――どこで、俺達は間違えたのだろう。

ただ一つ、確かなのは。

俺に馬乗りになって包丁を突き立てた巴さんが、泣いていて。

その涙を拭ってやれないまま、死んでしまうことだった。

口が釣り上がって泣き笑いの表情を浮かべる彼女に――。

俺は、手を伸ばしたけど。

「――――!!」

届かなかった。拭えなかった。

あの、楽しくもどこか穏やかな日々は二度と戻ってこない。

畜生、と小さくつぶやいて。

そこから先は――ざしゅり。






巴「……お待たせ」

春「……」

巴「何のつもりかな?きょーちんの携帯で呼び出しなんてさ。
しかも、学校の屋上なんて所で何をする気?」

春「…………」

巴「黙ってないで答えてよ」

春「…………病院行った?」

巴「はぁ?」

春「病院、行った?信頼出来るお医者、行くべき」

巴「何、言ってるか全然わからないよ」

春「嘘、だから。お腹に京との赤ちゃんなんて嘘だから」

巴「違う!私はきょーちんとの子がいるから!はるると違って、私は!」

春「私と違って?ただ腰を振るしかできない人が子供?」

巴「彼女にすらなれなかったはるるに言われてもなぁ~。
彼女にすら、な・れ・な・い!はるるに言われても笑っちゃうだけだよ」

春「……っ」ギリッ

巴「あれれ、怒っちゃうの?へぇ~人並みに怒れるんだ。
ろくに笑えもしないのに」

春「妄想でしか付き合えない巴に言われたくない。
頭おかしいんじゃないの?産婦人科よりも精神科に行けば?」

巴「キチガイにキチガイって言われても悔しくないんだけどね。
それで、何?何の用なの?こっちは外に出る気分じゃないっていうのに」

春「家で一人で自家発電してる暇人に権利なんてない」

春「それに、巴に京の子供が産める訳ない。だって、京の彼女は私だから」

巴「……私だって、きょーちんの彼女になりたかった!好きな事も何でもさせた!
それなのに!何で、アンタなんかが!アンタが!アンタがいるから!」

春「……そこまで言うなら京に聞いてみればいい。京ならそこにいる」

巴「はぁ?そこって鞄があるだけじゃない」

春「中を見てみれば?」

巴「……!」

春「ずっと、一緒。京と私はずーっと、ずっとずっと」

春「ずっと、ずっとずっとずっといっしょ。幸せなキスをして私と京は添い遂げるの。
どこかの陰険眼鏡と違って馬鹿みたいにまたがってる尻軽とは違う」

巴「……うっ、あっ……!ゴホッゴホッ!あ、あっああっ」

春「首だけだったら持ち運びに便利。いつでも、どこでも。
どんな所でも、一緒にいられる」

巴「げへっ、ごほっ。あ……がっ」

春「それじゃあ。巴の言ってること、本当かどうか、確かめさせてもらう」








振り返った時は、全てが遅かった。

銀色の刃が脇腹に突き刺さり、贓物と『赤ちゃん』を抉り出していく。

ぷしゅぷしゅと音を立てて血が、吹き出していく。

ああ、私の!私の『赤ちゃん』が。

少し、大きめだった贓物ではない『赤ちゃん』を何の感慨もなく、踏み潰し。

はるるはグリグリと刃で傷を押し広げていく。

痛い、痛い。いたいたいたいちあちあいたいちああああ!

やめ、やめて!たすけてだずけてでえたたすけてあたすけ――!

「やっぱり、嘘だった」

助けて、きょー、ちん。

暗いよ、怖いよ、痛いよ。

いたい、よ。

「中に、誰もいない」

いた、い……。





「やっと、二人きり」

「京、ずっと、一緒。愛してる」

「幸せだよね、京も」

「そうだよね、そうに違いないよね」

「…………そうだって言ってよ」

「ねぇ、ちょっと」

「京」

「何か、喋ってよ」




NormalEnd!