京太郎「誰?」

和「和と言います。あなたのお爺様が作ったロボットです」

京太郎「ジジイのガラクタか……なんでうちに?」

和「何故もなにも、私の意思です」

京太郎「機械の意思ねぇ」

和「なんでしょうか?」

京太郎「別に」

和「言動と態度から感じられるのですが、あなたはロボットがお嫌いなのですか?」

京太郎「別に嫌いとは言わないが、好きでもない」

京太郎「笑おうが歌おうが人工人格だ。そう演じろと指示式に従ってるだけだ、喋る自動販売機に感情を抱くほうが無理だろ」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

京太郎「そもそもジジイはどういう意図があってお前を作ったんだ?」

京太郎「身内の俺が言うのもなんだがジジイは極度の人間嫌いで、病的な変態だった」

和「私には姉妹機である士栗という妹がいました」

京太郎「いました?」

和「妹はすでに機能を停止しています」

和「仰るとおり、あなたのお爺様はかなり特殊な思考をお持ちでした」

和「意識とはなにか、人工知能は意思と心足りえるのかと常に考えていました」

京太郎「相変わらずの変態っぷりだな。今ここでそれをお前に言わせてることも含めて」

和「そこでお爺様は、一つの人工脳を二つの素体に分けて人形を作りました」

和「私が言語と論理の左脳思考、妹の士栗が感情と直感の右脳思考という人工知能を授けて」

京太郎「それは……」

和「ええ、完全にお遊びの実験です」

和「私達は脳と素体に時限的制約を課せられており、製造年月日からすれば私が朽ちるのも残り二ヶ月と言ったところでしょう」

京太郎「俺は、人形に心があるかは懐疑的だ。それでもそれは道徳観や倫理観を無視し過ぎている」

京太郎「しかもそれが身内の所業ともなれば最悪の気分だな」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

和「あなたは、私達には心がない。っと、そう思いますか?」

京太郎「わからない。というのが正直な答えだ」

京太郎「お前の言葉も、表面上なら確かに普通の人間と見分けがつかない」

和「では、だからこそ私はそれを知りたい。どの基準までが機械的な人工物なのか。どの複雑さからが心と呼べるのか」

京太郎「その考えも、ジジイの指示式じゃないのか? それが自分の意志だと何故確信できる」

和「では、私の意志や意思はなんですか?」

京太郎「生物の心と人工知能の差か。同じ生物でも微生物や細菌に心があるとは思えないし、物質的基盤が重要ではないだろうな」

京太郎「意思と知性の基準も曖昧だし、あえて言うなら現実と虚構の違い、か」

和「では、現実と虚構の違いとは?」

京太郎「一回性じゃないか」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

京太郎「これは?」

和「見ての通り。料理を作ってみました」

京太郎「そうか」

和「味はどうですか?」

京太郎「普通に美味い。が、それだけだな」

和「ほかに何が必要とでも?」

京太郎「お前の料理は水、炭素、アンモニア、石灰、燐、塩分類、硝石、硫黄、フッ素、鉄、珪素」

京太郎「その他少量の元素で構成された生物の死骸を加工加熱し」

京太郎「口の味蕾神経を刺激してるだけだ。そんなものは料理とはいえない」

和「正確だといってほしいですね」

京太郎「同じ指示を受けた人形もお前とまったく同じ料理を作るだろうな」

京太郎「それは心、自我を主張するには個性が足りないんじゃないか?」

和「人間とて、それほど独自性があるとは思えません。ある程度は分類できます」

京太郎「確かにくだらない人間ほどどいつも似通った思考をしている。けどまったく同じくだらなさってわけじゃないよ」

和「それは不正確さの言い訳です。調味料の混入量や加熱時間に乱数を持たせれば、個性を出すことができますよ」

京太郎「それでは入力と出力が等価でしかない。常に交換可能な自我とやらがお前の拠り所になるのか?」

和「…………」

京太郎「次は、お前の好きなように作ってくれ。それなら例え不味くても俺は喜んで食べるよ」


カチャ、ガシャン!

ツー……

和「…………」

京太郎「…………」ジィ

和「銅を含む色素タンパク質の青い血が流れるとでも思いましたか?」

和「血色をよく見せるためにヘモグロビン基の赤い人工血液くらい流しますよ」

京太郎「はぁ……救急箱を取ってくる」

シュッ、シュルシュル

和「私の怪我の治療を行うのは、人形に心がないという意見と矛盾しませんか?」

京太郎「別にないとは言ってない。ただわからないといってるだけだ」

京太郎「それに人間型をしてるのものが目の前で血を流してると気分が悪い。後、床掃除がめんどくさい」

和「姿形が人間型、特に女性型というだけで心があると思える人間は不思議ですね」

和「これが奇怪な蟲型や機械型ならそんなこと思いもしなのでしょう」

和「相似形のものに同じ特性が宿る。原始的な魔術思考ですね」

京太郎「人型信仰は心の病気かもしれないが、それをお前が言うな。……よし、これでいいぞ」

和「…………」

京太郎「礼くらい言えよ。人間の演技も忘れたのか?」

和「こういうときは、少し照れながらありがとうございます。っと言うのが適切ですか?」

京太郎「ついでにもう少し笑顔で言え。そうすれば頭の悪い男、俺とかが喜ぶ」

和「ありがとうございます」ニコッ

京太郎「そうそう」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

和「私の活動期限も、ついに、尽きたようです……」

京太郎「…………」

和「結局、最後まで私達の心を証明することはできませんでした」

京太郎「そうか……」

和「いつか、もうすぐにでも、もっと人間らしい人形が作られるでしょう」

和「情報処理量が桁違いい向上し、生体組織も人間と見分けがつかないほどの」

和「人間とまったく同じ思考をする人形が」

京太郎「…………」

和「その時、人は、私達を、人形をどう扱いますか? 人間と同等の、同じ知性体だと、想ってくれますか?」

和「愛し、憎む相手だと、思ってくれるのでしょうか?」

京太郎「今と、同じだろうな……」

京太郎「どんなに精巧に作られても、人形は所詮人形」

京太郎「すべては欲望の道具、飽きれば捨てられるだけの、現世(うつしよ)にいながら無闇地獄を彷徨う機械仕掛けの木偶人形だ」

和「そう、ですか……」

和「なら、私は、不完全な知性体たる人間になんてなりたくありません」

和「けど、だからといって、違う人格で再生されるだけの人形扱いも拒否します」

和「それが、私が、私であったことの、意思と知性の、唯一の証明と、なり、ます、か…………?」

京太郎「っ……死ぬな! ”和”!! そんな証明方法は成立しない!」

和「そう、ですね……」

和「例え、作り、物だとしても、それが、0と1の、羅列だとしても、あなたと過ごした時間は……」

和「私に、とってはとても、幸せでした。最期に、そう、思わせてください」

和「あり、がとう……”京太郎さん”」ニコッ


京太郎「うああああああああああああああ!!」



それは0(機械)と1(人間)との、演算されし想い―――Coming Soon!