辛く、悲しいことがいっぱいあった。
きっと私が傷つけたこともいっぱいある。
すべてを投げ出して、ここから離れたかった。
……今考えれば逃げ出してるだけだね。
ひとり歩きできてる、なんて思ってたんだよ? 笑っちゃうよね。
どれだけ家族に迷惑かけてたかも知らずに。
そうやって気取って過ごした高校時代。
私は高校最後の夏に過去と向き合う。
出会いはまるで昔のドラマのような。
何てことない道で転びそうになり、手を差し伸べてくれた。
京太郎「大丈夫ですか? 立てます?」
照「あ、すみません」
なんでだろう? 懐かしさを感じて彼の顔を見上げる。
照「…………」
京太郎「な、何ですか? ん……もしかして」
照「……あっ」
もう何年も会っていないのにお互い理解した。
京太郎「お菓子ちゃん!」
照「パツキンくん……」
彼は小さいころよく遊んでくれた活発な男の子。
楽しかった思い出なのになんで忘れていたの?
きっと理由は彼の金髪……他の思い出を連想してしまうから。
それでも今は、ただ彼と再会できたことが嬉しく思う。
京太郎「いや、懐かしいですね。ここにいるってことはインハイの?」
照「うん、選手。結構強いんだよ私」
京太郎「おぉ! 強いんですかって全国ですもんね。そりゃそうですよね」
照「パツキンくんは……そういえばお互い名前知らなかったね」
京太郎「あ、そういえばそうですね。俺もいつまでもパツキンは恥ずかしいですよ」
名前も知らない幼馴染。
笑顔は昔と何も変わらずに純粋さを感じる。
まるで子供時代に戻ったように私を錯覚させる。
京太郎「俺は須賀京太郎です。一年生で麻雀部で今は雑用みたいな感じですね」
照「私は宮永照。三年生だから先輩だね」
京太郎「先輩だったんですね。タメ口きいてなくて助かった……ん? 宮永?」
失念していた、彼は長野……当然清澄高校の麻雀部だ。
京太郎「えっと、宮永先輩は妹さんとかいらっしゃいます?」
照「…………」
私はここで否定して、彼を突き放したって良かったはず。
けれども私は……
照「……うん、いるよ」
そう、返事をしていた。
京太郎「咲って名前だったりして?」
照「うん、そう」
京太郎「あぁ、咲のお姉さんだったんですか。いや、世間は狭いですね」
彼の悲しい顔を見たくなかったのかな? 楽しい思い出が汚されそうで。
……それが京ちゃんとの再会の話。
その後は大会中に何度か会って話したり、淡に捕まって色々あったりした。
咲とのことも助けてもらった。
私たち姉妹が向かい合ってやり直せることを教えてくれた。
その時気づいた、きっと私は恋してる。
こんな気持ちは生まれて初めてだった。
訳も分からず混乱して、麻雀も手をつかなかった。
虎姫の皆が応援してくれて、トレンディな展開で色々あったが両想いになれた。
そして現在は……
京太郎「照さん? どうしました?」
照「……白無垢って大変」
京太郎「でも、とても綺麗ですよ」
照「……白無垢って最高」
私は高校卒業後プロの道へと進んだ。
京ちゃんはその二年後、私の所属するチームの職員になった。
更に二年が過ぎ、京ちゃんからプロポーズを受けた。
嬉しくて、にやついていたら小鍛治プロにスゴイ形相で睨まれた。
……その日の麻雀は麻雀じゃなかった。
京太郎「照さん。なんか咲が調子悪そうですよ」
照「え? あ、ほんとだ。昨日はプロアマ交流のイベントに出てたから疲れてるのかも」
そう言って咲の所に二人で向かう。
話をしてみると咲は元気みたいで安心した。
咲「二人とも……結婚おめでとう」
四年前、私は咲と姉妹に戻れた。
その妹からの祝福が何よりうれしく、涙ぐむ。
照「咲……ありがとう」
私は最愛の夫、京ちゃんのことを見上げる。
照「京ちゃん、大好き」
京太郎「あぁ、俺もだ……って、うぉい!?」
聞かずともわかる返事は無視し、抱きつく。
京太郎「はぁ、びっくりさせないでくれよ、お姫様?」
嫌な顔一つせず、お姫様抱っこで皆の元に戻る。
歓声とカメラのシャッター音が響く式場。
きっと今、世界で一番幸せです。
カンっ!
最終更新:2014年07月12日 11:07