「台風一過」 前の話(イラつく)


最近の私の心はずっと曇り空で

きっと態度に出てしまっていたのだろう

彼にも気を使われで

「たまには皆で遊びに行こうぜ」

気晴らしに、と友人達と一緒に

どうせなら私だけを誘ってくれればいいのに

なんて、そんな事は言えない自分がもどかしくて

切なくて


やって来たのはゲームセンター

皆で遊びに来たのだから、そんな事は当前なのだけれど

ムードも何もない所だなって

少し

落胆して


到着早々

中学時代からの親友はビデオゲームを始めてしまって

私はなんだか何もやる気がおきなくて

じっとベンチに座っていて

他の二人は色々と誘ってくれたのだけれど

ずっとベンチに座っていて

あげく、まだ何もしていないというのに

「もう少し休憩しています」なんて

差し出された手も振り払ってしまって

「そっか、じゃあ俺達あっちで遊んでるからな」

わがままな私は一人、取り残されてしまって

寂しくて


一人になって、

辺りをぼーっと見回して

目に止まったのは

プライズゲームのストラップ

エトペンではないけれど

可愛いペンギンのストラップ

最初はそこまで欲しいわけではなかったのに

なんだかムキになってしまって

繰り返し 繰り返し

お小遣いは全部使いきってしまって

それでも取れなくて

悔しくて


そのあとは

本当に手持ち無沙汰で

親友のやるゲームをただ

ただ ぼーっとながめていて

なんだか

空しくて


「さ、そろそろ帰ろうか」

結局気晴らしになんてなっていないのに

もう帰る時間

「送ってくからさ」

「結構です」

自分自身、拗ねてしまっている事に気付いてはいたけれど

溢れ出した感情は止められなくて

スタスタ スタスタ

足早にその場を離れて

涙が出そうになるくらい

憤って


「ちょっと待てって」

追いかけてきてくれた彼に

「もう、放っておいて下さい」

心にもない事を口走って

そんな可愛くない私に

「せめてコレは受け取ってくれよ」って

彼は私の手首を掴んで

手の平に乗せられたのはストラップ

さっき取れなかったストラップ

可愛いペンギンのストラップ

「さっき欲しそうだったの、見ててさ」

手に入らなかったものが

諦めていたものが

彼の手を伝って 目の前に現れたことが

とても嬉しくて

そして 何より

ちゃんと自分を見ていてくれた事が嬉しくて

嬉しくて

堪えていた涙がこぼれて


「え、泣いてるのか」って

突然の事に慌てふためく彼が

可笑しくて 可笑しくて

涙と一緒に笑顔もこぼれて


彼はまた驚いて

そしてそのあとほっとした顔で

「良かった、久しぶりに笑ったな」って

彼はいつも暖かくて

安心して


続けざまに

「やっぱり俺は笑顔が好きだな」って

多分彼のことだから

その『笑顔』とは

おそらく『みんなの笑顔』なのだろう

分かっているのに頬が紅潮して

ときめいて


ばれないように くるりと振り向き

今度はゆっくり歩き出す

呆気にとられている彼に

立ち止まって 肩越しに一言

「送ってくれるんでしょう?」

一歩前進 前向きに

今日は色々な感情に振り回されたと思う


切なくて 落胆して 寂しくて 悔しくて 空しくて 憤って

ネガティブな感情が台風みたいに渦を巻いて

嵐になって


それでも渦中の彼は台風の目

いつでも暖かくて

光が射していて


嬉しくて 可笑しくて 安心して ときめいて

前向きになって


嵐が過ぎると まるで台風一過のように


モヤモヤとした雲はどこかにとんでいってしまった