かちり。かちり。
何かの針が進む音がする。
それはきっと――残りの命の音。
勝負に負けた、代償。
「京太郎……」
かちり。かちり。
嫌になるくらいに鳴り響くタイムリミット。
彼女の顔を見れない。声を聞けない。
何もかもが、全部……自分のせいだから。
勝てば、救えたのに。
「ねぇ、京太郎」
「……何ですか。恨み言なら、幾らでも受け止めます」
ようやく出た声はひどく乾いていて。
安心させる為に、無理矢理作った笑顔は今にも泣きそうで。
「……ごめんなさい。辛いものを背負わせちゃって」
「……っ!俺のせいで!俺が勝てなかったから!」
「違いますよ、京太郎。私が悪いんですよー、私が変な癇癪を起こしていなければきっと……」
「そんなこと……!」
「あるんですよー。ね、京太郎」
最後に俺に向けた表情は、可憐で、儚くて。
涙で滲んだ視界が最後だけクリアになった。
「私、京太郎のことが」
紡がれない。言葉は、もう紡がれない。
ぼんっと、軽い音を立てて――彼女の首に巻かれていた鉄の輪っかが、破裂したのだから。
ころころと転がってくる彼女の残片が俺を見る。
――殺した。殺した。殺した。
「あ……」
――殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。
――殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。
――殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。
「あ、あ」
その目、誰の目?はい、それは――はっちゃんの目です。
見るな、見ないでくれ。それ以上、俺を見ないでくれ。
「は、はっちゃん……?」
脳みそが飛び散ってぐしゃぐしゃになった彼女の頭を抱えて。
服勝ちで汚れるの気にせずに、叫び散らすのだ。
助けてください、と。
――だぁれも助けてくれないに決まってることを認めずに。
飛び散った脳みそを必死に掻き集めて。
手の爪に血肉が挟まったものなら一心不乱に取り出して。
集めても。集めても。
ただの肉と脳みそにしかなり得ないのに。
「は、はは」
肉。血。脳みそ。赤のサンドイッチの出来上がり。
あはは、おっもしれー。こんなにも集めても――生き返らないってよ。
「あひゃひゃひゃひゃっははははは、ゲホッ、あははははははっ!」
肉をグチュグチュと混ぜ合わせても。
潰れた眼球を無理矢理押し込んでも。
もとに戻らないんだぜ?
笑うしかねーじゃん、元の材料があるのにさぁ!
「ふひゃっ、ふぇへはははははははははっ!」
おかしいじゃん、全部集めたんだぜ?
パーツも元の場所に戻したんだぜ?
じゃあ、何で生き返らねえんだよ?
どうして、彼女は俺に笑いかけてくれないんだよ?
おいおいおいおい、何でだよ。
ああ、そっか。
まだ、材料が足りねえんだな?
だから、はっちゃんは生き返らないんだな?
そっかそっか、問題は解決だ。
「だったら、他の奴等を集めて合わせちまえばいいんじゃね?」
やっべぇ、俺って天才じゃね?こんなにも冴えた案はねーよ。
あれぇ?それじゃあ他の奴等死んじゃうんじゃね?
ま、大丈夫か。それだったら、またいっぱい集めればいいだけだし。
「待っててください、もう一度会えますから」
今は会えないけれど。きっと、また会えますから。
だから、生き返ったら。もし、俺がその時まで貴方のそばにいられたら。
最後まで紡がれなかった言葉の続き、聞かせてくれますか?
「京太郎っ」
ああ、いいところに来てくれましたね、良子さん。
どうしたんですか、そんな怪訝な顔をして。
「お前……」
すいません。驚かせてしまいましたね。
でも、ご心配なく。俺は全然普通ですよ!
ああ、そうそう。良子さん、いきなりですいませんけど、お願いがあるんですよ。
「ひっ……」
全く、怖がることはないのに。俺はただ、はっちゃんをもとに戻したいだけなのに。
その過程で良子さんを一旦バラすかもしれないけど、すぐに元通りにしますよ。
あっはっは。怖がりだなあ、良子さんは。
さーてと。それじゃ、良子さん。
「一旦バラさせてもらいますね」
【PureLoveEnd】
最終更新:2014年04月06日 20:30