それからの話を、俺、須賀京太郎がしようと思う

試合が終わったその時のことはあまりよく覚えていない

笑いながら泣いていたる部長、声をあげて泣いている優希と和、二人をなだめている染谷先輩

そして、画面の向こうで目を閉じて少しだけ微笑んでいる咲、みんなの顔だけは、よく覚えている

俺は咲を迎えに行った

対局室前で、

淡「テルーやったよ!!これでKちゃんゲット…え!?無い!?なんでー!?」

何か淡が白糸台の人達相手に騒いでいた

アイツ、優勝して何が不満なんだ?

穏乃や臨海の大将も、え?みたいな顔をしていた気がするが……気のせいだろう

とりあえず咲の手を引き、控え室に戻った

咲は堪えていたようだが、控え室に戻った途端、優希や和と泣いていた

そして、清澄高校の団体戦は終わった

インタビューやらなにやらあったが、適当に流して俺たちはホテルに帰った

久「優勝できなくてすっごく悔しいけど……すっごく楽しかったわ。まこ、それにみんな。後をお願いね」

そう言って部長、竹井先輩は染谷先輩を次の部長に任命し、個人戦の準備をすると言った

お疲れ様です

あなたがいたから、ここまで来ることができました

ありがとうございます



その数日後、個人戦は始まった

咲も和も気持ちを切り替えて個人戦に臨んでいるようで安心した

しかし、とんでもないことが起きた

個人戦2日目の午後

チラホラ去年活躍した実力者なども出始めるこの日に

咲「えっと……よろしくお願いします」

照「……よろしくお願いします」

姉妹対決が実現してしまった

なんでだよ!

そう思ったのは確実に俺以外にいるだろう

最後の最後、全国1位を決める試合!

そういうところで当たるべき二人だ

神様、いたらとんでもねーわ

この二人をこんなところで当てるし

照「なんて言うか……こんなとこで当たると思わなかった」

咲「うん……私も」

照「でも……全力でいくからね?」

咲「私だって……負けないよ、お姉ちゃん!」

その日のどの試合よりも注目された試合になった

試合内容は……二人の選手が可哀想とも思える内容だった

最後に選手が一人飛んで僅差で照さんの勝ち、という結果で試合は終わった

飛んだ選手は全国的に見ても無名だったらしく、実力差は歴然だった

試合終了後、それ以降の試合は棄権したとか

ただ、その卓にいたもう一人の選手は、直接の振込みそのものは無かったがツモで削られて3位という結果だった

しかし、全国1位の宮永照

その妹で、自身より明らかに実力が上の宮永咲

その二人を相手に、最後まで諦めず、むしろ勝ってやろうという姿勢で打った彼女は、各所で活躍した選手達とまた違う意味で有名な選手となった

彼女はその後の試合も最後まで出場し、相手がどんな有名で、どんな強敵でも最後まで諦めずに打った

後に彼女はこう言っている

やえ「諦める?最後まで勝ちにいかないニワカのような真似を私がやるわけないだろう!」

彼女のその姿勢は、王者のようだった


その後の咲は、燃え尽きたのか照さんとの直接対決に満足したのか、それまでほど圧倒的な勝ち方じゃなかった

それでも、相手が勝手に怯えたり、カタカタしたり、恭子の仇やーと燃えたりで、最終的な順位は21位だった

和は、相変わらずのデジタル打ちだった

団体戦の悔しさからか、今まで以上に早く『のどっち』になっていた

しかしそれでも、全国の壁は高かった

個人戦最終日、和の相手は荒川憩さんに、辻垣内智葉さん、神代小蒔さんだった

さすがの『のどっち』も、この実力者ととんでもないオカルトには敵わず、8位という結果に終わった

和「……そんなオカルトありえません」

戻ってきた第一声がそうだった

和はどこまで行っても変わらないな……

個人戦の優勝はやっぱりというか、当然の如く照さんだった

優希「いや……アレ無理だって」

珍しく真面目な顔の優希がそう言う

優希「ドラ無しで私フルボッコだじぇ?ドラ縛りなけりゃーこうなるって。あんなんと渡り合った咲ちゃんが凄すぎるじょ」

うん、気持ちは分かるが照さんをアレとかあんなんとか言うのはやめろ?

麻雀以外なら無害かドジなお菓子好きの人だから

あ、咲も似たようなもんだったな

優希「……なんで咲ちゃん21位なんだろ?」

本人のやる気の問題だな

こうして個人戦も終わり、インターハイは幕を閉じた

閉会式で開会式の時のような視線を感じたが……どうでもいいか

みんな知り合った何人かの人に挨拶をして回った

竹井先輩や和はマスコミのインタビューもあったようで忙しそうだった

でも竹井先輩……挨拶の相手なんか多くないですか?

俺も一応知り合った人には挨拶をした

やけに惜しまれたりまた連絡してと言ってくる人が多かった



煌「あなただけでなく、和や優希も、また会いましょうね」

姫子「れ、連絡待っとるけんね!」

哩「その……タコス、美味しかったよ。また、会ってくれる?」



桃子「帰りは別っすからねー。今度また合宿とかやるっすよ!」

ゆみ「全くモモは……ああ、私もその時はまた参加したいな」



穏乃「今度遊びに行くからね!」

憧「その……メール、するからね?」

玄「ぜひ!ぜひ長野のおもちを教えてね!!」

宥「あったかいあなたに会えてよかったよ」

灼「……こ、今度ボーリングでも」



エイスリン「……ハイ!」(海外の住所と連絡先とハートのイラスト)

塞「あはは……忙しくなるけど、連絡するね」


泉「えっと……今度ネト麻とか……」

セーラ「またな!あ、今度は打とうなー!」

怜「……ウチ病弱やから、こまめに連絡してな?病弱アピール?……連絡してほしいんはホンマやで?」

竜華「あんま話す機会も無かったけど……大阪に来た時は連絡してな?」



洋榎「大阪来たら連絡やで!え?これ言われたん2度目?……ウチを先にな!」

絹恵「お姉ちゃん、そこはうちだけって言えばええんちゃう?……あ、サッカーとか興味ある?近いうちに試合あるんがやけど…」

洋榎「絹!?絹が……絹が逆ナンしよるなんて……おかんと浩子に言ったるー!!」

絹恵「お姉ちゃん!?知ってる人相手でも逆ナンて言うん!?」



ダヴァン「東京とアメリカに来た時はぜひ連絡を!おいしいラーメンをご馳走シマス!」

明華「アメリカでラーメンはないと思いますよ。またお会いしましょうね」

ネリー「監督に頼むからさー、うちに来ない?」

智葉「引き抜くなっつったろ!!……ああ、前に言ってた件だが……大丈夫だ、そちらの部長とも連絡先は交換した近いうちにまた会おう」

ハオ「楽しみですね。また会えるのが」



憩「体は気ぃ付けてなーぁ」

やえ「うむ、体調管理は基本だからな!それを怠るようなニワカな真似はするなよ!……あ、Kちゃんってどうやったら買える?」



春「はい黒糖……また送る……」ニコッ

初美「はるるー?なんでそんな笑顔ですかー?あ、このお面どうぞー!……冗談ですよー?」



誠子「今度、長野に釣りに行くから、その時連絡するよ」

尭深「私も行くから……美味しいお茶、持っていくね?」

菫「その……約束、覚えているよな?ああ、必ず君に麻雀を教えるよ。うん、また」

淡「絶対絶対連絡してね!絶対の絶対だよ!!……私からも、絶対連絡するからね?」

照「夏休みの内に、一度長野に帰るから。うん……いろいろ難しいかもしれないけど、私と咲は大丈夫だから……また3人でね?」



みんないい人だ

そこからはあっという間だった

ホテルで荷物をまとめ、俺たちは長野に、清澄高校に帰った


清澄高校に帰った俺達を待っていたのは……多くの人達だった

久「え?……これ……」

副会長「お疲れ様です……えーっと……会長達が今日帰ってくるって聞いて……」

「会長!お疲れ様です!」

「準優勝とか……すごいです!」

「準優勝記念だ!学食のタコス割引だよ!!」

「おう!またラーメン食っていきな!金はいらねぇよ!腹一杯食ってけ!!」

マホ「先輩方お疲れ様です!全国大会、すごかったです!!もうすごくてすごくて!!それで……えと……」

裕子「落ち着けって……先輩方お疲れ様です。なんていうか……感動しました」

久「……もう……いらないって……言ったのに……」

竹井先輩の目が潤んでいたのは、見間違いじゃないと思う

後ろには、見覚えのある同級生から知らない上級生までいた

おそらく先輩たちのクラスメイトや友人だろう

「お疲れ様!」

「会長すごいぜ!」

「まこー!今度お店行くねー!!」

「優希やるじゃん!」

「原村さんもすごかったよー!」

「宮永さん最後かっこよかったー!!」

「須賀帰れー!」

最後誰だコラ

久「もう……騒がないの!ああもう……お土産もっと買っとけばよかった……」

まこ「そうじゃな……おいおい、ウチの店の常連まで……どさくさまぎれてチラシ配りよる……」

しばらく騒がしそうですね

久「もう……やっと解放されたわ」

今は部室にいる

あれからしばし揉みくちゃにされた

俺はどちらかと言うと叩かれまくったが

副会長とか全力だったな……

久「さてと……賞状やらなんやらは部室でいいわね?」

まこ「ああ。また夏休み明けにいろいろあるじゃろうが……とりあえずは置いといていいじゃろ」

優希「それじゃあラーメン食べにいくじぇ!」

咲「うん。何人かは待ってるって言ってたよね?」

和「はい。あのお店に入る人数でしょうか……」

そう言いながら外に出て、ラーメン屋に向かう

その途中、1台の車が俺達の近くに停まった

京太郎「ん?まだ待ってる人がいたのか?」

和「この車は……」

優希「……のどちゃん?」

車から、一人の男が降りてくる

咲「和ちゃん、知り合い?」

和「……父、です」

和は、震えていた

和父「……帰ってきたと聞いて、来てみたが」

和「その……今からみんなで夕飯を……」

和父「そうか……以前言ったことは覚えているな?」

和「……はい」

一体、なんなんだ?

親子というのに、和は今にも泣きだしそうな顔だった

和父「試合自体はテレビで見ていた……団体戦は準優勝で、個人戦で8位だそうだな」

和「……はい」

和父「……和」

和の肩がビクッっとなる

和父「……来年は頑張れよ」

和「……え?」

和父「荷物があるなら持っていこう。後で迎えに行くから連絡するようにな」

和「えっと……荷物は……ありますけど……え?」

和父「うむ……成績だけは落とさないように」

和「あ……はい!!」

和父「ではな。高校生だから、あまり遅くならないように」

和「あの……どうしてですか?」

和父「……何、頑張る娘を邪魔することを、やめようと思っただけだ」

そう言って和の父親は行ってしまった

久「邪魔って一体……和!?」

和は、泣いていた

優希「ど、どどうした!?何があったんだじぇ!?」

まこ「お前さんの親父のせいか!?成績とか、いったいなんなんじゃ!?」

咲「その……お父さんと、喧嘩?」

和「いえ……違います」

和は、泣きながら、嬉しそうに言った

和「……麻雀を続けていいということが……嬉しくて……」

後で、和と父親がしていた約束を聞いた

色々と思うことはあるが……良かったな、和

そして、数日が過ぎた

京太郎「咲……」

咲「……何?」

京太郎「頼む……お前にしか頼めないんだ」

咲「京ちゃん……でも……」

京太郎「俺にはお前しかいないんだ!!」

咲「……京ちゃん」



咲「……さすがに夏休みの宿題を丸写しはできないよ」

京太郎「頼むよー!!お前にしか頼めないことなんだよー!!」

俺は咲の家に居た

理由はにっくき夏休みの宿題だ

東京やらなんやら行ってる間、まっさらなままだったブツである

これを残り数日で仕上げるなど、不可能だった

咲「なんで私なの?」

京太郎「先輩たちは忙しそうだし、和はこういうこと許さないだろ。優希は論外」

咲「京ちゃん、友達結構多い方だよね?」

京太郎「野郎共は全員爆ぜろだのもげろだのお前ばっかりだの言って無理だった」

俺が何をしたというんだ!

そんな爆ぜたりもげたりするようなことやってないっての!!

この夏は知り合いこそ増えたが東京でやったのは雑用ばっかりだ

あいつらが羨ましがるようなことは一切やってない!!

咲「……なんとなくその男の子たちが言いたいこと分かる気がするなー」

お前までそう言うなよ!

京太郎「頼む!お前の言うことを何でも聞いてやるから!!」

咲「…………」

アレ?失敗した?

そういえば決勝の時も言ってたけど、あの時は結局無しになった訳だし

京太郎「あの……咲?」

咲「しょうがないな、京ちゃんは」

咲はやれやれといった感じだった

なんか、口元が緩みそうになってるぞ?

おい、俺に何させる気が

今月のこずかいそんなに残ってねーぞ

咲「でも教えるだけ。いいよね?」

京太郎「ああ。それでも十分助かるけど、今日だけじゃ終わらねーぞ?」

咲「終わるまで付き合ってあげるからね」

持つべきものは優しい幼馴染だ……

京太郎「それはそうと、俺に何させる気だ?」

咲「……あ、今日はあんまりできないよ?」

無視かよ

咲「お姉ちゃんが帰ってくるって言ってたし」

京太郎「照さんが?」

咲「ちょうどいいからこのまま会って…」

その時に咲の携帯電話が鳴った

咲「わっ!え、えっと……お姉ちゃんからだ」

照『もしもし咲?』

咲「お姉ちゃん?」

照『今駅に着いたけど……この辺り少し変わった?』

咲「あんまり変わってないけど……」

照『……見覚えが無い景色だけど』

咲「……駅まで行こうか?」

照『……うん』

電話が終わる

おそらく相手は照さんで、駅まで行くという内容か

京太郎「俺も行こうか?照さんの荷物持ちくらいはできるぜ?」

後、迷子二人の保護者とか

咲「うん、それじゃ宿題は私の部屋に置いておく?京ちゃんもお姉ちゃんに会っていけばいいし」

京太郎「ああ、そうさせてもらうよ」

そのまま咲の部屋に行く

高校入ってからは初めてだがあんまり変わってねーな

咲「じゃ、その辺りに置いて」

京太郎「おう」

その時、咲の机の上にあるものに気付いた

京太郎「Kちゃんぬいぐるみ?」

それは俺が咲にあげた、正真正銘、最初に作られたKちゃんぬいぐるみだった

思えば、こいつがあったから全国でもいろいろな人と知り合えたんだよな

咲「あ……それ……」

京太郎「なんか懐かしいな」

咲「うん……大事にしてる」

京太郎「こいつができたのもちょっとしたきっかけだったのにな」

正直ただの思いつきで言ったらできて、何故か売れた『Kちゃんぬいぐるみ』

そういえば今度『ハギヨシぬいぐるみ』も発売するとか言ってたっけ

京太郎「……こいつのおかげとも言えるな」

全国で、いろいろな人と知り合えたのは

咲「京ちゃん?」

京太郎「ああ悪い。今行く」

咲の部屋を出る間際、振り返り、もう一度Kちゃんぬいぐるみを見る



気のせいかもしれないが、Kちゃんぬいぐるみが笑っていた気がした



カンッ!!



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