じっとりとシャツが汗ばみ、肌にまとわりつく。手に持ったスマホの画面には幼なじみにあてた、「合宿がんばれ」なんて一言を飾り付けて数十倍に水増ししたメールの文面。
 送信が完了したのを見て、俺はふうと息を漏らした。

 清澄の名前を知らない人はいない。彗星の如く現れ、IHを好き放題に荒らし優勝杯をかっさらっていった無名校。
 雑誌にも取り上げられ、俺の幼なじみが見開き1ベージも使って取り上げられていた。日本を牽引いていく逸材という見出しが目に焼き付いている。
 少し前まではすぐ隣にいるのが当然だったはずの存在がひどく遠い。手を伸ばしても届かない。そこにいるはずなのに。

「まるで月だな」

 自分で呟いておきながら、詩人気取りの言葉に吐き気が出た。これは諦めだ。すっぱいぶどうだ。手が届かないことに理屈をつけて自己解釈して、その話を勝手に終わらせてしまう。
 何も……何も成長していない。俺だけが。みんなが強敵を打倒し、勝って、勝って、勝ち続けて栄光にたどり着いたというのに。

 俺は一歩も進めていない。

「進まなきゃ、な」

 それがどんなに小さな一歩でも。
 子供がお遣いに出かけるときのような一歩でも。

 俺は踏み出さなきゃならない。そうじゃないと、あいつに追いつけない。
 名誉だの栄光だのは俺にとってはどうでもいい。俺はあいつに追いついて、また前みたいに、あいつの隣で笑っていたいんだ。

『京ちゃん』
「ああ、分かってるよ、咲」

 お前が待ってくれているとは限らない。俺がちんたらしてたり、どうでもいいとこで悩んだり、小さな石に躓いている間に、お前はどんどん先に進んじまうだろう。
 でもいつか追いつく。絶対に追いつく。

 今はお前の背中すら水平線に没しようとしてるけれど。
 それでも。

 それでも。