」

咲「」

久「さて、と。渡す物も渡したし、そろそろ帰ってもうひと頑張りしようかしら。
  それじゃーねー」

京太郎「いやあ、まさか部長までくれるとはなぁ……」

優希(差し入れの分より京太郎の分の方が明らかに包装に気合入ってるじぇ……)

咲「アレハタダノサシイレアレハタダノサシイレ…」

 ガラガラガラ

和「すみません、遅くなりました」

京太郎・優希「お疲れー(だじぇ)」

和「……あれ? まだ始めてなかったんですか?」

京太郎「ん、ああ。今日は染谷先輩が休みらしくてさ」

優希「さっき部長が来てたけど、差し入れだけ置いてすぐ帰っちゃったじぇ」

和「はあ……でも3人はいるわけですし、サンマで始めていても……」

咲「……そうだよ」

咲「和ちゃんの言うとおりだよ」

咲「ここは麻雀部なんだから麻雀の練習が何よりも優先されるべきだよね」

咲「考えてみれば私さっきから麻雀したくてうずうずしてたんだ」

咲「もう4人集まったわけだし」

咲「これでもう練習を始めない理由はどこにもないよね」

京太郎「咲……?」

優希「なんか目が据わってるじぇ」

和「そうですね。早速始めましょう」

和「……あ、でもその前に」



和「須賀君」



和「これ、バレンタインのチョコレートです。
  上手くできているか自信ないですけど、よかったら」



咲「」


カン



おまけ

帰り道にて


京太郎「咲ー、おい、咲ってば」

咲「……」

京太郎「はぁ……一体どうしたんだよ。今日のお前、ちょっと変だぞ。
     さっきも異様なテンションで対局始めた割には、珍しく負け越しだったし」

咲「……誰のせいだと思ってるの」

京太郎「それ、モロ俺のせいって言われてるように聞こえるんだけど」

咲「そうだよ。京ちゃんのせいなんだよ。
  さっき調子が出なかったのも、今日が吹雪で寒いのも全部全部京ちゃんのせい」

京太郎「なんだそりゃ」

咲「ふーんだ」

京太郎「……」

咲「……」

京太郎「……ところでさあ、咲」

咲「……なにさ」

京太郎「あの、さ。お前は……結局、今年はチョコくれないのか?」

咲「……」

京太郎「なあ、咲」

咲「超モテモテイケメンの須賀京太郎君は既に可愛い女子4人からチョコ貰ってるんだし、
  今さら幼馴染みが作った毎年代わり映えのないチョコレートなんていらないんじゃないかな」

京太郎「なんつーか厭味な言い方だなぁおい」

咲「こっちの台詞だよ! 何さ! 『お前はチョコくれないのか?』なんて!
  まるで私のチョコなんて貰えるのが当たり前みたいにさ!
  私が毎年、どれだけっ――っ…ぅ、うぅ……ひぐっ、うぇぇ」

京太郎「あー……そういう風に取られちゃったか……」

咲「うぇぇえええん」

京太郎「あーよしよし、咲、俺が悪かった。だから、な、頼むから泣き止めって」

咲「うぇええ……ひくっ……ううぅ」

京太郎「あのな、咲。俺はお前がくれるチョコを軽く思ったことなんてないから」

咲「今年は沢山貰えるってウキウキしてたくせに。
  他のみんなからチョコもらってすごくすごく浮かれてたくせに」

京太郎「いやまあ……それは、そうだけどさ」

咲「じゃあもう私のなんていらないじゃん」

京太郎「そんなことないって。
     そりゃまあお前の言う通り、いくつもチョコ貰って、ちょっとばかり舞い上がっちまったさ。

京太郎「……でも、どれだけ沢山貰ってもお前のチョコの代わりにはならないっていうか」

京太郎「……お前のチョコ貰わないと、バレンタインを過ごした気になれないっていうかさ」

咲「……」

京太郎「まあ……その、なんだ。なんつーか……あれだ。有体に言えば、だ。
    つまりその……寂しいんだよ。お前から貰えないと」

咲「……」

 スッ……

京太郎「咲……」

咲「……欲しいなら、さっさと受け取れば」

京太郎「……ありがとな、咲」

咲「これは、義理だからね」

京太郎「分かってるって」

咲「3倍返しだからね」

京太郎「かしこまりました、お姫様」


もいっこ カン