私と彼が出会ったのは新緑の芽吹く季節のことでした

爽「おーっす」

揺杏「おっすぅ~……って、爽、後ろの男誰よ」

爽「ん? あぁ、駅前で拾ってきた」メキラリ

揺杏「拾って!?」

京太郎「…………」

 いつも通りの放課後、いつも通りの部活動の中に

 金髪の目立つ彼は突然飛び込んできたのです

爽「なーんか放っとけなくってさ、つい」

 爽先輩がそう言うのも、今考えてみれば納得できることでした

 この時の彼は、まるで何かを追うことに疲れ切った

 哀しそうな、それでいて寂しそうな目をしていたのですから

揺杏「これまで散々あんたとつるんで色々やってきたけど」

揺杏「今回ばかりは予想の斜め上だわ……」

爽「いやぁ」テレテレ

誓子「そこは照れるところじゃないと思うの、爽」

爽「そう? 爽だけにってね」

 ただでさえ気温が低いんですから

 しょうもないこと言わないで欲しいところです

爽「ほらさ、聖書にもあるじゃん」

爽「サマリア人が困ってる人助けたんだからお前もそうしろよ的なの」

 ルカによる福音書10章25節から37節のことを言っているのだとしたら

 あれは自分にできる範囲のことをしなさいという教えであって

 取り敢えず困っている人を助けなさいという意味じゃありません 

成香「でも、爽さんがどうにかして彼を助けようとしたことは」

成香「とても素敵なことですよ!」

 それは……否定できませんが

 あまり先輩を褒めると調子に乗りますよ?

京太郎「…………」

 出会った当初の彼は非常に寡黙な人間でした

 この時は、それが元々の性格なのか、何か理由があるのかは

 分かりませんでしたが

爽「きょうたろー」

京太郎「…………」サッ

爽「ん。ありがと」

 彼は実に空気を読むことに長けていました

 このように、爽先輩とであれば言葉要らずで

 コミュニケーションが成立してしまうほどに

京太郎「…………」

 つまるところ彼はなかなか私たちに対して

 口を開こうとしなかったのです

 しかし数か月も経てば彼も皆の中に馴染んでくるようで

 ぽつぽつとではありますが、会話をしてくれるようにもなりました

 話をしてみれば……彼は私が思っていた以上に

 好奇心を掻き立てられる存在でした

 ミッションスクールである有珠山高校にもすぐ溶け込み

 彼にとっては異文化の塊である学校の慣習にも深い理解を示し

 誰よりも努力家で、私たち麻雀部が全国大会出場を決めた陰で

 自分も追い付こうと、誰にも知られないよう研鑽を重ねていました

 私はそんな彼の在り様に、生き様に

 もっと彼のことを知りたい、彼と一緒に居たい

 時折、どこか遠くを見る様に哀しい目をする

 彼の心の拠り所となりたい……

 どこか、彼に惹かれている自分を自覚しつつ

 慣れない手つきでリンゴの皮を剥くように

 ゆっくりと少しずつ、私は彼との距離を縮めていきました

 そして、とうとうついに全ての核心へと

 どうして京太郎君が爽先輩と出会ったのか

 それを知る時がやってきてしまったのです

 その日は、冬の日にしては珍しくカラッと晴れた日でした

京太郎「実は……パンツが見たくて、俺はここまでやってきたんだ」

 は?

 衝撃の告白というか……

 私はあまりにも突拍子もなく、意味の分からない内容に

 素っ頓狂な声を上げてしまいます

京太郎「そりゃあ驚くよな……」

京太郎「でも、本当のことなんだ。俺はパンツのために、北海道まで来た」

 京太郎君はきっぱりと言い切りました

 しかし、どうしてまた北海道に?

京太郎「限界まで寒いとこまで行けば流石に履いてると思ったんだよ……」

 寒いとか関係なく、普通は履いていると言いますか

 女性は履いてないと色々と不便で大変だと思うのですが……

 話を聞いてみる限りでは、彼がもともといた長野だと

 どうやら下着を履いている方が変だったようで

 また、ここに来る以前に立ち寄った岩手でも

 ダルいから履いてない、と言われたそうです

京太郎「それで北海道に来たはいいもの」

京太郎「行く当てはないわ、資金は尽きたわ腹は減るわで縮こまっていたところを」

京太郎「爽姐さんに拾ってもらったんだ」

 それが、私たちと京太郎君が初めて会った日に繋がるのですか

 なんというか……その……

京太郎「馬鹿らしいだろ? 気持ち悪いだろ?」

京太郎「そうだよ。実のところ俺はこんなどうしようないスケベだったのさ……」

京太郎「ここに来た時からずっと、あんまり喋らなかったのだって」

京太郎「こんなに可愛い娘ばっかりの状況なんだ」

京太郎「ついうっかり本音が出ないようにって考えがあったんだよ……」

京太郎「ははは。こんな奴、軽蔑したよな……」

 そんなことありません

 貴方がたとえどれだけ自分のことを卑下しようとも

 私はそれ以上に、貴方のことを知っているつもりです

 優しくて、誠実で、それでいて不器用な、貴方のことを――

 だから軽蔑するなんてことは絶対にありません

 そう、言えればよかったのですけれど

 私の中で、しょげる彼に対してむくむくと

 悪戯心とほんの少しの情欲が湧いてきてしまったのです

 もしここで、彼の願いを叶えればどうなるのでしょう?

 この気持ちは、どこか焦りにも似たものだったのかもしれません

 いつかここを去るであろう彼を

 早くこの手で自分のものにしたいという願いの績んだ……

由暉子「見たくありませんか?」

京太郎「え?」

由暉子「下着ですよ。そのために、ここまで来たんでしょう?」

 呆ける彼がこの後どんな表情をするのか、どんな行動をとるのか

 ただただ、私はそのことに期待を膨らませ

 制服のスカートの裾に手をかけ、そのままゆっくりと

 彼の目の前で持ち上げたのです――


 カンッ