「――――また勝てなかった」


大会後、初めての休日。
いつものようにネット麻雀に興じ、例によって例の如く、手痛い敗北を喫して床に倒れ込む。


「今日は珍しく赤木さん達に遭遇しなかったから、どうにかなるって思ったんだけどなあ……【K】とか【堂嶋】ってのにとことん毟られた……」


頬に感じる床の冷たさにまったりしながら、理不尽すぎる和了りを繰り返した対局相手に不平を漏らす。


「なんで倍満、三倍満が連発すんのよ……?国士と四暗刻も連発したし……」


麻雀の役満とはあんなにも出やすいものだったか。
一、二度しか和了った記憶のない役満の直撃は、何度繰り返しても堪える。


「きゅわー?」

「ああ、ありがとなカーたん」

「パコッ……パコッ……!」


落ち込む主人を心配したのか、近くまで這ってきて顔を覗き込むペットのカーたんの背中をくすぐり、労ってやる。


「さすがにもう、ネト麻やる気にはなれんし……散歩にでも行ってくるか」


ムクリと体を起して、ベッドの上に放り出していた携帯電話と財布を手に取る。


「どこに行くかなあ」


ぼー、と天井を眺めて思案。
暇をしているなら、咲でも誘ってどこかに出掛けるという手もあったが、あいにく今はそんな気分でもない。


「公園にでも行って、まったりするか」


なんとなく決めて、立ち上がる。
たまには童心に返るのも面白い……そんな、気軽な考えからの行動だった。


京太郎が訪れたのは、自宅からそれなりに離れた場所にある公園。
自分のことを知っている近所の人がいるような公園だと、先日の県予選の話を聞かれたり、世間話に付き合わされたりしそうで嫌だったのだ。


「というわけで――――来たぜ……」


ざわ…ざわ…と、久しぶりに空気をざわつかせながら訪れた自然公園には、休日にも関わらず人の数は少なかった。

ざっと見渡した感じ、家族連れが幾組。あとは、木陰のベンチに座ってファッション誌らしき本を読んでいる、ハンチング帽を被った少女が一人。

これならゆっくり、まったりできそうだ。


「まだ右手も治りきってないし、休めるだけ休む……!」


にんまりと、ファッション誌を読み耽っている少女が座るベンチの向かい側にあるベンチに腰を下ろし、一息つく。


「そういや、飲むもの買ってなかったな……近くにコンビニってあったっけ?」

「んー?自動販売機なら、こっち行ったところにあるし」


風に揺れる梢のざわめきに耳を傾けながら、そういえば飲み物を買っておくのを忘れた――――と腰を上げた京太郎に反応したのか、雑誌に視線を落したまま、少女が自動販売機の場所を教えてくれた。


「あ、こりゃどうも御親切に」

「別に構わないし。困った時はお互い・様さ」

「――――ん?」

「どうかしたし?」


ハンチング帽の少女の声、そして口調に聞き覚えがあって中腰の姿勢のまま、首を傾げた京太郎に、ようやく少女が視線を起こす。


「…………あ、池田?」

「…………あ、須賀ナントカ?」


お互いに数秒、マジマジと相手の顔を穴があくほど見つめてから名を口にする。


「ちょっ、なんでお前がここにいるし!?」

「なんでって……」


ベンチから飛びのく勢いで距離を取って指差してくる池田、こと華菜に言い淀んだ後、京太郎は――――


「んと、うん、俺俺。ってなんだよ池田、俺、須賀京太郎はここにいるぜ?」

「誰も捜してねーし!つか、清澄に通ってる奴が、なんで私の家の近くの公園にいるんだ――――ハッ、まさかストーカー!?ウィークリー麻雀TODAYに書いてあった相手って、まさか私だったし!?」

「おい待てコラ、全力で訴訟も辞さねえぞ」


雑誌のゴシップを真に受けられては困る。

アセアセと顔を赤らめながら髪を整える華菜に、半ば本気で否定。


「あんな面白おかしく書かれた記事を真に受けてんじゃねーよ、だからお前は池田なんだよ、池田ァ!」

「意味わかんねーし!じゃあなんでお前がこんなとこにいるのか、華菜ちゃんに説明してみろ!!」


真っ向から全否定されると、年頃の乙女としてそれはそれで納得いかないのは自然の妙理。

憮然とした表情で京太郎に、清澄のある学区から離れた公園を訪れた理由を問う華菜。


「散歩だよ、散歩。休みに出歩いたらダメなのかよ」

「散歩ねえ……まったくもってこれっぽっちも似合わないし!つーか須賀、お前、私より一個下なんだからちゃんと敬語使えー」

「ハッ!年上らしさの欠片も感じられねー」


帽子の下から猫耳のように髪を尖らせせつつ――無論、それは京太郎の幻視に過ぎないのだろうが――エヘンと偉ぶる華菜に、京太郎が冷めた目でペィッと手を振って拒絶する。


「っ……ホンット、生意気だし……!」

「お前にゃ負けるし……!」


ギリギリとお互い、妙な対抗意識を持って公園の遊歩道中央で睨み合う。

漫画やアニメであれば、バチバチと二人の間で火花や電撃が弾けているであろうガンのつけ合い。

それを中断させたのは――――小さくも強大な幼子の声三つ。

「あ!なんかにいちゃんいるし!」

「おねーちゃんとにらめっこしてるし!」

「なかよしさんだしー」


砂遊びでもしてきたのか、全身に砂と泥を纏わりつかせた状態で小池ーズ……緋菜、菜沙、城菜の三人が駆け寄り――――飛びついた。

「にいちゃんもいっしょにあそぶしー!!」

「ブランコののりかたおしえてあげるし!」

「みてみて、城菜のおきにいりオモチャー」

「ちょっ、げふぅぅぅぅっ!?」


ずどーーーーん、と勢い任せに飛び込んできた小池ーズの直撃に、京太郎がもんどりうって地面に倒れ込む。


「あぁっ、須賀……須賀ァァァァァァァァッ!?」

「く、くそ、不幸だ……やっぱり家でおとなしく、カーたんの相手でもしとけばよかった……!!」


そんなこんなで、京太郎の休日は騒がしくなることが確定した。