誠子「んぐんぐ、うまいうまい」

京太郎「朝から食欲いいっすね……」

誠子「食べ盛りだからね、その分運動してるし」

照「羨ましい……朝は低血圧」

小蒔「えっと、朝はあまり食べないので」

京太郎「まあ、目の前で美味しそうに食べてるのを見て嫌な気分はしませんけどね」

照小蒔「「!!!!!」」

京太郎「というか、誠子さん。口にソースがついていますって」フキフキ

誠子「おおっ、悪いね。いやー、こういうのってお姫様みたい?あっはっはっ」

小蒔「……むぅ」

照「私達も口元にソースを付けるべき」

小蒔「そうですね、ここは協力して」

京太郎「聞こえてますよ、二人共。特に照さんは一番年上なんですから」

照「年齢は関係ない。アラフォー実家ぐらしがいるように」

京太郎「それ関係ないっすよね!?ってどうしたんです、小蒔さん?」クイックイッ

小蒔「口元にソースがつきました!」

京太郎「……はい、ティッシュです」

小蒔「……」グスン

京太郎「そんな涙目で見ても駄目です」

小蒔「……」プックリン

京太郎「膨れっ面をしないで下さい」

照「…………」ジーッ

京太郎「見つめても無駄です!」

誠子「……頭が痛くなる光景だね」

照「誠子は後で私と半荘三十回」

誠子「理不尽すぎると思うんですが……」

小蒔「羨ましいから仕方ないですっ!私もして欲しいですっ!」ズズイッ

照「同感、同感」

京太郎(俺もやられっぱなしは癪だ!ここは心を鬼にして!)

京太郎「あ、誠子さん飲み物なくなってますね。俺もなくなってるんでついでに取ってきますよ」

京太郎(誠子さんだけにやさしくしよう!二人のぐぬぬ顔見れるし!!)

誠子「お、サンキュー。でも、私も行くよ。スープバー行くし」

京太郎「そうですか、それじゃあ一緒に行きましょうか」


小蒔「…………」プックリ

照「おかしい、こんなことは許されない」

小蒔「羨ましいです、私も京太郎さんに色々とお世話……」カアアアッ

照「須賀君はああ見えて尽くす人だから」

小蒔「そうですね。でも、そんな京太郎さんを支えてあげたいなって」

照「……好きなの?」

小蒔「!?!?!?!?」

照「いや、驚かなくても。わかりやすいから」

小蒔「……そ、そうですか?」

照「うん」

小蒔「でも、結果が実りません……」

照「諦めたら負け、恋は勝ち取るもの」キリッ

照「かく言う私も男性女性どちらの経験も豊富」



京太郎「…………」

誠子「いいのか?先輩方をあのままにして」ヒソヒソ

京太郎「ま、大丈夫でしょう。
それに、引っ込み思案の照さんに友人ができるのはいいことでしょうし」

誠子「だね。卓上では怖い人ってイメージしかないから近寄りがたいらしいから」

京太郎「そうなんですか?」

誠子「そうなんだよ。後は、嫉妬やらなんやらかんやらで色々あるのさ」

京太郎「……」

誠子「君が気に病むことじゃないさ。こっちの話はこっちの人間が解決すればいい」

誠子「だから、君は自分の周りのことだけを考えていればいい」

京太郎「はい……」

誠子「それと、君自身のこともね」

京太郎「へ?」

誠子「何を呆けているのさ。自分を大切にしないで周りを大切にできる訳ないだろ?
君自身の夢を諦めるなってことさ」

京太郎「あ、ありがとうございます」

誠子「うん、それじゃいい時間だし出ようか。先輩ー、そろそろ部長達が心配しますよー」

照「無視すればいい」

誠子「駄目に決まってるでしょう!」

照「大丈夫、今日の練習は午後から」

小蒔「京太郎さん京太郎さん」ジーッ

京太郎「……?」

京太郎(どうしたんだろう、いきなり……)


京太郎(そうだな、ここは自分の気持ちに正直になろう)

小蒔「」ウズウズ

誠子「はいはい帰りますよ-」

照「やだ」

京太郎(それに朝のファミレス、マジ人少ないから大丈夫だろ!)

京太郎「愛しています小蒔さん!(大声)」

照亦「」ブーーーーーーッ

小蒔「――――ふぇ?」

京太郎「誠子さんに言われたんです、自分の周りのことを考えろって」

京太郎「思えば、俺は小蒔さんにちゃんと好きだって言ってなかった気がしたんです」

小蒔「あ、え……」アワワ

照「ちょっ」

誠子「はいはい邪魔しちゃ駄目ですよー」

照「」モガモガ

京太郎「昨晩の件、すごく嬉しかったです」

京太郎「正直、俺は今でも自分の気持がわからないけど。
小蒔さんのことは好きで、愛してると言ってもいいぐらいで」

京太郎「そ、それだけ言っとかないとって思ったら大声になっちゃったというか!」

京太郎「つ、付き合うとかまだわかんないし巴さん達も好きだし!」

小蒔「え、っとですね?とりあえず、落ち着きましょう」

京太郎「すいません、小蒔さん。その人照さんです。俺こっちですよ!こっち!」

小蒔「京太郎さんが二人ってことですか?」

誠子「……完全に頭がパンクしてるね」

照「私にも愛してますって大声で」

誠子「店員の目も痛いしさっさと退散しようか」

京太郎「あ、はい。小蒔さん逝きますよー」

小蒔「京太郎さんが三人、四人ですね。すごいですね」カオマッカー

京太郎(……やっぱり愛してるは言い過ぎだったかなあ)

誠子「で、いきなりアホらしい深夜テンションで大声を上げた須賀京太郎君」

京太郎「反省はしてますが、後悔はありません」キリッ

誠子「うん、もういいわ。めんどくさいから。
それより、私等はいい加減戻るね。さっきから部長からのコールが鳴り止まないんだ」

京太郎「取らないんですか?さっきも言ってましたけど心配してるって」

誠子「どうせ、説教だからいいのいいの。それよりも、これから帰るんでしょ?」

京太郎「はい、そうっすね」

誠子「ということは、これからエロいことを神代さんとする訳?」コソッ

京太郎「はぁ!?」

誠子「だって、愛してるんでしょ?愛さえあれば、関係ないよね!」

京太郎「ありますから!俺まだ付き合ってないですから!」

誠子「何言ってだこいつ」

照「誠子、疲れた」

小蒔「京太郎さんがいっぱいですねー」

誠子「……まぁ、ともかくこれから家に帰るんでしょ?
それならやっちゃえばいいんじゃないかな」

京太郎(えっ……えっ!)

京太郎「…………」

誠子「どうかしたの?」

京太郎「い、いえ」

京太郎(何でハギヨシさんを思い浮かべちゃったのかなぁ……)

京太郎(薔薇の花弁と裸のハギヨシさん)

京太郎(アリですね……)

京太郎「な訳ないから!」

誠子「うおっ!」

京太郎「すいません、取り乱しました」

京太郎「とりあえず、俺達は家に帰ります。後、やりませんから!」

誠子「残念。修羅場が起こるかもって期待していたのに」

京太郎「しないで下さい。小蒔さん、いい加減起きて下さい」ペチン

小蒔「わっ!あ、あれ……私達はファミレスにいたんじゃ」

京太郎「寝ぼけてるんじゃないんですか、帰りますよ-」

誠子「それじゃ、ここでお別れだね。また会えるといいね」

照「バイバイ誠子。誠子のこと嫌いじゃなかったよ……」

誠子「いや、先輩はこっちですから」ズルズル

照「……ぐすん」



京太郎「さてと、家に帰りましょう」

小蒔「…………」ポヤーッ

京太郎「小蒔さん?」

小蒔「すいませんっ、ちょっと寝ていましたっ」

京太郎「立ちながら寝れるんですか!?」

小蒔「なぜか出来るんです、麻雀をやりながらも寝れますよ!」

京太郎「自慢じゃないですよね、それ……」

小蒔「わ、私もなるべく起きるようにはしてるんですけど、どうしても眠くなっちゃうんです」

京太郎「……何かの病気だったりするんですか?」

小蒔「違います違いますっ。…………多分」

京太郎「本当に大丈夫なんですか……」


家に到着

初美「…………」

初美「………………」

初美「……………………」

京太郎「」

小蒔「な、なんでしょうか。いつものはっちゃんじゃないような」

京太郎(そらそうでしょうね!何の連絡もなく朝帰りですから!しかも小蒔さんと!)

京太郎(常識的に考えて致したと思われてもおかしくはないし)

京太郎(いつもなら、ここで俺はお説教になるパターンだけど今回は違うぞ!)

京太郎(ホテルで、小蒔さんに説得要員としてお願いしておいたんだ!)

京太郎(これで勝つる!俺がノータッチだってことを説明してくれるはずだ)

京太郎「じゃあ、行きましょう!」

初美「ほう、正面から堂々と帰ってくるなんていい度胸じゃないですか……」ピキピキ

京太郎「そりゃ、やましいことがないんで」

小蒔「そうですよっ!」

初美「くかーーーーーーっ!そんな言い訳に騙される私だと思わないでくださいよー!」

初美「何の連絡もなく、私達がどれだけ心配したと思ってるんですー!」

京太郎「携帯の電池が切れちゃって……ほんと、すんません!」

初美「……むぅ。でもでも、他にも色々と連絡する手段があったと!」

京太郎「そこは、パニクっててですね」

初美「そもそも、どうして朝帰りなんです?もしや……京太郎が姫様を騙して襲っ……」

京太郎「な訳ないでしょう。桜島観光をしてたら終電乗り過ごして、携帯の電池も切れて!
何でか知らないんですが、公衆電話も見つからなかった!」

小蒔「何もやましいことはしていません!はっちゃん、私達を信じれませんか?」

初美「ぐぬぬ……し、信じたいですけど-」

京太郎「安心して下さい、小蒔さんは無傷です!全然初もごぼっ!」

初美「……女の子の前でそういう発言は駄目ですよー」コカンキーック

京太郎「いひゃい、れす、そこは、だめででで」

初美「自業自得だから仕方ありませんねー。それよりも、姫様」

小蒔「は、はい……」ビクビク

初美「皆、すっごく心配したんですからね。今度からはちゃんと計画的に観光して下さい」

初美「そこでうずくまってる変態もいいですかー!」

京太郎「わか、ったんで……股間を執拗に蹴るのはやめてーーーーー!」





京太郎「久し振りの我が部屋!」

京太郎(何でかすっげぇ久し振りな気がするのは一体……)

京太郎(ともかく、疲れたことだし)

京太郎「そういや、あれからメール見てないな」

京太郎(うーん、結構な数が来てるけど……どれを見ればいいんだ?)

京太郎(面倒くさいから一つだけ見ておこう)

京太郎「…………これって」

【須賀君、さっきぶり。実は周りの皆が私のツモを馬鹿にするの。
私は他の皆と同じように打ってるだけなのに……とても悲しい。
それで、須賀君なら私は普通だって証明してくれると思ってメールしたの。
できれば、永水女子の人達を連れて合同練習といった感じでいこうかなって。
返事、待ってます】

京太郎「…………」

京太郎「正直、見なかったことにしたい」

京太郎(まあ、白糸台との合同練習となれば小蒔さん達も喜ぶかもしれないし)

京太郎「聞くだけ聞くか-」






霞「練習ねぇ……私はどちらでもいいけど」

春「行くの、面倒くさい……」ボリボリ

小蒔「……ぐぅ」

巴「正直、裏があるとしか思えませんよねぇ」

初美「怪しいですよー!きっとそのまましゃぶり尽くされてしまいますよー!」

京太郎「ですよねー。まあ、無理にとは言ってませんし、いいんじゃないんですか」

霞「じゃあ、そういう方向で。それよりも、朝帰りについての説教がまだ」

京太郎「いやいやいやいや!もう十分ですから!!」

霞「うふふ……」

京太郎「笑わないでくださいよ!怖いですって、いやマジで!」






照「…………」ポチポチ

照「……」ジュシンゼロ

照「…………」グスッ

照「まだ、わからない。もう少ししたら来る」

照「…………」カチポチ

照「須賀君……」ウルウル

照「…………!」ジュシンイッケン

照「来た……!」カチカチカチカチ

照「…………」メイワクメール

照「……まだ、わからない」

照「きっと、来る。返信が来る」

~一時間後~

照「……メール、来ない」

照「来たのは、迷惑メールだけ」

照「迷惑、メール……だけ」プルプル

菫「おい、早く対局場へ戻って……ってお前何どんよりしてるんだ?」

照「菫、私……嫌われてるのかな」プルプル

菫「はぁ?いきなり何を言い出すんだ」

照「メール送ったのに、返信来ない。ずっと待ってるのに」

菫「そりゃあ、相手によってはすぐ返信なんて来ないだろ」

照「須賀君はそんなことない」

菫「……いや、な。須賀君も忙しいかもしれないし」

照「朝会った時は暇そうだった」

菫「それとこれとは……って朝抜けだしたのか、お前!ったく、何考えてるんだ」

照「ファミレスに行きたかった、反省している。それよりも、メール」イッケンジュシン

照「……!!!」パアアッ

照「」メイワクメーール

菫「……」

照「……」

照「まだ、諦め」

菫「諦めろっ!いいから練習に戻るぞ!」

照「……」グスン




京太郎「いやぁ、まったりですねぇ」

霞「あ、お茶のおかわりはいるかしら?」

春「私もいる」

小蒔「zzz」

巴「お茶菓子は足りますよね?」

初美「…………」

霞「あ、京君はアイスティーでいいかしら?」

春「砂糖をサーッ」

巴「よくわかりませんけど、不吉な言葉ですね……」

初美「ううっ、ううううううっ!」

初美「うええええええええいい!何なんですかーーー!このいかにもほのぼのな日常空間はーーー!!!」

巴「いやいや、元々はこんなまったりとした感じじゃないですか。ハッちゃん」

京太郎「何故かやることがない手ぶら状態なんですし、まったりしましょうよ」

初美「それじゃあ面白く無いんですーーー!:

京太郎「……えー」

京太郎(どうすっかなー、このままだとめんどくさそうなことになるけど)

京太郎「……」ハア

初美「ふふふふーーん!何だかんだで相手をしてくれる京太郎は最高ですよー」

京太郎「腹パンしたいドヤ顔やめてくださいよ……まるでどこぞのスカイダイビングアイドルじゃないですか」

初美「そこまでひどくないですよ!?」

京太郎「ともかく、いい子いい子ー」ナデナデ

初美「ふへへ……ってごまかされてます!?」

京太郎「チッ」

初美「露骨にも程がありますー!」

巴「どうどうどう」

初美「馬じゃないですよ-!!!!!」

京太郎「っとまあ、ハッちゃんが無駄に元気なのはともかく」

初美「プンスカですよー!」

京太郎「今更ですけど、男一人女五人ってすげぇ状況ですよね?」

初美「よくあることですよね?漫画でもお決まりのシチュエーションですよ」

京太郎「つーことは、この中で……」

巴「??」

京太郎「いや何でもないです!」

初美「途中で切らないで下さいよ……気になるじゃないですかー」

京太郎「ほんと、どうでもいいことなんで。ただ、俺って恵まれてるなーって」

京太郎(危ねぇ……恋愛関係になったりー!なんて冗談言いそうになったぞ……)

京太郎(仮にも告白してきてる女の子の前でそれは駄目だろ!)

京太郎(はぁ、いい加減色々と決めるとこ決めねぇとなぁ)

初美「???」

京太郎「ほっぺたぐいーん」

初美「な、にゃにすりゅんですー!」ムニムニ

京太郎「よく伸びそうなほっぺただったんでつい」

初美「むゆーーー!」

春「……馬鹿ばっかり」

巴「まあまあ」

霞「仲良き事は美しき哉。気兼ねない関係っていいわねぇ」

小蒔「zzz」



京太郎「まったりだったなあ」

京太郎(しかし、ハッちゃんはどうしてあの痴女スタイルを貫くんだろうなあ)

京太郎(さってと、どうすっか?)

京太郎「そういえば、巴さんから何か本を貸してもらうって約束をしてたな」

京太郎「……暇だし行くか」

~~巴の部屋前~~

京太郎(まあ、同じ家の中だし時間はかかんねーよな)

京太郎「巴さーん、入りますよー」

巴「ちょ、待って!」

京太郎(待てと言われて待つ俺じゃない!だが、普通に入るのも面白くない!)

京太郎(同じ金髪のデュエリストが言っていた!エンターテイメントは大事にって!)

京太郎(ここは――ローリングをしながら入る!それも勢い良く!)

京太郎「行くぞ……!」

京太郎は襖を乱暴に開け、身体を横に倒す。

そのまま勢い良く、宙を舞う!それは、さながら走り高跳びの選手のように!

横への回転は強くしなやかに。ただ転がるだけじゃない、見る者全てを魅了するかのようなローリングを!

京太郎「跳べよおおおおおおおおお!」

回せ、廻せ、舞わせ――!今の自分は回転の鬼才、須賀京太郎なのだ。

畳を転がる時でさえ、気を緩めない。それが、エンターテイメント!

だが、回転は永遠には続かない。始まりがあれば終わりがあるのだ。

京太郎渾身のローリングもやがて勢いをなくし、動きを鈍くする。

その終点は、大きく、ぶ厚く、それはまさに壁だった。

ヒキガエルの悲鳴にも聞こえる呻き声を上げ、京太郎のローリングは終わりを迎えた。

京太郎「どうでしたか!巴さん!!!」

目を見開き、爽やかスマイルを見せる京太郎であったが、一つおかしなことに気づく。

彼女の顔が見えないのだ。おかしい、確かに声は部屋の中から聞こえたはずだ。

視界は部屋と2つに割れた肌色だけ。

京太郎(肌色?)

ここで京太郎は疑問に思う。何故、肌色なのだと。

巴「あ、あ」

何だ、声は聞こえるじゃないか。巴は自分のローリングを見ていてくれたのだ!

これを恍惚と呼ばずして、他に何を叫べばいい!

京太郎は興奮のあまりそのまま立ち上がる。

だが、その動作は最後まで遂行されることはなかった。

途中で柔らかい感触に阻まれたのだ。むにゅんとした何かに顔を突っ込んで、京太郎はバランスを崩す。

巴「ひゃあっ!」

京太郎「おわっ!」

そのまま、京太郎は地面に縺れるように倒れこむ。

鈍い痛みが全身に響く。しかし、それよりも上に乗っかかる重みは何なのだろう。

この重さが痛みを増幅させた元凶だ、ああ、痛い痛い。

京太郎は、再び目を開けて現状を確認すると――。

巴「…………み、見ないでくれると嬉しいんだけど」

――そこにいたのは、生まれたままの姿でぷるぷると震える巴がいた。

瞬間、京太郎は考える。先程、自分が突っ込んだ何かの正体を。

そして、導き出す。たったひとつの明確な答えを!

京太郎「巴さん」

巴「何かな?」

京太郎「柔らかかったです」

間髪入れずに、殴られた。



【Bestcommunication!】

巴「はい、何か言うことは?」

京太郎「やわらか」

巴「もう一回殴られたいかな?」

京太郎「やめて下さい申し訳ありません」

巴「はい、それじゃあもう一回聞きます。何か、言うことは?」

京太郎(ヤバイ、とりあえずすごくヤバイ!)

京太郎(あの温厚な巴さんが顔を真っ赤にして怒ってる!)

京太郎(かくなる上は、アレを!)

京太郎「巴さん!」ダッ

巴「へっ?」

京太郎「この度は」ジャーンプ

京太郎「誠に」クルルルルルル

京太郎「申し訳!」ギュルルルルルルルルル

巴「これは……極東の土下座の中でも随一を誇るあの技!?」

京太郎「ありませんでしたあああああああ!」

巴「トリプルアクセル土下座!」

京太郎「この土下座が巴さんへの最大の謝罪の証!」

巴(…………いやいや、訳がわからないんですけどね。何ですかトリプルアクセル土下座って)

京太郎「申し訳ありませんでしたーーーーーー!」

巴「う、うん。そこまで謝られたら……いいですってもう!今回だけですからね!次はないですからね!」

京太郎「本当ですか!やったー!」

巴「そういう悪ふざけは、他の人達にはやったらだめですからね」

京太郎「了解っす!いやあ、巴さんの裸、綺麗でしたよ。これだけで生きていけるっていうか」

巴「何あほなこと言ってるんですか」

京太郎「本当のことですしー。あ、いたいいたいほほつねらないでくだひゃい」

巴「…………本当に、馬鹿みたい」

巴「それで、結局は何の用です?まさか、今の茶番をやる為だけに来たんですか?」

京太郎「いやいや、そんなことないですって!丁度暇だったんで、巴さんと何か話したいな~って」

巴「はぁ……私なんかよりも姫様やハッちゃんの方が食いつくと思いますけど」ジーッ

京太郎「あ、あはは……」

巴「笑って誤魔化さないで下さい。いい加減決めたらどうなんです?」

京太郎「……ハイ」

巴「と、まあお説教臭くなりましたけど。心配してるんですからね、その内後ろから刺されないか」

巴「恋する女の子は怖いですよ?」

京太郎「俺も刺されるのはちょっと……」

巴「なら、さっさと決めなさいな。死ぬのは嫌でしょう?」

京太郎「……はい」

巴「よろしい。もちろん、君自身の気持ち優先でね」

巴「それとも、全員選びますって豪胆な考えでもあるなら別ですけど」

京太郎「俺の身体がもちませんってば……色々と辛くてめげますよ!」

巴「だと思う。うん、頑張れ若者」

京太郎「巴さんだって同じ若者じゃないですか。そもそも、俺と歳そんなに変わらないでしょう」

巴「それでも、私はお姉さんですからね。先人は後に続く者を導くってね」

巴(これで、いい)

京太郎「あはは、なんすかそれ」

巴(うん……私はこの位置でいい)

巴(下手に進んで怪我はしたくありませんし)

巴(だから――駄目。駄目なんですよ)

――自室

京太郎「……」

京太郎(俺が、好きな人かぁ)

京太郎「ああああああああああ!!!わっかるわけねー----!」

京太郎(そもそも恋って何だ、食えるんですかぁ!の俺にんなことわかるか!)

京太郎「…………叫んだら、あっちぃ」

京太郎「縁側に涼みに行こ……」

京太郎「こればっかりは誰かに相談できるもんじゃねーよなぁ……」

京太郎(ハッ、なっさけねーの)



京太郎「……」

巴「……何ですか、その顔は」

京太郎「いや、さっきかっこつけて部屋から出てきたのに締まらないなあって」

巴「今更何を。元から緩みっぱなしじゃないですか」

京太郎「否定出来ない自分が憎いです」

巴「否定する気がない癖に」

京太郎「……」

巴「……」

京太郎「ククッ」

巴「ふふっ」

京太郎「……鹿児島に来てからまだちょっとしか経ってないんですよね、俺」

巴「ええ。まだまだこれからですよ」

京太郎「色々とありましたよ。美少女にも会えて嬉しい経験盛りだくさんでした」

巴「それを私の前で言う?」

京太郎「巴さんも美少女ですしね」

巴「……そういうことをさらっと言うからたらしなんですよ」

京太郎「本音はちゃんと出さないと破裂しちゃいますから。巴さん可愛い」

巴「取ってつけたように言わないで下さい!」

京太郎「顔がほんのり赤いですよ?」

巴「赤くないですってば!」

京太郎「そうやってムキになるところも可愛いんですよ、ええ」

巴「ちょ、やめてってば……もう……っ」

京太郎「いつもいじられっぱなしなんでたまにはやり返したくなるんですよ!」

巴「子供ですか!」

京太郎「まだ子供でしょう、俺も巴さんも」

巴「……むぅ。一理あるけどさ」

京太郎「でしょう。だから、俺は」

巴「それとこれとは別。悪くないなんて言ったらはっ倒しますよ?」

京太郎「それは勘弁して下さい」




巴「……あの、」

京太郎「はい?」

巴「やっぱりいいです」

京太郎「……」

巴「そんな恨みがましい目で見ないでください」

京太郎「オレは想うんですよ、本音はちゃんと出すべきだって」

巴「出さない方がいいこともあるのよ」

京太郎「だけど、相手は俺じゃないですか」

巴「君だからこそ言えないこともあるの」

京太郎「俺だから?」

巴「わからないならわからないでいいです」

京太郎「???」

巴(…………抑えきれないのかなぁ)

巴(思ってたよりも、想っているってことですかね)

巴(好きって言えないのが、こんなにも辛いなんて)

巴(素直になれないのは、私の方なのに)

巴(…………)

恋をした。
言葉にすると簡単ではあるが、実際の所よくはわからない。
誰々を好きになって、告白をして。
運が良ければ付き合って、価値観の相違が原因で別れたり。
恋を起点に、俺らみたいなのは一喜一憂したりするんだろうけど。

「……はぁ」

それが、いざ自分のことになるとこうも困惑してしまうのは、全く持って困ったことだ。
好意を向けてくれる少女という存在を前にして、俺は悩む。
誰が好きなのか、この胸に渦巻いている熱情は本当に恋なのか。
恋か、それともちょっとだけ深くなりすぎた友情か。
何もかもが初めてで、答えが出ない。
今もこうして、布団に横になっているが、背負う気持ちが重すぎて寝ている気がしない。
畜生、恋愛。俺を金縛りにしやがって。いつか、全力でぶん殴ってやる。

「素直になるっつっても、どうするべきなんだかね」

もっとも、ぶん殴る対象は、答えが出ない俺を見てクスクスと笑っているのだ。
たったひとつの冴えた答えは、頭から抜け落ちている。
わかっているのは、このままの関係を続けるのだけは違う。
それだけは正しいと思った。
いつまでも絶えることのないぬるま湯に浸かり続けて、楽な日常を送る。
きっと、それは誰もが望んでいて、誰もが否定しているものだろう。
前に進んで、停滞していた関係を踏み越えておいて、今更やっぱりずっとこのままだなんて虫が良すぎるし、何よりも嫌だ。
ともかくだ、このままじっとしていても始まらない。
悔しいことに、このままだと答えを出せぬまま、一日を終えてしまうのだから。

「外にでも、出っかな……」

何の気もなしに、俺は目をカッと見開いて天井を望む。

――動かなきゃ、押し潰される。

かったるい身体を無理矢理に起こして、ぐぐっと背伸びをする。
力の入らないフラフラの身体に喝を入れて、俺は部屋の襖をそっと開ける。
今頃、俺以外の住人は寝ていることだろう。騒いでしまったら迷惑だ。
気配りのできる青年で通っている須賀京太郎のイメージを壊すのはいけないことだ、うん。
部屋とは違う、少しだけ蒸し暑い空気を吸いながら、足音をなるべく立てず灯りのない、廊下を歩く。
鹿児島の夏は暑い。歩いているだけでも、肌に汗が浮き出してくる。
外に出たらもっと暑いんだろうなぁ。ああ、煩わしい。こういう時は北国が羨ましく感じる。

それでも、見ている世界は変わらない。眼の前に広がる空は、こんなにも――――。

月が綺麗な夜だった。煌々と金色の光を吐き出している丸い物体が、何故だかとても見入ってしまって。
柄でもない、俺みたいな脳天気を地で行く奴が月に見入ってしまうなんて恥ずかしくて言えやしない。
だけど。今の俺はどうかしちまったのか――掌を月へと、右手を伸ばしてそっと金色を掴んだりしてしまう。
ああ、重症だ。どうやら本気で俺の頭はイカれちまっているらしい。
見上げた空に落ちていく、とでも言えばカッコつけれるか?そいつは大層に傑作だな。
そうやって、カッコつけてるからわかんねーんだよ。

―ふと視線を下げると“彼女”が自分に向けて笑みを向けていることに俺は、やっと気づく。

京太郎「つ、月が綺麗っすね」

ありきたり。平凡。そんな言葉を俺は、彼女に――狩宿巴に投げかけた。

巴「ま、そうですね。さっきまでの挙動は見なかったことにします。
で、何でここに?いい子は寝る時間ですよ」

京太郎「ははっ、なんというか、落ち着かなくて」

巴「珍しい、いつもは爆睡なのに」

京太郎「寝苦しいといいますか、ともかく寝れなかったんです」

金縛りになるまで考えてましたなんて、恥ずかしくて言えやしない。
このことは墓に入るまで持っていくとしよう。
もし、誰かに知られでもしたら――うわあ、恥ずかし、恥ずかしい!
死因、恥ずか死。現代に新たな死に方を刻んでしまうぜ、俺。

京太郎「巴さんはどうしてここに?」

よかった、ここにいるのが巴さんで。
ハッちゃんだったら、小学生ー!とか、馬鹿にされそうだ。
さすがにハッちゃんには言われたくない。ロリロリ体型に小学生とか絶対に言われたくねぇ。

巴「……同じ理由ですよ。何となく」

京太郎「そうですか、奇遇ですね」

沈黙。会話が続かない。何故なのか、いつもはもっとポンポンと言葉が出てくるはずなのに。
うーん、どうしてだか。コミュ強京ちゃん敗れたり!全くもって、笑えん。
それに、月明かりに照らされて、髪も下ろしている巴さんはいつもとは違った雰囲気で。

――何というか、ドキドキする。

胸に渦巻く感情が、疼く。何にもしてないのに顔が熱くなって、巴さんを直視できない。

巴「……あの」

京太郎「……あの」

そして、この有り様である。口に出した言葉がかぶるとかどこの漫画だよ。
本当に、締まらん。呆れたため息の一つでもつきたくなる。

巴「そ、そっちから」

京太郎「いやいや、ここは巴さんの方から」

巴「……じゃあ、私から。決まった?」

京太郎「決まったとは?さ、さて何のことでしょう」

実は悩んで寝れませんでした、なんて言える訳がない。
純情少年まっしぐらな有り様は、さすがになぁ。
薄っぺらいけれどプライドが邪魔しちまうっての。
いや、もうこの真っ赤な顔でバレバレだと思うけど最後の一線は超えないんだ!

巴「意気地なし」

京太郎「はい」

巴「ヘタレ」

京太郎「はい」

巴「鈍感」

京太郎「返す言葉がございません」

巴「天然タラシ」

京太郎「いやそれは……はいすいません、睨まないでっ」

次々と巴さんの口から出てくる罵詈雑言は、俺をチクチクと突いてきて笑えない。
そりゃあ今までたくさん迷惑かけてきた訳ですし、否定はできないからさ。
だから、甘んじてこの口撃を受け入れるのが筋というか。

巴「……ま、今更ですけどね」

だって、最後は困ったような笑みを俺に向けてくれて。

巴「ホント、困った後輩ですよ」

いつだって、変わらずに、俺の手を取ってくれるんだ。
他の誰でもない須賀京太郎を真っ直ぐに見てくれる。
ただ、それだけのことが――俺にとっては何よりも幸せで。
だけど、甘やかしてばかりじゃなくて、時には突き放して。
普段は澄ました顔だけど、割と慌ててそそっかしいこともある巴さんのことを――。

京太郎「あ、そっか……」

やっと、わかった。
恋をする、なんて簡単なことだったんだ。
小難しく考え過ぎて、目の前が見えてなかっただけで、俺はとっくに――。

何が正しくて、正しくないか。
そんなの関係ないんだ。
単純に、好きなら好きって言えばそれで済む話なんだ。
受けいれられなかったらどうしようとか、これでいいのかなんて雑念、全部投げ捨てちまえ。

京太郎「巴さん」

巴「ん?」

今度こそ、間違えない。
自分が一番言わなければならないことを。
彼女の顔をはっきりと見て、伝えよう。

京太郎「好きな人、俺います」

巴「うん、知ってるけど」

今まで過ごしてきた期間は短いかもしれない。
それでも。それでも!

京太郎「俺が一番好きなのは、巴さんです。俺には、貴方しか見えない」

手を伸ばせば、彼女はそこにいるのだ。
なら、迷わない。もう、違わない。

京太郎「巴さん。好きです、俺と、付き合って下さい」

だから、俺はもう逃げないと誓おう。
好きという気持ちを、言葉にしよう。

巴「……本当に、私でいいの?」

京太郎「はい」

巴「私、姫様達みたいに目立ってないよ?」

京太郎「俺は一番、巴さんが可愛いと思ってますよ」

巴「か、可愛いって」

京太郎「自分に素直になった結果がこれなんで」

巴「いや、でもさ……」

京太郎「何を言っても、無駄ですよ。惚れちゃったからには、ちゃんと好きって言わないと。
自分の気持ちに区切りをつけろって言ったのは巴さんじゃないですか」

巴「う……」

京太郎「答え、聞かせてくれませんか?」

顔を真っ赤に染めて、そっぽを向いてる彼女はやっぱり可愛くて。

巴「えっと、その」

巴「ちょ、うん…………」

巴「……き…………」

京太郎「すいません、マジで聞こえませんでした」

巴「……好き、だって言ってるんです!私だって、好きですよ!
ええ、悪いですか!悪く無いですよね!?」

まさかの逆切れである。いやいや、告白をしたら逆ギレされるってレアケースにも程があるよな!
ま、でもいいか。

京太郎「んじゃ、抱きしめても問題ないっすよね」


彼女の身体を強く引き寄せて、抱き締めた。
おぼつかない、頼りない両手を少しずつ彼女の背へと這わせる。

巴「あの、ですね……名前で、呼んでも?今までまともに呼んだこと、なかったから……」

京太郎「はい、どうぞ」

巴「きょ、京太郎……っ」

うん、すごく気恥ずかしい。何だこの甘ったるい空間は。
ぶっ殺したい、ああ世界は俺達中心だぜって言うくらいに甘い。
だけど、それ以上に幸せで。
俺はここにいてもいいんだって認められているみたいで。

京太郎「ありがとうございます、俺を好きでいてくれて。俺を見てくれて」

巴「それを言うなら、京太郎だって……こ、こうやって面と向かって言うのは、恥ずかしいですけど」

京太郎「はは……でも、俺は言いますよ、だって巴さんが好きですから」

俺は、巴さんの身体を軽く離す代わりに、口を近づけて。
そっと、触れ合う程度のキスを交わす。
幸せだった。今だけは、辛かった過去なんて吹き飛んでしまった。

――幸せ、だ。

きっと、この瞬間だけはどんなに辛いことがあっても忘れないだろう。
誰よりも愛しい彼女に触れることができる瞬間を。
彼女と寄り添いながら生きていける未来を。
俺と巴さん以外、全ての動きが止まった今、最後に思うのは。
幸せだった。それだけは間違いなんかじゃない、間違いにさせない。
例え、世界が崩れても変わらないものがあることを――俺は、忘れない。








【NormalEnd】