西暦20XX年4月。

俺は周囲の反対を押し切る形で白糸台高校に入学を果たした。

それもこれも、昔の照さんを取り戻したい一心だった。

だけど、俺は麻雀なんて全く出来やしない。

仕方がないからマネージャーとして入れるかどうか探っていたところ、偶々同じクラスだった淡に目をつけられた。

結果から言えば、淡のおかげで麻雀部、しかもチーム虎姫の専属マネージャーとなることが出来た。

淡は恩人みたいなものだろう。

そこまでは良かった、順調だった。

けれども、肝心の照さんは…

「”初めまして”、須賀君。私は虎姫で先鋒を努める、3年の宮永照です」

久方ぶりの再開第一声がこれだった。

殊更に強調された”初めまして”の単語。

暗にどころか、明確に『私の過去に関わるな』と釘を刺されたのだろう。

全くの予想外の対応に、当時の俺は短くない間放心してしまった程だ。


あれから数ヶ月。

燦々と降りかかる真夏の熱気の中を俺は照さんと家路に着いていた。

関係を一から作り直すつもりで頑張った結果、1ヶ月程で以前のようになることは出来た。

だが、照さんは決して過去を話そうとはしてくれなかった。

最近は虎姫の皆が共謀して俺に隠しているのではないか、と疑ってしまう。

そこで俺は半分強引な手段に及ぶことにしたのだ。

昨日、菫部長には照さんの過去についてぶっちゃけて聞いてみた。

菫部長曰く、昨年の秋頃、照さんがポツリと妹らしき人物の名を呟いたのを偶然耳にしたことがあるそうだ。

しかし、照さんは菫さんにもその話をしたことが無いという。

だったら、俺が…

そう思い、今日菫部長とひと芝居打った。

つまり、この2人きりのシチュエーションは作り出されたものなのだ。

菫部長が土壇場で裏切ることも無かったことに内心で安堵しながら、いよいよ俺は照さんに声をかける。

「照さん」

「なに?京太郎」

「いい加減、秘密にしてないで教えてくれませんか?」

「……」

照さんは何も答えない。

ただ、その顔から表情が消えた。

一瞬たじろぐも、今更引くことなんて出来ない。

「どうして、何も言わずに俺達の前から姿を消してしまったんですか?」

「……」

「一体あの時、何があったって言うんですか?」

「……」

「答えてくださいよ、照さん!俺達は仲間だって誓い合ったでしょう?!仲間なら隠し事は無しでしょう?!」

「…京ちゃん」

いつ以来だろうか、照さんの口から紡ぎ出された懐かしい響き。

しかし、そこには何の感情も篭っていない。ただただ虚ろに響く。

「京ちゃんは色々私に言ってるけど、京ちゃんはどうなの?」

「俺、ですか?俺は別に何も」

「昨日、菫と、何を、話していたの?」

一語一語すり込むように聞いてくる照さん。

覗き込んでくるその瞳を、俺はどうしてか怖いと思ってしまった。

「べ、別に、照さんに関係あることじゃ…」

「へぇ…そうなんだ」

「え、えぇ、そうですよ。はは…」


「嘘だっっっっ!!!!!」


「っっ!?」

照さんから発せられたとは思えない程の大音量に思わず体が竦む。

麻痺してしまったかのように動けない俺に照さんが近づいて来た。

そして下から見上げるように顔を覗き込まれ、囁くように照さんは言う。

「ほらね?京ちゃんにも隠し事があるように、私にも隠し事はあるんだよ」

それだけ言うとツツと下がって背中を見せる。

「さ、京ちゃん。もう帰ろう」

背中越しに振り返った照さんの顔は、もう先程までの鬼気迫る貌では無かった。

「は、はい…」

もう今日は問い詰める気も失せた。

でも、いつかは……

ああ、それにしてもどれくらい立ち止まってしまっていたのだろう。

真夏の太陽に炙られて汗が吹き出たからか、首が痒くて堪らない。

ボリボリと無造作に首筋を掻き毟る。

半分無意識に続けられたその行為は、俺が家に帰って爪に血が付いていることを確認するまで止まることなかった…


カン