「皆さん、揃ってますか?丁度良かった、紹介しますね。私が奈良にいた頃の友達の一人、新子憧さんです」

「よろしく~」

和と再開を果たした日の午後、私は和に連れられて清澄高校の宿泊部屋を訪れた。

「よ、よろしく…」

「お~、あんたが話に聞くのどちゃんの親友か~!だったら私にとっても大事な友達ってことになるじぇ!よろしくだじょ!」

そこにいたのは1年の宮永さんに片岡さん、そして…

「へぇ~、和の…あ、ごめんごめん、俺は須賀京太郎っていうんだ。よろしくな」

清澄唯一の男子部員、須賀京太郎だった。

「…………」

「憧さん?どうかされましたか?」

「ふきゅっ!?あ、ううん、何でもないの!よ、よろしくね!」

彼の爽やかな笑顔に、私は一目惚れしてしまっていた。

この日はこの後何をしたのか、恥ずかしいことにほとんど覚えていない。

唯一覚えているのは、須賀くんが私を送ってくれたこと。

「あ、あのっ!よ、良かったらメアド教えてくれない?!」

「あはは、そんなに威勢良く言わなくても。もちろんいいぜ」

理由も何もない突然の要求にも笑顔で応えてくれた。

確かあの日、真っ赤になって帰った私は阿知賀の皆に存分に弄られた。


それからは毎日須賀くんとメールのやりとりをした。

互いの時間が合えば電話でのやりとりもした。

それと並行してさり気なく和から彼の好みも聞いたりした。

ただ、その度に和が微笑ましいものを見るような目をしていたのは何でなんだろう。

それはともかく、集めた情報を駆使して計画を立て、奈良に帰る前日にようやく須賀くんを遊びに誘うことが出来た。

ただ、1時間前から待ち続けようとしたのは失敗だったかな。とっても暑い……

「ごめん、新子さん、待たせちゃったかな?」

「ううん、大丈夫だよ。私も今来たところだから。あはは」

「……新子さん、遊びに出る前にちょっとカフェ寄ってかないか?」

「え?どうして?」

「いやぁ…あ、走ってきたからさ、ちょっと喉が渇いちゃって」

「…うん、いいよ」

メールでも感じていたことだけど、須賀くんは本当に優しい。

今もきっと私の様子を見て提案してくれたんだろうと思う。

でもその優しさを隠そうとしている。

だから私は心の中でお礼を言うことにする。

ありがとう、須賀くん。


最初こそ予定外のことがあったけど、その後しばらくは事前準備が盛大に活躍した。

映画を見てからショッピング、なんてありふれたものだったけど、隣にいるのが須賀くんだからか、とても輝いた時間だった。

夕方、日も暮れそうになった頃、私は予定通りにある場所を目指そうとした。

ずっと、今日言おうと思っていたことを言うために、適した場所を調べておいたから。

でも…

「新子さん、昨日聞いた限りだと夕御飯の予定は入れてなかったよね?」

「え?う、うん、そうだけど…」

「変更無しで良かった。今日はここまで新子さんに頼りきりだったからさ、最後くらいは俺が、って思ってさ」

須賀くんはそう言うと、私の手を取って歩き出す。

訳も分からずに付いて行くと、高級そうなレストランの前に来た。

「あ、あの、須賀くん?ここって…」

「はは、いい雰囲気だろ?」

「で、でも高いんじゃ…?」

「ところがどっこい!ここはさ、店の雰囲気は高級レストランのそれだけど、値段はリーズナブルなんだ。学生がちょっと奮発すれば問題無いくらいだしな」

そう言って中に足を踏み入れる須賀くん。

入口近くの店員さんに予約の旨を伝えると、すぐに奥の席へと案内して貰えた。

「いや~、美味かったな~」

「ホントに美味しかった!でも…ホントの良かったの?須賀くん」

「いいって、いいって」

「で、でも…」

「ん~、それじゃあさ、もう一箇所だけ付き合ってくれるかな?」

「うん、分かった」

レストランの代金は須賀くんが全額出すと言って聞かなかった。

と言うより、私が気づかない内に払ってしまっていたらしい。

どこへ向かおうとしているのか分からないけど、それくらいはお安い御用。

そう思って須賀くんと並んで歩く内、私は気付いた。気付いてしまった。

須賀くんが向かっている場所は……

「着いた!ここからの夜景は絶景らしいんだ。ほら、新子さんも!」

「やっぱり、ここだったんだ…」

ボソリと呟く。

そこは私が今日の予定の最後に、と思っていた場所。

須賀くんはどうしてここを選んだんだろう。もし、私と同じ理由なんだとしたら…

そんな考えが頭を過り、私の鼓動は際限なく高まる。

隣に並んで夜景を眺める須賀くんに、私の心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思ってしまうほどだった。

「……なぁ、新子さん」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

突然、本当に突然、須賀くんに声を掛けられて、私は声を裏返してしまう。

見れば、須賀くんは真剣な表情で私を見つめていた。

「実は、新子さんに言いたいことがあるんだ」

「な、何?」

これ以上は無いと思っていた心臓の鼓動が更に、痛いほどに速くなる。

頭は最早パニック寸前だった。



「最近さ、ずっとメールや電話で話してただろ?」

「う、うん」

「俺さ、新子さんほど話の合う女の子、初めてだったんだ。それでついつい楽しくて会話が弾んで、それがまた一層楽しくて…」

「うん、私も、同じだった」

「それでさ、気づいたら、こうなってた。もう、これはどうにも出来ないと思ったからさ。だから今日、正直に打ち明けることにしたんだ」

「……」

「新子さん!俺、君のことが好きだ!だから…もし良かったら、俺と付き合ってくださいっ!」

スキ?スキッテナニ?ツキアウッテナニ?

余りに衝撃的な出来事に私の脳が一時、処理能力を失ってしまう。

やがてゆっくりと須賀くんの言葉が私の脳に、心に染み込んでくる。

須賀くんが私を好きになってくれていた……告白してくれた……

完全にその内容が私に染み渡った時、唐突に私の視界が歪んだ。

それはもう条件反射とかのレベルじゃなかった。

だって、嬉しいと感じる前に、嬉し涙が溢れてしまったんだから。

「あ……ごめん、新子さん…」

「!!ち、違う!違うの!」

「え?違う、って?」

何も言わずに涙を流す私を見て、須賀くんがとんでもない勘違いをしていることに気付き、慌てて否定する。

早く、私の気持ちを伝えないと…

「違うの…これは、嬉しくって…だって…だって、私も、須賀くんのこと、初めて会った時から好きだったんだから!」

言えた、ようやく言えた。

予定とは全然違う、気の利いた台詞一つも無い、ただの宣言だけど。

それでも。今はこれでいいんだと。そう感じたんだ。

「え…あ、そ、それじゃあ…!」

「うん。私を、須賀くんの彼女にしてください」

「あ、ああ!これからよろしくな、憧!」

「うん、こっちこそ!京太郎!」

京太郎がギュッと抱きしめてくれる。

心臓は相変わらずドキドキしている。

でも、今はそのドキドキが心地よいものに感じた。



カン!