─レンタルビデオ・ショップ─

久「うーん。この映画は前見たんだけど、そんなにグッとくる話じゃなかったわね」

久「こっちのほうは、二人で見るには静かすぎる気もする」

久「どうする?京太郎」

京太郎「……」

久「……」

久「京太郎」ふりふり

京太郎「あ、ああ。ごめん。ぼーっとしてた」

京太郎「なんだっけ?これが見たいの?」

久「京太郎。今何考えてたの?」

京太郎「……何も。ただ最近寝不足で……」

久「嘘ね。もう帰りましょう。私たちの家に」

京太郎「ビデオ借りてかなくていいのかよ?」

久「必要無いわ」


久「まだ……足りないのかしら」ぼそっ


─アパート─

京太郎「ふーっ。ただいまーっ」

京太郎「じゃ、風呂沸かしてくるわ……」

久「しなくていいわ」


ぐいっ


京太郎「わっ!久、どうした?ひっぱるなひっぱるな」あせあせ

久「……」どたどた


ぽいっ

すとん


久「……」じいっ

京太郎「うおっ……ベッドに放り投げるなんて、乱暴なことするなよ、はは……んむっ!?」

久「んっ……口、開けなさい……ん……」

京太郎「~~っ!」ばたばた

京太郎「……」


京太郎「何だよ、久。どうしたんだ?」なでなで

久「どうもしないわ。ねえ……私たちが付き合って、何年になるかしら?」

京太郎「3年だな。まだ、付き合った初めの日も思い出せるよ」

久「……3年か」


ぐいっ


久「今日は一晩中、刻み込んであげるわ」

京太郎「おいおい……明日も仕事なんだ、程々にしてくれよ?」

久「なに、したくないわけ?」にや

京太郎「まさか。俺ももう……我慢出来ないよ」がばっ

久「きゃっ♪」

京太郎「本当に久は欲望が強いな。休まる日が無え」じっ

久「……京太郎が隣に居ると、どうしても我慢出来なくなっちゃうのよね」


久「……」


久(ねえ、京太郎──)

久(その目は本当に私を映してる?)

久(私を通して他の誰かを──見ていないでしょうね?)

久(お願い。はやく安心させて。はやく私と結婚して。はやく私と、同じになって……京太郎)



─翌朝─

プルルルプルルル

久「……ん」

久「誰よこんな朝はやくに……」

がちゃ

久「はい、もしもし──」むにゃむにゃ

『……』

久「?」

久(あ。これ京太郎の携帯だった……ボケてるな、私)

久「ごめんなさい。私、京太郎の彼女です。彼に代わりましょうか?」

『……嘘』

久「……?」


『どうして、部長が……』


久「!!!」

久「あなたっ……和ね!!」

和『!!』

がちゃっ

つーつー

久「こら!待ちなさい、和!!和!!」

久「このっ……」ぐっ

久(どうして和が京太郎の携帯に──今頃になって!?)



─6年前─

久「和の東京大学合格を祝って──乾杯!」

京太郎「お酒飲めるの、部長だけじゃないですか」あきれ

優希「やれやれ。相変わらず萎える奴だじぇ、京太郎。こういうのはグラスに注いでるのがグレープフルーツジュースでも雰囲気でいくものだじぇ~♪」

咲「タコスジュースとか言わなくて安心したよ……」

まこ「……アホか」

和「み、みんな……」うるっ

優希「おっ?泣くか?」

和「な、泣きません!ただ、みんな長野なのに私だけ東京なのは、寂しいですね……」すっ

京太郎「顔上げろよ、和。今日は和の門出を祝う会だ」

京太郎「主役が湿気たツラしてんじゃねえよ。最高の日にして、笑って別れようぜ」

和「須賀、くん……」


久「……」じぃーーー


──

久(京太郎と和がお互い惹かれ合ってたのは、何となく判っていた)

久(その想いが届くことないまま別れたのにホッとして、私は漸く、心置きなく京太郎に近付けた)

久(長い道のりだったけど、なんとか付き合えた。本当に、京太郎を落とすのは大変だったわ……)

久(和は東京の大学院生。そのまま関東で仕事をする筈)

久(ずっと連絡してなかった。どうして今頃、なんで京太郎と……どうやって)

久(そして、どうして私の胸はこんなに騒ついてるの?)

久(自信を持たなきゃ、私。京太郎の彼女は和じゃない、私なんだから……)


京太郎「ん……なんだよ騒がしいな」むくり

久「……京太郎」

京太郎「おはよう久」

久「ねえ、和と連絡取ってたの?」

京太郎「!!」

京太郎「なっ……ど、どうして久がそれを」

久「電話かかってきてたわよ」すっ

久「なにこれ……凄い履歴ね。先月くらいから毎日連絡してるじゃない……なにこれ……」

ばっ

京太郎「返してくれ!」ぐっ

京太郎「人の携帯見るなよ!そういうことする奴じゃねえだろ、久!」

久「ごめんなさい。寝呆けててつい出ちゃったの」

京太郎「そ、そうか」

久「それより説明してくれる?どうして和と連絡を取り合っていたのか、それを私が知らなかった理由も」

京太郎「……っ」

久「なに、その顔」

久「もしかして、ねえ、京太郎あなた」


久「まだ和に気があるとか言いださないわよね……?」

京太郎「……」

久「どうして何も言わないの?」

久「京太郎?」

久「ねえ、京太郎?」


京太郎「……」


久「京太郎!!」ぶんぶん

久「私を見て!目の前に居る私を見て!!」

久「ずっと二人で暮らしてきたでしょ!?私が居るじゃない!!」

久「嘘でしょ!?本当に和に気があるの!!?」

久「じゃあ何で私と付き合ったりしたのよ!!おかしいじゃない!!筋が通らないじゃない!!」

久「あなたの彼女は私よ!!京太郎は私のものなの!!京太郎は私が好きなの!!」

久「そうでしょ!?」


京太郎「あ、ああ……そうだ……」

京太郎「けど、正直な話するよ」

京太郎「先月から連絡しあうようになって……また、和に惹かれだしてる俺がいる」


久「っ!!」ばちん

京太郎「っ……」ひりひり

久「……最低よ」

京太郎「ああ、そうだな……自分でも思うよ……」

久「そうやって私から別れを告げさせようと企んでるんでしょ?」

京太郎「なっ……そんなことはな」

久「そうよ。無意識でそう思ってるのよ京太郎は。そういう少し卑怯なとこ私知ってるから。どれだけ一緒に居たと思ってるの?」

久「絶対別れてなんてあげないから。和なんかにあなたを渡さないから」

ぎゅっ

久「お願い……京太郎……私を捨てないで……」ぽろ

久「お願い……」ぽろぽろ

京太郎「久……悪かったよ。大丈夫、大丈夫だから」なでなで

久(──本当、かしら。私は京太郎をどうやって……繋ぎ止めればいいんだろう)ぐすっ


プルルルプルルル


「「!!」」

京太郎「和だ……」

久「出なさい」

京太郎「で、でも」

久「出なさい!!」

京太郎「は、はいっ」


がちゃ

京太郎「も、もしもし」

和『今度はちゃんと出てくれましたね、"京太郎"くん』

和『ふふっ、知りませんでした。部長と付き合ってるんですか?』

京太郎「えっ……知ってる、の?」

和『くすくす。本人から聞きましたから』

京太郎「そ、そう。久……とは付き合ってるんだ、いい彼女だよ」

和『……へえ』

和『でも、そんな話、この一ヶ月で全く聞きませんでしたね、くすくす』

京太郎「う……は、恥ずかしかったんだよ」

和『隣にいるんでしょう?』

京太郎「は?」

和『隣にいるんでしょう?部長。代わって下さい』


京太郎「……久。和が話したいって」ひょい

久「……貸しなさい」


久「代わったわ。なに?和」

和『随分無愛想ですね部長。久しぶりに話すんですから、私はうきうきしてるんですが、ふふふ』

久「……あなた、少し変わった?」

和『変わった?私に言わせれば、変わったのは部長のほうですけどね、ふふっ』

和『まさかあの部長が、京太郎くんと付き合ってるなんて、びっくりしました』

久「京太郎くん、ね」ぴくっ

和『この一ヶ月、京太郎くんとはたくさん話しました。親しくなりましたよ。それにいい声してますよね。腕枕で囁かれたいくらい……ふふ』


久「なに?私をムカつかせて何がしたいの、和?」

久「まさかあなた、変な気起こすつもりじゃ、ないでしょうね」

和『変な気……?部長に言わせれば、そうかもしれませんね、ふふっ、変な気ですか、変な気……あはっ』

久「……随分楽しそうね、和」ぎりぎり

和『そりゃあそうですよ……♪だってこれから』


和『京太郎くんは私のものになるんですから……♪』


久「……」ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎり

久「ぶっ殺されなきゃ解らないかしら……?」

和『ふふっ、怖い言葉。部長らしくない』

久「……泥棒猫」

和『泥棒猫?部長の別名ですか?昔の私の気持ち、知ってましたもんね……くすくす』


和『来週、長野に行きます。そうですね……久しぶりに同窓会でもしませんか?』

久「うん、良い提案ね。みんな、和に会えて喜ぶと思うわ」

和『くすくす……楽しみですね♪』

久「そうね……凄く楽しい再会になると思うわ」

和『それでは、来週……』

久「ええ、来週また会う日まで」


「どうかご機嫌よう」がちゃっつーつー



カンッ