タコスなんて、初めはそもそも知らなかった。
「京太郎!タコス食べに行くじょー!」
「あ?なんだよそれ」
「なんとタコスを知らんのか…?なんで生きてるの?」
「心底不思議そうに言われることかっ」
嫌いな味じゃなかったけどな。スパイスも効いてるし、合わせてあるレタスやトマトとのハーモニーが肉々しさをまろやかに仕立ててくれる。
そう言うと随分誇らしげに笑ってた気がする。別にお前の功績でも無いだろってのに。
「犬!タコス買ってこい!」
「誰が犬だ。買ってほしけりゃ金払えっての」
「うぐぐ…仕方ないじぇ。ほれ!」
「足りねーじゃん」
「半分食べていいから半額で頼んだっ」
「ったく…わかったよ」
買ってやれば笑顔だし、買えなけりゃそれはそれで「仕方ない」って笑顔だし。結局タコスが絡めば笑ってばっかだったしな。
半分にして渡して、ベンチで食べたこともあったか。
「それだとタコス力が半分にならねーの?」
「阿呆め、タコスは心の力!量じゃなくて質だ!いつどこで誰とどう食べるかが重要なんだじぇ」
「適当だなオイ」
結局作らされる羽目になったけど。
スパイスも買ってきたタコスシーニング。適当にひき肉を炒めてレタスとトマトを切って、市販のトルティーヤで巻いて。
正直肉もギトギトだし、作って時間が経ってレタスも変色するわトルティーヤが水でふやけるわ、ロクなもんじゃなかったけれど。
「ん…」
「…わり。俺だとそんなもんしか出来ないし、学食で買おうぜ。捨てていいからさ」
勝手に全部食べやがって。
「んぐ、んぐ…ごちそうさま」
「おいおい、別に無理しなくていいんだぞ?」
相変わらず、タコスが絡むと笑顔のままでさ。
「京太郎、美味しかった!」
「わたしはこの味が、大好きだじぇ!」
この味が、好きだとお前が言ったから。
去年の今日は、タコス記念日…なんてな。
最終更新:2014年05月18日 19:45