華菜「キャプテン! この服はどうですか!?」ばばーん

華菜が私に、試着した服の感想を求めてくる。
正直な話、華菜には似合わない服は無いと思っているから、困ってしまう。
今日は二人で買い物に来ていた。
彼女が着る新しい服に、私の意見が欲しいみたいで。


華菜に好きな人が出来た。


話を聞く限り、とても良い人のようだ。
華菜は彼のことを褒めたあとに少し貶すけど、それは照れ隠しだって解ってる。
華菜がそんなふうに好きになった人に、少し興味が沸いた。
最近話題に出さない日がないくらい華菜が慕っている彼と、私が知り合いじゃないのは、少し寂しい気もする。
もし、何もかもが上手くいったら……華菜をよろしくお願いします。それくらいは言ってみたい。



華菜「紹介するし! この人が風越のキャプテン──」

彼と会う機会があった。
私と華菜の二人で遊んでいたんだけど、急に華菜が色めきだって、私から離れて行った。
偶然らしい。彼と此処で会ったのは。
華菜の顔は落ち着いていないように見えた。
好きな人と会ったのだから、当然か、と思ったが、そういう感じとも違う。
華菜は、会話に花を咲かせる彼と私を交互に見て、そわそわしていた。
可愛らしいなあ。多分、彼と私が仲良くなれば、華菜にとっては心配なんだろうけど。
私は華菜を、いつだって応援してるのよ?

彼と華菜と私は、三人で遊ぶことが多くなった。
私は華菜のサポートを買って出て、二人の仲が進展しますようにと祈る。

華菜「じゃあ今日はこのへんでお別れだし!」

京太郎「はい。また次の休みは遊びましょう!」

華菜「お前と違って、私たちの休みは貴重なんだからな? 大切に扱えよ」

京太郎「勿論ですよ、お姫様」なでなで

華菜「わっ、わっ、撫でんな!」かあああっ

京太郎「可愛いなあ。池田さんは……」

華菜「うう~、先輩にとる態度じゃないし……」てれてれ

京太郎「……」

彼が、こちらを見ていることに気が付いた。
……綺麗な目。
思わず、見惚れてしまったが、すぐ目を離す。
ちらりと窺うと、既に彼も私を見ておらず、華菜に夢中という感じになっていた。
顔が熱い。少し体調でも崩したかしら?

彼と私は二人で会う日も多くなった。
華菜は居ない。

彼が私と遊びたいみたいで、最初、華菜が居ないのにそれは悪いと断ろうとした。
でも、出来なかった。
私も彼と二人で遊んでみたいという気持ちが、確かにあったから。
あと数秒、考える時間があれば、私はこの気持ちを偽ることが出来たかもしれない。
でも、彼は私に考える暇を与えてくれなかった。
押せ押せの雰囲気の中、私は彼と二人で会う選択を、選んでしまった。
今思うと、してやられたなあ、と思わないでもない。



京太郎「何、考えてるんですか?」

美穂子「少し昔のことを、ね」

京太郎「昔?」

美穂子「私が華菜と初めて会った日や、仲良くなった日のことを」

京太郎「俺と初めて会った日や、仲良くなった日のことじゃ、無いんですね」

美穂子「もう。茶化すんだから」

京太郎「……気になりますか、華菜さんのこと」

美穂子「少し……いや……」

美穂子「正直、とても心が痛いわ……」


美穂子「貴方と、こんな関係になってしまったから」


私は彼の部屋に居た。
同じベッドの上で、裸になって。
こんなところ、華菜には見せられない。
見られたくない。
これが華菜への裏切りだと解ってる。大切な後輩、親友と言える彼女に対する、明らかな裏切りだって。
でも彼の誘いを、断ることは出来なかった。

だって私は、彼に惹かれていたから。
彼を好きになっちゃってたから。
自分じゃ、どうしようもないくらいに。
彼に迫られたら、私は断れない。

京太郎「……華菜さんが、俺に好意があるの、俺、知ってました」

美穂子「……!」

京太郎「何ですか、その目は」

京太郎「俺は、華菜さんは嫌いじゃないですよ。楽しいですしね」

京太郎「でも俺が好きなのは美穂子だから」

京太郎「こんな関係だなんて寂しい言い方、やめませんか……」

京太郎「辛くなるだけ、じゃないですか……?」

美穂子「京太郎は、悪くないの」ぽつっ

美穂子「京太郎は、何も悪くないの……」ぽろぽろ

卑しい。
彼の言葉は魔法だ。
彼の言葉は、私を和らげ、癒し、立ち直らせるだろう。
彼の言葉を聞くと、嬉しいし、ふにゃっとして、全てを委ねてしまう。
そんな彼に、頼るしか出来ない自分が卑しい。
でも抑えられない。
彼が好きで、仕方がない。
私は彼に変えられてしまった。
いつもなら抑えることが出来る筈。親友の為に身を退くことが出来る筈。今からでも遅くない、私たちはまたやり直せる筈。
そんな全てが、どうでもよくなってしまった。
今は彼に抱かれて、眠りたい。

ごめんね、ごめんね。華菜──

優しいふりをしてごめんなさい
応援するふりをしてごめんなさい
彼を盗ってしまってごめんなさい
変わってしまってごめんなさい
こんなにも卑しい私をどうか

──許さないでほしい


華菜「キ、キャプテン……?」

数日後。
私は、華菜に彼との関係を話した。
何もかも。
お互い好きで付き合うことになったことも、身体を重ねたことも。
華菜は、しばらく絶句していた。
頭を上げられない。彼女の顔を見ることが出来ない。

華菜「顔、上げて下さいよ」

その声は、震えていた。
私はおそるおそる、顔を──

華菜「もたもたしてんじゃねえしっ!!」がっ

美穂子「っ!」ぐっ

頭を掴まれ、強引に華菜の顔の前に持っていかれる。
形容し難い顔をしていた。
涙が溢れてきた。
私は華菜に何て顔をさせてるんだ──

華菜「す、すみません! キャプテン! 我を忘れて……」

華菜「……」

華菜「でも、涙を流すべきなのは、貴女じゃない」

華菜「堂々としてればいいじゃないですか。らしくはないですけど」

華菜「頭掴んじゃって、本当にすみません。私は別に京太郎と付き合ってたわけじゃないし、怒る義理なんてないですよね」

華菜「ただ、私が間抜けだっただけだし……」にゃはは

美穂子「……」

華菜「……」

華菜「貴女、ウザイですよ」


ばたん


彼女は出ていった。
私はその場に崩れ落ちた。
駄目だ。動けそうにない。
どうしようもなくなって、私は最愛の彼に電話を掛けた。

華菜(──最悪だ)

華菜(私はキャプテンになんてことを……! 辛いのはキャプテンだって同じなのに)

華菜(私のばか! どうするんだこれから!)

華菜(でも足が引き返さない。私はやはり、ガキでウザイだけの女、か)

華菜(京太郎が私を選ばないのも頷けるし)にゃはは……

華菜(そうだな……)

華菜(私がキャプテンに謝らなくても、キャプテンには慰めてくれる人が居るんだよね、今は)ぎりぎり

華菜(って何、考えてんだ私? こんなの華菜ちゃんじゃないし!)

華菜(仲直り、したいな……いや、するぞ!)

華菜(しっかり謝って、仲直りして──)

華菜(でも華菜ちゃんはずーずーしいから)

華菜(──京太郎を狙い続けても、悪く思わないで下さいよ、キャプテン♪)にやっ



カンッ