カーテンの隙間から差し込む朝日が室内の壁に幾何学的な模様を刻んでいた。

目蓋が振るえ、ゆっくりと開かれる。視界と思考に靄が掛かったような感覚。

朝日が脳内の覚醒ホルモンであるセロトニンを分泌し、視覚から入った日光が逆に睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制する。

うん。目が覚めてきた。

見慣れた天井。使い慣れた寝台。身体の左側面に熱。

首を捻って確認すると、静かに寝息を立てている恋人の白い頬があった。


玄「ん…………」


いとわしげな呟きが漏れる。目元にかかっていた前髪を指先で払ってやると、再び安らかな寝顔に戻る。

指先で頬をなでる。朝目が覚めて、恋人の寝顔を眺めるこの瞬間が俺は好きだった。


玄「ん~……」


綻んだ口元に指先を寄せる。

湿った呼気。粘膜の感触。激痛。

俺の指先は寝ぼけた玄さんに噛み付かれていた。

白んだ早朝の日差しに俺の叫びが木霊した。


玄「ごめんなさい!」


深々と頭を下げる玄さんへ、噛まれて歯形のついた指先を擦りながら答える。


京太郎「いや、元はといえばイタズラしてた俺が悪いので……」


いいつつ、シーツで隠された玄さんの美しく豊かな胸元に視線が吸い寄せられてしまう。

仕方ないよね? 男の子だもの。


玄「あの……」


頬を染めながら戸惑ったような声を出す。視線で軽く咎められた。


京太郎「いやぁ、しかし昨日の夜の玄さんは激しかったなと。俺の下で甘い声を出す玄さんが可愛くて」

玄「わーわーわー!!」


玄さんは顔を真っ赤にしながら、俺の言葉を大声と身振り手振りで遮ろうとする。

が、余程慌てていたのかベッドの上で盛大に前のめりにずっこけた。

シーツから零れた形のいいお尻が、朝日に照らされ神々しいまでに輝いていた。

玄「私が上のときや、京太郎くんのがうるさいときもあるもん」

京太郎「もー。まだいってるんですか?」


俺たちは肩を並べて台所に立っていた。

あれから俺たちは順番にシャワーを浴び、今は一緒に朝食の準備をしていた。

一緒に浴びようと誘ったが、へそを曲げてしまった玄さんに丁寧に断られた。残念。

コンロの前で玄さんがフライパンを揺らして目玉焼きを焼いている。俺はサラダや総菜を盛り付けている。


玄「京太郎くんが悪いんだもん」


口ではなんといいつつも、俺のために料理を作ってくれる玄さんが愛おしい。

そんな玄さんを後ろから抱きしめる。


玄「ダメだよ、火使ってるから危な、……ん、チュ」


有無を言わさず唇を奪う。最初こそ拒否していたが、途中からは玄さんも応えてくれてた。

触れ合うだけの軽いキスを何度か交わす。


玄「うう、キスくらいで機嫌が直っちゃう自分が恨めしい……」

京太郎「そんな玄さんも好きですよ」

玄「また、そういう恥ずかしいことばっかりいう」


2人で作った朝食を2人で食べる。素朴ながら幸福な時間だった。


玄「はい。食後のお茶だよ」

京太郎「ありがとう」


礼をいって湯飲みを受け取る。朝はやっぱりこの熱いお茶に限るね。

緩慢な空気が部屋に満ちていた。


京太郎「そうだ玄さん」

玄「なぁに?」

京太郎「改めて、誕生日おめでとうございます」

玄「えへへ、ありがと。京太郎くん」


照れ笑いを浮かべる玄さん。


京太郎「なにかほしいものとか、してほしいことかないですか? 今日ならなんでも受け付けますよ」

玄「ん~、でも昨日のホワイトデーでお返し貰っちゃったし。今日もなんて悪いよ」

京太郎「欲がないな~。なんでもいいんですよ」

玄「じ、じゃあ……」


遠慮がちに続けてくる玄さん。


玄「今日一日、ずっと一緒にいてください」


恋人のささやかな願いが、俺の口元に笑みを刻む。


京太郎「今日だけじゃありません。これからもずっと一緒にいますよ」

玄「! うん」


玄さんに笑顔が咲く。

おざなりに食器を片付け、身支度を整えて自宅を出る。

どちらともなく掌を重ね、指先を絡ませあう。

見下ろす俺の視線と、見上げてくる玄さんの視線が出会う。

俺たちは自然と笑いあい、ゆっくりと歩き出した。

特に目的地なんてなかったし、俺たちには必要なかった。

ただ、こうして一緒に歩いてられればよかった。

少しでも長く、この2人で歩く時間が続いてほしい。

2人で手を繋いで歩む、この時間がなにより大切だから。


カン!