京太郎「雑用はつらいよ」

京太郎「部員であるはずなのに麻雀は打たせてもらえないし」

京太郎「これならいっそマネージャーを名乗った方がいいかもしれない」

京太郎「それにしても、このどんな雑用にもへこたれない体が恨めしいぜ」

京太郎「運動部で鍛えられたのがこんな形で役立つとは……」

京太郎「ハンドボールか、懐かしいな……ん?」


桃子「はぁ……」


京太郎(あのため息に揺れるハンドボールサイズの胸は……鶴賀の東横さん?)

京太郎(是非ともお近づきになりたいけど、なんか落ち込んでないか?)

京太郎(いきなり声かけたら警戒されるかもしれないし)

京太郎(……ええい、ままよ!)


――――――


京太郎「こんにちは」

桃子「……」

京太郎「こーんーにーちーは!」

桃子「わ、私っすか?」

京太郎「他に誰がいるんだよ」

桃子「こんな風に話しかけられるの久しぶりで……それで、どちらさまっすか?」

京太郎「この安定と信頼の影の薄さよ……」

桃子「影が薄い……私のことっすね」

京太郎「いいや、俺のこと。清澄麻雀部の須賀京太郎だけど、君は東横桃子さんだよな?」

桃子「そうっすけど……清澄に男子の部員? ……あ、もしかしていつも荷物運んでるマネージャーの」

京太郎「まぁそう見えるよな……でも一応は部員だから」

桃子「……何の用っすか?」

京太郎「なんか落ち込んでるみたいだから気になって」

桃子「それはどうも……って、もしかして普通に私が見えてるんすか?」

京太郎「もちろん! 俺にははっきりとそのハンドボール……じゃなくて、君が見える」

桃子「……うぅ」

京太郎「ちょっ、いきなり泣かれるのは予想外っ」

桃子「だって、だって……」

京太郎「謝るから! 若干不純な動機があったことは謝るから!」

桃子「誕生日なのに一人ぼっちだって思ってたら、声かけてくれたから……」

京太郎「ハンドボールみたいに鷲掴みにしたいって思ってごめんなさ……あれ?」

桃子「嬉しかったんすよ……」

京太郎「……だな! 俺も東横さんが悲しそうにしてるから放っておけなかったんだよ」


京太郎(ふう、危うく自分で暴露するとこだったぜ。聞こえてないようでよかった)


桃子「ところで、不純だとかハンドボールを鷲掴みとか、なんの話っすか?」

京太郎「あーうん、なんでもないよ。昔ハンドボールやってたからちょっと思い出しちゃって」

桃子「そうなんすか」

京太郎「そうなんすよ」

――――――

京太郎「ふぅん、つまり誕生日なのに誰もつかまらなくてぼっち状態だったと」

桃子「部活の先輩たちも今日に限ってよそよそしくて……なのに、みんなでこそこそなにかやってるみたいで」

京太郎「うーむ、なるほどね」

桃子「なにかわかったんすか?」

京太郎「多分、俺の見立てだとそろそろ誰かから連絡が来ると思うんだけど」

桃子「連絡っすか……あ」


桃子「もしもし……先輩っすか」

ゆみ『モモ、さっきはすまなかった。どうしても外せない用事があったんだ』

桃子「別に怒ってなんかないっすけど、なにか私に用事でもあるんすか?」

ゆみ『や、やっぱり怒ってるんじゃないか? 蒲原め……だから最初っから言っておくべきだったんだ……』

桃子「用件、早く言ってほしいっす」

ゆみ「ああ……これから部室にきてほしい。みんなも待ってる……それじゃ」


――――――


桃子「……本当に連絡がきたっす」

京太郎「だろ?」

桃子「エスパーっすか?」

京太郎「そんなオカルト持ってたら個人戦でぼろ負けしないよ」

桃子「ぼろ負け……弱いんすね」

京太郎「ちょっ、てめ喧嘩売ってんのか!? 事実だけど!」

桃子「ふふ……じゃあもういくっす」

京太郎「いけいけ。今度会ったら容赦しないからな」

桃子「望むところっすよ……これ連絡先っす」

京太郎「メルアドと電話番号?」

桃子「あと、京太郎くんって呼んでもいいっすか?」

京太郎「全然オッケー。そのかわり俺も名前で呼ばせてもらうけど、いい?」

桃子「こっちもオッケーっす」

京太郎「じゃあよろしく、桃子」

桃子「……あだ名だったらともかく、男の人に名前で呼ばれるのって新鮮っすね」

京太郎「名字のほうがよかった?」

桃子「名前でいいっす! むしろそっちがいいっす!」

京太郎「わかったわかった。そろそろ行けよ。待ってるんじゃないか?」

桃子「それもそうっすね……じゃあまた」

京太郎「あ、そうだ……これ持ってけ。こんなもんしかないけど、誕生日プレゼント」

桃子「これ……タコスっすか?」

京太郎「うちのうるさいやつ用だけど、味は確かだから」

桃子「……嬉しいっすよ! 大事にとっておくっす!」

京太郎「いや、そこは食べてやれよ」


――――――


京太郎「さて、タコス買いなおさないとな」

京太郎「連絡先ね……赤外線で送ればよかったのに」

京太郎「ま、かわいい子と知り合いになれただけでよしとするか」

京太郎「おっし、雑用やるぞー!」


カンッ