「京ちゃん……」


微かに震えている小さな咲の呟き。おそらくこれは恐怖からくる震えではない、と京太郎は思う。

見ればわかる。
濃い榛色の眸は儚く揺れ、丸みを帯びた頬には朱が昇り、小さく形の良い耳が紅潮している。
それら全てから、確かな期待を見て取れるのは、京太郎の錯覚ではない筈だ。

彼女の手が抱き着くように背に回され……指先が弱々しくシャツを掴んでくる。
それに応えるように右手で咲の頬を一度撫で、髪を梳いてやると、嬉しげな微笑みが返ってきた。

薄く桜色の紅が引かれた咲の唇に、自然と視線が吸い込まれた。
あどけなさを残す面に瑞々しく色付いたそれは、可憐でしかし艶麗で、少女と女の危うい境界線を否応なく感じさせる。

目が離せぬままに、ゆっくりと流れる静けさを伴った時間。
ふと、咲を押し倒し下着姿へと剥いてから、どれ位たっただろうと、脳裏に浮かぶ。時間の感覚が酷く曖昧だ。


「咲……いいか?」


京太郎の問いに、咲は静かに瞼を落とす事で答えた。
それを合図に、咲のおとがいを反らさせ、吸い込まれるように桜色の唇へと口付けを落とした。

想い人のいじらしい姿をこんな間近で見せられては、これ以上我慢など出来る筈がなかった。
柔らかな咲の感触、蠱惑的ですらある香りと、確かな熱を感じさせる体温。
それらに溺れそうになりながらも、心ゆくまで楽しむ。


「んっ……」


塞いだ唇の隙間から、咲の湿った声と熱病に侵され色めいた響きを含んだ女の吐息が、漏れた。
酷く扇情的なそれを聴きながら、睦み合い啄ばんでいた唇を離す。
余韻を噛み締め咲を見遣ると、紅く火照る滑らかな鎖骨とうなじ、そして未だ揺れている眸。

潤んでいる。歓喜と情欲によって。それもどうしようもなく。

そう感じ取り、一際高く跳ねる鼓動。
激しい飢餓感と昂ぶりを自覚しながら、咲の頭にそっと手をやり、髪を梳かすように撫でる。
そうしてから、頬を緩ませ眦を柔らかく下げる彼女へと、唇をゆっくりと落とし――舌を伸ばし、咲の唇を割って押し込む。


「う、んっ!?」


京太郎の下で、咲が大きく目を見張り、身を硬くする。
構わず、手を太腿に悠然と這い寄らせ撫で回した。掌に馴染む肌理細やかな肌。
それを味わいながらも、押し込んだ舌で、きつく閉じられた歯から弾力のある歯茎まで余す所なく舐める。
そうしから上唇の裏側を気のすむ迄ねぶった。続いて、下唇も同様に。

突然の乱暴な行為にきっと驚愕した、或いは恐怖すら覚えただろうに、しかし咲は従順だった。
戸惑うように視線彷徨わせ……だが直に、目を瞑る。
抵抗せず、自身の組み敷く京太郎の身体を押し離そうともせず、閉じた瞼と睫毛を震わせ、荒々しい略奪に自らを委ねている。

そんな咲の健気な姿が、献身的な態度が、京太郎の獣欲を一層勢いつかせた。
抗い難い衝動に支配されたまま、咲の顎を右手で掴み、閉じられた上下の歯を無理矢理割り、舌を奥へと押し入れる。



「やっ、あっ」


苦しげに小さく喘ぎ続ける咲に頓着せず、口内の上顎から下顎まで思う存分舌先で突付き、これ以上ない位掻き混ぜる。
角度を変え、何度も、そう何度でも味わってから、最後に残った獲物、咲の舌に狙いを定める。
勿論、見逃す理由も容赦する理由も、京太郎には最早ない。故に、自身の舌で哀れな獲物に襲い掛かった。
擦りつけ、押さえつけ、絡み合わせ、互いの舌によって淫らな音を奏でながら、柔らかな肉と甘露を飽食し尽くす。

小さな舌が翻弄、蹂躙され続け、閉じられた咲の眸から涙が溢れて、一筋頬を伝った。
流れ落ちてきた一滴が咲を貪っていた唇に触れ、そう知った。塞いでいた唇を離して、頬に伝う涙の跡を舐め取り、拭う。

甘い。唾液より、尚甘い。これは蹂躙と征服がもたらした甘さだと、理解する。
今は涙すらただ甘く、止まる理由にはなり得なかった。只々情欲の火に油を注ぐだけだ。
事実、得も言われぬ背徳感によって、身の毛がよだつ程興奮している。
より燃え上がった衝動に背を押され、再び咲の唇を自身の唇を以って塞ぎ、太腿を摩っていた手をスカートの中へ進め臀部を弄ぶ。


「んぅっ!?」


びくりと身を震わせた咲の熱と下着の滑らかな感触が、より昂ぶらせていく。
息が千々に乱れた彼女の口内へ、自身の唾液を流し込む。ここまでしても、咲は無抵抗なままだ。


「ん、く……あっ」


卑しい欲望に従って送り込まれる体液を、咲は何度も飲み下し、喘いでいた。
そんな魅惑的ですらある鳴き声を聴きながら、嬲る手は止める事なく、喉を鳴らす哀れな生贄を鑑賞する。

咲を染める己の色に、京太郎は昏い愉悦を覚えた。敢えて形容するならば、無垢な花を手折り、泥濘に沈めるが如き愉悦だ。
堪らない。そう思いつつ、臀部に這わせている指を下着の内へ差し込み、直接触れた肉を揉みしだく。

嬌声と共に咲が火照った身体をくねらせた。
淫猥で、もどかしげな牡を煽る仕草。
少なくとも京太郎からすれば、そうとしか認識出来ない。

京太郎だけに触る事が許された、乙女の柔肌。
その感触を京太郎は存分に堪能しながら、咲から湧く唾液を殊更音を立てて啜った。


「きょ、う、ひゃ――」


くぐもり舌っ足らずな静止の呼び掛け共に、背に回された咲の手が許しを請うように弱々しく撫でてきた。
それを受けて、一度唇を浮かせる。無論、離れると見せ掛けるだけの陽動だ。ここ迄きて許す意味はない。
偽りの希望を与えられ、咲の眸に安堵の色が浮かんだその時、口付けを深く無慈悲に落とし、再度舌を捩じ込んだ。


「――んぅっ!?」


咲の愕然とした表情が酷く美しい。そう感じて背が粟立つ。
嘗てないほど凶悪な昂ぶりを覚えながら、咲の舌を己の口内まで強引に引き入れた。
互いの体液をひたすら混ぜ合い、口接による交合を続ける。時に受け取り、時に送り、激しく濃密に交し合う。



「――――――っ!」


言葉にならない咲の啼声すらも、救いようがない程に胸を躍らせた。
暗澹とした悦楽に溺れている事を京太郎は自覚しながら、甘噛みと愛撫と幾度となく繰り返す。


「――――、ぁ」


と、咲が小さく息を漏らして、身体を何度か慄かせ、くたりと力を失った。

その様に満足して、京太郎はようやく唇を離した。
つ――と、細い唾液の橋が架かり、互いの唇を繋いでいる。

それを拭うために、舌で咲の唇を一舐めして、目尻に貯まっていた涙を啜る。
続け様に、少女の首筋へ顔を埋め、温もりと薫りを十分に満喫してから、鎖骨より流れる頬までのなだらかな曲線を、緩やかに舐め上げる。
さながら蛞蝓が這ったぬめりを帯びた線が、咲に残った。

涙と同様、汗すら甘い。京太郎はそう感じながら、自身が付けた卑猥な痕跡を十秒ほど眺めた後、咲の首筋に口付けを落として強く吸う。
すると赤い印が刻まれた。

ああ、これでいい。と、酷薄な笑みを外貌に貼り付かせたまま徐ろに身を離し、己が刻んだ独占の証を見遣る。
組み敷き屈服させた獲物を視姦しつつ、満足気に小さく笑声を漏らした。

蹂躙の跡を示す乱れた衣服。
脱力し切っている華奢な身体。
白から淫靡の色に染まった柔肌。
荒く何度も繰り返されている呼吸。
茫と焦点を結んでいない濡れた瞳。
その全ては京太郎が望んで齎したものだ。

これは病み付きになる。漠然とそう思った。
支配欲が満たされ、根拠のない万能感が全身に行き渡っていた。その感覚に陶酔し過ぎて、くらくらと目眩がする程だ。
またその一方で、飢餓感は薄らぎ、思考の濁りが晴れていく。

――だが、これで終わりではないだろう。
行為の余韻に浸っていると、毒々しいケダモノがそう囁いた。燻っている残り火を煽るように。今一度燃え上がらせるように。
生暖かい熱が下半身より昇ってくる。事実、膝辺りがぬるま湯に浸った錯覚すら――。


「――って」


不意に京太郎は気付いた。何にかと言えば、その錯覚が幻ではなく現実である事に、だ。
端的に今の状況を表せば――ベッドが濡れていた。物理的に。
補足すると液体的な意味である。ちなみに発生源は咲だった。
独特の臭気を伴う染みが、今尚領土を拡大している。


「あっ……」


咲の口から力の抜けた声が漏れた。
彼女の眸が焦点を結び、徐々に理解の色が浮かび上がり、二人の目と目が合う。

見る見るうちに、大粒の涙を滲ませる咲。
罪悪感が京太郎の胸を苛み、先刻迄覚えていた昏い情動を残らず霧散させていく。



「いや、咲! あれだ、これはきっと不可抗力だからな!」


慌てて取り繕うように宥めるも、堰を切った涙は止まらず、咲は顔をくしゃりと歪ませ――。


「ぐ、すっ……えぐっ…………ふぇっ――――」


京太郎の部屋に、暫くの間、大きな泣き声が響いたのだった。



 ・
 ・
 ・



「きょうちゃんのけだものけだものけだものけだものけだもの――――」


ようやく泣き止んだ咲がまず行った事は、京太郎への罵りだった。

そりゃそうなるわなと、京太郎は溜息を吐いた。
そうして土下座の姿勢を崩さないまま、先程までの出来事を思い返す。

良い雰囲気のままキス。ここ迄は全く問題ないだろう。問題はこれ以後だ。
ぐっちょんぐっちょんのフレンチキスに発展、というか強制移行させた。しかも執拗に嬲る感じで。
さらには、太腿と尻をこれでもかと撫で回すコンボ。しかも最終的に、お漏らしさせてしまう始末。
理性がぶっ飛んでいた事を含め、色々と責任を感じずにはいられなかった。実際、全面的に京太郎が悪いのだが。


「好きにしていいって言ったけど、あそこまで乱暴なのは駄目!」

「本当に返す言葉もない」


と、咲に返事をしつつも……とりあえず風呂に入らないとな、二人で、今度は優しく、なんて京太郎は思っていたのであった。


また余談ではあるが、今回の件が原因なのか、咲に漏らし癖がついてしまい――。
そういう事を致す際、京太郎は特殊性癖を獲得しちゃったりして、色々と困るのだが、それはまあ自業自得というものである。


カンッ!