お使いの帰り、自販機の横でしんどそうに座っている少女を見つけた京太郎は、少し考えて話しかけることにした。

「あの、大丈夫ですか?」
「え?ああ、大丈夫やさかい、気にせんといて。うち、ちょっと病弱やねん。」

それって大丈夫なんだろうか?とりあえず飲み物を渡そうとしたのだが、

「ええよそんなん。控え室に戻ったら竜華もおるし、そんな見ず知らずの人に迷惑かけられんわ」

と、断れてしまった。しかし、ここで引き下がるわけにもいかないので、もう一押ししてみることにした。

「でも辛そうですし、これも何かの縁と言うことでこれくらいは受け取ってください。ついでにサンドイッチもあるんでどうぞ」
「なんかわるいなぁ……。それじゃあ頂くわ」

そういって怜はサンドイッチに手を伸ばし、少しずつかじるように食べている。京太郎はそんな怜の姿を見て可愛らしい人だなと思いつつも、本来麻雀部のみんなへの差し入れとしてタコスと一緒に作っていたので、埋め合わせをどうしようかと1人頭を悩ませていると、

「これ、おいしいなぁ。どこで売っとったん?」

と聞かれた。自分で作ったと言うと感心していたが、これも実は先日タコスと一緒にハギヨシさんから教えてもらったものだったりする。

「ありがとうな。これほんまは他の人が食べるはずやったんやろ?」
「良いですよ。他にもありますし、こんな可愛らしい女性が辛そうにしていたら放っておけないじゃないですか」
「か、可愛らしいって何言うとんの?もう戻るな。ほんまにありがとう」
「あ、せっかくですし送りますよ。まだ少しふらついてるじゃないですか。」
「何から何まで悪いなぁ。ほんなら頼むわ」

そうして京太郎は怜を支えるようにしながら一緒に歩いて千里山の控え室の方へと向かっていた。道中でお互いの話をしていると、向こうから心配そうに怜を探している人と会った。

「怜!どこで何しとったん?あんまり遅いんで心配したやんか」
「竜華ごめんな。ちょっと疲れたから自販機の横で休憩しとったんや」
「それで、隣の人は誰なん?えらい仲良そうに引っ付いとるけど」

竜華が怪訝な顔で京太郎を見ていると、怜がここまでの経緯を説明してくれた。

「なんかうちの怜がえらいお世話になったようやね。ありがとう」

こんな可愛らしい人と仲良くできた上に、美人さんにお礼まで言われるなんて役得ですよ。とそんな事を考えていると、怜が不意に不機嫌そうになった。その後一瞬だけぎゅっと京太郎にした後すぐに突き放して

「京太郎、そんな目で竜華見んといてくれる?竜華、行こ」

とっさに体を捻って恥ずかしがる竜華に、突然のことに唖然とする京太郎であったが、怜はお構いなしに竜華を寄せて歩いて行ってしまった。

しばらく歩いた後、怜は少し不安そうに
「お礼言いそびれてしもうたわ」
と呟いた。お礼は何度も言っていたし、そもそも最後に突き放したのは怜なのだが、そんなことは頭にないのであった。

「あの制服は清澄やろ?あそこも勝ち残っているようやし、また会えるて。その時にまたお礼を言おうな」

そんな怜を見ながら微笑む竜華であった。


再会編に続かない。

続き

京太郎「あ、また会いましたね」

怜「なんや京太郎か。この前はありがとうな」

京太郎「いえいえ、怜さんとも仲良くなれたし良かったですよ。そう言えばこの前最後に怒らしちゃってすみません」

怜「竜華の胸見とったやろ?そう言うのって分かるんやで。気ぃつけな。それとも今日も竜華の方が良かったん?」

京太郎「それはつい……。以後気を付けます。でもそういう目で見てた訳じゃないですよ?微笑ましいなと思って。お互いに大切に想って羨ましいですよ」

怜「まあそういうことにしといたるわ」

京太郎「本当ですよ。それに怜さんにまた会えて良かったですし、会いたいと思ってましたよ?」

怜「それどういうことなん?からかっとるやないやろな?」

京太郎「そんなんじゃないですって。怜さんと話すの楽しかったですし、怜さんと会えるのも全国大会の間だけですからね」

怜「せやったな。大会の間しか会えんのか。なんやせっかくやのに寂しいな……」

京太郎「いざとなったら大阪に行きますよ!」

怜「また調子ええこと言うてからに。そない簡単に来れるかいな。」

京太郎「ははは。それくらいにまた会いたいと思ってると言うことですよ。それに怜さんが良ければ何かの機会に会いに行きますよ」

怜「せやかて仮に来たとしてもつまらんと思うで。うち、無理して大会出させてもろてるから、大会終わったらまたしばらく病院暮らしや。ちょっと無茶してもうたから今回ばかりはちと長いことお世話になるかも知れへんねん」

京太郎「そうなんですか……。それならその時は何か作ってお見舞いに行きますね。怜さんも余り無茶しないでくださいよ」

怜「せやかてこれがうちにとって最後の大会やし無茶もしたくなるんよ」

京太郎「そんなこと言って倒れたら心配するじゃないですか」

怜「京太郎も心配してくれるんか?」

京太郎「当たり前じゃないですか!」

怜「そ、そうかいな。ありがとう……」

京太郎「そろそろ戻りますね。余り遅いと怒られるんで」

怜「引き止めて悪かったな。またおうたときはよろしく」

京太郎「それじゃあ失礼します」

怜「あ、ちょいと待ってくれへんか?連絡先教えてくれへん?また次会えるか分からへんし」

京太郎「え?良いんですか?それじゃあこれです」

怜「アンタが会いたいと言うたんやろ。それともあれは嘘やったんか…?はい、これうちのや」

京太郎「いえいえとんでもない。それじゃあまたメールしますね」

怜「ほなまたな」

京太郎「はい!怜さんも頑張って下さいね!清澄と当たるときは応援できませんが……それまでは応募してますので」

怜「ふふ」

竜華「なぁ怜どうしたん?なんやわろうて」

怜「何でもないよ」

竜華「ふーん。なんやそれ。須賀君と上手くいっとるんか?」

怜「りゅ、竜華!?」

竜華「アンタ分かり易すぎやろ……」

怜「そないやないて!」

竜華「分かった分かった。そういうことにしといたる」

怜「ほんまにちゃうんや……」

竜華「ふふ」

怜「はぁ、もうええわ」


怜「ふふ」

>>474続き

全国大会が終わった後、大阪に戻って慰労会もそこそこにし、怜は検査入院となった。
全国大会に向けて多少無理を言わせてもらった上に、全国大会でも無茶をしたので念のために検査をするのとしばらく療養させる為のものだ。
入院当初は気が抜けて疲れが一気に来たのと、検査で疲れがたまり、よく寝ていたが、さすがに数日経つと元気を取り戻した。
竜華を中心に千里山の選手もよくお見舞いに来てくれるし、大会で仲良くなった阿知賀の松実玄もたまにメールをくれる。そして何より京太郎がメールや電話をしてくれる。入院生活も決して退屈ではなく、身体の方も問題なくもうすぐ一時退院の許しが出るとのことだった。

そんな折り、京太郎から怜に会いに行けるよう都合をつけたので会えないかという連絡が来た。
怜は快諾し、日程をつけて楽しみに待っていたが遂にその日が来た。

「なんやそわそわするわ。そないに早よう来るとは思わんかったわ」

今日ばかりは竜華に他の人にも遠慮してもらって、京太郎の訪問を待っていると、軽快なノック音とともにドアが滑った。

「お久しぶりです」
「そうでもないんとちゃうか?全国大会やってついこないだやったし、しょっちゅう電話も掛けてくるやんか。全然そんな気せえへんわ」
「俺は待ち遠しかったですよ。とりあえずこれどうぞ」

そう言うと京太郎はお見舞いの品を取り出した。あの時と同じサンドイッチにちょっとしたスイーツを作ったようだ。スイーツまで作るとは畏るべし料理男子である。
その後はしばらく取り留めもない会話を続けて和やかな時間が過ぎていった。千里山の人が来ると賑やかで元気を貰えるが、こう言うのも悪くないと思うのであった。

「怜さん、外出はさすがにできないですよね?」

遠慮がちに京太郎が尋ねてきたが、怜としてもこの日は何としても外出したかった。

「外出許可はちゃんともろてるよ。せっかく来てくれたさかい、病院だけじゃ味気ないしな」
「さすが怜さん。先読みは十八番ですか」
「何言うとんねん。せやから今日は外出してもええねん。どっか連れてってくれるんか?」
「お姫様をエスコートしたいのはやまやまなんですが、如何せん長野住まいですから大阪の事はよく分からないんです。だから怜さんにどこか連れてって行って欲しいな、なんて」
「病人の女にエスコートさせるなんて何ちゅう男や。でもせやな、京太郎が支えてくれるんやったら、近場やけどつれてって欲しい所があるわ」
「お姫様の仰せのままに」
「さっきからそのお姫様ってのはつっこみ待ちなんか……?」


というわけでこれから久しぶりに病院をでることとなった。京太郎と一緒に。

「それでどこに行くんですか?」
「それは着いてからのお楽しみや」

そう言って病院から少し歩き大きな公園へと着いた。

「大阪言うと賑やかな所を連想するやろうけど、そうでもない場所もあるねん。うち、騒がしいのはちと苦手やからこういう場所の方が落ち着くんや」
「へー。良いところですね。長野も自然が多いですから、東京も良いけどこういうところって落ち着きます」

つまらないかと少し心配していた怜だが、京太郎はどうやら気に入ったようだった。

「気に入ったようで良かったわ。うちな、たまにここに来てんねん。
季節によって色んな花咲いとうし、よく耳を澄ませばあちこちでライブやっとう音とか子供らがはしゃいどう声とかも聞こえて。
ほんで景色が移ろって。うちはぼーっとしとるねんけど、それでもここはうちを満たしてくれるんや」
「……なんか良いですね、それ。」

それからは暫く心地いい静寂が訪れ、吹く風がとても気持ちよかった。
そこからまたぽつぽつと会話が始まり、病院に居るときとしてることはさして変わらないのに怜の心は満たされていった。

「もうこないな時間か……」

既に夕暮れ時。空は茜色に染まり人影も減っていた。

「最後にちょっとだけつきおうてくれへんか?」
「良いですよ」

2人が最後に向かったのは緩やかな丘の上だった。

「ほんまはこんなところやのうて、もっと景色の良いところに行きたかったんやけど、今日のところはここで堪忍な」
「いえいえ、充分ですよ。今日は楽しかったです」

今日は楽しかったし、今日はこのまま帰るだけ。本当にそれで良いのだろうか。このまま京太郎を長野に帰して。

「なあ、京太郎」
「なんですか?怜さん」
「あの、帰る前に聞いて欲しいことがあるんや。」
「はい、なんでしょう」
「うちな、京太郎の事、好きになってもうた。京太郎はうちのことよく見てくれるし。気にかけて色々してくれる。
お節介焼きやけど、優しいし、一緒におっても楽しいし、心がな、満たされていくねん。
長野と大阪で遠いけど、もし京太郎が良かったらな、うちと付きおうて欲しい……」

怜は思いの丈を京太郎にぶつけた。差し込む夕日に照らされた怜はどことなく頼りなく、不安そうなその顔は今にも崩れそうで。しかしとても綺麗だった。
しばし唖然としていた京太郎だが、事態を飲み込んだ。それでもなお信じられないような顔をして

「俺で良ければ是非ともお付き合いしたいんですが、本当に俺で良いんですか?」

と尋ねた。怜は少し不機嫌そうに

「そう言う無粋な事は言わんもんやで。京太郎やから告白したんや。うちの気持ちにちゃんと答えて」
「はい。俺も怜さんが好きです。これからもよろしくお願いします」

怜は安心したせいか力が抜けてへたり込んだ。そんな怜もとても可愛く思えて、怜を大切にしようと京太郎は心に誓った。

「大丈夫ですか?1日中外にいたし結構疲れたと思いますが。病院までおぶって帰りますよ」

怜は恥ずかしそうにしていたが、実際にもう動けないのも確か。結局京太郎におぶさって帰ることになった。

「京太郎。ありがとうな。」
「怜さんは俺が守りますよ」
「そか……あと、その怜さんっての、やめへん?うちのことは怜でええから」

その日は病院まで送り、余程疲れたのか怜はしばらくして寝てしまった。少しの間、怜の寝顔を見納めた後、京太郎は静かに部屋を出て行った。

翌日、京太郎は別れの挨拶にまた病院へと訪れた。

「京太郎、来てくれてありがとうな。ええ思い出ができたわ」
「怜こそありがとう。俺も絶対に忘れないよ」
「ほんならまたな。たまには連絡してや」
「それじゃあまた!」

こうして京太郎と怜は付き合い始めた。
それぞれがその笑顔を、居場所を、大切にし、2人の関係は続いていった。

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