生まれてこのかた、迷子になるということには慣れたつもりだった。
皆と同じように歩いていたつもりでもいつの間にかひとり知らぬ場所へ。
勿論寂しいし心細かったが、自分に与えられた宿命なのだと。

だから、あの日。
中学の校外学習で登山に行ったとき。
一人班からから逸れてしまって。
もうどうしようのないと途方に暮れて泣いていた時に。
聞こえた声に。

『お~い!宮永~!』

私は、夢かと思ったの。
聞こえるはずもない救いの声が聞こえたんだって。
でも…。

『よかった…。探したんだぜ?急にいなくなるから』

髪を乱し息を荒げながらそう答える貴方に、嬉しくって、でもとっても申し訳ない気持ちになって。
私は泣いてしまった。
そんな私に貴方は優しく笑って頭を撫でてくれた。
とにかく無事でよかったとほほ笑んでくれた。

その時、私は私が恋に落ちる音が聞いた。
とても澄んで、心に響く音を。

それから少しして、あだ名で呼べるようになって。同じ高校に進学して。
それでも私たちの関係は変わらない。

『咲―?いい加減に直せよなその迷子癖』

私が迷って貴方が見つけてくれる。
私だけの、唯一の特権。

もう少しだけ…。
独占しても…いいだろうか…。


カン